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あの衝撃的な会合から1週間が経ち、出発の日が来た。ビーストルへの旅路は今までで一番長い旅路となる。そのため準備に時間がかかったのだ。高速航路もあるのだが、今は有事なので使用許可が降りなかった。そう、本来なら俺1人のためにビーストルへ行っている場合じゃない。だけどヨルカ代表を始めとした多くの人の協力により基地内では、快く送り出してあげよう、という風潮が出来上がっていた。
そんな好意的な風潮を作り出したのはラブラリイ代表を始めとした情報統制部の尽力が大きい。話し合いの時にうわの空だったのが申し訳なくなる程、素晴らしい広報映像が出来上がっていた。
「あ、また私達だ!きゃ〜、格好いい〜!」
「メーちゃん見るたんびにそれ言ってる〜。でも、ほんと格好いいよね〜。このエンブレムが強調されるカット、好きだな〜」
「フェザーユニットは映像映えするよね。私が暴れてる映像が入ってなくて良かった」
カフェスペースでくつろぐ3人。壁に映し出されているのはいつだか見たテレビ番組だ。今回もご丁寧に視聴者アンケートが比率棒グラフで下に表示されている。圧勝とまではいかないものの、受容派が半数以上を占めている。
この映像で特に影響を受けているのは1〜3部の人達だ。彼らはアウターローバとの戦闘経験がほぼ無い。4部が外縁で防いでいたからだ。彼らが未知の敵たるアウターローバ相手に不安を覚える最中、敵艦を次々に撃沈し、機動兵器群をなぎ倒すこの映像は士気を上げるのに十分な役目を果たした。
「今日でルナン達ともしばらくお別れかー」
「メーちゃんとルナンちゃん、なんだかんだで凄い仲良くなったよね」
「フィア友だから」
突然ルナンの声がして、ディスプレイを見ていた3人が一斉に振り返る。観葉植物の裏でルナンが隠れてもじもじしている。いや、それよりも……。
「なあ、フィア友ってなんだ……?」
「そりゃフィアを通じて仲良くなったからフィア友だよ!」
「だよ」
「フィアを通じて喧嘩してた気がするけどね」
「シーちゃん、細かい事は気にしないであげよ。ルナンちゃん、もしかして挨拶しに来てくれたの?」
「ん、少ししたらヨルとここの司令も来るよ」
「噂をすればだな、来たみたいだぞ」
食堂のドアがスライドして開く。
「ふふ、やはりここにいたか。久しぶり、という程ではないか。みんな、良く頑張ったな」
「かんちょ、じゃなくて、司令!」
「司令、お疲れ様です〜」
「またお会いできて嬉しいです、イナリハ司令」
3人が同時に席を立ち、挨拶をする。
「ちょ、司令、邪魔!入り口で止まらないでよ!この私が完全に隠れちゃってるじゃない!アンちゃん、格納庫に集合かけてもらってもいい?」
司令の後ろでアップにした髪の毛がぴょんぴょん跳ねながら喋っている様に見えた。
格納庫に乗員を集めて出発式が開かれる事になった。
「このヨルカ様がまずは挨拶するわ。あなた達ハロンナはかなり特殊な状況にいるわ。仲間達が戦ってる最中にビーストルへの旅なんてしてていいのか、って思う人も当然いると思う。でも、今4部でも最高戦力となりつつあるフィアちゃんを迷いから解放してあげたい。彼は軍属ではなく、私達の協力者。ここまで惜しみなく協力してくれたのだから、今度は私達が彼に協力する番よ。だからこの私からもお願いするわ。彼に力を貸してあげて」
代表が頭を下げると拍手が鳴り響いた。代表と入れ替わりで司令が登壇する。
「こうして皆の顔をまた見られて嬉しく思う。言いたいことはヨルカ代表が言ってくれた。だから、1つだけ。このドミトリア防衛線は我々がなんとしても守り抜く。だから君達は自分達の為すべきことに集中してくれ。以上だ」
短く簡潔な挨拶だったが、乗員の士気が高まるのを感じた。今度はアンビーが入れ替わりで登壇する。
「え〜、お二人の後だと話す事も無いのですが、そうですね、クェルツ内部もまだ平穏が訪れているとは言い難いです。反乱組織はまだ活動しています。特にビーストルの組織はここ最近息を潜めていますが、フィアさんは彼らの理念からすると格好の的です。彼らとのいざこざに巻き込まれる可能性が高い。アウターローバと離れるからと言って、決して安全な旅ではないという事を肝に銘じておいて下さい。長旅になりますが、私達の仲間、フィアさんのために頑張りましょう!」
こうして拍手喝采と共に出発式は幕を閉じた。アンビーの言う通り、ずっと気になっていた。ビーストル至上主義の反乱組織。その動向。
ビーチェに現れたのはアマナの組織だけだった。ビーストル派についてはまだ分からない事だらけだ。もしかしたら、今回の敵はツヴァイス代表なのか……?
「え、ツヴァイス代表が敵?」
「それはねぇな。あの人はビーストルの英雄であり、武人。そして状況を正確に見極められる人だ」
「隊長の言う通り。ビーストル人として強い誇りを持ってはいるけどね」
「シシ、確か濫觴の舟を見て連合軍を作ろうと言い出したのも……」
「若かりしツヴァイス代表ですね。まだ、二十歳になったばかりのあの人が自らの武勲と名声を駆使して上層部を説得した。教科書に載るのは確実と言われている人です」
「あ、さてはシシハナさん、ツヴァイスさんに憧れてるでしょ!」
ちょっと顔を赤らめて視線を落としながらビーストル人として憧れるのは当たり前とかなんとかゴニョゴニョ言っている。実に分かりやすい。機体の備品チェックや忘れ物がないかを3人が確認している所に質問を投げかけてみたが、どうやら見当違いだったようだ。
「となると、誰が組織を操ってるんだ?」
「あー、そうだなぁ。ビーストルはアマナと違って種族間のいざこざなんかもあって少し複雑な内政なんだ」
「そう、だから2部は代表の下に多くの管理者がいるの。部隊同士でいがみ合ったりしないようにね。恐らくその管理者達の誰かが反乱組織に与している」
「「へぇ〜」」
どうやらメイリアも知らなかったようだ。何かを思い出したようにメイリアが口を開く。
「そういえば、あの、シシハナさんの家の事情とか、聞いちゃってもいいですか?」
「確かにそうだな。ビーストルに着いたら俺達も無関係ではいられないだろうからな。シシ、話せる範囲でいいんだ。今でなくてもいい。時間はたくさんある」
「……はい、少し私の中で整理してからお話しします」
「あんた達、っと、お邪魔しちゃったかしら?」
ヨルカ代表がルナンを引き連れて近づいてきた。
「ああ、大丈夫ですよ、代表。どうかしましたか?」
「なんか深刻そうな所悪いわね、ラハラ。もうすぐ出航みたいだから、私達はもう行くわ。本当にお世話になったわね。ルナンにもいい刺激になったみたいだわ」
「みんな気をつけてね。フィア、メイリアを守ってあげてね。メイリア、私のダーリンのフィアをよろしくね」
「うん、ルナンも元気で、って、はぁぁ!?フィアは私のダーリンだけど!?」
「こっちが恥ずかしくなるからやめてくれ……」




