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転生するまで

 学校から帰ってきたあとテレビで流れていた映画とかアニメの主人公は魔法で敵をやっつけていた。敵を倒したあとは周りの人に褒められたり感謝されたり、ヒロインの可愛い女の子にキスされたりしていた。日の終わりのベッドの中で自分も大人になればそんなときが訪れるんじゃないかと瞼の裏で想像したりしていた。


 そんな俺が転生したのは28歳のころだった。褒められもしなければ愛する人もいない、しがない会社員として消化されるだけの毎日。その日もいつもと変わらない家路だった。時刻は18時半をまわっており夕焼けに照らされた雲が恐ろしい爆炎みたいに見えた。ふと気が付くと、いつのまにか道には自分しかいなくなっていた。目の前の横断歩道、赤く光っている信号機、夏の終わりの乾いた風。

 目が合った。その黒いワンピースを着た5、6歳の小さな女の子は俺を見つめて横断歩道の真ん中に立って俺の目を真っ直ぐ見ていた。一瞬時が止まったように感じた。そこだけ自分の人生ではないみたいに『いつもと変わらない家路』ではなかった。

 獣の絶叫のようなクラクションで忘れていた当たり前のことにハッとした。少女の立っている場所は今は信号によって禁止されているところなのだ。考える前に地面を蹴っていた。同時に視線をクラクションの主に向ける。貨物運送用のトラックだった。想像以上に車との距離が近いのか、普段見るトラックの何倍も大きく感じた。


 もはや記憶が曖昧だが、精いっぱい手を伸ばして女の子を突飛ばせた気がした。思い出せるのはその後の爆弾が爆発したような音。また、自分の首あたりから骨の砕けるような音とミチミチと肉が引き裂かれるような音がした。自分が死んだというような考えは浮かばなかった。何ひとつとして意味のあるようなことは浮かばなかった。考えることなど出来はしなかった。


 今まで生きてきて何度か夢を見たことがある。空を飛んだり、どこまでも果てしない道を走り抜けたり、自分が特殊な力を使えるようになって漫画やアニメに出てくるような敵と戦ったり、誰とも言えない女の人と寝たり。夢の中では自分はその与えられた役ーー空飛ぶ旅人、ランナー、魔法使い、男ーーになりきって現実で自分が誰だったのかなんて忘れて没頭する。目が覚めたとき、忘れていた自分をすぐに取り戻せるのは目の前の景色がいつも見慣れたものだからだと思う。覚えのない場所で、さらに覚えのない身体で目覚めた俺は瞼の重さや胸あたりの不快さ、そして床に貼り付いて動けない自身の鉛のような重さをまず始めに感じた。


 ヒュっと空気が唐突に口から喉に吹き込んだ。乾いた口内に矢を放たれたような鋭さだった。喉も酷く乾いていて、痰が固まっているかのような異物感もある。まるで初めての呼吸のように身体はその酸素の補給に慣れていないようだった。咳き込もうにもその力さえ無いような疲弊を感じる。瞼を開けようと何度か試みるも僅かに光が差し込む程度しか開かないし、目ヤニが糊のように上下の瞼をくっつけていた。


不快

〜〜それでも時間が経つと目が開いて起き上がることが出来た話

 

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