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「この宇宙にアウターローバ以外の新たな脅威が生まれた。代表達は事もあろうにこの脅威を受け入れようとしている。だから、我が護衛官達が汚名を被り、命を危険に晒してまでも証明したのだ!その脅威性を疑うのならこの戦闘をご覧いただきたい!意思を持ったAI。その驚異的な戦闘力を!そして想像して欲しい。このAIが我ら人間に牙を剥くその恐怖を!」
戦闘から数時間後。代表会議から見れば半日後の真夜中。また代表達が集まってアインズの声明映像を見ている。とは言っても代表全員が揃っているわけではないが。
ビーストル同盟宙域防衛部、通称2部のツヴァイス代表は最初の会議が終わって早々と出立したので、戦闘にも巻き込まれず、この場にもいない。
そしてアインズも、もちろんこの場にはいない。ルーデルさん曰く、厳重な警備の上、取り調べを受けているとの事。
30分余りあるアインズの声明を要約するとこうだ。
私アインズは最近クェルツ星団に現れた人類種を名乗るAIの存在を知り、恐怖した。その類まれなる戦闘能力は我々の脅威となる。なのに、代表達は呑気に看過しようとしている。だからこいつを破壊するために護衛官達をハンタースに潜り込ませ、ハンタースを裏で操って戦わせた。ハンタースと関係を持ったのはあくまでAI破壊のため、しかたなくだったから私は悪くない。ついでに護衛官達も。でも勝ち目薄いから護衛官達に命懸けで戦闘の様子を撮影してもらって星団中に広めるよ。
という事である。もちろんほぼデタラメだ。
「んー、アインズ氏には黒い噂があるのは知っていましたが、まさかこんな事をするとはねぇ」
映像を見終わり、苦い顔で言葉を溢したのはドライア代表だ。
ビーチェ宙域防衛戦線管理部、通称3部の代表。おっとりした話し方のアマナ人のオジサンである。しかし、話し方に似合わず、顔には眉間から左頬にかけて大きな傷痕があるうえに、なかなか筋肉質な事もあり、見た目の印象で言うなら強面である。
「自らを正当化しつつ、フィアの存在を悪意を持ってバラまく。もっと私達が早く行動していれば!」
「まさかこんな往生際の悪い事するなんて想像できないでしょ〜。我ながら扇動のプロとはよく言ったものよ。ほんっとムカつく……」
「この映像、通信ラグがあるので、今はまだビーチェ周辺の拡散だけに留まっています。ただ、いずれ星団中に広まってしまうでしょうね」
「あー、まぁ技術部と情報部で協力すれば映像の拡散は抑え込む事も出来るけど、人の口には戸が立てられないからね」
「躍起になって火消しをしていると民衆に思われれば、さらに印象が悪くなりますなぁ」
ドライア代表がチラッとこちらを見る。俺だけを見ているわけではない、今回はメイリアも同席しているのだ。
本格的な議論に突入する前に一言、言っておきたかったので発言してみる。
「あのー、発言してもいいですか?」
「どうぞ、フィアさん。今回は自由に発言していいですからね」
「ありがとうございます、ラブラリイ代表。えっとですね、確かに俺の存在を危惧する声が星団中で上がるかもしれない。でもだからって最初の会議で決まった事が無駄だったワケじゃないと思うんです。むしろ、あの決定そのままでいいと俺は思います」
「変わらず戦い続ける、と?」
「そうです、ルーデルさん。俺がこの星団にとって友好的だと信じてもらうにはアウターローバと戦うのが一番いいのではないでしょうか?」
「フェザー伝説……」
メイリアがぼそっとそう言った。
「フィアさんの決意は伝わりました。情報部としてもヨルカ代表の管理の下でアウターローバと戦っている、そう報道するのが一番収まりがいいと思います。何か意見のある方はいますか?いないようなので、次の議題に……」
そして、代表たちは次の議題、1部の代表をどうするか、という話題に入っていった。
これはドライア代表が1部と3部の代表を一時的に兼任、その間に相応しい新代表を探すという事で決定した。
メイリアと俺は会議の途中で退席許可がでたので格納庫へと帰ってきた。ハロンナの面々はホテルで待機を命じられているので誰もいない。
メイリアが俺の傍に居たい、と言ってコックピットの中に入ってきた。
「なあ、メイリア。会議中にフェザー伝説とかって言ってなかったか?」
「うん、言ったよ。私の好きな物語」
「ああ、あの本か。具体的にはどんな話なんだ?」
「ビーストルの化学者でビーストル初の獣人なの。非人道的だのそこまでして生きたいの
か、とか言われ放題だった。でも結果的にフェザー博士によって人間の生存域が拡大し、今では獣人は普通に受け入れられる存在となった」
「先駆者というやつだな。ああ、なるほど、俺に先駆者になれと言う事か」
「そういう事!世界初の友好的な人類種AI!フィアを誰もが認める英雄的エースにするの!」
「友好的、を強調するなら俺だけじゃダメだな。メイリア、一緒にエースになろう」
「ふふ、そうだね!実は戦闘が始まる前にヨルカ様とその事を話してたの」
「へぇー、ヨルカ代表はなんて?」
「いい考えだけど楽な道じゃない、って。でもアドバイスも貰ったよ。とにかく戦場で目立てって」
それからしばらくエースに登り詰めるにはどうすればいいかを2人でじっくり話し合った。
2日後、ビーチェ星から出立する日が来た。流石にいろいろあり過ぎて誰も名残惜しそうにしていない。
「いいエンブレムだな。フィー」
「メイリア、いいセンスしてるね」
「ねぇ〜、格好良くてカワイイよぉ〜」
「ふふ、ありがとう。メイリアが一生懸命描いてくれたんだ」
輸送シャトルに機体で荷物を積み込んでいたらみんなから注目を浴びた。
右肩のエンブレム。メイリアお手製のエンブレムである。
下地となる基盤を模した菱型、その上にハートマーク、さらにその上に1輪の白い花。
俺とメイリアをイメージしたエンブレムだ。
シャトルがマスドライバーで打ち上げられ、ビーチェ星の重力から逃れていく。重力センサーが0を表示した。宇宙に出て重力から解放された。
2日間、エンブレムの作成やカスタムプランの考案で忙しくしていたメイリア。今はコックピットの中ですやすやと寝ている。
この子とこの世界で生き残るためにこのエンブレムをエースの証とする。メイリアの寝顔を見ながらそう心に誓いを立てた。




