路線図
「もしもーし?」
何度も何度も同じ電話をされようと、そこはお仕事。悲しいかな賃金を受け取っている者の宿命だと諦め、丁寧な対応を心がけていたが、やはり例の電話は途中で切れた。
「まただよ……」
ため息まじりに電話の受話器を置く。最初の頃は、デスクをバンバンと叩いたりもしていた。腹立ち紛れに。
「いつもこうなんスか?」
後輩の男が入社して、未だそんなに日が経っていない。それもあって先輩社員は電話を引き受けたのだろう。まだ数日間の勤務だが、それでも同じ電話を数回受けたし、同僚が同様の電話に対応をしているのも見かけた。
ただ、数少ないその事例に基づいた統計から見るに、どうやらお婆さんとの電話はほとんど毎回途中で切れているようだった。
「ああ。いつもだよ? てか、100%だね。」
もううんざりだと先輩社員が顔を竦めて答える。
「ええ?」
驚く後輩。高い確率で途中で切れるのだとは予想していたが、100%だとは想定していなかったらしい。ややブカブカの帽子がズレ、短く刈り込んだ頭の剃り込みが顔を覗かせる。
「じゃああんなに丁寧に対応しなくても良くないスか? いたずら電話でしょどうせ。」
社会経験の浅さから来る発言である。気持ちはわかるが。
「まあオレもそう思うぜ? でもよ。駅員の対応が悪かったなんて婆さんが騒いでみろ。」
「ああ。なるほどッスね。」
なんともやりきれない問題である。だが致し方あるまい。
まだ何か腑に落ちないのか、眉間に皺を作って、考えこむ短髪後輩くん。穏やかな表情でそれを見守る先輩紳士。
「……ウチじゃないかも。」
やがて後輩くんは、1つの仮説を打ち立てた。
「どういう意味?」
「他の路線に、●●駅があるのかも。婆さんは路線を間違えてるって可能性、ないスかね?」
これは的を射ているかもしれない。そう思った先輩紳士はやおら立ち上がる。後輩くんが目で追う先、資料棚から目当ての物を見つけ出すと、またこちらに戻って来る。
「この辺り全部が載ってるヤツはこれだけだな。」
先輩紳士が広げた路線図を、後輩くんが凝視する。
「えーっと……●●……●●駅っと。」
指で各路線を辿っては、お目当ての名前と一致する駅を探す。同じ作業を繰り返す。そして出た結論はーーーーーー
路線図は、作者のツイッターにございます。