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Bonus Stage

ご覧頂き、ありがとうございます。

評価やブックマークなどありがとうございます!

 再びヘリコプターで向かった先は五つ星ホテルの最上階。

 スイートルームの広いテーブルに高級フランス店の料理が運び込まれる。

「なんでお偉いさんと金持ちって高い所が好きなんだろうな?」

 窓から見下ろすと絶景と呼べるほど綺麗な夜景が見える。まあ、これが見れるなら高いところが好きなのは分るけど……

「高い所が好きな訳ではないけれど、今日に限って言えば、ストリートファイトのイベント場所がここで、それに香織が参加するからかな?」

 そうなのだ、ボーナスステージはこのホテルの駐車場で行われる。絶対に参加するから今日はすぐにお開きと言ったら、予約していた店のシェフをホテルに呼び寄せて、ギリギリまで食事を楽しめるように手配してしまった。

 金持ちはスケールが違う。

「給仕はうちのメイドにお願いしたから身内だけだよ。テーブルマナーとか気にしなくていいから安心して」

 何の気を利かせたのか、そのメイドさんもほとんど部屋に来ない。リックと二人きりという状況はあまり安心できないんだけど……

「今後必要になるから、香織には早くテーブルマナーを身に付けてもらわないと」

 いやいや、もう二度と高級なところに行く予定はないから!


「そろそろ、柳兄さんはビッグXを見つけただろうか」

「んぐっ……ゴホゴホ」

「大丈夫か、香織?」「……ゴホゴホ、大丈夫じゃない!」

 さっきまでリックと二人で夜景を見ながら何気ない会話を楽しんでいたのに、デザートを食べるタイミングで、リックから爆弾発言が飛び出した。

 思わずケーキを喉に詰まらせて窒息しそうになる。

「ユイが持って来た紙に、大まかなマフィアの拠点の位置と、ボスがビッグXと名乗っていることが書いてあった。あれは香織がユイに渡したものだよね」

 しまった! オレに何かあったとき限定で、リックか柳に渡してもらうつもりだったのに、ユイちゃんにその辺りがちゃんと伝わっていなかったようだ。

 それにしても渡すのが早過ぎる……いや、そっか、ユイちゃんだってリックと柳の妹だ。育ての親の仇の情報が書いてあればすぐに渡すだろう。

 リックや柳の行動も恐ろしく早い。何でオレの知らないところでボスと戦うことになっているんだ。

「香織に知らせると、止められるか、先に行ってしまうと思ってね」

 考えが顔に出ていたのか何も言っていないのにリックから答えが返ってきた。

「柳一人で行かせたのか!? なんて無茶を」

 マフィアの本拠地に一人でなんて……ゆっくり食事なんてしていられない。早く助けに行かなきゃ。

 慌ててテーブルから立ち上がろうとしたら、リックに手を取られて止められた。

「落ち着いて、ワン・フーとボディーガードも柳兄さんと一緒だ。市の警察はマフィア息がかかっていて信用できないから、郡の警察に連絡して動いてもらっている。柳兄さんなら必ず仇を討ってくれるよ」

 それは大丈夫なんだろうか? 主人公である柳に何かあるとは思わないけど……

 それにしても進行がゲームと違い過ぎている。ラスボスを途中で倒すなんて聞いたことがない。ストーリーの強制力が働いて、隠しボスが出てこないとか、柳に何かあるとかないよな……


「さて、香織。それじゃあ、なぜマフィアの拠点や仇の名前を知っていたのか教えてくれるかな?」

「うっ!」流れるように席に座り直させられると、リックが真剣な顔で聞いて来た。

 そりゃあ、初めて来た土地でマフィアの本拠地やボスのことを知っているなんておかしいよな。ユイちゃんの件やら、それ以前にもやらかしている気がするし……

 でも、この世界はオレが高校生の頃にやっていたゲームの世界だ! なんて言ったら頭がおかしいと思われるのが落ちだ。

「実はライジングから極秘に……」

「ユイが攫われたときの場所も知っていたよね。それもライジングから聞いたの? そういえばユイの名前も知っていたけど、俺はユイのことを香織に話したことは一度もないよ」

