14-5
ラハラが深呼吸を繰り返す。シシハナさんは逆に呼吸が荒くなっていく。
「スズハナァァ!」
そう叫ぶと同時に草むらからシシハナ機が飛び出していく。一瞬遅れてラハラも飛び出す。
「本当に行きおった。彼らを信じるしかないですな。フィア殿、我々はいつでも行けますぞ!」
「うぬ」
「こんなドキドキ初めてだよーっ!」
彼らの戦意も充分のようだ。
砲撃が始まった。鈍い砲撃音の後に砲弾が空を切る鋭い音。そして、重い着弾音。振動と共に土煙が舞う。2人はお互いが邪魔にならないように距離を取りながら、面となって飛んでくる弾幕射撃を掻い潜っていく。
「あの2人なら出来る!」
メイリアが祈るように胸元のペンダントを握りしめる。次は自分達があの砲撃の中を突き進まなければならないのだ。当然緊張の色も見える。
そうだ、今のうちに敵を分析するんだ。2人が作ってくれた、またとないチャンスなんだから。
敵戦車をスキャンする。メモリ内に情報があった。連射速度に弾種、弾速や射角、装填時間を知ることができた。本体の装甲は厚く、銃撃を受け流すように角度が取られている。が、砲身はALOF用の武器で潰せそうだ。
続けて2人の動きを観察する。敵のあの弾速では、撃たれてから避けたのではダメージは免れない。着弾時の衝撃からも逃れなければならないからだ。
2人とも砲身の向きを見極め、撃たれる前に安全地帯へと潜り込んでいる。危険度の高い敵から撃ち落としていくラハラ。カウンターが得意なシシハナさん。敵の動きを見切る事に長けた2人の戦い方が最大限に発揮されている。
オウザのALOFは戦車隊の後ろで突っ立っている。あいつらの所まで残り3分の2といったところだ。2人の動きにはまだ余裕が見られる。
戦車隊が戦術を変えた。面での攻撃だった一斉射から砲撃タイミングをズラした点での精密な砲撃。絶え間なく2人を砲弾が襲うようになる。だんだんと回避地点を先読みされ、着弾地点と回避地点が近くなってきている。
「そろそろ行きます!みんな、死なないでくださいよ!」
「これが終わったらフィアの誕生祝いするんだからねっ!」
「ほほ、それは楽しみですな」
「いいねーっ!みなぎってきたよーっ!」
「楽しみだ」
「今です!」
4機のALOFが一斉に草むらから飛び出る。新たに現れた俺達に、1機につき3両が砲撃を仕掛けてくる。俺達は装輪駆動で、ヌバナはジェット推進で、ラピはジグザグステップで、そして寡黙な男、ブルはなんと四つ脚のクーリアに乗っている。腰に4本のエネルギータンクをぶら下げ、惜しみなくスラスターを使いながら四つ脚をせわしなく動かして走行している。両肩にジョイントされて垂れ下がっていたキャノン砲が稼働して、肩に担ぐ形で砲身が前を向く。
「ウヌらのスピードについて行けぬ。我はここで砲撃支援する」
ブルがそう言うと共に背後で2つの砲撃の重音が響く。1つの砲弾がラハラを狙っていた1両の車体にヒットする、が弾かれた。なんて頑丈な装甲だ。でもしっかりと衝撃を与えて砲撃は阻害した。
ブルが横移動に集中し、砲弾を回避しながら砲撃を立て続けに行い始める。
「賢明じゃな。ぐうっ!被弾したか。直進しか出来ぬこの機体ではここらが限界じゃ!がぁぁっ!」
ヌバナがそう言いながらまた1つ砲弾を躱すものの、足元に着弾。衝撃で転倒する。
「じい!!大丈夫っ!?」
「ラピ!カバーに入るんだ!バイタルは安定している!」
ラピと俺達でヌバナ機の前に出るようにして狙いを拡散させる。運良くこのタイミングでブルの砲撃が1両の砲身を潰し、砲弾の雨をわずかに鎮めてくれた。
集中砲火が弱まったことでラハラとシシハナさんは一気に距離を詰め、半分を過ぎた辺りまで来ていた。
しかし、ヌバナの分の砲撃を引き受けた事で、ラピも回避地点と着弾地点の差が狭まってきている。俺達も例外ではない。砲撃によって隆起した地面では装輪駆動が思ったように機能しない。それを見越して俺達に対する砲撃はやや進行方向寄りに着弾している。
アンビーから送られてきたプランが頭を過ぎるがまだ早すぎる!
