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「うおおお!こいつはすげぇ!すげぇけど、やっと格納庫が片づいて休もうとしてた所なんだが……」
ハロンナの格納庫で疲れた顔の整備長が興奮と落胆の混じった声をあげた。
彼の前に技術部の手によって改良されたフェザーユニットが運びこまれているのだ。さらに艦の外、ハロンナが停泊しているドックにはハロンナの強化用増設パーツが積まれている。
「あ、すぐにじゃなくていいんですよ〜。艦の改修は3日後に間に合えば、機体の改修は、ん〜、6日後ですかねぇ」
丸一日がかりの会議が終わり、その足で整備長の所に来たアンビーが充血した目で頼み込んでいるのを機体カメラで眺めている。ちなみにメイリア達は自室に戻って就寝中だ。
「手のかかる艦の改修を3日で……。も、もちろんドミトリアの整備士も手伝ってくれるんだよな!?」
「手の空いた班が随時手伝ってくれるそうですよぉ。それではお願いします〜」
そう言って去っていくアンビーの背中を少し恨めしそうに見ている整備長に声をかけた。
「あの、俺も手伝える事は手伝うので、なんでも言ってくださいね」
「うぅ、フィア、ありがてぇ!」
こうして整備班の戦いが始まった。
テクノラ代表の提案した装備の拡充プランは3つだ。
1つは技術部の粋が集まったフェザーユニットである。
名前こそフェザーユニットだが、その形からして大きく変わっていて、ほとんど別物と言って良さそうだ。技術部の介入により、動作プログラムがメインシステムに組込まれるとの事なので、より精密な制御が可能になりそうだ。
そして2つ目はハロンナの増設ユニット、ロケットブースターだ。これは正式な装備ではなく、今回の作戦に必要とされる性能、機動力を増強するための一時的な物である。
単独での任務となるので、もしもの時に全力で逃げられる様に、という計らいだ。
外付けユニットの登場によりアンビーお手製の操艦プログラムが変更を余儀なくされ、眠りから覚めたアンビーは独りブリッジで戦い始めたらしい。
そして3つ目。これは今回の任務には間に合わないかもしれない。テクノラ代表はそう言っていた。
「しかしまあ、まさか俺達が先行試作機の実戦テストをやる事になるとはなあ」
眠りから覚めて格納庫に来たラハラ。隅の方に設置された2つの試作機用のシミュレーション筐体、その1つに手を起きながらの一言である。その筐体の中にはシシが座っていて、早速、機種転換訓練に勤しんでいる。
「隊長は嫌なのですか?」
ラハラが訓練の様子を映し出しているモニターを見ながらシシの言葉に返答する。
「操作系統が大きく変わるような事言ってたろ?ホワイテスかろクーリアの転換の時も操作系統はさほど変わらない、という触れ込みだったにも関わらず、結構苦労したんだぜ」
「くっ!あっ……。ふぅ、なるほど、確かに簡単にはいかなそうですね。でもこの新型、面白い機体になりそうですよ」
小惑星帯を突破出来ずに障害物に激突、大破した事を告げる文字がモニターに映っていた。
「さてと、俺もやってみるか」
そう言って新型コックピットを模した筐体に座り、慣れない操縦と戦い始めた。
「ぐっ!あっ!んんんー!あーっ!」
俺の機体のコックピットから聞こえてくるメイリアの声である。
「くっそー!ルナン、もう一回!」
「ん、何度でも」
「メイリアちゃん、回避行動がまたワンパターンになってるわよ。追い詰められた時こそワンパターンにならないように!」
「はい!」
機内のシミュレーターでメイリアがルナンと戦っている。その様子をモニターで見ているランさんが指南してくれているのだ。
ちなみに俺は一切手を加えるなと言われているので、こうして周りの様子を観察していた。
「ああう!いたっ、今の当ててくるの!?」
「オールドネームは伊達じゃないな」
「くー!悔しい!フィアからは何かアドバイスない?」
と言われて困ってしまった。俺から見るとメイリアはかなり善戦している。
俺も数々の戦闘を経験した今だからわかる。
出会った頃のメイリアは、持ち前のセンスで、近接戦闘限定でエース級の動きをしていた。だけど回避や射撃は頼りなかったので俺が受け持っていた。
今では苦手だった射撃も克服し始め、回避行動も経験を活かした動きが見られ、安定してきている。
少し寂しさと悔しさもあるけど、俺の戦闘センスを超え始めている。最近のメイリアからはそう感じるのだ。だからこそシステム掌握ではメイリアのサポートに全面的に回ることにした。
「フィア?」
「ん、ああ、ごめん。考え事をしていた。一度休憩ついでにランさんとルナンと一緒に映像を見返してみたらどうだ?」
「さすがフィア、いい事言う。客観的に見るの大事」
「そうね。2人とも降りてきなよ」
モニターの前に3人で座り、リプレイ映像を見ながら討論を繰り広げていると、人影が近づいてきた。
「わーっ、エース揃い踏み!豪華な顔ぶれですねー!」
「あ、ラブラリイさん!どうしたんですか?」
「訓練中にすみません。士気を上げるための記事を作ろうと思いまして。お二人に少しインタビューをしてもよろしいですか?」
インタビューの内容としてはビーストルでの活躍の事が主だった。未だ調査中の事が多いため、詳しい内容は一般には公開されていない。
ただ、噂のAIを引き連れた小隊がまた活躍した、そういう話は既に広まっていた。事件の詳細には触れずに活躍だけを抜粋した記事を作りたいみたいだ。
「ふむふむ、これで彼らの次の戦場はアウターローバの最前線だ!で締めくくり、と。んー、お二人は機体の事なんて呼んでます?」
「え、私達の機体、かなぁ」
「俺も俺達の機体、ですね」
「ここまでカスタムしたお二人の機体です。せっかくですから愛称をつけたらどうですか?」
「カスタム名じゃなくて、クーリア自体に名前を付けるってことですね!」
「なるほど……。そうだな、サーチの記憶の中にちょうどいい言葉があった。フィリア、だ」
「フィリア?どういう意味?」
「地球の言語で愛や友情、親愛を表す言葉みたいだ」
「いいですね、それ!お二人の名前ももじってますし!」
「地球との架け橋になりたい、そんなサーチさんの願いも感じられるね!2人の名前をもじってるならこの子の名前も入れてあげて、フィーリアでどう!?」
「フィーリア、か。いいな」
「決まりですね!フィーリアを駆る2人が混迷する戦場を愛の力で包み込む!いい記事が書けそうです!」
「あ、愛の力……」
メイリアの顔が赤く染まった。こっちまで赤くなりそうなので、その文言は却下させてもらった。




