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第3章 相違

 気が付くと、俺はまた、体の主導権を失っていた。俺の体は、ヌヤ車を抜け出し両親のいる村へ疾走している。俺の不在に気付いた馭者が、慌てて追いかけてくる。なんとか逃げようと走るが、どんどんヌヤ車との距離は縮まる。

 もう捕まる―――その瞬間、脳内に響く誰かの、聞きなれた声。

「おねがい、どうかにげて・・・。」


 ハッと気が付くと、目の前の視界が上下に揺れている。地震か?揺れる視界と体に気持ち悪くなり、吐き気がする。この気持ち悪さ、そうだ、私はヌヤ車に乗っているんだった。

 サティエが発った6ヵ月月後、私はエルフの学校に通うため、村を出た。エルフの学校は村からかなり離れており、ヌヤ車(ヌヤは馬のような生き物で、ヌヤ車はヌヤに引かれた馬車みたいなもの)での、8時間の長旅が始まったのだ。ちなみに、3か月程この体で暮らしていると、いつのまにか一人称は俺から私に変わっていた。口では私としか言わないから、移るもんなんだな。

 ヌヤ車の旅は、最初は楽しかった。6本脚のヌヤが、その全ての足をたがえずに滑走するのは見ていて面白いし、移り行く景色も新鮮で飽きなかった。

 しかし、砂漠地帯に入ってからは最悪だった。全く変わらない景色に猛暑、そして柔らかかったり硬かったりする砂のためにひどく揺れる車内。直ぐに車酔いになった。気持ち悪くなり目を閉じているうちに、寝てしまっていたようだ。

「おう、嬢ちゃん起きたか?気分はどうだ?」

 心配そうな顔で、馭者さんがこちらを振り向く。砂漠地帯に入ってからは、黙りっぱなしだったもんな。大丈夫、と返したいが、吐き気と頭痛がひどい。うぅ。車酔い久々だけど、やっぱりしんどいな。

「あんまり無理するなよ。ひどかったら休憩とるから、言うんだぞ。」

「ありがとうございます。」

「もうあと1時間もしないはずだ。頑張れ。」

 頭痛が少しマシになったと思ったら、腹痛もひどくなってきた。なんか変なもの食べたっけ。ひどい病気とか?そういえば、昨日トイレ行ったら水みたいなのが出た気がする。ついてないな。

 それからヌヤ車に揺られている間中、交互にやってくる頭痛と腹痛、吐き気に苦しめられた。これは、早めにお医者にかかったほうがいいかもしれない。

「ほら、もうすぐそこだ。校舎も見えてきたぞ。頑張れ、嬢ちゃん。」

 馭者さんが振り返って励ましてくれる。優しさが身に染みる。ちらりと前方を見ると、巨大な建物が見えた。その荘厳さにしばしの間、苦痛も忘れて息を飲む。

 一番目に付くのは、大きな針時計のついた時計台だ。時計台の下には、小さな細い塔がいくつもついた、刺々しい城のような横に広い建物が見える。あれが校舎だろうか?かっこいい。

「お、ちょっとは元気になったみたいじゃねぇか。ここの校舎はすげぇよな、俺もこんな学校に通ってみたかったぜ。」

 馭者さんがしみじみと言う。彼も耳が尖っているしエルフなのだから、あの学校の関係者なのかと思っていたけど、そうでもないみたいだ。エルフの中でも色々あるのかな。

「うっ。」

 また、ずしんと吐き気と腹痛の波が来る。気持ち悪い、なんなんだこれ。

「大丈夫か!?直で宿舎の方に向かうからな、もうほんの少しだ。」

 うぅ、しょっぱなからついてないなぁ。


 ヌヤ車の動きが止まる。窓から外をみると、白い豪奢なホテルのような建物が見える。これが寮?ゴージャスすぎて貴族になった気分だ。荷物を背負い、ヌヤ車を降りる。

「暖かくして安静にしてな。長旅お疲れ様。」

「うぅ、なにからなにまで、ありがとうございます。」

「体調悪いときは仕方ないさい。じゃあ、元気でな。」

 そう言うと、馭者さんは去っていった。良い人だったなぁ。

 不調を訴える体を何とか動かし、荷物を寮に運び込む。えっと、私の部屋は207号室か。階段を上り、受付でもらった鍵で部屋に入る。確か相部屋だったはず。

 キッチン、風呂場を通り過ぎ、奥の広い部屋に入る。部屋は真ん中でカーテンによって仕切られている。片方には生活感があるのに対し、もう片方はベッドや机といった備え付けらしい家具のみが置いてある。なるほど、こっちが私のスペースか。相部屋のティシさんは、今はいないみたいだ。荷物を下ろし、トイレに向かう。

