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第7章 暗雲

 目を開けると、見慣れない白い天井が広がっている。体を起こすと、被っていた薄い布団がはらりと滑る。ベッドからすぐそばの窓へ視線を移すと、夜明け前の薄明りの下、だだっ広いプリーマの林が水平線まで続くのが見える。

 プリーマの林、機嫌の悪い竜、その竜による祝福、突然の激高、向かい来る巨大な火球―――。あの夜のことがありありと蘇る。あれから、なにがどうなったんだ?

 ぼんやりと辺りを見回す。寝ていたベッド、枕もとの小さなテーブル、その上に置かれた花瓶に生けられた青い花、空とプリーマの林しか見えない窓、ドア。それらが、この部屋の全てだ。あとは、ただただ白い空間が広がる。

 とうてい天国や地獄といった死後の世界には見えない。どこかの病室のようだし、まだこの世界に生きているみたい。助かったようだけど、あの状況からどうやったら助かるんだろう?

 がチャリ、とドアノブが回り、誰かが入って来る。少し身構えるが、ティシと看護師らしい女性のエルフだった。ティシの目が私に向けられると、彼女の顔がパッと弾ける。

「レト!」

 手に持っていた一輪の花をぽとりと落とし、私の元に駆け寄り強く抱きしめる。

「レト!レト!」

 今までで、最も強い力で抱きしめられる。それだけ、彼女の思いの強さを感じる。

「よかった、ほんとうによかった。あなたが目覚めないかもしれないと思うと、気が気で・・。」

 涙と鼻水でぐしゃぐしゃな声で、ささやくティシ。私を抱く腕、擦りつけられる頭、体全体を通して、彼女の心配と安堵が伝わる。どれだけ不安にさせてしまったんだろうか。罪悪感でいっぱいになる。

「ごめんね、ティシ。ごめんね。」

 ティシを抱きしめ、一緒においおい泣く。緊張の糸が切れ、罪悪感と共に恐怖と安堵があふれ出る。よかった、私、助かったんだ。彼女と私の体温や液が混ざりあう。ティシと私は涙に溶かされ、一つになっていた。


 ひとしきり泣いた後、私たちはすっきりした笑顔で笑いあった。看護師らしいエルフは、私たちが泣いている間に、そっと去ってくれた。

「このまま、離れたくないわ。」

 ベッドボードに背を付け座り、お腹の辺りに預ける私の頭をなでながら、ティシがつぶやく。

「それだと、トイレはどうするの?」

 悪戯っぽくティシに問いかけると、彼女はふふっと笑い、

「そうね、レトのためなら下のお世話もしてあげるわよ。」

 真剣な目で言われた。どうしよう、これは実質プロポーズなのかな?初めての経験で慌てる。

ティシと結婚?そもそも、この世界では同性同士で結婚できるんだろうか?でも、彼女となら、幸せそうな生活が想像できる。

 朝は一緒のベッドで起きて、まだ眠くてゴロゴロしている私を尻目に、彼女は朝食をつくるだろう。その匂いにつられて、ベッドから出て一緒に朝ご飯を食べる。午前中は本を読んだり散歩をしたりして、お昼は私の担当。午後はお出かけしたりショッピングしたり。晩御飯は一緒に作って、ちょっと良いワインを開けたりする。夜はこんな風に、べったりくっついてそのまま寝てしまおう。

「レト、大丈夫?」

「あ、大丈夫、大丈夫!それで、ティシは何人子供欲しいんだっけ?」

 慌てて返した私に、ティシがきょとんとした顔でこちらを見る。しまった、完全に妄想の続きで会話していた。

「えっと、その、ティシと結婚したらどうなるのかなって想像してて、その続きで会話してて・・・。」

しどろもどろに説明する。恥ずかしくて顔から火が出そうだ。

「うふふ、なるほどね。レトらしいわね。」

 コロコロと笑うティシ。

「もー!ティシが紛らわしいこと言うからだよ!他の人に勘違いさせても困るし、気をつけてよ!」

 そっぽを向いて、頬を膨らませる。

「ふふ。でも、本当にそういう意味だったら、レトはどうするの?」

 覗き込まれ、ティシの整った顔が眼前いっぱいに広がる。長いまつげ、整った目鼻立ち、美しい楕円を描く頬から顎にかけるライン、わずかに微笑む薄桃色の唇。石膏像のように整然としていながらも、生命力を感じさせる。薄緑がかったヘーゼルの瞳と見つめあっていると頬が紅潮してくるのを感じて、つい目を逸らしてしまう。と、彼女の胸の前で揺れるペンダントに目が留まる。