「フィア!回避行動の邪魔にならない程度に私がアサルトライフルで攻撃する!」
「わかった、やってみてくれ!」
回避の合間にアサルトライフルを手に取り、照準をメイリアに任せる。この距離ではダメージは与えられないが、脅威を与えられれば儲けものだ。
結果、ラピへの砲撃が軽くなり、俺達への砲撃が強まった。倒れたヌバナを狙う余裕も無さそうだ。さらにまた1両、ブルの砲撃で砲身が折れた。すると今度はブルに砲撃が集中する。狙いが行ったり来たりして定まらなくなってきている。
「よし、よし!行ける!メイリア、いい射撃だ!」
「フィアもいい走りだよ!」
俺達が残り半分に来た頃、ラハラ達は残り3分の1まで来ていた。あと一息だ!ここで通信が割り込んでくる。
「おい、お前等、薄汚いアマナの猿共!止まれ!わからないのか?人質がどうなるか察しろ!」
オウザの声だ。強がった脅迫をしているが、声色からは恐れが見て取れる。通信からスズハナの啜り泣く声が微かに聞こえてくる。
そして、ラハラから苦しそうな呻き声が漏れ出た。それを掻き消すようにオウザに向かって怒鳴る。
「卑怯者め!その口でビーストルの誇りだなんだと言うつもりか!」
「黙れ!生物ですらないお前に人間の矜持が解るものか!宇宙を統治するのはこの星を従えた我々ビーストル人こそ相応しいと察せよ!」
シシハナさんが怒りが噛み殺すように低く唸る。
「この宇宙に誕生した、新しい人類を受け入れられない様な人が相応しいわけないでしょ!」
メイリアもまた怒りを滲ませて叫ぶ。オウザが言葉に詰まり、猿如きが、と言葉を吐き捨てる。ラハラも苦しそうだし、奴もヒートアップしてきた。そろそろ頃合いか。通信を切替え、アンビーに合図を送る。それと同時に一気に加速し、ラハラ達に追いつこうとする。
「了解です!行きますよ〜!角度良し、進路クリア、電圧オーケー!射出!」
後方から砲撃とは違う、衝撃音が響く。
「な、なんだ!上?布を纏った機体!?まさか!?ツヴァイスだ!何としても撃ち落とせぇー!」
オウザが焦って取り乱しながら戦車隊に命令を出す。横一列に並ぶ砲身が空を仰ぎ、砲撃を開始する。
「っぷはぁ!ハァハァ、いいタイミングだ。流石だな、フィー。メイもいい啖呵だったぞ」
ラハラが一息つく。どうやら思考加速を使うには呼吸を止める必要があるようだ。呼吸を整えながら速度を緩めず走るラハラと変わらず疾走するシシハナさん、その2人に並ぶ事が出来た。
そして、俺達の上空を布を纏ったクーリアが飛んでいく。
ツヴァイス代表のとっておき大型トレーラー、その正体は簡易型電磁式カタパルトであった。アンビーのプランとは、ツヴァイス機に見立てたダミーを射出して気を逸らす事だ。伝説と呼ばれる存在が空から降ってくる。彼の実力を知るビーストル人にとってその恐怖は計り知れないだろう。
「や、やったか。いや違う!あれは私が置いてきた機体だ!?」
空中で砲弾がヒット。布を纏ったクーリアがバラバラになる。そこでやっと気づいたようだ。だがもう遅い。
ラハラとメイリアが射撃で戦車の砲身を素早く潰していく。シシハナさんは戦車隊を飛び越え、オウザ機に飛び掛かろうとしている。
「ひぃっ!」
その迫力にオウザが悲鳴を上げる。
「スズハナ聞こえるか!シシに呼びかけろ!頼む!」
このままだと危ない。そう感じてスズハナに必死に呼びかけを求めた。
「お姉ちゃん!?ごめんね!おかえりも言わなくてごめんね!お姉ちゃん!」
「だ、黙れぇ!」
オウザが声を荒げる。
俺も機体を跳躍させ、腕のワイヤーアンカーをオウザ機のコックピットハッチを刺して思いきり引っ張る。だが、隙間が出来ただけで引き剥がせなかった。
「フィア、大丈夫。あとは任せて」
それは落ち着いた涼やかないつもの彼女の声だった。オウザ機の目の前に着地。腰の実体剣を手に持ち、切先をハッチの隙間にねじ込み、こじ開ける。
銃を手に持ち後部座席のスズハナに向けようと、メインシート上で振り返った姿勢のオウザが、目を見開いた顔だけを動かして風通しの良くなった正面を見る。その隙に手を縛られた状態のスズハナがオウザを押し退け、機外へと飛び出す。
「無茶だ!」
「うそっ、スズハナちゃん!?」
シシハナ機がオウザ機を蹴り飛ばしながら掌で優しくスズハナをキャッチする。そのまま膝立ちになり、掌を近づけた状態でコックピットハッチを開ける。そして機体の掌の上で抱き合う2人。
「お姉ちゃんなら受け止めてくれると思った!」
「スズならこうするって私の勘が告げてたんだ」