 トイレに入り、便器に倒れこむように突っ伏す。洋式で助かった。吐けるなら吐いて楽になりたい。嗚咽がこみ上げるが、実際に吐くまでには至らない。また頭痛がやって来る。ノロウイルスとかだろうか?この世界にもウイルスいるのか?

 便器から体を起こし、壁にもたれかかる。壁紙の繰り返されているピンク色の花が可愛い。しかし、そこに気持ちが行く前に、体の不快さが訴えかけてくる。ほんとに、散々な初日だ。


 頭の後ろに、柔らかい感触。目を開けると、そこには私を心配そうに見つめる女性がいた。綺麗に切りそろえられた前髪に、整った目鼻立ち。絹のようにきめ細かな白い肌に位置する、艶やかな唇にドキッとする。

「レトちゃん?」

 その唇から、転がるような軽やかな声が発される。あ、今、私の名前言ったのか。その美貌から現実とは思えず、頭がフリーズしていた。

「は、はい?」

「よかった、気が付いたのね。私はティシ・ヴム。あなたのルームメイトよ。よろしくね。」

声と見た目が相まって、聖女と話しているかのような気分だ。この子がルームメイト?人生始まって来たな!

「あ、私は、レト・シッデスです。よろしくお願いします。」

 体を起こし、ペコリと頭を下げる。ちらりと後ろを見ると、正座したティシの太ももが見える。ティシの膝の上で眠っていたのか。って、こんな美女の膝枕を味わってたのか!?しまった、もうちょっと堪能すればよかった。

「よろしくね。それで、レトちゃんはなんでトイレで倒れていたの?」

 いけないいけない、邪念を振り払う。

「ヌヤ車で酔ってしまって。そこからお腹が痛いのと頭痛いのとで、トイレにいて。しんどくて壁にもたれてたら、寝ちゃってたみたいです。」

 私の話を聞き、ティシが親指を顎にあてて考える。首から下げた黄色いペンダントがきらりと輝く。あれ、もしかしてこれって、何かヤバい病気の症状だったりするのか?

「えっと、今はだいぶマシになったから、全然大丈夫ですよ。」

「レトちゃん、昨日はトイレに行った?」

「うん、いったけど、なんで?」

「そこで、血が出たり、茶色いおしっこみたいなの出たりしなかった?」

 なんでいきなりトイレの話になったんだろう。昨日のトイレ事情を思い出す。

「うーん、水みたいなのが出たけど、しっかり見てなかったです。」

「なるほどね。ちょっと、驚かないで聞いてほしいんだけど。」

 なんだろう、怖いな。流行り病とかだろうか。治るやつだったらいいな。

「レトちゃんの体はね、今、大人になろうとしてるの。これからは、月1回くらい、今日みたいなのが来るかもしれないけど、それが女性の体だから、安心してね。」

 え、これってもしかして。

 ティシが真剣なまなざしで、私の目をのぞき込む。

「聞いたことあるかもしれないけど、生理って呼ばれるものよ。私にもくるし、皆通る道だから大丈夫。」

 生理・・・?

 そっか、確かにこれくらいの年頃か。言われてみたらそらそうだ。でも、自分の身に起きるなんて、想像もしていなかった。これからこんな苦痛が毎月くるのか。

 驚きで言葉が出ず、目をパチクリさせていると、ティシの胸元に抱き寄せられる。豊満なバストと、その温かさに包まれる。

「体が変わっていくの、怖いよね。私もとても怖かった。」

 ふにょふにょして心地よい。すごい、これはこれで言葉を失う。

「知り合いもいないし、不安だよね。ここでは私をお姉ちゃんだと思って、暮らしてね。なんでも相談に乗るからね。」

 柔らかなバストを通して、彼女の温もりと生命を感じる。

 彼女に抱かれている間は、羊水に浸っているような穏やかな安心感に包まれていた。


 ティシが持ってきてくれた温かいカモミールティーを飲み、毛布をかぶっていると苦痛は少しマシになった。頼りになるお姉ちゃんだ。そう告げると、彼女は嬉しそうに笑った。

「それにしても、ティシさんって、社交性あるんですね。距離が近くて、ちょっとびっくりしちゃいました。」

 トイレから出て、晩ご飯の準備を始める。普段は二人で準備をすることになっていたが、今日は初日で私の体調も良くないことから、ティシが座って待っているように言ってくれた。