「あら、そういえば、このペンダントの話はしてなかったわね。」

 私の視線に気づいたのか、ティシが語り始める。

「私がこの学校に来たのはね、私が幼いころの、ヌスターヴァ森林での探検がはじまりなの。一度散歩に行って見かけたとある光が忘れられなくって、親の目を盗んでは探しに行ったわ。」

「ヌスターヴァ森林?私もその付近の村出身だよ。」

「ほんと?実は近くの村だったのかもしれないわね。」

「今度地図で確認してみよ。」

「そうね。続けるわね?」

 どうぞ、と頷く。

「私がもっと幼いころに、近所の子たちと一緒に探検に行ったの。その時に偶然出会ったぼんやりと光る石がどうしても忘れられなかった。森林の洞窟、奥深くにあったんだけど、洞窟の入り口からも、その光が見えたの。不思議な光だったわ。気味が悪いようだけど、どこか引き付けるものがあって。それから私は、もう一度見たくて仕方なくなってしまったの。」

 何か危ないアイテムみたいに聞こえる。ファンタジーとかにあるような、人を惹きつけるヤバい存在。

「親が出かけるたびにヌスターヴァ森林へ足を運んだわ。最初の方は怖くてすぐに引き返していたんだけど、次第に慣れてきてどんどん奥に行くようになった。」

 私が体を動かせるようになる前のレトも、同じような経緯だったのだろうか。

「そんなある日のことだった。曇りで薄暗い日だったわ。その日の森林の様子はいつもと違って、初めて聞く鳥のような声が響き渡り、見たことない小型モンスターたちが足元に蠢いてた。不気味な雰囲気に、私はドキドキしながら散策した。突然、何かが私のことを呼んでいるような感覚がしたの。その頭の中に響く何かの声に従って、ぼーっと歩いていると、気が付くと遠くに、暗闇の中で仄かに輝く黄黒い明かりが見えた。」

 ぼーっとした目でティシが語る。当時のことを思い出しているのだろうか。おとぎ話のようで、少し不気味だ。

「そのまま声に従って、黄黒い明かりに向かって歩いて行った。光は、岩の先端から発されてた。尖った岩の先は黄黒い水晶のように変質していて、そこから光が生じていたの。私は岩の前に立って、ぼーっとその光を見つめてた。不思議な光だった。そこから目が動かせなかった。見つめているうちに、どんどん視界が朦朧としてきて、気が付いたら私はエルフの腕の中にいた。倒れていたらしいところを助けてもらったの。目が覚めると、妖しい光を発していた岩の先端からはもう何も発されていなかった。黄色の水晶みたいに変質していたけど、それ以上のものはなかった。」

 いつの間にかティシの目には光が宿り、遠くを見ている。

「私は光らなくなった岩の先端を折って持ち帰った。そして、その一部を使って、このペンダントを作ってもらったの。レトにあげたものも、同じ職人さんに頼んで、残っていた部分を使って作ってもらったものなの。そして、私は助けてもらったエルフの紹介で、この学校に招待されたということ。」

語り終えたティシが、ふぅ、と一息つく。他の人の話を聞くのは初めてで、新鮮だった。私にくれたペンダントにも、そんな経緯があったとは。それにしても、話の最後の辺り、何か既視感があるような?

「ねえ、そのエルフってもしかして、サティエ?」

「うん?よく分かったわね。今年から学校に来たサティエ先生よ。レト、知り合いだったの?」

 ヌスターヴァ森林をずっと調査していたサティエ。ティシが学園に来る前から行っていたとすると、少なくとも3年以上あの辺りにいたのか。それほどまでに、ヌスターヴァ森林には危険が潜んでいるのだろうか。何か引っかかるものを覚える。

「えっとね、私もサティエに助けてもらったの。私の場合はね―――。」

 体を動かせなかった頃のレトの行動を話す。

「ふふ、レトらしいわね。それにしても、サティエ先生がずっとヌスターヴァ森林にいて、私達二人共を招待したというのはなんだか気になる話ね。」

 ティシも同じところがひっかかるようで、首をかしげている。このエルフの学園、少しずつ、おかしな歯車の嚙み合わせを感じる。二人して、うーんと悩んでいると、部屋のドアがまた開く。

「目が覚めたようだな!息災のようでなによりだぞレ、ト?」

「もー、ダリーはすぐに突っ込んでいくんだから、少しくらいは弁えることを覚えなよ。って、およ?」

 私たちを見て固まるダリーとアルジェ。ティシが頬に手を当て、あらら、と呟く。どうしたんだろう。って、今私の頭はティシのお腹の上で・・・?

