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中継基地ドミトリア。慌ただしく出航した港にまた慌ただしく帰ってきた。
「んーっ!帰ってきたねー」
メイリアが港に降り立ち、伸びをしながら辺りを見渡す。出立時と比べると人々が忙しそうに動き回っている。だが、足を止め、こちらのシャトルを見ながらひそひそと話しを始める人達もちらほらいた。
そんな人達に紛れるように艦長とヨルカ代表がメイリア達から距離を置いて何やら話し込んでいる。
「ほら、メイ。さっさと荷物をハロンナに運ぶぞ。しかし、この護衛官の機体はどうすんだ?本当に中にパイロットが乗ってんのか?」
「気配が全くしないですね」
ラハラとシシハナさんが何故か右腕が取り外されている護衛官の機体を見上げながら言う。
「隊長はルナンさんの事何も知らないんですか?ランさんみたいに名前だけ知ってるとか?」
「ああ、その名前は聞いたことない。だが、基地での戦いの話を聞く限り、心当たりがある。『嵐撃の幽鬼』。オールドネームの中には噂話から独り立ちした物や面白半分で作られた架空の物も少なくない。この名前はその中の1つだと言うも者もいれば実際に戦場で見たという者もいる。まさに幽霊のような存在だ」
シャトルでの移動は高速船と比べると倍近い日数がかかった。高速船にしなかった理由は大気圏突破が出来ない事とALOFの積載量オーバーのため。軌道エレベーター『シーゲート』を使って2機の高速船を使う手もあったが、世間を騒がせている身のため、遠慮してシャトルにしたのだ。
護衛官ルナンはその時間のかかった移動の間一度も姿を見せなかったのだ。
「おーい、あんた達、私とイナリハはコウコウ司令の所に行ってくるから荷物の積み替え終わらせときなさいよ」
代表がそう言って、凄く真面目で何処か気重そうな表情をして2人で歩きだす。
そんな2人をラハラ隊の面々が心配そうに見送っていると荷物を持ってシャトルから出てきたアンビーが聞いてきた。
「あれぇ〜、ルナンさん機体から降りたんだぁ。誰か姿見た?」
振り返るとコックピットハッチが開いている。中には誰もいない。
「フィア、カメラで捉えたりセンサーで検知したりしなかったの?」
「ああ、してないな」
メイリアが恐る恐る聞いてきた。残念ながら省電力モードにしていたのでその辺の機能はオフになっていたのだ。俺の言葉足らずな返答を聞いてメイリアが小さく震えた。
「は、はやくハロンナに行こうよ!」
護衛官の機体とそのパーツと思わしきコンテナだけ残して荷物の積み替えを済ませ、懐かしのハロンナのカフェスペースに戻ってきた。
「戻ってきたはいいけどこれからどうするんだろ」
「アウターローバの警戒度が上がっちゃったからね〜、このまま待機かなぁ」
「カルコゲンの部隊、損耗が激しいからニクトゲンが一昨日出港したらしいね」
「他のハロンナ乗員にも招集かかってるみたいだね。任務サイクル、2ヶ月どころじゃなく短縮されそうだよね」
メイリアがそう言いながら壁のディスプレイにドミトリアのテレビ放送を映した。
流れている映像はアインズの声明、それを解説して意見を述べているコメンテーター達。
世間はやはりこの話題で持ち切りのようだ。
AIの叛乱を危惧する声。軍の発表では星団と友好関係にあると擁護する声。真意を隠すためにそう装っているという声。そして、このタイミングでアウターローバの活動が活発化しているという声。
代表会議とだいたい似たような事を言い合っている。画面下の視聴者アンケートの棒グラフでは受容派を押し潰す勢いで危惧派が伸びており、ご丁寧に今の俺の立場を分かりやすく表してくれている。
「あ、ごめん。アウターローバの事、何かわかるかなと思ってテレビつけたんだけど」
「いや、勉強になるよ。今、世間にどう思われているのか。これからどう行動してどう変えていかなきゃならないのか。もっと具体的に考えなくちゃな」
「英雄的なエースになって世間の見る目を変える、か。代表の言う通り険しい道になるだろうね」
「でも、どっちにしても今の情勢的に戦いは険しくなっていくだろうからねぇ。アウターローバの大侵攻、それを止めたのは話題の新人類AIと美少女パイロット!話題性は十分だよねぇ。とっても危険だけど……」
「だけどやるしかない!フィアを世界に認めて貰うために!」
「私も手伝うよ。出来る事があったら何でも言って」
「私にもねぇ〜」
「ありがとう、みんな。でもどうか無理はしないでくれ」
「おい、お前達、大変だ!テレビを……観てたのか」
ラハラが慌てた様子でカフェスペースに顔を出した。と、同時にテレビに速報が入る。