「そんなことないよ。私も、けっこう人見知りだもん。」

 そう言いながら、ティシは冷蔵庫からタッパーを取り出し、液に浸された魚の切り身を取り出す。油を引いたフライパンに切り身を投入すると、香ばしい音と薫りが沸き立つ。

「実はトイレに行ってレトちゃんをみつけてから、しばらく眺めてたのよ。膝の上でスヤスヤ眠るレトちゃんを見てたら、勝手に親近感がわいちゃってね。」

 そうだったのか。寝顔を見られてたなんて、少し照れる。

 フライパンに手際よく、調味料が加えられていく。

「その時に、下着の血を見つけて、もしかしてって思ったの。」

「なるほど。」

 フライパンを持ち上げ、器用に振る。魚の切り身が宙に浮き、半回転して着地する。料理人みたいだ。ブラボー!と拍手を送りたくなる。

「それと、もっと砕けた口調で大丈夫よ。私のことも、呼び捨てでおっけー。」

 火を止め、皿に野菜を盛り付け始める。

「はーい。改めて、よろしくね。ティシ。」

 丁度温めていたナパ(柔らかいパンのようなもの)も焼き上がり、食欲をそそる薫りが鼻腔をくすぐる。ぐ~と私のお腹がなる。ほんとに欲望に忠実なお腹だ。

「こちらこそ、これからよろしくね。レト。ふふっ、そろそろご飯にしましょうか。」

 こちらを見てチャーミングに笑うティシ。料理をしていた時の手際の良さとは不釣り合いな、少女のようなティシの笑顔にキュンとした。


 私の初経は、4日間続いた。ティシの話によると、人によって個人差があるらしいが、私はしんどい方の体らしい。期間中は降りかかる苦痛とどうしようもなく落ち込む気分で、最悪だった。女性の体に憧れがあったけど、こんなにしんどいなんて思いもしなかったな。それに、痛くなくても血がぼたぼたと落ちてくるのは奇妙な感覚だ。今、もし生まれ変わって性別が選べるとしたら、めちゃくちゃ悩んでしまいそう。

 そして、ようやく体の調子が戻り、出血もなくなった夜。

「レトちゃん。もう体の調子は大丈夫?」

 食後にのんびりとお茶を飲みながら本を読んでいると、ティシに声をかけられた。

「うん、もう終わったみたい。色々とありがとうね。」

 彼女は私の体を気にして食事を工夫してくれたり、体を冷やさないよう手を尽くしてくれた。彼女がいなかったら、到底耐えられなかったかもしれない。感謝感激雨嵐。

「そっか、ならよかった。」

 ティシの顔が安堵で和らぐ。

「それで、今日この後、空いてる?」

「うん。この本読んだらシャワー浴びて寝ようかなって思ってた。」

「じゃあ、一緒にお風呂入らない?」

 お風呂!?生理ですっかり気分が落ちていたけど、そうだ。私は合法的に女湯に入れるんだ!

「えっと、お邪魔じゃなければぜひぜひ。」

 私の返事に、嬉しそうに笑うティシ。うぅ、ちょっと罪悪感。


 お風呂の準備を持ち、部屋を出る。この寮の屋上には大浴場があり、普段はそこに入っているらしい。生理中で湯舟に入るのが憚られる私に気を遣って、ティシもここ数日は部屋のシャワーを使っていた。そのため、私は大浴場の存在を知らなかったのである。