「くっ」リックは天才キャラであって馬鹿じゃない。さすがにこんな子供だましでは騙されてくれないか。

 それでも元アラフォーの大人としてここはしっかりと対応を……

 あの手この手ではぐらかしてみたが、リックは全く乗ってくれない。先ほど取られた手はまだ離してくれず、だんだんと冷や汗が……


「リック様、香織様、そろそろイベントが始まります」

 もうダメだと思った頃にメイドさんがイベントの開始時間を告げに来た。ナイスタイミング、今がチャンス!

「はい、すぐに行きます……うっ!」

 握られていた手をほどいて席を立つと、後ろから抱きしめられた。強い力ではないけど振りほどけない。

「まだ話は終わってないよ」

 少し悲しそうな声が耳元で聞こえる。

「香織がなぜマフィアのことを知っているのかは分からないけど、俺達のことを思って行動してくれているのは分っている。いつも俺達兄妹のために自分が傷ついているし、秘伝書まで託してくれるなんて、何か悪意を持っているなんてとても考えられない。だから言いたくなければ、もちろん構わないけど……分からないと怖いんだ。香織がまた無茶をして、傷つくんじゃないかって……」

 うっ、そんな言い方をするのはズルい。それにこの状況は非常にまずい。恥ずかしくて頭が上手く回らない。

「い、今は言えないけど、後で絶対に言うから……ええっと、無茶は多少するけど、大丈夫で……あっ、そうだ、もしオレの姿が見えなくなったら―――」

 やさしく抱きしめたまま、リックはオレのしどろもどろの説明を熱心に聞いてくれていた。



◇◆◇◆◇◆



「Ladies and Gentlemen ようこそ、ストリートファイトのイベントへ! 今夜はあの狂犬がストリートファイターの強さを、これでもかと見せてくれるぞ。さあ、そこらの人間と次元が違うことを見せつけてくれ! 狂犬……いや……ええっと、マッド・バニーの香織!」

 司会の合図でステージの袖からオレが出ると、観客の大歓声が上がった。指笛がピューピュー鳴る中、五つ星ホテルの野外駐車場に作られた特設ステージ上を歩く。

 茶化すような声が聞こえるのは、オレが網目の荒い黒タイツ、際どいハイレグのレオタード、兎の耳が付いたカチューシャ……、うん、はっきり言おう。バニースーツを着て歩いているからだ。

 半分やけくそ気味に両手をブンブンと振りながら笑顔を振りまく。カメラで全米に流れてると思うと、自分で選んだ道とはいえ若干の後悔は隠すことができない。


 ゲームのコスチュームチェンジに気付いたのは、リックになんとか解放してもらい、会場の控室でドレスを脱いでいるときだった。

 道着を持ってくるのをすっかり忘れていて、慌ててメイドさんに取りに行ってもらっている。しかし、今から間に合うかは微妙だ。しょうがないからリックに買ってもらった服を着ようと袋を手を伸ばすと、ルッチ爺さんからもらった服にふと目が止まる。

 そういえば、格闘ゲームも後期になるとネット販売が増え、遊び要素として各キャラクターのコスチュームをチェンジすることができるようになった。

 追加でお金がかかるので貧乏なオレは買ったことがないが、確か香織は甘々のガーリー服とバニースーツだったはずだ。

 そして、このコスチュームチェンジは課金するだけあって、高価なコスチュームで戦うとポイントに大幅なボーナスが付く。そして香織で一番高価なのはバニースーツ……

 真のボスに近付きたいのなら、バニースーツを着るのが一番良いのは分かる。しかし、これを着る勇気は無い……もうだいぶポイントを稼いでいるはずだから普通の服でも大丈夫な気がするし……ただ、こんな高級な服、破れたら困る。それならこの甘々のガーリー服を……いやいや、それは中途半端だし、オレの趣味だと思われても困る……

