大黒天
「おいお前、鳥居の前ではちゃんと頭下げろよ。常識だろ?」
「いや先輩だって大して頭下げてないじゃないですか…第一この時間なら神様も寝てますよ。」
「俺はこの神社の常連なの。お前と違ってここの神さんとはマブなんだよ。だから軽い会釈で十分。分かるか?」
「いや全然分からないです。仮に先輩が神様とマブ?であっても、親しき仲にも礼儀ありだと思いますけど…。
それにしても、ちょっと飲みすぎましたね。ご馳走様でした。」
「いいんだよ。後輩に払わす先輩がいるか。」
「でもこれからは行きつけのバーみたいなノリで二軒目に行きつけの神社を紹介するの、やめてくださいね。何か雰囲気あるし、何より神社じゃお酒出てこないでしょう。」
「お神酒ならあるんじゃないか?いつも供えてあるぞ。」
「罰当たりな。絶対飲んじゃだめですよ?本当にここの神様の事信仰してます?…って、こんな夜中なのに誰か居ますね。先輩、見えますか?」
「ん?どこどこ…。」
「ほら、前見てください前…。全身真っ黒で…白い袋?を抱えて…覆面まで。まるで強盗犯だ。」
「こんな神聖な場所に強盗犯が居るかよ。ここは俺と神さんの逢い引き場所だぞ?」
「先輩、生粋の女好きでしょ?ここに祀られてる神様、男性だった気がしますけど。それに神様とどういった仲なんですか…あ、向こうもこっちに気づいたみたいですね。」
「な、何だお前ら!手を挙げろ!さもないと撃つぞ!」
「そんな悪役の常套句、リアルに聞くことになるとは…先輩、逆らわないでおきましょう。奴は武器を持っている。」
「よし、それでいい…。そうだお前ら、金、持ってるよな。全額出せ。今すぐだ!」
「ああ災難だ。下ろしたばっかだっていうのに…。って、先輩?さっきから黙りこくって。どうしたんです?」
「…もしかして…。」
「え?なんです?」
「…もしかして、君……ここの神さんか?!」
「は?」
「だってそうだろう!白い袋に大きな福耳、優しい目尻!どう考えても…大黒天じゃないか!」
「先輩、落ち着いて。確かにこの神社は大黒天を祀っているような気はしますが…。福耳に垂れ目の人間は割といますよ。袋だって、きっと強盗のために…。」
「それに彼は金を要求した!」
「だからなんだって言うんです?」
「彼はいつもそうだ!俺はここに来る度、彼に金を渡している!」
「……もしかしてお賽銭のこと言ってます?」
「5円のほうが良いとかいう変な共通認識のせいで、いつもこの神社に来る前に小銭を崩す羽目になるんだよなあ。」
「律儀ですね…。というか先輩の中でお賽銭ってそういう認識だったんですか?もっと自主的なものかと思いますが…。」
「何をグダグダ喋ってるんだ!早く金を出せ!!」
「いつも通り、5円でいい?」
「うわ…めっちゃフランク…。流石マブですね。」
「いい加減にしろ!!」
「めっちゃ怒ってますよ。先輩、どうするんですか?」
「まあ落ち着けって、大くん。」
「大くん?もしかして大黒天からとってます?安直すぎませんか?」
「ど、どうして…僕の名前を…。」
「おお、今奇跡起きてますね。」
「君はもっと冷静で、他人思いの、神さんのお手本みたいなやつだったじゃないか。」
「なんでそんな上からなんです?」
「ど、どうして僕の彼女の名前まで…。それに僕なんかじゃ、到底彼女のお手本には…。」
「え?もしかして彼女さん、“カミ”って名前なんですか?そんな偶然あります?」
「え〜大くん彼女居たんだ〜!なんで言ってくれなかったんだよ〜!!」
「なんですかそのノリ。やめてください。修学旅行の夜じゃないんですから。」
「ぶっちゃけ〜、彼女とは最近どうなの〜?」