「露天風呂もあるのよ。周りに何もない学校だけど、高いところから眺めるプリーマの林はなかなか壮観よ。」

 プリーマは木の種類で、この学校はプリーマの人工林に囲まれているらしい。ヌヤ車に乗っている時は外を見る余裕なんてなくて、気づかなかった。

「へ~、それは楽しみ。」

 自然と階段を上る足が早まる。久しぶりの足を延ばせるお風呂、楽しみだ。


 ごくり。

 唾を飲み込み、覚悟を決める。

「どうしたの?入らないの?」

 ティシが不思議そうな声で問う。

 目の前には、白い長方形の扉と赤い暖簾。そしてその先に広がるのは、花園こと脱衣所。

いざ前にすると、入ってしまっていいのかという自問自答と、自分の裸を不特定多数に晒さなくてはならないことへの、軽い恐怖と羞恥。

「えっと、こういう所来るの初めてだから緊張しちゃって。」

 ティシが納得した顔をする。ごまかせたみたいだ。よかった。

「すぐ慣れるわよ。恥ずかしかったらタオル巻いて入ったらいいし。」

 背中を押される。よし、覚悟を決めてドアを開く。靴箱と、さらに引き戸。靴を脱ぎ引き戸を開けると、扇風機の涼しい風が体にあたる。

 全裸で戯れる少女たち。髪を触りあったり、胸の大きさを比べてキャッキャとしている子もいれば、それを横目で見てグヌヌと唸る子もいる。

そんなラノベみたいな風景は、なかった。

各々がすごすごと服を脱ぎ、恥じらいの顔もなく浴場へ向かう。鏡の前では、髪にヘアオイルのようなものをつけていたり、顔にパックをしたまま本を読んでいたり。全裸で扇風機の前に立ち、涼んでいる人もいる。なんだ、男湯とそんなに変わらないじゃないか。少し残念に思いながら、篭に荷物を置き、服を脱ぐ。

「しまったな、石鹸忘れちゃった。レト、持ってきた?」

「うん、ある、よ?」

 振り返った私の目前には、服を脱ぎ下着姿になったティシがいた。私より一回り高い身長に、私より二回りも三回りも大きな胸。ブラを外すと同時に、それは重力に従い美しい双曲線を描き、タプンとわずかに垂れる。

「レト、じろじろ見すぎ。」

 慌てて視線を上げると、ティシのジト目と目が合う。

「ご、ごめん!こんな大きい人初めて見たから。」

「はぁ。そうよね、もっと小さかったらよかったのに。」

 腕で胸を隠し、つぶすように押さえつけるティシ。その表情は暗くうつむいている。

「そんなことないよ!私はとっても魅力的だと思うし、憧れるよ。」

「ほんと?でも、男性からは背筋がゾクゾクする視線を向けられたり、胸ばかり見て会話されたり嫌なことばっかりよ。」

 そうだったのか。確かにじろじろ見られたら不快だったのかもしれない。でも、それをコンプレックスにしてほしくない。彼女は、とても魅力的なんだから。

 ティシの手を取る。こちらを向いた、彼女のヘーゼルの瞳をのぞき込む。

「それでも、私はティシのこと素敵だと思う。そんな輩がいるのは嫌だけど、絶対恥じることではないよ!」

 ギュッと強く手を握る。大きく見開かれた彼女の目は、私の目と握った手の間を行き来する。

「とっても素敵だと思うよ。だから、嫌な人なんて気にせずに、胸張っていこうよ!」

 自分の体は選べない。この体に転生して、体によってどれだけ生活が変わるのかがよく分かった。だからこそ、ティシもその体に生まれたことを絶望するよりも、前を向いて生きてほしい。

 真剣な目で見つめ合う。と、突然ティシが笑いだした。

「ふふふっ、なんだかプロポーズ受けてるみたい。」

 確かに。そう言われると恥ずかしくなって、目を逸らしてしまう。

「でも、ちょっと前向きになれたよ。ありがと、レト。」

 はにかむティシに、ほっとする。元々は私がジロジロ見すぎたことが原因だし。これからは気をつけなきゃ。

タオルと石鹸類をもち、浴場へ向かう。


 「いい湯だな~」

 足を延ばし、全身で露天風呂を堪能する。温まる体と、ピリピリするような心地よい感覚。やっぱり大きなお風呂は良い。

「ちょうどいい湯加減ね。とける~。」

 隣でティシも、私と同じようにくつろぎきっていた。ぷかぷかと浮かんでいるふたつの膨らみが気になるが、目を向けないように努力する。気になっちゃうのは仕方ないよね・・・。

