13-3
降下したのはサバナ地区から2区隣のジャングルエリアだった。ジャングルの中に整備された飛行場があり、そこに着陸した。
「とりあえず襲撃は無かったな」
「う〜ん、意外とスルーしてくれてるのですかねぇ」
「この地区は視界が悪い。待ち伏せには絶好の場所だから油断は出来ないよ」
シャトルを預けてそれぞれ機体の調子を確かめている。機体の無いアンビーはそれを眺めている。
「わーっ!ちょっ、フィア、速い速い!」
「ふふ、楽しいな。この装輪駆動ってやつは」
今回地上装備を考えるにあたって参考にしたのがランさんの機体オグレスとアインズの護衛官達の装備だ。悲しいが、思い入れ深い増設制御機は外して、元のメインスラスターへと戻した。そして、この装輪駆動、足の側面と踵の延長上につける車輪、を付けた。他にも腰の後ろには隠し腕こと2本のサブアーム、両手首にはアンカーワイヤー射出装置と巻取り機構を付けた。オグレスの様に対象を引っ張る力は無いが、装輪駆動との組み合わせで面白い戦い方ができそうだ。
「おーい、フィー。慣らしはその辺にしてそろそろ出発するぞー」
「ひぃひぃ、この機動は辛いよぉ」
「すまん、調子に乗りすぎたな。実戦だとここまでの速度は出さないから安心してくれ」
実際、ここが舗装された飛行場だから出せるスピードであった。街中以外は舗装された道など限られており、あっても車輌が通れる程度の細い道だそうだ。さらに言うと、街を避けるためと最短距離を行くために未整備の土地を行く事になった。街を避けるのは反乱組織との戦闘に巻き込まないようにするためだ。
エネルギータンクにガスを充填してもらい、出発だ。アンビーは俺達の機体に乗っている。装輪駆動で逃げ足が速いため、もしもの時の生存率が一番高いから、というラハラの発言でそう決まった。
「いや〜、なんかごめんねぇ。2人の空間にお邪魔しちゃって」
「そ、そんな、2人の空間だなんて。うわぁぁ!?」
隆起した巨大な木の根っこに躓き、転びそうになったのをなんとか立て直した。
「メイリア、道が悪いんだから集中してくれ。ただでさえ、装輪駆動付けてると歩行バランスが悪いんだから。俺が操縦しようか?」
「うっ、ごめん。未整備の地形に慣れたいから私やる」
「あは〜、ごめんなさい。私が変な事言ったからだよねぇ〜。それにしても、凄いジャングルだねぇ」
巨大樹の葉が陽の光を完全に遮断するほどに遥か上空で生茂っている。おかげで地面には植物はあまり生えていないのだが、なんせ暗い。真っ昼間なのに暗視モードで進む必要がある程だ。その上、極太な巨大樹の幹達が視界を奪っていく。そして、ドシドシ音を立てて進む俺達の様子を樹の陰から見たこともない動物達が覗いている。俺もメイリアも最初はまるで探検隊にでもなったような気分だった。しかし、奥に進むほどメイリア達の緊張が高まっていくのを感じる。
「あ、みんな止まって」
先頭を歩いていたシシハナ機がピタリと止まる。ラハラも俺達もそれに合わせてピタリと止まる。強い緊張感が漂い、何故かシシハナさん以外の3人は揃って呼吸も止めている。
シシハナ機が近くにあったクーリアの拳程の岩を拾って前方の巨木に向かって投げた。
スパンッ!