「彼女は…香美は、実は…。ここ数年、ずっと病気を患っていて。僕も働いてはいるんですが全然足りなくて。返す余裕もない中色々なところにお金を借りて、なんとか治療費を援助していたんですが、最近病気が更に悪化して。
早急に手術をしないといけないそうです。でもそんなお金どこにもなくて。だからもう、犯罪に手を染めてでも香美をと思い、こんなことを…。」
「そうだったんですね…。」
「だとしても強盗は頂けないなあ。賽銭全部合わせても足りないのか?」
「違う形の犯罪を助長しないでください。」
「もう、こうするしかないんです…。」
「…俺と大くんの中だ、なんとかしてやりたい気持ちはやまやまなんだが…。」
「先輩…。」
「そうだ!これやるよ。もしかしたら当たってるかもしれない。」
「当たってる…?ああ、さっき酔った勢いで買った宝くじじゃないですか。スクラッチなのに、一回寝かせるとか言って売り場のお姉さんに変な顔されたやつ。」
「もともとこの神社で削るつもりだったんだよ。ほら、大くん。」
「…そんな奇跡、起こるわけ無いですよ。」
「わかりませんよ。今夜は何かと偶然が重なっている。」
「それに…ギャンブルとは、いまいち縁がないですし。」
「一円なら俺が持ってる。はやく削れ!」
「いまいち、縁ね。一円じゃ削れないですよ。」
「じゃあ、失礼します………え…??」
「同じ絵柄が…3つ並んで…!」
「おお、ビンゴならリーチだな。」
「いや、ビンゴなんですよ!!先輩ビンゴ知らないの?!」
「これ、しかも一等の絵柄…!!嘘、こんな奇跡が……!!」
「よくわからないが、良かったな!」
「めちゃくちゃわかりやすい状況ですけどね…。先輩の理想のシナリオが、まさに実現したんですよ!」
「シナリオ…?まあ…大くんの笑顔が見たいっていうのは、叶ったかな。」
「急に口説きだすの、やめてもらえます?」
「本当に、本当にありがとうございます!!どうやってお礼すればいいのか…そうだ、連絡先!」
「いいから、早く行けって。大くんの神さんが待ってるんだろ。いつか会わせてくれ。神さんが信仰する神さんなんて、ご利益凄そうだし。」
「下心しかないじゃないですか。」
「本当にありがとうございました!」
「…行っちゃいましたね。本当に良かったんですか?まあ命よりは軽いかもしれませんが。一等ですよ?」
「いいんだよ。それよりずっと会いたかったんだ、大黒天に。尊敬する人に会えただけでいいんだよ。」
「まだ勘違いしてたんだ…。そうだ先輩、大黒天って打ち出の小槌持ってるんですよね?一振りで財宝が溢れ出すとかいう。」
「そうだな。だから大黒天は財運福徳の神さんでもあるんだぞ。」
「なら先輩こそ大黒天だ。小槌じゃなく紙切れだったけど。一削りで財宝を、しかもそれを赤の他人に全て施すなんて。」
「はは、褒めても何も出ないぞ。打ち出の小槌はさっき渡してしまったからなあ。」
「その人格こそですよ。今夜初めて先輩を尊敬しました。そうだ今からもう一軒行きませんか?もっと先輩のことを知りたいです。」
「いいぞ!実はもう一つ、行きつけの神社があるんだよ。大黒天以上に財運福徳な神さんが居て!」
「……宝くじ渡したの、もしかしてちょっと後悔してます?」
「当たり前だろ!!格好つけたいって気持ちの代償にしてはデカすぎる!!クッソ〜!俺の全財産はスクラッチ買った時点で既に0だったっていうのに!」
「ああ、前言撤回。先輩もやっぱり人間だ…。僕、出すんで。ほら泣いてないで、飲み行きましょ。」
授業内課題 会話
地の文を用いず、3人以上を登場させ、書き分ける
ちょっと無理やり展開が垣間見えるけど、これも楽しくかけたし凄く評価も良かった。
ちょっとご都合主義なのが気になるけど。
地の文も加えて書き直そうかなぁ。