 バニースーツと甘々のガーリー服、それに高級な普通の服、どれが一番良いのか頭の中で堂々巡りを繰り返し決め切れない。


「ニッキー早くして、お腹が空いたわ」

「ハニーちょっと待っててくれ。どけ、邪魔だ。俺の車が入らないだろう!」

 なぜか、ストリートファイトの主催者と一般客が揉めているというので、なかなかイベントが始まらない。マフィアの主催する大会に喧嘩を売るなんて度胸があるというか……どこかで聞いたことがあるような声がするけど、服選びに忙しくて意識の外に追いやった。

 このまま、道着が間に合えば道着でも……安易な方に流されかけたときに、イベント開始の合図がかかる。

 え~い、ここまできたら、やれることは何でもやってやる! バニースーツをひっつかむと急いで着替えて、ステージに上がった。


 ステージ上には一台の車が置かれている。鉄の塊である車を素手で完膚なきまでに破壊してストリートファイターの力を見せつけるというのがこのイベントだ。

 叩いたら、こちらの手足も痛そうだけど、ポイントアップのために気合を入れる。

 事前に契約書も交わしているので、壊してもオレの責任になることはない。この辺りはリックにも確認してもらったので大丈夫だと思う。だけど、壊すにしては高級車で綺麗過ぎないか。オレが気にすることじゃないとは思うけど、もっと古いボロボロの車でも良いような気がする。

「準備は良いかうさぎちゃん? それでは! Ready, start!」

「たぁ!」

 開始の合図ですぐに飛び出し、車の扉に飛び蹴りを放った。薄いプラスチックを蹴ったくらいの感覚で扉がひしゃげて吹き飛ぶ。

 そうか、車体だけ壊し易いように、もろい素材で新しく作ったから、見た目が綺麗なのか。それなら思いっきりいけるな。

 ボンネットに拳を叩き付けて、バンパー部分を蹴ると大きな音がして車内のエアバッグが開いた。観客から歓声が上がる。

 そんなに車を壊すのを見て面白いか? 観客との感性の違いに若干戸惑ったが、ポイントを沢山得るために素早く車に攻撃を加えていく。


「重箱崩し!」

 必殺技を当てると車体が悲鳴を上げ、タイヤが外れて転がった。相変わらずもろい作りだ。

 この調子だったら、少し時間をロスしても、まだ余裕があるな。

 ボーナスステージで試したいことがあったので、一度車から離れて距離を取る。

 ゲームストーリーの中核である隠された奥義……ゲームでは主人公クラスである柳とリックしか使えない超必殺技だった。香織は源流が同じはずなのにゲームでは使えないという酷い扱いだ。しかし、コマンドが脳裏に出てきた今ならオレでも使えるのではないのだろうか?

 奥義は非常に強力な反面、体力ゲージが残り少なく、危険な状態を表す赤点滅にならないと使えない。

 そのため秘伝書を見つけたときから気になってはいたが本番で試すにはリスクが大き過ぎて今まで使う機会がなかった。

 だけど、ボーナスステージは特殊なステージなので何の制限も無い。体力ゲージに関係なく必殺技を使用することができるのだから、時間が余っている今が奥義を試す絶好の機会だ。


「はああぁぁ……」

 丁寧にコマンドを頭の中に思い浮かべる。身体が熱い……『重箱崩し』を放つとき以上に気が身体中に集まってきた。

 こ、これは……!

