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1 ハイキック

 どうもみなさまごきげんよう。私です、ハルコです。


 突然ですが私、絶賛迷子中です。いやこれって迷子と言っていいのかな……ちょっと怪しい。でもどこかわからない場所にいるのは確かだから迷子でいいと思う。うん。私は誰がなんと言おうと迷子です。


 というのも、事の始まりは下校中にいきなり謎の光に包まれたこと。どこからともなく視界を埋め尽くしたそれがもうすんごい眩しくって、目を開けていられなくなって……で、光が収まったところでなんだなんだと辺りを見渡してみればあら不思議。


 謎の空間に私はいましたとさ。


 謎の空間って何? って感じだけどいやほんと、謎の空間としか言いようがないのよ。


  辺り一面が真っ白。上見ても下見ても横見てもどこまでも白、しかも果てがない。白しかない。控え目に言って頭おかしくなりそう。


 もしも一人でこんな非現実的な光景の中に放り出されていたら秒で幼児退行して泣き叫んでいたかもしれない。それくらいに怖い場所だ、大袈裟じゃなく。


 じゃあなんで私がオギャバブしていないのかと言えば、もちろん一人じゃないからだ。他にも四人。私以外にも人がいる。制服着てるし見るからに若いしでおそらくは年頃も近いと思われる、それも同性である女子が四人も! 


 これは心強い。一人じゃないってだけでもありがたいのになんとここには五人もいるのだ。

 三人寄れば文殊の知恵とも言う。じゃあ五人寄ればそれはもう無敵と言って過言ではないはず。


 そう思って意気揚々と話しかけようとしたけど、普段の私なら間違いなくノータイムでそうしただろうけど、でもちょい待てよ。


 現在の私は異常事態に巻き込まれている悲劇の乙女なのだ。

 この意味不明な現象に立ち向かう仲間として私たちは一致団結する必要があるわけだが、果たしてこの見知らぬ女子四人は本当に「仲間」なのだろうか?


 団結にあたって一番の問題になるのはそこだ。私たち以外には何もなければ誰もいないのだから、四人の内の誰かがその下手人である可能性だってあるぞ……!


 お、恐ろしい。

 危うく不用心に信じてしまうところだったぜ。


 ピカリと光ったかと思えば次の瞬間にはこの世のものとは思えない真っ白空間に拉致されてました、なんてどうやったら実行できるのかはともかくとして、現実に起こっているんだからその原因というか元凶・・はいるはずなのだ。


 それがこの中にいて、あたかも自分も同じ現象で攫われた一人のように振る舞っているのだとしたら見破るのは困難だけど、なんとかやってみよう。


 まず一人目の腰より長い長髪の子は……うん、すっごい慌てているね。あたふたと周囲を見回しているし、明らかに他の人を怖がっている様子だ。

 これが演技なら大したもんだけどたぶんそれはないだろうな。震えながら涙目になっているその姿は、小柄で小動物めいた容姿と相まって守ってあげたくなる。


 うむ、この子はきっと私と同じ被害者に違いない! 私も他の子たちから見たらこういう風に見えているだろうからわかるのだ。キャラ被りってやつである。


 二人目の前髪ぱっつんな子は……おお、一人目と違って全然慌てている様子がないな。じゃあ怪しいのかと言われればそういう感じでもない。

 冷静に、謎の空間と私たちを観察している。無表情の奥にも警戒心がバリバリに出ているのが見て取れる。


 こりゃこの子もないな。自分が犯人なら攫った相手をこんなに警戒するはずがない。この子も演じているような感じはまったくないし、容疑者からは外していいだろう。


 三人目のあちこち枝毛が跳ねまくってる短髪の子は……いやマジ? 寝てるんだけど。白い地面に突っ伏したまま微動だにしないからひょっとして死んでるんじゃないかとおそるおそる近づいてみれば、すーすーと気持ちよさそうな寝息が聞こえてきた。

 え、眠ったままここに連れてこられたってこと? だとしたら自分の状況に気付いたら私たち以上に驚くだろうな。


 この子も瞼越しでも耐えられないようなあの光に包まれてここにいるのだとしたら、その時点で飛び起きていないあたり相当に図太い神経をしているような気もするけど。とにかくガチ寝しているからには犯人ってこともないだろう。


 最後となる四人目のツインテールな子は……むむむ。こ、この子は怪しい。バチクソ怪しい! 


 だってまったく動じてないもの。不動だ。動かざること山の如し。私たちのこともちらっと見ただけであとは無関心……こんな訳のわからないシチュエーションでここまで落ち着いていられるなんてそれはもう、犯人だからとしか思えない。


 謎は全て解けた。我ながら見事な洞察力だ。どうやら私には名探偵の素質があったらしい。


 事件が起こる前に解決してしまうのは頑張って誘拐したであろうツインテちゃんに悪いが、本当の名探偵はそもそも事件を未然に防ぐもの。そんな感じのことを何かで見た気がする。ということはやはり私は名探偵ということでいいのだろう。照れる。


 ん? いや、誘拐されている段階で既に事件は起きているのか。じゃあ駄目じゃん。くっ、この名探偵ハルコともあろう者がとんだ失態を……!


