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ボクは最強

12年前。

メルセデス移籍後3年目を迎えた松田裕毅。

新参者としての時期を終え、中堅へと差し掛かるころだ。


…並のドライバーであれば。


『『Yuki Matsuda!!!昨シーズン終盤からの連勝記録を15に伸ばし、今シーズン自身初のワールドチャンピオンが確定!!!』』


この年の松田裕毅は神がかっていた。

昨年度後半に自身初となる優勝をもぎ取り、そこからは破竹の勢い。

かつてのルイス・ウィルソンを彷彿とさせる、圧倒的な強さでレースを支配していった。


そしてこの翌年。


ジャンニ・ルクレール、カレル・サインツ、ルイス・ウィルソンが引退。

そのさらに翌年には彼らを追うように周冠英も表舞台から身を引くこととなる。


各々が残したコメントには、共通するところがあった。


「『も~無理だよ。瀬名と協力してルイスを倒したと思ったら…』」


「『…我々がのびのびと活躍できたのは、たった2、3年だったわけだ。喜ばしいことだがな。』」


「『裕毅くんは既に、5年前の俺を超えている。それだけのドライバーだよ。』」


「『アイツの兄貴代わりをやってきたつもりだが、もう手が出せんぜ。本当に、オレは誇りに思う。そして…』」





「「「「『新たな時代が来た。裕毅がそう告げたんだ。』」」」」





さあ、怖くはない。

みんなはもう居ないけれど、ボクは一人で戦っていける。

みんなが願ってる。

ボクに勝ってほしいと。

それは、ボクが願っていることでもあるんだ。


ボクの使命は、倒されるまでの間『最強』であり続けること。

今までみんなに与えられてきた、想いを全て背負って。



2034 Drivers Champion Yuki Matsuda

2035 Drivers Champion Yuki Matsuda



2040年にX1に移行するまで、その時代は続いた。

そして、裕毅自身もそれに満足感はあったものの、幾ばくかの退屈さも感じていた。

気付けば、ルイス・ウィルソンよりも遥かに長い間、トップを走り続けていたのだった。

観客はとうの昔に飽きていたかもしれない。


実際、観客動員数も落ちていく。

結果が既に分かっているようなものだからかもしれない。

その状況を鑑みて、伏見瀬名やルイス・ウィルソンが主導となってX1の開設を急いだという背景もある。


瀬名が設立までの根回しをし、ルイスがドライバーの育成を請け負う。

そんな状況が続く中、裕毅はとあるインタビューを受けた。




『『世界中のレースシーンは、もはやあなたのものだと思います。どのような将来の展望をお持ちなのかお聞きしても?』』


デビューした当初よりも、いくらか貫禄や風格のようなものが増した裕毅。

少し考えたのち、彼はこう答えた。


「『ボクは、待っているんです。』」


凪いでいた水面に落ちた、一滴の雫のように。

波紋を起こす、存在を。


「『いつかまた、複数人のドライバーが切磋琢磨して成長していく。チーム間のバチバチのバトルが観られる。まるで、伏見瀬名の神話時代のように。そんな素晴らしい時代が、いつか来るはずなんです。』」


だから。

彼は待ち続けた。

自分を打ち負かす存在が、現れるのを。


「『今はただ、待ってるんです。誰かをね。』」









これが、一般的に見た場合『松田裕毅の全盛期』として語られる時期なんだろう。

それからは、最強である松田裕毅にどれだけ近づくかのレースがまた始まったのである。

でも、裕毅さんの考える全盛期というのは、少し考え方が違った。


「全ての時期が、今のボクを形づくっている。その中で出来なくなったこともあれば、得たものもある。例えば、クラッシュする前は『恐れ』が無かった。それはプラスでもマイナスでもあるんだけど、能力が変動する要素であることには変わりない。」


裕毅さんは絶対王者となる以前、どんな人生を歩んできたのか。

その縮図が、垣間見れた気がする。


「だから一概に、全盛期はどこどこです!とは言えないんだ。」


全てが全盛期であり、全てが全盛期でない。

そんな矛盾も、この人なら両立させることができる気がした。










凛くんと別れ、ボクはピットへと向かう。

ワンデイ開催なのは良いんだけど、あまりにも忙しい。

おまけに朝だというのになんだこの暑さは。


ボクが若い頃はこんなに…

…。

今ボク『ボクが若い頃は』って言った…?


イヤすぎるーーー!!!

おっさんみたいでヤダーーー!!!


そんな風にロッカールームでひとしきり悶えた後。


「ふぅ…。」


しばし目を閉じ、ゆっくりと開ける。


「さぁ、行こうか。」


レースモードへと切り替わった精神。

そして、ヘルメットを小脇に抱えてドアを閉める。

とうとうだ。

とうとう、その時が来たんだ。


良いぞ、そのままボクを…乗り越えていけ。

いや、そんなのじゃ生ぬるい。


ボクを、刺し違えても殺すくらいの意気で来なさい。


エリックくん、そして…凛くん。

万に一つでも、キミたちがボクを倒そうとしているのなら。

生半可な覚悟は、許さないぞ。


ボクは最強だ。


その眼に刻むといい。

最強の、最後の輝きを。


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