15-5
「フィアの誕生に、かんぱ〜い!おめでとっ、フィア!」
意識戻らぬドヴァの身柄は、戦闘があった日の夜に監査部の使いの者に渡され、ビーストル内の軍病院で厳重警戒の元、治療を受けている。
これは後日知った事だけど、幸いなことに、黒いコンテナ周りの機材にガルムヴルドに使われた技術データが残っていた。それらを解析した事で、ドヴァの容態を快方に向ける事ができたそうだ。
スズハナは怪我も無く、精神的なダメージもシシとの和解によりかなり回復しているようで、心配無さそうだった。
あらためて家族の再会を喜ぶラシュメール一家を、目を細めて嬉しそうに見つめながらツヴァイス代表が言った。
「アオギ、オオハナ殿、そしてシシハナとスズハナ。この度は誠に迷惑をかけた。いや、この度どころではないな。私がサーチを託したせいで貴殿らの人生を大きく変えてしまった」
「何を言うんだ、ツヴァイス。俺はそのおかげで、かけがえのない友人と出会えた。むしろ子ども達の人生を変えてしまったのは、私の過ちだ。シシ、スズ、無理をさせてすまなかった」
姉妹が揃って首を振る。
ツヴァイス代表がいや私が、と口を開いた所でオオハナさんが制して言った。
「うふふ、2人とも、我が家の恩人様達はお疲れのご様子よ。みなさま、本当にありがとうございました。今日はごゆっくりお休み下さい」
「あはは、そうだな。ツヴァイス、また後でゆっくりと話そう。そうだ、明日の朝食は皆さんと一緒に取りたい。遅めで構わないので、どうかな?」
戦闘の疲れで目が半分閉じかけているメイリアとラハラを見て、アオギさんがそう提案したのだった。
そして一夜明けた今日、こんな大変な状況にも関わらず、しっかりと俺の誕生祭が開かれる事となった。
言い出しっぺのメイリア自身も、宇宙の状況やツヴァイス代表の心情を考えて、本当にやるとは思っていなかったようである。
しかし、やろうと言ったのは他ならぬツヴァイス代表だった。
「我らの新しい友人、フィアに感謝と歓迎の意を盛大に表したい。宴を開いてはくれぬか?」
それはみんなが集まった朝食の席での発言だった。その発言により、ヌバナは雄叫び、ブルは足を踏み鳴らし、ラピは乱舞して、それはもう大変な朝食となった。
ラシュメール一家もノリノリで準備を始め、お昼前には立派なパーティー会場が納屋の前に出来上がっていた。俺達の機体は納屋の外に出され、戦闘の損傷もそのままに、飾りつけされている。
メイリアの乾杯の音頭の後、それぞれ和気あいあいとパーティーを楽しみ始めた。その様子を機体カメラとメイリアの胸ポケットから飛び出た携帯カメラの両方で観察する。
始まって早々、パーティーに似つかわしくない短いスポーティな発声と、か弱い悲鳴が聞こえてきたのでそちらに視点をやる。
「シュッシュシュッ!ほらほらーっ!オウザもお祝いしなよーっ!シュシュッ!」
ラピが拘束されてこの催しを見せられているオウザに向かって、シャドーボクシングをしながら煽り立てていた。
彼はサバナ地区の収容所が満員になってしまったので、軍の輸送車両が来るまでここで拘束されている。そしてこの仕打ちである。
「ヒッ、ヒィィ」
「こら、ラピ。あまり虐めてやるな。これから軍の施設でたっぷり虐められるのじゃから」
「ヒィィィ」
「うむ。そういえば、我をここに呼んだのは捜査の撹乱のため、だったらしいな」
「ヒィィィィ」
「お前達やめぬか。ふむ、ちょうどいい。言葉での戦い。その練習に付き合ってはくれぬか、オウザよ?貴公の話を聞かせてくれ。なぜ、あんな事を……。ん?おい?」
3人の管理者に囲まれ、ただでさえ縮み上がっていたオウザ。そこに威風堂々と割って入ってきたツヴァイス代表の「戦い」の言葉を聞いて気を失ってしまったようだ。
そんなオウザの姿を見てツヴァイス代表の立派な耳が萎れてしまった。
言葉での戦い道は険しそうだ。
メイリアの歓声で、視線を会場の中央とも言える長テーブルに戻す。メイリアとスズハナが並んでご飯を食べている。
