12-4
――ここはどこだっけ。ああ、俺の部屋か。ベッドに本棚、テーブルにテレビ。あはは、散らかってるなぁ。窓から見える電柱、電線、隣の建物。この景色、懐かしいなあ。懐かしい?ああ、病院暮らしがもう長いもんな。あっ、この小説大好きだったなぁ。久しぶりに読み返そう。死んだらどこに行くのか。この小説みたいに転生するかも。そう思うと少し気が楽になったんだ。あれ、どこに行くんだ?体が思う通りに動かない。小説を読みたいのに……。ああ、そうか。これ記憶の中か。あれ、この記憶って――――
―――
――
―
「―ア?ねえ、フィア、大丈夫?」
ハッとなって周囲の状況を確認する。見慣れたメイリアの顔が携帯のカメラを覗き込んでいる。周りの人達も心配そうにこちらを見ている。ただ、テクノラ代表だけは険しい表情だ。
「えーと、何だっけ?」
「テクノラ代表がアウターローバの音声データを聞いて何か思う所はあるか、って」
メイリアが状況を簡単に説明してくれた。だけど聞かれた覚えは全くなかった。ここ数秒、もしかしたら数分、意識が途切れていたのかもしれない。音声データを思い出してみる。確かサーというノイズが聞こえてきて、それで……。何かが聞こえたけどそこから記憶がない。
「君にとっては刺激が強かったみたいだね。何か意識に変化があったのかな?」
「昔の記憶を見てました……。なんだかまるで映像作品を見ているみたいな感じで……」
「言語による記憶の想起、ね」
「テクノラ君、あんた何が言いたいの?」
「そうですよ、私達にもわかるように話して下さいよ」
2人の代表が口々に不満を漏らす。けどもうこの話しの行き着く先は予想できている、そんな感じもある。
「アウターローバが我々より技術的に優れてる部分、なんだと思う?」
テクノラ代表が質問を投げかける。おずおずとメイリアが手を上げて発言する。
「アウターローバは火を吹くのが得意な動力炉使ってます、よね?」
「あー、そうだね。核エネルギーの制御は大したものだ。他には?」
「おい、まさか無人機か?」
「そう、隊長さんが散々戦ってきたそいつら。何が操縦してるのかと言えばAIだよね。奴らのAI技術はウチらの遥か上だよ。濫觴の舟って聞いた事ある?クェルツ星団におけるアウターローバの最初の痕跡」
代表以外は知らないみたいだ。俺は聞き覚えがあった。ビーチェ星での代表会議。濫觴の舟、その技術に脅威を感じ連合軍が結成された。そんな話だった。
「その舟に使われていた技術の何が脅威だったか。それはたった1つのAIが舟の全ての管理を行っていた事。その分析能力、判断能力に当時の技術者達は度肝を抜かれたらしいよ。まぁ公式の記録では破棄された事になってるから、僕は見たことないんだけどね」
「つまり、テクノラ代表はフィアがアウターローバ側の者だと言いたいのですか?」
シシハナさんが怒りを滲ませながら静かに言った。それに対して代表は肩をすくめ、軽く首を左右に振り、否定の意思を表してから続けた。
「アインズみたいにアウターローバの密偵だ、なんて今更議論するつもりはないよ。それに報告によるとフィアの基盤は正真正銘クェルツ製だ。他の機体のAIとも全く違いは無い。うんまぁ、実を言うと僕の中でもまだ結論がでていないんだ。ただ、フィアとアウターローバはどこかで繋がっている。そしてその鍵を握るのがラシュメール家と濫觴の舟、そう考えてる」
「私の家族が……」
「最初の報告と繋がるんだけど、シシハナ、濫觴の舟が今どこにあるか知ってる?破棄されたと記録されてるそれ、ラシュメール家当主、君のお父さんが隠し持ってるらしいよ」
「なっ……」
シシハナさんが口を開けたまま固まってしまった。
「だから機密リストに入れられたって事ですかぁ。という事はツヴァイス代表もその事を知っているのですねぇ」
「知ってるどころか一枚噛んでそうね。はぁ、いろいろ衝撃的。フィアちゃん、大丈夫?」
「はい……。理解が追いついてないだけかもしれないですけどね……」
「ちょっと畳みかけ過ぎたね。後はもう仮定での議論しかできないし、ここらでこの話しは終わりだね。君の転生の真相はビーストルで確かめてきてよ」
「最後に、もう1度マゼンタヘッドの音声データを聞かせて貰えないですか?」
「フィア……。無理はしないで」
メイリアが辛そうに声を掛けてくれた。聞くのが怖い。でもこれだけは確かめたかった。
「うん、いいよ。じゃあ再生するね」
サーというノイズの音、その中から機械的な女声の合成音声が聞こえてきた。プツリと再生が終わる。
「あなたは、誰?」
「え……?フィア、いったいどうしたの?」
「そう言ってる。地球の言語でそう言ってるんだ」




