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「つまり俺は濫觴の舟のAI、サーチのコピー品、か」
アオギさんとサーチの映像記録、それを見終わり、しばらく沈黙が続いていたが、俺の発言がそれを破った。
「確かに私は彼のコピーを作る思いで記憶領域を仕込んだ。だが君を見ているとコピーとは違う、そうはっきりと言える。フィア、君は君として人格を獲得したんだ」
どこか弁明めいた口調だった。俺がコピー品だなんて言ったから傷ついていると思ったのかもしれない。だが、弁明なんて必要なかった。様々な感情が渦巻く。この気持ちをどう表せばいいんだ。
静かに目を閉じていたメイリアが口を開く。
「よかった、フィアは生まれた時からフィアだったんだね」
スッと何かが腑に落ちる。ああ、そうか。俺はAIとして生まれ、AIとしてメイリアを守ってきた。それは人格が生まれる前は指命であったが、人格が生まれた後は意志でもあった。ずっと思考の境界とプログラムの境界を探していたが、もともと境界なんてモノはなかった。その2つが合わさって俺の思考となっていたのだ。
ここまで散々悩んで、考えて、必死に生き残ってきた。メイリアを、みんなを守るという意志を持って。これからはサーチの記憶と希望を背負って生きていく。そうやって少しずついろいろなモノを背負って俺が確立されていく。肉体と言えるものがない、人格と思考だけの存在である俺にとってはそれが俺を俺たらしめる大事なモノなのだろう。
「そう、俺はフィアなんだ。ここまでみんなと歩んできた、フィアなんだよな。とても単純な答えだけど、ようやく自分の存在に答えが出せた。みんな、ここまで連れてきてくれて本当にありがとう」
「どうやらスッキリしたみたいだな、フィー」
「答えが見つかって良かったね、フィア」
「フィアさんの自分探しの旅、無事終わりましたね〜」
「アオギよ、独り重荷を背負わせてしまったようだな。すまぬことをした。だが、胸を張って欲しい。こうして新たな人類種の誕生のきっかけを作ったのだから。この場に立ち会えた事に感謝だ。ありがとう」
ツヴァイス代表が静かに威厳のある声でその場にいる人達に感謝を伝えた。
「私はサーチの希望を叶える事が出来たのか?」
「シシハナさんのお父さん、あなたとサーチさんが巻いた希望の種、それが花咲かせた姿がフィアなんですよ!」
声を詰まらせ嗚咽を堪えながら涙を流し始めたアオギさんにシシハナさんがそっと寄り添う。
「私が無事に帰ってこられたのも、父さんのおかげだね」
「ふむ、雰囲気を壊すようで申し訳ないが、どうやら上が騒がしくなってきたようだ。まことタイミングの悪い話だが、奴らが動き出すには絶好の機会だ」
「もしかしてぇ、エボルが仕掛けてきたのですか?」
「ああ、諸君らには誠に迷惑を掛ける。だが、どうか力を貸してほしい」
機体側で周囲に動体を検知。機体を操作して被さっていた布を剥ぎ取り、動体を視認する。突然俺が機体を動かした事で、そいつは驚いて納屋から飛び出していった。
「オウザが機体周辺で何かしようとしていた。オウザがエボルの構成員なのか?」
みんなで急いでエレベーターに乗り込み地上を目指す。
「なるほど、オウザが裏切り者だったか。ブルかオウザ、2人まで絞り込めたが決め手がなかった。オウザがブルに疑いの目が行くよう仕向けていたのであろうな」
代表が耳に手を当て、襟元に向かって話しかける。どうやらイヤホンマイクが装着されているようだ。
「ヌバナ、状況は?不覚!お前達はすぐにALOFで追いかけろ!」
エレベーターが地上に到着する。ヌバナとラピ、そしてブルの機体が動き出して納屋から出ていった。
「い、いったい何が?妻と娘は無事なのか!?」
「アオギ、シシハナ。誠に申し訳ない。スズハナが人質となった。オウザはドヴァとスズハナを連れてドヴァの車で乾燥地帯の方へ逃走中との事だ。この事態に備えてヌバナとラピを配置しておいたが、私の判断が甘かった」
