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ファンデア・テイル  作者: 八架
一章
19/80

第19話 D級依頼:シュラブルームの実を納品してください①

「ん、話は終わったのか?」


 資料の山からアッドさんが顔を上げる。カウンター前に揃って現れた私達を見て、彼は猫のように目を細めた。


「おかげ様で大っ変実りのある話ができましたよ。場所ありがとね。マフィンも」

「そうか、それはよかった。お前達は相性が良いと思っていたからな。協力して上手くいくならどんどんするといい。そうすればお前も少しは気を抜けるだろう」

「……イヤだね~、このヒトたまに心読んでくるから気をつけ、……って何でアオイちゃんも笑ってんの?」

「んふふ、レグさんのことよくご存じなんだなって」

「それなりに長い付き合いでな。知ってるか? レグは昔、髪をこんな風に逆立てて──」

「うるせーっ! やめろやめろその話! 俺もう帰る! じゃーねお疲れッ!」


 耳まで赤く染め、レグさんは大股でギルドを出て行った。本人がいなくなってもドスドス響く足音の余韻にアッドさんは忍び笑いする。残念なことに、レグさんの怒りは何も堪えていないみたいだ。


「ああして軽薄な風を装ってはいるが、根は至って真面目でな。突くと面白いだろう?」

「お、面白いかどうかはちょっとわかりかねますが……はい、真面目で潔白な方なのは同感です」

「ああ、僕にはお前もそう見える。その性質を見込んで頼みたい仕事がこれだ」


 アッドさんはたちまち表情を切り替えると、一枚の羊皮紙を私達の前に滑らせた。そこには大きな『求ム』の掲題の下、オクラとウリをかけ合わせたような実が描かれている。


「余所のギルドから回ってきた依頼書だ。毎年この時期になると融通してくれと依頼が来る」

「『シュラブルーム』? 初めて見ます……」

「柑橘系の味で結構美味いぞ」


 シュラブルームはミネフから少し離れたところに生えている低木で、春になるとつける実がこの辺りの特産品らしい。限定された地域でのみ自生が可能なちょっと難しい植物のため、他では高級品の類なのだとか。果肉を食べるというより料理のトッピングに使われることが多いという。


「いつも春先に収穫具合を見に行くんだが、今年はお前達に任せられないかと思ってな。例年通りの量が採れるかも怪しいから、そのあたりも調査してほしい」

「なるほど、水質の件ですね」


 声量を落とせば、アッドさんも神妙に頷いた。

 つまり、シュラブルームがミネフを騒がせている水質汚染の影響を受けていないか、併せて確認する必要があるということだ。特産品というからには町の貴重な財源の一つなのだろう。先行きが不安定な中、足元の財産が減るのはなるべく避けたいのは道理だ。それに例の計画に関わるならあまり他言できない内容である。


「わかりました、お受けします」

「ありがとう。話が早くて助かる」


 肩に乗ったユーンくんも「任せてくれ」と唇を吊り上げる。地属性の彼なら植物の状態も詳しくわかるはずなので、とても心強い。


「では正式に依頼しよう。門の外だ、魔物はそう多くないとはいえ、くれぐれも気をつけて行ってくるんだぞ」


 ドン、と羊皮紙に角印が沈む。鮮やかな『受領』の赤文字が捺されたそれを受け取って、私達はギルドを後にした。



       ◆ ◆ ◆



 それから一度家に引き返し、さしあたり必要な荷物を持って南門を潜った。

 初日以来のミース街道は、あの時と同じくのどかな雰囲気のままだった。辺り一面に広がる緑の匂いのする絨毯。町と町を繋ぐ駅馬車が時折往来する以外は静かで、見渡す限り魔物の気配はなさそうだ。

 目的地は町から三十分程歩いたところ。途中で主要街道を逸れ、住民共有の森から続いている別の森の入り口を少し行き、開けた場所にある古い切り株が目印となる。


「切り株はあれだな」


 ユーンくんが指差す先に、苔むした炭色の塊があった。薄汚れて判別がつかないほどぼやけた年輪が過ぎた年月を物語っている。

 ひとまず切り株の上に荷物を下ろし、周囲を見回す。


「アッドさん、ここの周りにあるって言ってたよね?」

「そのはずだけどな」


 いくら視線を巡らせても、あの特徴的なフォルムの実は見当たらなかった。少々森の奥まで足を踏み入れても跡形もなし。大元の低木だけがただひょろりと立っている。

 その危なっかしい細さの幹にユーンくんが手を当てた。


「大分痩せてるな」

「うん……私でもわかるくらい。これだけ探してないとなると、もしかして今年は上手く()らなかったのかな」

「それにしては影も形もなさ過ぎる気がするが……いくら貧相とはいえ毎年生ってたものだ、いきなり全くのゼロってことはないだろう」


 「ちょっと持っててくれ」とククサを私の頭に逆さまに被せ、ユーンくんは枝の付け根まで飛んで行った。通常であれば鈴生りに実が連なるはずのそこにじっと目を凝らす。


「実が生った形跡はある、が……丸々持って行かれてるな。誰かが根こそぎ採り尽くしたか?」

「それか食べられちゃったかな。でも、確か『番人』がいるはずだよね?」


 アッドさん曰く、シュラブルームの群生地にはとある魔物が住み着いているそうで。対価を求める代わりに実を守り、限られた相手にしか採取を許さないらしい。人語は話せないが理解はできるので、アッドさんの代理であることを説明すれば交渉できるはずなのだが──。


「ああ、確かにそいつもいな──」


 ユーンくんの語尾が不自然に途切れた、次の瞬間だった。


「アオ、伏せろ!」

「っ!?」


 鋭い一喝に身が竦む。反射的に倒れ込んだ頭上を、唸るような風が音速で駆け抜けていった。

 咄嗟に視線で追った先、銀色にも似た白っぽい影が宙を走っている。小さな体躯と綿毛のような体毛は、シュラブルームの番人──マートル・ビーの特徴そのものだった。

 マートル・ビーはハチ特有の羽音を立てながら、俊敏な動作で木を躱し、森の奥へ進んでいく。脇目も振らず一心に飛行する様は、まるでここから離れようとしているかのようだった。その背に向かってユーンくんが叫ぶ。


「おい! どこへっ、」

「ゲギャーッ!」

「!」


 応答したのは別の声だった。耳障りなだみ声に振り返ると、ぼろの網や棍棒を振りかざした皺くちゃ顔の小人が群れを成していた。性質の悪い妖精崩れ──ゴブリンの集団である。

 ゴブリンは、ギルドに登録したばかりの新人でも討伐が可能といわれる程度の魔物だ。単体ならばさほど強くないので、よく初心者の(ランク)上げのための経験値稼ぎに選ばれている。だが、厄介なのが現状のように徒党を組んできた場合だ。どこで学ぶのか人間の道具を使いこなし、また執拗に標的を狙う性格も備えた彼らが集まれば、途端に袋叩きになるのはこちらの方。どれだけ弱くても魔物は魔物、決して侮れない存在なのだ。


「ここまであからさまだと手間が省けて助かるぜ。『番人』はこいつらから逃げてるんだな。アオ、立てるか?」

「うん、大丈夫。──やろう」


 押し寄せるゴブリンに私達は掌を構え──刹那、下した命令に呼応するように光る魔力が放たれた。

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