ジャンニ・ルクレール《渡り鳥のように》
こう言っちゃなんだけど、ぼくは孤独なんてものは経験したことがない。
はぐれ者として扱われてもおかしくなかった境遇だったけれど、ぼくは人に恵まれたんだろうね。
今日ここに来るまでにも、何人も幼馴染に会った。
狭い国で開催される母国グランプリだから、集まるのは当然なのかもしれないけど。
けれども、この世界で生きていくのは楽なことだけではなかったよ。
トップカテゴリー、F1に上がるまでにだって沢山苦労はしてきた。
それから、みんな知っての通り、F1に上がってから7年目になるまでココじゃあ勝ててなかったんだ。
ぼくも人間だから、弱音を吐きたくなるときもある。
6年目のモナコグランプリの後、ぼくは地元友達のグループチャットで、こんなことを書き込んでいた。
『ごめん。今年も勝てなかった。』
『どうしていつもこうなるのか分からない。』
『このまま、勝てないまま、何もかもが終わってしまうんじゃないかと思うと怖くってさ。』
夜中だった。
書くだけ書いて、ホテルのベッドに潜り込んだ。
このままふて寝してしまおうと、寝間着にも着替えずに。
すると、ほんの一瞬。
1分もしないうちに、スマホが震えた。
何事かと、ベッドから腕だけを伸ばして手繰り寄せる。
画面をのぞき込むと、そこには一枚の写真。
煌びやかな背景に、馴染みの顔が何人もあった。
『ジャンニ、疲れてはいない?』
『俺たち今カジノに居るんだけど、遊ばねぇか?』
「『おい、おい、みんな注目!!!F1レーサーのご到着だぞ!!!』」
「「「『うおおおおーーー!!!』」」」
友人たちは、完全にできあがっていた。
「『ジャンニ、何飲むよ?』」
「『レーサーの反射神経でスロットマシーン攻略してくれよ!』」
ガヤガヤとした場内の中でもハッキリと聞こえる大きい声で、ぼくと肩を組んでくる。
そんな、一歩間違えれば無神経極まりない友人たちだけれど。
ぼくにとって今一番必要だったのは、そんな、何もかも忘れさせてくれる存在だったのかもしれない。
いつの間にか、夜は明けようとしていた。
トレーナーに死ぬほど怒られたのは、言うまでもない。
翌日、時刻は朝から昼へと移り変わろうという時。
ぼくは次なる戦地へと向かうために空港へ。
そこには当然のように、昨日遊んでいた友人たちが待ち構えていた。
キミたちはいつ寝ているんだという心の奥底から沸き起こるツッコミを抑える。
「『ジャンニ!!!』」
ひとしきり別れの挨拶も済んだ時、一人がぼくを呼び止めた。
「『俺たちが力になれてるかは分からんけど!!!分からんなりにやってるから!!!そこんとこよろしく!!!』」
彼らが持つ、一人一人の力。
それはそよ風程度のものかもしれない。
けれど、それらが集まれば確実に、穏やかな追い風となっていく。
今、ぼくは羽ばたいて、旅に発つ。
今、彼らも羽ばたいて、ぼくに追い風を。
今、ぼくたちは一心に羽ばたいて。
まだ朝焼けの色が残る、故郷を後にする。
いつか、必ず。
ぼくは舞い戻るよ。
旅に出た、渡り鳥のように。
人の力っていうのは、正直最初から当てにして頼っていくものではないと思う。
けれど、時としてそれは大切な『奥の手』となる。
頼るのはぼくたち周りの大人でもいいし、話しやすい同年代の友達だっていい。
キミたち二人は、もうそれができる仲だと思ってる。
キミたちが今思ってることが、『ジャンニさんって真面目な話できるんだ…』や、『ジャンニさんが落ち込んでる姿想像できねぇわ…』だろうと何でもいいけど、これだけは覚えておいてほしい。
傷ついたときに、同情して慰めてくれる友人も、もちろん大切。
大切なんだけど、居たら嬉しいのは一個飛ばして『笑わせてくれる』友達だよね。
だから、キミたち二人は辛いときに笑かしあえるような友達であってほしいと、ぼくは思ってるよ。




