ルイス・ウィルソン《何世紀経っても》
伝説は語り継がれる。
だが、時として消えてしまうものもあるだろう。
俺の伝説は、後者に位置しているのかもしれない。
七度のワールドチャンピオン。
自分でもよくやったと思ってはいる。
でも、それでも。
俺の功績は、インパクトに欠けていた。
七度目のチャンピオンを獲った、当時の俺にそのことを伝えれば、『そんなバカなことがあってたまるか』と、のたまっただろう。
俺のことを忘れない、ありがたいファンだっているだろう。
だが実際、F1ファンの中で俺の話をする人は減少傾向にある。
伏見瀬名や松田裕毅のせいだとは、もちろん言わない。
少しだけ寂しいとは思うが、それも時代の流れだ。
というか、そもそも俺は歴史に名を残すことにそこまで固執していない。
じゃあ、なぜこんな話をしているのか。
答えは至極単純だ。
俺から王座を奪い取り、消えていった男。
伏見瀬名が言っていた。
彼の師匠だった人の、墓参りに行ったときのことだ。
『大切なのは次の世代に伝説でも伝統でもなんでもいい、繋いでいくことが大事だと、俺は思ってる。』
この意見には、全てにおいて賛成する。
だが、これを実現するためには、まず伝説を作るところから始めなければならなかったのである。
伝説。
レジェンド。
それはスポーツ界においては特に神格化された言葉のように思う。
もう二度と現れないような、そんな存在に対してのみ使える言葉。
そのうちの1つに数えられること自体が非凡なことである。
だが、ありがたいことに一定の人々はまだ俺を伝説と呼んでくれる。
そうだ。
俺は、俺たちは。
歴史に名を刻むんだ。
この神話時代を生きた、一人一人の人間として。
何世紀も、語り継がれて見せよう。
そのために俺ができることはなんだろうか。
考えた。
ひたすら考えた。
キャリアが終わりに近づいていくにつれて、今後の進路に悩む高校生のような気持ちが襲ってくるのを感じた。
でも、少し考えてみれば、最適解はすぐに見つかった。
だからこそ。
その結果、俺は今ここに居るのかもしれない。
引退後、俺が選んだのは指導者の道だった。
現役時代に稼いだポケットマネーでカートサーキットを開設。
安直だが、ルイスウィルソン・レースウェイと名付けた。
俺が作った育成プログラムに参加した子供たちは、誰も彼もが光るものを持っていた。
人が成長していくさまというのは、これほどまでに興味深く、また面白いのか。
俺は衝撃を受けた。
今まで、走り続けることしかしてこなかったから。
生徒たちもそうだった。
速く、速く走ること。
幼子の脳は、それだけでいっぱいになってしまう。
アドレナリン全開の子供たちの相手は、大変だったが…なによりも楽しかった。
そんな中、俺にとっては一つ転機が訪れる。
モータースポーツにおけるトップカテゴリーでの、前人未到の記録達成。
それを目標にした、勝気な少女が入門してきたのだ。
抱える目標だけあって、実力は相当のものだった。
信じられないほど速く、そして信じられないほど寡黙であった。
初めの方では俺もさぐり探り相対していた。
だが、随分と時間が経ったとき、気づいたのだ。
丁度、伏見凛がサーキットに来た頃だった。
年齢の違う者同士が、過度に干渉するのはよろしくない、と。
凛とエリカが仲良さげに話しているのを見る。
これもまた、一つの『繋ぎ方』だと、俺は解釈している。
マシンに乗る若者がいる限り、モータースポーツは終わらない。
往年のモータースポーツキャスターの言葉を、ここでお借りしよう。
たった一つの過ちやミスが命取りになるこの世界でも。
クルマというものが存在し続ける限り。
人類がクルマに乗り続ける限り。
『モータースポーツは続いていくわけです。』
何世紀も、何世紀も。




