おまけ・凛とエリカに『瀬名さん』を語る裕毅
「『キミたちは、素晴らしいドライバーだと思う。』」
三人でお茶をしていると、突然裕毅さんがそう切り出した。
「『でも、まだ知らなければならないことが、ある!!!』」
声が大きい。
「『な、なんですか藪から棒に…』」
エリカも若干引き気味である。
知らなければならないこと…?
僕はともかく、エリカはこの世界に10年いる。
もう知らない事だなんて、無いんじゃないか?
「『知らないといけない事って、レースに関係することですか?』」
「『んー、部分的にそう。』」
アキ〇イターですか。
「『そんなに重要なことなら、ルイスから教わってるはずなんですけど…』」
だよね。
普通そうなはずなんだよ。
でも、X1で絶対王者となった裕毅さんだからこそ知っている、秘伝の奥義みたいなものがあるのかもしれない。
聞いておいて損はないはずだ。
「『して、その知っておかなければならない事っていうのは…一体?』」
「『瀬名さんの素晴らしさだよ。』」
「「『は???』」」
頭の中が『?』でいっぱいになっている僕たちをよそに、裕毅さんの口は回転を始めた。
「『まずどこから話そうか…初めて会った時のことでもいいかも知れないね。瀬名さんがここまで成功したのには、根底にある人の良さが必要不可欠だったんだと、ボクは思っている。もちろん、レースにかける情熱や努力も大事なんだけど、努力ではどうにもならないものが一定の割合存在するんだ。その中の1つが、性格なんだよ。いわゆる『人たらし』と言うのはレースの才能よりも貴重で重要な、天性の才能であり、瀬名さんはそれを持っていたんだ。まあボクも『たらされた』側の人間であるんだけど、まあその話はおいおいしていくとして、今はまず…イテッ』」
「『やめなさい。』」
何者かがペシッと頭を叩くと、小気味いい音が響いた。
毎分11000回転で回っていた裕毅さんの口という名のエンジンを止めたのは、途中から話を聞いていた父さんだった。
自分の頭を叩いたのが父さんであると気づくと、裕毅さんは。
「『あ!!!本人来た!本人!瀬名さん、横座ってくださいよ!話の続きです!』」
もう止まんねえなこの人ぉ!!!
裕毅さんは恥ずかしがるでもなく、そのまま被害者を三人に増やそうとしていた。
父さんも苦笑いするしかない。
なんだかんだ言いながら、裕毅さんに手を引かれて僕たちの対面に座る父さん。
少しの困惑はあれど、嫌がっている様子はなかった。
恥ずかしげは全くない裕毅さんと、それを治めながら会話を成り立たせようとする父さん。
二人は若い頃から、こんな感じだったのだろうか。
昔話をする二人は、いずれも楽しそうだった。
僕が生まれる前のことは、どうやっても直接見聞きすることはできない。
だから、先輩方の話を聞いて勉強するんだ。
楽しい時代だったらしい。
それは、二人の様子を見れば一目瞭然だろう。
いつしか裕毅さんは、僕たちに向けて話していたことをすっかり忘れて、父さんと話し込んでいた。
「『ねぇ、凛。これ私寝てもいいかしら。』」
「『せっかくだから聞いておこうよ。意外と面白いよ?』」
裕毅さん、絶対僕よりも父さんについて詳しいもん。
呆れて寝ようとしたエリカを揺さぶり起こし、紅茶のカップをを手に取る。
穏やかな昼下がり。
「『お!なんか集まってんじゃん!』」
「『…机、持ってくる。』」
「『カップ何個要るんだー?』」
「『一応人数分用意してくれ、周』」
人も集まってきたし。
賑やかなおやつタイムになりそうだ。