 自分の裸を見られる羞恥心は、お風呂に入ってしまえば気にならなくなった。皆裸だし、男湯と違って誰もタオルで隠したりしない。むしろ、女湯の方がオープンな気さえする。不思議な違いだ。

体が火照ってきたのを感じ、立ち上がる。外の空気は冷たく、そよ風が気持ちいい。眼前には、暗闇の中で圧倒的な存在感を放ちながら佇む校舎。そして、荘厳な校舎から放射状にぽつぽつと広がる街並みと、その隙間を埋めるように生えそろうプリーマの林。視線を遠くへ移すと、星の光を受けかすかに青白く光る林の先に、地平線が見える。

「ほんとに、校舎の周りはプリーマの木ばっかりなんだね。」

 こんなに同じ木ばかり生えているのは、少し不気味だ。

「そうね。プリーマは人の心を落ち着ける働きがあって、むしゃくしゃするときとかは散歩するのもいいわよ。」

 ティシがパシャリとお湯を掬う音が聞こえる。

「ほかに何か理由はあるのかな。なんかこんなに同じ木ばっかりなの、不気味。」

 ジャブン、と湯船から立ち上がり、こちらに歩いて来る音がする。ティシが私の隣に立つ。

「そういえば、こんな話を聞いたことがあるわね。昔、全部嫌になった生徒が、寮から抜け出して走って実家に帰ろうとしたの。でも、その生徒は翌日には保護されたらしい。それからのその生徒は、今までとは打って変わってとても落ち着いた生徒になったらしい。」

 ティシが手を前に掲げ、指をピロピロと動かす。可愛いけど、何その動き?

「プリーマの林の中で一晩過ごしたせいで、感情を失ったらしいのよ。あの木々は、生徒の脱走を妨げるために植えてるらしいってね。」

 ひぇっ、急に怪談になった。それ、怖がらせるための指だったのか。むしろ可愛くて怖さ半減だけど、だまっとこう。

「それ、実話なら、こんなあぶないところ早く逃げた方がいいんじゃない?」

「あくまで噂話よ。この学校を卒業した著名人も多いし、そんな危ない学校じゃないわよ。怖かった?」

 いたずらな目で、こちらを見るティシ。全く怖くなかったが、ここはノッておくか。

「うん、今日一人で寝れるかな・・・。」

腕で体を抱き、かすかに震わせる。ちらりとティシの様子を見ると、嬉しそうにうなずいている。満足そうで何より。

「よし、じゃあ今夜はお姉ちゃんと一緒に寝よっか!」

「へ?」

 変な声が出た。


 部屋に戻り、ネグリジュに着替える。私は甚平のようなラフな格好なのに対し、ティシは胸元が緩く開いた大人っぽいネグリジュだ。シルクのような手触りの柔らかい生地で、ピンクにポイントで黒いレースの刺繍が入っていて、セクシーだ。

「お、お邪魔します。」

 布団をめくり、ベッドに入る。するとティシに、抱き枕のように抱きしめられる。む、胸が顔に当たってるんですが。ふにふにで気持ち良いけど、ティシはそれでいいのか。

「こうやって妹と一緒に寝るの夢だったの。うふふ、嬉しいな~。」

 我関せず、ご満悦のようだ。幸せそうなら、これでいいか。

 幸福な柔らかさに包まれ、目を閉じると宇宙に浮かんでいるような気持ちになる。ふわふわ、ふわふわ。見知らぬ異世界で成長する私はさながら、宇宙飛行士だ。

 しばらくすると、すぅすぅ、とティシの寝息が聞こえる。つられて、心地よい眠気にいざなわれる。二人の体温が布団の中で混ざり合い、溶け合う。私とティシは、小さな宇宙の中を漂っている。二人だけの、小さな世界。

「レト、ずっと一緒にいようね・・。」

 穏やかな寝息の切れ間に、微かにつぶやきがきこえる。私も同じ気持ち。ティシと、ずっと一緒にいたいな。

 消えゆく視界の端に、闇に包まれた外界へとつながる窓がかすかに見える。二人の眠る部屋の窓には、赤褐色に瞬く星々が、夜の闇をぼんやりと照らしながら浮かんでいた。

これからは、1日1話ずつ掲載していきます。

感想いただければ励みになりますので、何かあればお願いいたします。

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