表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/33

ルイス・ウィルソン《何世紀経っても》

伝説は語り継がれる。

だが、時として消えてしまうものもあるだろう。

俺の伝説は、後者に位置しているのかもしれない。


七度のワールドチャンピオン。

自分でもよくやったと思ってはいる。


でも、それでも。

俺の功績は、インパクトに欠けていた。


七度目のチャンピオンを獲った、当時の俺にそのことを伝えれば、『そんなバカなことがあってたまるか』と、のたまっただろう。

俺のことを忘れない、ありがたいファンだっているだろう。

だが実際、F1ファンの中で俺の話をする人は減少傾向にある。

伏見瀬名や松田裕毅のせいだとは、もちろん言わない。

少しだけ寂しいとは思うが、それも時代の流れだ。


というか、そもそも俺は歴史に名を残すことにそこまで固執していない。

じゃあ、なぜこんな話をしているのか。


答えは至極単純だ。

俺から王座を奪い取り、消えていった男。

伏見瀬名が言っていた。

彼の師匠だった人の、墓参りに行ったときのことだ。


『大切なのは次の世代に伝説でも伝統でもなんでもいい、繋いでいくことが大事だと、俺は思ってる。』


この意見には、全てにおいて賛成する。

だが、これを実現するためには、まず伝説を作るところから始めなければならなかったのである。


伝説。

レジェンド。


それはスポーツ界においては特に神格化された言葉のように思う。

もう二度と現れないような、そんな存在に対してのみ使える言葉。

そのうちの1つに数えられること自体が非凡なことである。

だが、ありがたいことに一定の人々はまだ俺を伝説と呼んでくれる。


そうだ。

俺は、俺たちは。

歴史に名を刻むんだ。


この神話時代を生きた、一人一人の人間として。

何世紀も、語り継がれて見せよう。

そのために俺ができることはなんだろうか。


考えた。

ひたすら考えた。

キャリアが終わりに近づいていくにつれて、今後の進路に悩む高校生のような気持ちが襲ってくるのを感じた。


でも、少し考えてみれば、最適解はすぐに見つかった。

だからこそ。

その結果、俺は今ここに居るのかもしれない。










引退後、俺が選んだのは指導者の道だった。

現役時代に稼いだポケットマネーでカートサーキットを開設。

安直だが、ルイスウィルソン・レースウェイと名付けた。


俺が作った育成プログラムに参加した子供たちは、誰も彼もが光るものを持っていた。

人が成長していくさまというのは、これほどまでに興味深く、また面白いのか。


俺は衝撃を受けた。

今まで、走り続けることしかしてこなかったから。

生徒たちもそうだった。


速く、速く走ること。

幼子の脳は、それだけでいっぱいになってしまう。

アドレナリン全開の子供たちの相手は、大変だったが…なによりも楽しかった。


そんな中、俺にとっては一つ転機が訪れる。

モータースポーツにおけるトップカテゴリーでの、前人未到の記録達成。

それを目標にした、勝気な少女が入門してきたのだ。

抱える目標だけあって、実力は相当のものだった。


信じられないほど速く、そして信じられないほど寡黙であった。

初めの方では俺もさぐり探り相対していた。


だが、随分と時間が経ったとき、気づいたのだ。

丁度、伏見凛がサーキットに来た頃だった。


年齢の違う者同士が、過度に干渉するのはよろしくない、と。








凛とエリカが仲良さげに話しているのを見る。

これもまた、一つの『繋ぎ方』だと、俺は解釈している。

マシンに乗る若者がいる限り、モータースポーツは終わらない。


往年のモータースポーツキャスターの言葉を、ここでお借りしよう。

たった一つの過ちやミスが命取りになるこの世界でも。

クルマというものが存在し続ける限り。

人類がクルマに乗り続ける限り。


『モータースポーツは続いていくわけです。』


何世紀も、何世紀も。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
エリカちゃんや他にも才能ある子たちを育てていくルイスさんの想い、とても素敵だと思います。やはり「繋いでいく」というのが大切なんですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