 恥ずかしくて耳が真っ赤になる。頭を抱かれてヨシヨシされる同級生。そりゃそんな反応になるよね・・・。

「ちょっと、お邪魔しちゃったかな~。もうしばらくしてからくるので、ごゆっくり~。」

 ドギマギしているダリーをひっぱり、ニコニコと笑いながらアルジェが去っていった。なぜだか嬉しそうなティシ。私の頭をなでながら、

「じゃ、もうちょっとゆっくりする?」

「さすがに恥ずかしくなってきたし・・・。」

 もごもごしながら体を起こす。残念そうなティシをよそ目にベッドから出る。うー、恥ずかしかった。

窓際に立って外を見ると、すっかり日は昇っていた。燦燦と降り注ぐ陽光を浴び、プリーマの林は鮮やかな若葉色に輝いている。

 それから二人が戻ってくるまでに、ティシから何があったのか聞いた。彼女が知っていたのは、私たちが山に冒険に行ったことと、なんらかの理由で私とピナが気を失っていたことくらいだった。ピナは私より先に目が覚めていたが、体調がすぐれず、まだこの病院にお世話になっているらしい。

 何かが起こってピナと私は気を失い、ドラゴンは去った。アルジェが気を失った私達の安全を確保している間にダリーが監視小屋まで走り、小屋にいた人々の手を借りて、私たちをこの病院まで運んでくれたらしい。

 しばらくすると、アルジェとダリーが部屋に戻ってきた。

「もう入っても大丈夫かな?」

アルジェがドアから顔をひょっこり出す。

「いつでも大丈夫だけど!?」

 狼狽する私に、ティシがころころと笑う。アルジェとダリーが部屋に入って来る。

「体調はどうだ?どこか痛むところはないか?」

 改めて自分の体の様子を確認する。特に何も違和感はない。

「うん、どこも変わらないよ。」

 私の返答に、皆が安堵する。アルジェやダリーにも心配をかけてしまったな。

「ごめんね、心配させて。」

「いやいや、無事で何よりだよ、レト。」

 そう言ってくれるアルジェの笑顔に、救われる。

「ところで、二人はどうやって私たちが助かったのか、知ってるの?」

 私の質問に、アルジェとダリーが微妙な表情をする。しばしの沈黙。二人は目で何か合図したのち、

「それについては、吾輩たちもさっぱりなのだ!気がつくと竜は消え、横たわる貴公とピノ嬢があったのだ。さっぱりの謎である。」

「そうそう、不思議だよね~。まあ、とりあえずレトも目覚めて元気みたいだし、ピナもそろそろ体調回復したみたいだから、今夜はボクの家で「無事でよかったパーティ」やろうよ!」

「あら、いいわね。私も参加しても?」

「もちろんです!ティシさん、レトの話で度々聞いてたのに、落ち着いて話す機会なかったので。一度お話してみたかったんです。」

 キラキラした目でアルジェが言う。

「あらあら、どんな話をされてるんだか。」

 困ったように笑うティシ。何を話したか覚えていないが、変な話はしてないはず。

 その後、ティシは「久しぶりに大人数に振る舞うんだから!」と意気揚々と食事の準備に、先に帰った。アルジェとダリーは私に部屋番号を伝え、ピナを迎えに行った。私はエルフの看護師さんに連れられ、精密検査を受けた。

 よく分からない板の上で裸で横になったり、密室に一人怪しげな半球を頭に被って待たされたりと、初めて受けるこの世界の医療にワクワクした。すべての検査が終わると看護師さんは、結果は明日にでも出るから受け取りに来るよう告げた。

 ひとまずは異常なし、とお墨付きをもらい、病院の外に出る。久しぶりに感じる外界の空気を胸いっぱいに吸い込む。清々しい気分だ。日はすっかり昇りきり、傾き始めている。そろそろ、パーティ会場に向かわなくっちゃ。

 アルジェの部屋につくと、すでに準備は整っていた。大きな部屋だが、今はその一隅にアルジェの荷物がぽつんと寂しげにおいてあるだけで、寂しげだ。確か、4人部屋のはずが、今は一人しかいないんだっけ。私にはティシがいてくれてよかった。

 今日はパーティだということで、部屋の真ん中に大きな丸机が置かれ、その上に大皿に綺麗に盛り付けられた料理が、所狭しと並んでいる。ティシとアルジェによる合作だ。どれも美味しそうで、見ているだけで涎が垂れそうになる。丸机を囲んで、ティシ、ピナ、アルジェ、ダリーの四人が座っている。

「おまたせ。」

 ピナの隣の空いているところに座る。こちらを向くピナ。私の顔を見た瞬間、びくっと後ずさりしてアルジェの後ろに隠れる。

 え?想像していなかったリアクション。私、何かしたっけ?

