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俺の初陣からはや2週間。
あ、アップデートやメンテナンスは何事もなく終わりました。俺の自我も無事だし、自我が目覚めた事もバレてない様子。そして、この2週間で様々な資料を漁り、この世界の事も少しだけど知ることができた。
さて、艦内はしばらくメイリアの奮闘話で持ち切りだった。その事にメイリア自身は複雑な心境だったようだ。実際奮闘したのは俺、フィアなのだから。
クルーからその話を振られた時は明るく応対するが、1人になると涙を堪えているのを何度か懐の携帯越しに感じた事があった。その感情を口にする事はなかったが、心中には悔しさがあるのだろう。この2週間、メイリアはラハラ隊長やシシハナさんが心配する程に訓練に打ち込んでいた。
ただ、そこまで焦って訓練に打ち込むのにはもう2つ理由があった。
俺の初陣の戦果。2機の有人機、レッドアイ。奴らが撤退していくルートを途中までハロンナが観測していたのだ。観測したルートから奴らの基地の位置を絞り込む事ができた。そう、今俺たちはあの2機が逃げ込んだ巣に向かって進んでいる。また戦闘が待っているのだ。それも前回より、激しい戦いが。
そして、もう1つの理由。どうやらメイリアは元々、近接戦闘の操縦技術を認められてこの部隊に配属されたようだ。最前線と言えるこの部隊に訓練校卒業直後に配属されるのは、パイロットとしてはかなりのエリート街道と言えよう。
ただ、ひよっ子にいきなり危険度の高い近接戦闘を任せるのはラハラ隊長としては認められなかったようで、まずは後方支援として、慣れない狙撃手をさせられていたらしい。
しかし、隊長としても前回の戦闘でメイリアの近接技術を認めざるを得なくなり、次回の戦闘からは前衛、それも切り込み役を任せられる事になったのだ。
「だめっ!こんな程度で被弾してるようじゃ……!」
コクピットに座り演習モードを始めて既に4時間。俺は手出しを禁止されてるのでただ見てるだけだった。
「メイリア、少し休んだ方がいい。無理をしていたら出せる成果も出せなくなる」
宇宙空間と違い、声を出すと誰かに聞かれる可能性があるのでディスプレイに文字を表示しての会話だ。
「メイ、ちょっといいか?」
突然ラハラ隊長が声をかけてきた。急いで文字を消す。
「隊長、何でしょうか?」
ふーっ、と軽いため息をついたあと言った。
「あんな戦いの後だ。根詰めるのもわかるが、少し休め。この宙域はいつ接敵するかもわからないんだ。いつでも戦えるように体調を整えとくのも仕事だ。というか、実際に敵影を捉えた。まだぎりぎりセンサーにかかった程度だから戦闘になるのはもう少し後だ。だから今のうちに休んでおけ。そして、特訓の成果を見せてみろ、期待してるぞ!」
「っ!はい!」
さすが隊長だ、メイリアの焦りが消えて戦意がみなぎっている。隊長が去っていくのを見届けてメイリアが話しかけてきた。
「やっぱり私、根詰め過ぎてかな」
「ここから見る限りだと、かなりな」
「そっか。一人前になってあなたを守れるようになりたかったの。でもきっと、まだ私だけの力じゃフィアを守れない。だからまた力を貸してね、フィア」
メイリアの感じていた悔しさと焦り、その根本は俺への配慮だったのかもしれない。
前回の帰艦途中の会話で、俺の前世の話をした。戦闘なんて無縁の平和な人生。そんな人生に対してメイリアはとても強い憧れを抱いたのと同時に、そんな人生を歩んできた俺を戦わせる事に対して大きな引き目を感じたようだった。
この世界、少なくともこのクェルツ星団は長い間戦いの歴史を歩んできているようだ。アウターローバ襲来以前から、アマナ星とビーストル星による星間戦争が数百年に渡って行われていた。アウターローバの脅威を察知した事により休戦に至って連合宇宙軍が設立されたが、それは新たな長い戦いの始まりでしかなかった。
この世界で生きてきたメイリアにとって戦いは当たり前のものなのだろう。そして、メイリアにとって平和な人生を歩んできた俺は、童話の中から出てきた尊い守るべき精霊か何かに感じられたのかもしれない。
「なんだ、そんな事は気にしなくていいんだ。今の俺の役目は君の力になる事。遠慮なく頼ってくれ。そして、メイリアと俺でみんなの力になろう。」
「フィアは優しいね。ありがとう!一緒にがんばろうね!」
メイリアが前みたいカメラに向かって微笑んだ。
優しいのはメイリアの方だよ。優し過ぎるくらいだと思う。この子に戦いの無い、平和な世界を見せてあげたい。そんな願いが1つ俺の中で産まれた。




