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ファンデア・テイル  作者: 八架
一章
12/80

第12話 依頼3/5:商品の配達をお願いします①・ギルド編

「いやー仕事あるのに手伝わせちゃってごめんね! 俺が手配ミスっちゃってさ。お詫びに報酬弾むんで、ひとつよろしくお願いします!」

「とんでもないです。こちらこそいつもお世話になってますから、頑張ります!」


 今日受注したギルドの依頼は『ミヅカネ商会』の手伝いだ。フェイもニキちゃんも店番があり、レグさんの召喚獣も出払っているため、町中の配達要員が足りないのだという。

 雑貨屋の裏手にある倉庫へと案内され、並べられた複数の荷物。掌サイズのものから私の背丈ほどあるものまで、大小様々なそれらを本日中に届けるのが仕事である。

 荷物の包装の隙間には、メモ書きみたいな羊皮紙の切れ端が挟まっていた。「おや?」とレグさんが長身を屈めて覗き込み、弱ったように首をさする。


「あーやべ、宛先書いてなかった。うわこれも包装途中だ……ごめん、ちょっと店で待っててくれる?」

「やりましょうか?」

「え」


 メガネの奥の目が見開かれる。いつも涼しい表情をしている彼の珍しい様子に、思わず笑いが零れた。


「…………マジ?」

「マジですマジです。レグさんこれから外出されるんですよね? 私こういう作業好きなので、全然やりますよ」

「……っ!」


 レグさんは両手で顔を覆い、天を仰いだ。長い指の隙間から「最高かよ……」という呟きが聞こえ、ちょっと照れてしまう。


「……ありがとう、ほんとのほんっとにありがとう……っ! じゃあこれ宛先のリストと、梱包はここに入ってる材料使ってね。お言葉に甘えて任せちゃうけど、何かあったらフェイかニキに聞いてね。あとヤツにちょっとでも何か言われたら教えて、帰ってきたら殺すから」

「ヤツ?」

「クソ狼のこと! ごめん俺もう出なきゃ!」

「は、はい、行ってらっしゃいませ!」

「ありがとね! 行ってきまーす!」


 慌ただしく駆けていく長い足。どうやら時間ギリギリだったようだ。梱包までしていたら遅刻していたに違いないので請け負ってよかった。クソ狼とやらは聞かなかったことにしたいが、ひょっとして三兄弟の誰かとあまり仲が良くないのだろうか。

 リストと梱包用品の一式を運び、荷物の近くにセット。現代では備品の検品や社内便の郵送なんかが定常業務の一環だったため、この作業もそこまで手間取らないだろう。データと実物の突合せも慣れたものだ。

 そうして借りたエプロンを腰元で結び、腕まくりをして気合を一つ。


「じゃ、やりますか!」



       ◆ ◆ ◆



 検品後の商品を包み、宛名と中身を記した羊皮紙を括りつけ、私達は配送に出発した。

 手分けした方が効率的だろうと、ユーンくんは教会や牧場がある西側へ、私はギルドや工房のある東側へ。ちなみに彼は非常に小さいため、土や岩を魔力で繋ぎ合わせた土人形(ゴーレム)に運ばせるらしい。私の分も快く創ってくれたので、ありがたく荷物を持ってもらい、道案内も兼ねて魔力で先導することにした。


「こんにちはー、ミヅカネ商会でーす」


 一軒目は冒険者ギルドだ。つい先刻依頼を受注したばかりの私が戻ってきたのを見て、受付付近にいた麗しい兄妹がすぐに応答してくれる。


「アオイ様! 早速お仕事なのですね! さすがです、すっかり板についていらっしゃいます!」

「へへへ、まだ一軒目ですが……ありがとうございますフィオラさん、頑張ります」

「アオイ様、この後はどちらへ? 重いものは危ないでしょう、僭越ながらお供させていただきたく」

「お気遣いありがとうございます、フォルクさん。でもゴーレムがいるし、仕事ですから」


 明るいミルクティーベージュの髪にアクアマリンの瞳。揃いのそれが天使の如き美貌と合わさって、ここが天上かと錯覚するほど眩い二人だ。

 兄のフォルクさんと妹のフィオラさん。彼らはミネフ専属のギルド員で、普段はこの支部の二階に住んでいる。歓迎会以来見かけないと思っていたら、今朝まで外の依頼をこなしていたらしい。

 余談だが、特定の場所に定住できるギルド員はその町自体と契約している場合が多い。普通はあちこち冒険に行くギルド員が常駐を請われるということは、非常に優秀であることの裏返しでもある。