そんな音と共に空中にあった岩を樹に巻き付いていた蔦が猛スピードで貫いた。
「と、まあ、こんな風に危険植物が紛れ込んでるの。見た目は巨大樹と似てるけど、こいつは一定範囲内に入った動体を蔦で仕留め根本に運んで養分にするの。間違っても攻撃はしないで。怒らせると大変だから」
「ひ、ひぇ〜」
アンビーが呼吸を再開したかと思えばなんとも情けない声を上げた。
「クーリアの装甲でも角度が悪ければ貫かれるかもね。見分けるには辺りに動物がいるかどうか、根本に骨とか転がってないか。あとはサーモで見れば本体温度が高めだからすぐわかるよ」
「っぷはぁ……。おい、シシ、そういう事は、ジャングルに入る前に、言っておいてくれ」
呼吸を再開したラハラが息も絶え絶えに苦言を呈した。
他に危険はないとの事なので、酸欠で天に登りそうなメイリアに呼吸を再開してもらいまた歩き始める。だが、すぐにセンサーが異変を知らせる。
「みんな、航空機の音がする。警戒してくれ」
言うやいなや、近くで何か大きくて重い物が落ちる音がした。そのすぐ後に何かの凄まじい咆哮がジャングルに響き渡る。
「シーちゃん!危険は無いんじゃなかったの!?」
「違う。これはこの地の生き物じゃない」
「何か近づいてくるぞ!ALOFの足音か?その後ろを巨大な何かが……」
言い終わる前にその何かが姿を現した。
巨大樹の幹をへし折り、立派な角で迷彩柄のホワイテスを1機貫きながら巨大なそいつは現れた。
「え、うそっ。なんでここに……」
「ひゃ〜、き、き、き、きょ」
「ビーストル星に凶獣だと!?」
「みんな、散って!巨大樹は盾にならないと思って!」
シシハナさんが声を荒げて指示を出す。
凶獣。エルフィン星に生息するという生物。ALOFでも危険な相手らしい。
太く、筋肉質な2本の足。前傾姿勢な胴体にくっついている小さめな2本の腕。前傾姿勢のバランスを取るように背面に流れる太い尻尾。鋭く獲物を探す2つの目。凶暴性を体現するかのような口。そして、何より特徴的なのが、頭なのか角なのか、はたまた刃なのか。はっきり言えないが、今ホワイテスを貫いている頭部に生えた刀剣のようなアレだ。とりあえず角という事にしておこう。
首を振り、刺さっていたホワイテスを地面に叩きつけたそいつは、次の獲物を探して鋭い眼光をしきりに動かしている。
「足の速い俺達が囮になる!その間に何か策を頼む!」
「策たって凶獣との戦い方なんて……。くそっ、やるしかねえか!」
「ランさんが言ってました。まずは足止めだ、と。少し待ってて」
シシハナさんはそういうとジャングルの中へと消えていった。
凶獣の表皮で何かが弾ける。凶獣の後ろから発砲する迷彩柄ホワイテスが2機現れたのだ。さっきの犠牲者の仲間か。ALOF用のアサルトライフルを使っているが、効果は薄い。凶獣と見比べるとホワイテスがオモチャのようだ。
凶獣が巨体に似合わぬ軽快さでバックステップをし、尻尾を薙ぎ払う。ホワイテス2機がオモチャのように粉々になる。
「くそっ!敵か味方かも分からないけどあんなに軽々とやられてしまった!」
「時間を稼いでくれた事に感謝しなきゃね!シシハナさんから誘導ポイントが送られてきた!撃って気を引こう!」
「ひぃ〜、ほ、ほんとにやるのぉ〜」
怯えるアンビーが可愛そうだがやるしかない。メイリアは覚悟が決まったようだ。サブアームでアサルトライフルを持ち、凶獣に背中を向け、後ろ手に撃つ。ラハラ機を無視してこちらに向って突進の姿勢を取る。
「よしよし、そのまま……来たぞ!」
予想以上のスピードだ!装輪駆動を駆使し、木々の間を駆ける。巨大樹なんてものともせずに薙ぎ倒しながら一直線に向かってくる凶獣。このままだと追いつかれる。樹の幹にワイヤーを刺し、巻取る力とスラスターを使ってスピードを落とさず鋭角ターン。数秒前に俺達がいた所で角が空を切る。凶獣も素早く向きを変え、また突進してくる。
ポイントが近い、樹の上にシシハナ機がいるのを発見。
「ポイント手前で樹の上に逃げてあそこに突っ込ませて」
「「了解!」」
前方の樹の枝にワイヤーを撃ち、跳躍、スラスターで振り子運動に勢いをつけて太い樹の枝に着地する。凶獣は樹の上に逃げた俺達を目で追うが、止まれずそのままポイントへと突っ込んでいく。さっきの危険植物の群生地だ。
皮膚を刺す蔦など気にせず巨木を薙ぎ倒しながら止まるが、薙ぎ倒した事で、怒りを買ったのだろう。地面からも根っこが出てきて凶獣に絡みつく。凶獣と巨木達の戦いが繰り広げられたが、無数の蔦と根っこに絡みつかれた凶獣が身動きとれなくなり、大人しくなる。
きっと反乱組織によってエルフィン星から密輸されてきたのだろう。ラハラも追いつき、憐れみを持って目の前の光景を眺めているとレーダーに2機の反応。そして通信が入る。
「派手にやってんねーっ!噂通りの派手好きだーっ!僕も派手なの好きだよーっ!」
「こら、ラピ!挨拶が先であろう!すまぬな、遅くなった。我はヌバナ。ツヴァイス様の命により助太刀に参った」