「おっいしー!ねぇ、フィアもこれっ……」
「ふふ、いつか食べられる日が来たらいいな」
「そう、そうだよっ!ねえ、スズちゃん!フィアに生身の体を作ってあげられないかな!?」
「えぇ!そんな急にはできないよ!?」
「だけど面白い発想だね。今後もサーチの蒔いた種が花開く可能性は大いにある。その時のためにも生体ボディの開発に着手するのもありだな」
「ビーストルの遺伝子工学とアマナの機械工学。合わせれば不可能ではないかもしれないわね」
アオギさんとオオハナさんが近寄ってきて会話に参加してきた。
「でもまだ課題は多いよねっ!例えばさっ!」
目の前で繰り広げられ始めた難解な会話に、口をぽかんと開けて立ち尽くすメイリア。その開いた口に、いわゆるマンガ肉が差し込まれる。
「んんー!んにほれんんしー!」
「メドさん特製スパイスのインフェルノファイヤリザードの肉だよ。私の大好物なの。あーあ、研究議論が始まっちゃったね」
議論が白熱する家族3人を見つめながら、懐かしむ様に、そして、嬉しそうに顔をほころばせるシシ。その表情には一片も暗い感情は見られなかった。
「シーちゃん、家族とのわだかまりが無くなってよかったねぇ〜」
「だな。家族かぁ。どんな感覚だったっけかな」
研究議論を邪魔しないように小声で話しながら、メイリアの元に近づいてきたラハラとアンビー。
その2人の方に向きを変えながらメイリアが少し恥ずかしそうに言った。
「私は……みんなを家族みたいに思ってる、よ?」
ラハラは少し照れくさそうにメイリアの頭をぽんぽん、と叩き、シシとアンビーはメイリアにギュッと抱きついた。
「みんなそう思ってるみたいだな、メイリア
」
「えへへ〜、もちろんフィアの事も家族みたいに思ってるよ」
そんなほんわかムードなハロンナ組の元に耳の萎れたツヴァイス代表がおずおずと近づいてくる。
「団らん中すまぬ。シシハナよ、もし先の事件が無かったらどうやってスズハナと和解するつもりだったのだ?」
自分の名前が出てきたからか、議論を中断してスズハナが耳をそばだてている。そうとも知らず、シシが話し始める。
「私、長い間スズの言葉に何も返せずにいたのです。幼い頃は一緒に学者になろうね、だなんて言ってたのに、私は逃げた。その事に罪悪感を感じてたし、スズの才能を妬み、怒りに支配されそうになった事もあったから、その事にも罪悪感を感じてた」
「お姉ちゃん……」
シシの話しに体ごと向け、聴き入り始めたスズハナ。シシの言葉もいつの間にかスズハナに向けた言葉に変わっていた。
「だからわからなかったんだ。スズを裏切った私はどんな顔をして返事を出せばいいのか。でもスズにとっては無視されていただけだよね。それでもいっぱいメールを送ってくれてありがとう。だから、私も思いの丈を全て書き出してみたの。すぐに見てもらわなくてもいい。ほんの少しでも、私の事を許してくれた時に見てもらえるように、一冊のノートに書き連ねて渡そうと思ってたの」
そう言って胸ポケットから手帳サイズのそこそこ分厚いノートを取り出してスズハナに渡した。
「あは、凄いや。びっしり書いてある!ありがとっ、お姉ちゃん」
そう言ってシシに抱きついた。
「あの量を一晩で書き上げたのか……。驚異的だ。私も修練しなくては!ドヴァに向けて書かなくては!」
ツヴァイス代表の目に闘志が漲った、が少し方向性がズレている気もする。誰か軌道修正してあげて。
パーティーも終わり、ツヴァイス代表達は次の日には基地へと帰っていった。俺達は気候の影響でなかなか宇宙には戻れず、しばらくラシュメール家にお世話になっていた。
だけどそれも今日で終わりだ。
「シシ、気をつけてな」
「また落ち着いたら帰ってきなさいよ」
「お嬢様、皆様方、お気をつけて」
「お姉ちゃんが帰ってくる頃にはこのノート読み終えておくから。そしたら今度は私がいっぱいお返事書いておくから!だから帰ってきてね!」
「うん!父さん、母さん、メドさん、スズ、行ってきます!」