「あと、お二人とも……何度も言うようですが様付けの方は、その……」

「申し訳ございません、アオイ様。浄化師という立派な方への尊敬の念を込めております故」

「申し訳ございません、アオイ様! そちらは諦めていただくのが最善かと!」


 毎度の如くピッカピカの笑顔で封殺される。彼らは初対面の時からなぜか私の名前に様を付けるのだ。上司のアッドさん以外は大抵さん付けなのに。最初は明確に距離を置かれているのかと邪推してしまったが、態度は友好的かつ親切そのもの。そのギャップに上手く折り合いがつけられず、こうして食い下がってみたりする。

 ただこの兄妹、かなり押しが強い。自身の容姿を充分過ぎるほど理解していて、あらゆる物事を微笑み一発で解決しようとするのだ。それが効かない、あるいは慣れてしまった人間には、今度はよく回る舌と騎士然とした慇懃な姿勢で応戦する。さらにアッドさん曰く、最終段階は武力行使だそうだ。

 私はまだ第一段階目だというのに、既に抵抗の意志がなくなりつつあった。顔が良過ぎてつらい上、尚も訴えるとこの世の終わりみたいに悲しそうにされるので、内心ウッとなってしまうのである。


「……サイン、ください」

「はい、かしこまりました!」

「こちらは預からせていただきますね」

「お願いします……」


 結局今日も敗戦確定。けれどニコニコ楽しそうな二人を見ていると、それでも良いような気がしてしまうから不思議だ。

 フォルクさんにポーションの詰まった木箱を渡し終えるのを待って、フィオラさんがぴょこっと生えるように隣に現れた。サイン済みの配達票を差し出す彼女の宝石みたいな双眸がキラキラしている。何だかすごくワクワクしているようだ。首を傾げれば「時にアオイ様!」と身を乗り出される。


「先日見回りであなたの畑を拝見しまして!」

「え、そうだったんですか! ごめんなさい、気づかなかった……」

「いいえ、お留守でしたので! わたしも不躾に色々と見て回ってしまい、申し訳ございませんでした! それはそれとしてあちら、とても素晴らしいものですね! 種類の違う作物がたくさん育っていて、その全てがとっても生き生きとしていらっしゃる! 何か秘訣が?」

「あれは今、魔力で育ててる途中なんです。ユーンくんに土壌を用意してもらって、魔力を注いだ水をあげて。そうすると魔力を含んだものが出来上がるので、今度はまたその種を使って育てて……最終的にはもっと大きくて、可食部がたくさんあって、美味しいものになる予定です」


 水を向けられ、するすると返答が飛び出す。フィオラさんはインタビュー記者みたいに話を聞き出すのが巧みだ。言葉の端々で褒めてくれるし、興味深そうにウンウン頷いてくれるので、彼女と話していると自己肯定感が鰻登りになっていく気がする。


「なるほど……! アオイ様がいらしてからまだ一週間も経っていませんが、かなり成長が早いように見受けられました! やはり魔力ですと成長速度も増すということでしょうか?」

「はい、土と水だけでも倍かそれ以上は早くなります。種にも魔力が含まれていればさらに早いです。なので、元々成長の早いラディッシュなんかはそろそろ収穫できそうですね」

「……それは野菜だけでしょうか?」


 それまで黙っていたフォルクさんが、ポーションを仕分けていた手を止めた。窺うように問うた彼に首を振る。


「いいえ、植物なら花も果物も。それと──薬草も」

「……! ということはつまり、その薬草で作ったポーションは──」

「はい、お察しの通りです。必要な材料が減るのは確定でしょうけど、さらに回復量が増えたらいいなって。とにかく現状のものよりかは何かしらの効果があるはずなので、一昨日から薬草も育て始めました。モンテスさん達にも相談しようと思ってます」

「──アオイ様!」

「わあ!」


 骨ばった大きな手がガシッと私のそれを掴む。固いタコの感触に、実力に裏打ちされた彼の努力を思った。

 フォルクさんは熱っぽく、相手が相手なら勘違いしそうなほど、一片の曇りもない眼差しでこちらを射抜く。


「貴女の気高き献身にどうして黙っていられましょうか! 実験の際は是非私をお使いください! ありとあらゆるところに傷を負って参ります故、是非に!」

「あっ、ずるい兄さん! アオイ様、わたしも! わたしもたくさん怪我してきますので是非!」

「いいですいいです、わざと怪我しないでェ!」


 ぐいぐい寄せられる芸術品のような貌に悲鳴を上げる。協力はありがたいが無理はしてほしくない。万が一治せなかった場合、罪悪感で私が死ぬからである。

 それでもやっぱりこの二人には押し負けるんだろうなあ。最早決まりきった未来に、私は乾いた笑いを浮かべることしかできなかった。

閲覧ありがとうございます!

少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

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