「もー、レトはすっかり元通りだから大丈夫だって言ったでしょ。ほらほら、よく自分の目で確かめてみて。」

 アルジェに体を押され、ピナが怯えた顔でこちらを見る。食べないでと懇願する、ウサギのような目だ。彼女にそんな顔されるなんて、ショック。

「レ、レトちゃん・・・?」

「うん、正真正銘レト・シッデスだよ。こんな美少女、そうそう見間違えることないでしょ?」

 ピナに怖がられることを内心びくつきながら、おどけて答える。

「その受け答えは・・レトちゃんっぽいかも・・・?」

 どんな判断基準なんだ。心の中で突っ込む。

 それにしても、状況が全く分からない。

「うーん、誰か説明してもらえる?」


 ピナが意識を失うまでの話を、私たち4人は息を凝らして聞いた。彼女の話が終わると、沈黙が場を支配する。ティシはもちろんのこと、アルジェやダリーも、気になる点がいくつかあるようだ。私自身も、何が起こったのかは知れたが、なんでそうなったのかが全く分からない。

 私がドラゴンの、しかもあの最初のブレスのみでなく、それ以上に強いブレスを消した?

 あの圧倒的だったドラゴンを畏怖させ、その存在を消滅させた?

 そして、私の頭が厳めしいタコの姿となった?

 情報量が多すぎて処理しきれない。冗談でもいっているのかと問い詰めたくなるが、話をするピナの顔は真剣だった。それになによりも、恐怖と困惑が入り混じった私への接し方を見れば、それが真実であることは疑いようがない。

「えーっと、これ、全部ホントの話よね?私の中では想像もつかないんだけど。」

 困り果てた表情でティシが尋ねる。

「はい・・・。私が見たものの全てです・・・。」

「うむ、朕らが見たものも同じである。呪文や件の目は分からんがな。」

 ダリーの「目」と言う単語に、ピナの全身がびくりと震える。

「それじゃ、なんで病院では全部話してくれなかったの?」

「それはね、ピナが倒れた後の話になるんだ。」

 アルジェがそう言いながらダリーの方を見ると、ダリーが頷き返す。

「ドラゴンが消えた時、ボクは何が起こったのか全く分からず、ただ座っていたんだ。あの恐ろしい姿をしたレトがピナに近づいていくのを見ても、膝がすっかり笑ってしまって動けなかった。レトがピナに近づいたと思ったら、突然ピナが倒れた。その後、レトも急にがくんと倒れて、辺りは完全に静かになった。それから少しの間茫然としていて、何もできなかった。やっと現実感を覚えたボクらは、レトとピナの様子を確かめた。二人とも気を失っているだけのようで、心臓がちゃんと動いていて、呼吸もしていることを確認した。そして、ボクがピナとレトの様子を見ている間に、ダリーが監視小屋に助けを呼びに行ったんだ。」

「うむ。小生が救援を呼びに行った小屋の壮年が、助けに向かう際に諫言くださったのだ。エルフには気をつけろ、とな。」

 エルフには気を付けろ?思わずティシの顔を見ると、目が合う。彼女との会話で覚えた違和感が蘇る。

「その壮年の話によると、このエルフの学園にいる生徒はたまに行方不明になるそうだ。事実は学園に深く関係するものしか知らず、決して外には漏れないようになっているそうだが。その壮年らのように、少しでも学園やエルフに関する不信感を持つものは、エルフの監視が行届いた場所で働かされるらしい。そのため、下手に人知を超えた存在や事象に遭遇なしたらば、それは黙っておいた方が身のためだと、諫言くださったのだ。」

「ボク達はそれに従って、ドラゴンが怒ってブレスを吐いてからは気を失った、と、知らぬ存ぜぬを貫き通したんだ。幸い、最初にピナが目覚めた時は、ボクらがお見舞いに行ってたタイミングだったから、エルフの看護師に接触する前にピナにも口止めしておいたのさ。」

 二人の話に納得するとともに、今まで降り積もった違和感の歯車が、噛み合い回り始めるのを感じる。まるで逃走を妨げるようなプリーマの林、人里から切り離された環境、学費や寮費が無料と言う整い過ぎている環境、そして、私とティシを推薦したヌスターヴァ森林にずっといたサティエ。その先にある目的は・・・?

