カレル・サインツ《盟友のいる世界》
あれは…15年…16年前になるのか。
忘れもしない。
ここ、モナコグランプリだった。
我々の汗を洗い流すように雨が降りしきる中、表彰式を終えた。
その時優勝したのはジャンニだった。
母国での初優勝、素晴らしかった。
恥ずかしげもなく全てを伝えよう。
あの時、私たち二人はわんわん泣いていた。
いい大人が、二人してだ。
それだけあの勝利は彼の悲願であったし、私の悲願でもあったのだ。
出会った日から、私はジャンニの盟友であり続けている。
私はジャンニを見つけ、ジャンニに見つけてもらったのだ。
「『…止んだか。』」
「『みたいだね。』」
表彰式の後、私たち二人は誰もいないサーキットを、傘をさして散歩していた。
雲の隙間から、気持ちばかりの太陽光が差している。
「『…長かったな。』」
「『ほんとにね。』」
短い言葉が繰り返される。
だが、そこには過度に圧縮された何かが詰まっていた。
傘を閉じて、光の方へ手をかざす。
光の束は、海へと注がれていた。
この輝きは、君に会えたから見ることができたのかもしれないな。
「『…君も、引退するのか。』」
「『ああ。頃合いだろうと思ってさ。』」
裕毅がワールドチャンピオンを獲った翌年に。
まずはルイスが引退を発表。
それに続くようにして、私とジャンニも引退を決意した。
苦渋の決断、というわけではなかったと思う。
辛くも、苦しくもなかった。
それはなぜかと聞かれたら、こう答えるだろう。
引退したとして、私の友は消えるわけではないから。
私の友は、これまでもこれからも私を支え続けるだろう。
傲慢や決めつけではない。
常にではないが、気が付けば隣に居るだろう。
「『ぼくたちのキャリアは終わるけどさ。これで、大手を振って裕毅を応援できるよね!』」
もちろん、寂しくはあった。
ジャンニの言葉は本心であろう。
だが、ひとつまみの寂しさや喪失感を感じさせた。
そんな時、私はどうするか。
どこかへ連れて行くようなことはしない。
優しい言葉をかけるもしない。
ただ、ただ。
隣にいる。
それだけのことで良いのだ。
いま、ここに居る人はまず間違いなく親友であると、私は思っている。
そう。
今でも我々親友たちはこうして会しているではないか。
私の考えは当たっていたと言って差し支えはないであろう。
私の話を聞かずにピザを食うのに夢中になっていたって良い。
私が伝えたいのは、我々の絆はもう誰にも切れないということだ。
どんなに年を食おうと。
ボケようと、後期高齢者になろうと。
死ぬまで、私たちは家族だ。
それはとても喜ばしいことではないか?
歩幅や目的地が違っても、同じ方向に向かっているうちは。
ペースを合わせて、ゆっくりゆっくり歩んでいこう。
エリカ、そして凛。
君たちも、良き盟友であれ。
足並みを揃えて、たまに横を見るといい。
真っ暗闇の中でも、二人でなら歩ける。
そんな人は、人生でも数えるほどしか現れない。
そして、君たちはそうであると思う。
あくまで私が見る限りではあるがね。
お互いの夢が叶う時、隣にいて笑い合える、そんな仲になれる。
盟友というのは、そういう人だ。