 そもそも自分が被害者であることを思い出した私だが、まあだからこそ探偵以上に犯人へ物申す権利もあるでしょう。なので臆せず攻める! ふんふんと鼻を鳴らしながら怒り肩の勇ましい歩みでツインテちゃんへと近づく私は、きっと戦国武将も顔負けの迫力に満ちていることだろう。


 これにはとんでも技を持つ誘拐犯とて怯むこと必至。そのまま勝負を付けてやろう。


 と、思ったのだけどまたも中断。というのもツインテちゃんの視線がとある一点に固定されているのに気が付いたからだ。


 初めは我関せずの態度でただ遠くを眺めているだけだと思ったんだけど、近くに来たらそれが間違いだとわかった。ツインテちゃんは見ている。その眼差しは確かに「何か」を捉えている。


 けれどその何かがわからない。

 彼女の視線を追って私もそちらを注視してみたけどそこには何もない。


 というか、このだだっ広い白の空間には前述の通り私たち五人以外には何ひとつとして存在していないのだから、今更確かめるまでもなくどこを見ようが見るべきものなんてあるはずがないんだけど。


 じゃあツインテちゃんのこの鋭い目付きはなんなのかって話に──。


「誰?」

「うおっ」


 きゅ、急に喋り出したからビビった。野太い声出しちゃったよ、ハズい。


 てか誰って何? 誰に何を訊いてんのこのツインテちゃんは。私に、じゃないよね。見てる先は相変わらず何もない場所だし、私には注意も払ってない。


 ……ははーん。さてはツインテちゃん、噂に聞く電波系ってやつですか。幽霊とかオーラとか見えちゃう系のアレね。はいはい、いるよね。一学年に一人か二人くらいはこういう子いるいる。ツインテールもそういう子がしがちな髪型だもんね。


 となるとこの泰然自若の態度も犯人だからじゃなくて、ちょっとやそっとのことでは動じない大物アピールの可能性が大ですな。や、現状をちょっとだとかそっと(ってなんだろう?)で済ませていいものかは疑問だけども、とにかくツインテちゃんは自分のキャラクターを徹底しているだけなんだろう。つまり、最有力容疑者から外れたことになる。


 推理は行き詰ってしまったけど、これでこの中に犯人がいるのではないかと怯える必要もなくなった。だったら自己紹介タイムといこう! 

 そう決めて、改めてツインテちゃんに話しかける。最も堅物そうなこの子を手始めに懐柔してしまえば後はとんとん拍子に違いない。


「よっす、私ハルコ! あなたのお名前は?」

「…………」


 なるべくフレンドリーに挨拶をしてみたが(フレンドリーが過ぎてかなり馴れ馴れしくなってしまった)、ツインテちゃんはちらりとこちらを見ただけですぐに視線を正面へ戻してしまった。


 む、無視……! こうも華麗にスルーされたのは初めての経験だ。やるね、この子。ある意味で女子力が高いぞ。ツインテールを装備できるだけのことはある実力者ってわけか……へっ、面白いじゃないの。生憎と私はそういうのでめげるような殊勝さなんて持ち合わせていないんでね。


「ふーぅ」

「っ……、」


 おっ、反応しましたね。なんとなく耳が弱そうだと思って責めてみたら案の定だったぜ。軽く息を吹きかけただけで身じろぎするとはおぼこいのう。


 ここまで敏感だと首筋あたりも弱いと見た。今度はそっちに吐息をプレゼントしてあげよう……としたところ、口をがっしりと掴まれて防がれてしまった。


「ふごっ、ふごっ」

「今、真面目な話をしてるから。邪魔しないで」

「ふご?」


 そんな、まるで私が真面目じゃないみたいな。失礼じゃない? 真面目に打ち解けようと頑張ってるんですけど。


 そう伝えたくてもけっこうな力で捕獲されてしまっている私の口からは豚のような鳴き声が漏れるばかり。ほっぺが抉れそうよ。ツインテちゃん、こんな見かけでパワー系だったとは。


「もう一度訊く。あなたは、誰?」


 まーたやってるよ。そこまでして不思議系でいたいんすか。パワー系との両立はキャラ立て的に難しくないっすか? 


 なんて内心で思っていたんだけど、突如として「ふふふふ」なんてどこからともなく聞こえてきて仰天する。な、なんじゃこの意味深な笑い声は。


「もう少し様子を──あなた方がどう行動するのかを見ていたかったのですが。致し方ありませんね」


 ツインテちゃんの睨んでいるそこに、段々と人の姿が浮かび上がってきた。


 透明から半透明、そしてはっきりくっきりと見えるようになったその人物は、ゆったりとしたローブを羽織った目の覚めるような美女だった。とんでもない美貌、そしてこの怪しげな出現の仕方。どう考えても彼女こそが私たちを攫った黒幕と見て間違いないだろう。今度こそ私の推理は完璧のはずだ。


「どうも初めまして。わたくしは女神です。訳あってあなた方をご招待させていただきました」


 どうぞよろしく。などと頭を下げることもなくふざけたセリフを抜かす誘拐犯の顔へ、先手必勝。力が緩んだツインテちゃんの手を振り払って駆けた私はその勢いのままハイキックを叩き込んでやった。



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