 それが何かは分からないが、エルフが隠したいものが、陰に潜んでいるようだ。

「こ、この学園は・・エルフによる何らかの陰謀のために作られたってこと・・・?」

 ピナが震える声で、まさに私が考えていたことを口に出す。

「そうだ。そして、ここ以外では決して今のようなことは口に出すなよ、ピナ。実は、レトとティシの部屋から、盗聴器が見つかっている。」

「「え」」

 ダリーの思いがけない告白に、口から音が漏れる。ティシも初めて知ったようで、目を白黒させている。

「実は先日、アルジェとレトの私物を返しに訪問したであろう?その時に調べたのだ。」

「あの時にそんなことを。もしかして、私がお茶を淹れてる間に?」

「ガハハ、その通りだ。なお、この部屋は大丈夫なことを確認しておるので、安心してくれ。」

 ティシとダリーの会話が右から左へ流れていく。盗聴器?そんなものこの世界にあるのか。いや、音の精霊もいるし、作ろうと思えば作れそうだ。

 そんなことよりも、今まで想像でしかなかったエルフに対する疑念が、突然現実に顕現してきた恐怖。私たちは、何を信じて何を疑わなくてはならないのだろう?

 私に優しく魔法を教えてくれたサティエは、悪者なのだろうか?

 それに盗聴器?ティシとの今までの会話も全て誰かに聞かれていたの?背筋がつるような、ぞわぞわした感覚がする。

「さて、問題はここからなんだよね。ここまで知ってしまってボク達はどうしようか?何も知らなかったことにして、学園生活を謳歌する?それとも、より真実に近づこうと足掻いてみる?」

 そんなの、答えは決まっている。

「「「私は、真実を知りたい!」」」

 間髪入れずに宣言するが、ピナとティシも同時に口に出していた。ダリーがガハハと笑う。

「よぅし!ダリー調査団、一名隊員を加え再結成だ!」

「やれやれ、ボクは参加確定なんだね。」

 そう言うアルジェは肩をすくめていながらも、どこか嬉しそうだった。


「ところで・・レトちゃん・・。」

 すっかり元の様子に戻ったピナが、私を呼ぶ。

「どうしたの?」

「あの・・前に私が魔法かけちゃったときの感覚覚えてる・・・?」

「うん、あのオクタコのやつね。」

「そう・・・!その時の髪の毛がオクタコになってる感覚って・・再現できる・・・?」

「うーん、試してみたらできるかもだけど。なんで?」

「やってみてほしい・・・!」

 ピナに言われて、思い出してみる。頭の上にぶにぶにしたオクタコが乗り、自分の意志とは無関係に動く感覚。頭の上に神経を集中させる。

 話題に合わせて、時には嬉しそうにぶにぶにするオクタコ。奇妙な感じがしながらも、どこか心地よいあのぶにぶに。ぶにぶに、ぶにぶに、ぶにぶにぶにぶにぶにぶに・・・。

 オクタコを思い出し続けていると、次第に髪の毛がぬるり、と動くような感覚がした。

「・・・!!そのまま・・集中して・・続けて・・・!」

 ピナに促され、続ける。ぶにぶにぶにぬるぬるぶにぶにぬるぬるぶにぶにぶにぶに・・・。

 髪の毛が動くような感覚が、より明確になってくる。そして、次第に、髪の毛の根元がぶにぶにうごくような、あの懐かしい感覚が蘇ってきた。

「もう大丈夫だよ・・・!見て、レトちゃん・・・!」

 ピナに言われて、ふぅと気を緩めると、おでこにべちっとなにかを打ち付ける、懐かしい感覚がする。ピナの方を見ると、いつかの手鏡をこちらに向けており、そこに映る私の頭には、あの、オクタコが鎮座していた。

「オクタコ帰ってきたの!?」

「あらあら、これが前レトが言ってたオクタコね。頭がティコンになってるレトも可愛いわ。」

 ティシがこちらを見てうっとりした声で漏らす。

「大成功だね。」

「うむ、これで我が計画も始められるということよ、ガハハ!」

 なんだか怪しげな会話をする二人を我関せず、オクタコはぶにぶにと、頭の上で揺蕩っていた。

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