Episode1. 木漏れ日のジュース
とある国の、とある森の奥に、とある小屋があった。
木漏れ日が差す木々の中に、ぽつんと小さなウッドハウスがある。ダークオークの木でできたその家には、赤い煙突と重厚感のある黒い扉が付いていて、その横には大瓶が置かれている。
その小屋には、山奥であるにも関わらず毎日多種多様な「客」が現れる。
来られる「客」は、1日にたった1人だけ。運が良ければ訪れられる。本当に存在しているのかもわからない、不思議な場所だ。
今日もまた、その小屋に「客」がやってきた。
本を読んでいた「彼女」は家の窓から森を覗いて「客」を確認すると、ため息をついた。
「御免下さい。」
扉がゴンゴンと叩かれ、(扉が重くて分厚いので、コンコンではなくゴンゴンだ。)もう1度「彼女」はため息をついた。
「どうぞ入って下さい。」
「し、失礼します……」
恐る恐る入ってきたのは、若い女性だった。長い茶髪を後ろにさらりと流していて、スーツを着ている。
「あの、ここは『木漏れ日のジュース』のお店で合っていますか…?」
「彼女」は「客」の方を見ようともせず、ゆるりと首肯した。女性はほっとため息をついたようだ。
「まずは座りなさい。」
「あ、ありがとうございます。」
若い女性がもじもじしていたのを見兼ねて、「彼女」は自分の前に置かれた椅子に座るよう促した。
「貴方はだあれ?」
「わ、私ですか?」
「ええ。貴方のことを聞いているの。」
突然の質問に、女性は面食らっているようだ。それもそうだろう。いきなり自分のことを聞かれるのだから。
「わ、私は、山本寿美と言います。」
「そう。では寿美、」
「いきなり呼び捨てですか…」
「あら嫌だった?」
「いえいえ…」
「彼女」は本をぱたんと閉じ、寿美に向かって透き通るような瞳を向けた。その瞳は全てを見透かしてしまいそうで、気圧された寿美が唾を飲み込む音だけが響く。
「貴方の人生、聞かせてちょうだい。」
「客」の人生を聞くこと。それが「彼女」、「木漏れ日のジュース」の売り手改め、「小森レビ」の仕事だった。