 気が付いたら、弾かれたように体が勝手に前に出ていた。一瞬で車との間合いがゼロになると、もの凄い速さで拳と蹴りを車に浴びせていく。

 格闘ゲーム初の乱舞系…… 乱舞系とは初弾が当たると素早い連続攻撃を切れ間なく相手に浴びせる技で、その爽快感と格好良さから常に人気の高い必殺技だった。

 オレもリックで乱舞系を当てられる機会には積極的に使っていたし、後期の格闘ゲームでも乱舞系を使えるキャラは人気が高かった。 


獅子真龍撃しししんりゅうげき」最後に体を沈み込ますと思いっきりアッパーカットを放って、空に向かってジャンプする。自然と奥義の名前を叫んでいた。

 超必殺技の殴る蹴るでボディーがほぼ無くなった黒い車体がアッパーカットによってひっくり返って地面に落ちる。鉄板が落ちる大きな音と共に残っていたエンジンオイルが噴出した。

「「「「おおおおおお……」」」」

「車が素手でスクラップになるなんて!」「何だ今の動きは、人間業じゃねえ!」

「Hero Hero!」

 観客からどよめきが起こった。

「Amazing! Nice fight! カオリ!」

 おおお、香織にも奥義が使えた! これは素直に嬉しい。

「……ざわっ……」

 観客が熱狂する中、ステージ裏というか運営者の側の空気が変わった。スタッフ同士でヒソヒソと話始め張り詰めたような雰囲気……なんとなく察した。

 ポイントが貯まって、真のボスルートに入ったんだ……


「お、お、俺の車が……」

 会場の興奮がまだ冷めやらない中、チンピラ風の男がステージに上がってきた。

 車の残骸に近づくと泣き始める。そういえば、ゲームでそういう演出があった気がする。

 あれ? これってもしかして個人の車だったのか!? 簡単に壊せるから、てっきり仕込みの車だと……ん? よく見れば、この男、ブランド店で会ったニッキーじゃないか……

「お客様、突然イベントに乱入されては困りますよ」

 黒スーツの男二人が出て来てニッキーに近づいた。会場スタッフと書かれた腕章が付いているが、どう見てもマフィアの構成員……そういえばユイちゃんが攫われたときにも見た二人組だ。

「……ど、どこへ連れて行く気だ」

 二人組が叫ぶニッキーを連れて行こうとする。ニッキーに良い印象は持っていないけど、車を壊されて、マフィアに攫われて何をされるか分からないのでは、気の毒過ぎる。

「おい、そいつは離してやれ。おまえらの()()のボスが呼んでいるのはオレだろう。早く連れて行かないとオレは帰っちまうぜ」

 二人組は顔を見合わせると、怯えるニッキーを解放した。

「さすがは、あのお方の目に留まるだけはある。素直についてきて頂けるのなら言う通りにしましょう」

 良かった。強引には連れて行けない相手だと思ってくれたようだ。オレは隠しステージに行くのが目的だから、連れて行ってくれるのはむしろ有難い。

「さすがに着替えぐらいさせてくれよ、このふざけた服で会うわけにはいかないしな」

「……それでしたら、先ほどの控室で着替えてお待ちください」

 こちらの服をチラッと見て、許可を出してくれた。さすがにこんな格好の小娘を本当のボスのところへ連れて行く勇気は無かったようだ。

「……狂犬……」

 ニッキーはバツが悪そうにこちらを見ている。身の危険を感じて少しくらいはこたえたのだろうか?

「知らなかったとはいえ車壊して悪かったな。運営が補償する契約だってリックが言ってたから買い直してくれよ」

「……あんなやつらについて行ったら……」

 あら、心配してくれているのか。

「オレは最強だから大丈夫。ちょっと暴れてくるだけだよ。まあ、心配してくれてサンキューな」

 立ち去ろうとしたら、ニッキーが古い巻物を差し出してきた。

「持って行ってくれ。俺は習得できなかったが、あんたならもしかすると……」

 あまりに真剣な眼差しに受け取ってしまった。開けると奥義の秘伝書のようにコマンドが頭に浮かぶ。

 そういえば、ボーナスステージをクリアーすると技を一つ覚えることができるのだったっけ……だけどこの技は……

試行錯誤の勉強中です。

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