「うそっ、スズハナ!?行かなきゃ!」
「俺達も出るぞ!フィー、メイ!行けるか!?」
「もちろんだ!」
「ええ!」
「アオギはオオハナとメドを連れて地下に避難してくれ。スズハナは私が責任を持って無傷で取り戻す。艦長は私と共に来てくれ。少し準備しておく事がある」
「わかりましたっ!」
それぞれ機敏に動き出す。機体に走り寄るメイリアを掌ですくい上げ、コックピットへ
乗せる。
「エネルギータンクも充填してある。機体コンディション問題無し。行くぞ、メイリア!」
「オーケー、フィア!自分探しの余韻に浸るのはスズちゃんを助け出してからだね!」
「そうだな!」
納屋から出て装輪駆動でヌバナ達の後を追って背の高い草むらを疾走しながら、彼らに通信で連絡を取る。
「状況は!?」
「フィア殿か。誠に不覚で恥ずかしい限りじゃ。オウザ達は敷地外で構成員と合流。隠してあった予備のクーリアに乗り換えて逃走中。スズ嬢もそれに無理矢理乗せられるのを目撃した」
「くっそーっ!あいつ、僕がボコボコにしてやるーっ!」
「みな、止まれ。乾燥地帯に出た。戦車隊のお出迎え。数は25」
ブルが抑揚の無い声で淡々と報告する。
「おい、フィー、早すぎだぞ!それと、管理者さん達、さっきからドヴァの事を人質扱いしてないが、まさか」
ラハラが通信に割って入ってきた。
「ああ、ラハラよ、察しがいいな。まだ確定では無いが、8割方組織に関与していると考えている」
今度はツヴァイス代表の通信だ。代表が続ける。
「そして、やはり戦車隊か。ますます弟の指揮を感じる。ヌバナ達はラハラ隊と合流するまで草むらに隠れていろ。ラハラよ、貴殿を信頼して指揮を頼む」
「なっ、ああ、わかった。いいだろう、了解だ」
「ぬぁーっ!目の前に見えているのにーっ!どうするのさっ!?」
「こら、ラピ!今出ていったらいい的だぞ!遮蔽の無い平地では戦車の方が圧倒的に有利じゃ!」
「そういうわけだ!フィー達も待ってろよ!」
「「了解!」」
「それとシシハナよ。話によるとバーサク状態から戻ったそうだな。ドミネイトが戻ってこられるのは稀だ。だが、一度戻ってこられたなら帰り道はもうわかるな」
「それって……私にもう1度あの状態になれと言うのですか?」
「お前の同類たる私の野生の勘がそう告げている。本能を書き換えろ」
どうやら話しぶりからして、ツヴァイス代表もドミネイトのようだ。彼の伝説と言われる強さがドミネイトによるものだとすれば、シシハナさんも彼に並ぶ強さを得られるのかもしれない。艦隊戦のあの荒れ狂う戦いっぷりが思い起こされた。
草むらに隠れてヌバナ達に合流。まとめて狙われぬよう、互いに距離を取る。
戦車隊はキャタピラを鳴らしながらゆっくりと向かって来ている。そして、クーリアが1機、戦車隊に合流したのが見えた。
少ししてラハラ達も合流し、6機のALOFが草むらから戦車隊を観察している。
「そろそろ草むらが戦車隊の射程に入りますな。さて、どうしますかな、隊長」
「ったく、小隊指揮しかやった事ないからやりづらいな!いいか、まず俺とシシで先陣を切る。シシの本能と俺の思考加速なら敵の砲撃を先読みできる。とは言っても集中砲火を浴びながらあいつらまで辿り着くのは無理だろう。そこで、頃合いを見て第2陣、あんたらに出てきてもらう。上手いこと砲撃を分散させてくれ。数秒でもいい、戦車隊に集中砲火を避ける2機がいる事。それを印象付けるんだ。第2陣のタイミングは、フィー、お前が合図を出してくれ」
「本気ですか、隊長。でもスズを助けるためにはそれしかないか。わかりました。本能を制御してみせます」
「了解だ、ラハラ。2人とも、死ぬなよ」
「作戦了解です!その作戦なら私も代表のとっておきトレーラーから援護できそう!フィアさん、みんなの限界が近かったら教えて下さいね〜!」
「アンビーちゃん、あのトレーラーにいるの!?無謀な作戦だけど、みんなとなら出来る気がする。みんな、頑張ろうねっ!」




