7-1
重力センサーがビービーと警告音を鳴らしている。機体が重い。重力に足を引っ張られているみたいだ。
「フィア、スラスターにエネルギーを集中!バランスを調整してみて!何とかして脱出しよう!」
「ああ、まだだ、まだ脱出できるはずだ」
メイリアの言う通り機体のほぼ全てのプラズマエネルギーをスラスターに回す。
四肢のスラスターやメインスラスター、ハイブーストのエネルギー配分や角度を調整して一番推進力が得られる所を探す。
それでも高度は上がらない。
「やめろ、シシ!一番推進力のあるメイがあの状態だ!俺達が言っても先に落ちるだけだ!何か他の方法を考えろ!」
ラハラがシシハナさんを必死に止めている。彼の言う通りだ。助けに来ても仲良く落ちていくだけ。
高度が落ちるにつれて出力が上がらなくなってくる。プラズマが薄くなってきているのだ。
組み付いてきた機体はすでに遥か下。大気圏突入の影響で機体が赤熱し、空中分解し始めている。まるで数秒後の自分を見ているみたいでゾッとする。
「聞こえますか、ハロンナの人達ですね」
突然聞いたことない年配の女性の声が通信から流れた。シャトルからの通信のようだ。
「救援ありがとうございました。そちらの機体は我々が回収します。大気圏突入に際して多少無理が出ますが、まだ助けられると計算結果が出ました」
確かにシャトルを見ると緩やかに旋回しながらこっちに向かおうとしているように見える。
「落ちかけている貴方、もう少しそのまま時間を稼いでください」
近づいてきたシャトルの後部ハッチが開く。先程の関節の大きいカスタム機が姿を見せた。
「そこの君、チャンスは1度きりだと思ってね。フックを投げるから何とかして掴んで」
今度は若い女性の声だった。あの機体のパイロットだろう。
「わかりました!お願いします!」
「いくよっ!」
2つのフックが俺達の頭上に向かって射出された。
自由落下によってゆっくり落ちてくるフックを掴んで鋼線を腕に巻きつける。
「よし!成功だ!」
「やった!回収お願いします!」
「良くやった!ちょっと手荒になるけど我慢してね」
彼女はそう言うと鋼線を掴み引っ張った。
機体がぐんっとシャトルの方に引っ張られる。腰部のウィンチも強力だけど、あの改造された腕の力が凄まじい。
シャトルの中に滑り込む様にして入り込む。
「急いで機体を固定してください。そろそろ突入体制に入らないと危険です!」
機内放送で切羽詰まった声が告げている。本当にぎりぎりの状態で助けてくれたのだろう。助けてくれた機体は壁際の機体用ハンガーで自身を固定し、俺達をその腕でギュッと抱きしめくれた。
「お待たせしました。こちらは大丈夫です」
「船体の安定を確認。シートベルトの着用をお願いします。突入開始」
シャトルが揺れる。重力センサーの値が急激に大きくなり、警告音がよりけたたましくなったので黙らせた。
「くぅっ、うっっ」
メイリアが苦しそうにうめき超えを漏らす。
機体の揺れが収まりメイリアが一息ついてから言った。
「あの、本当にありがとうございました」
「礼なら私じゃなくて代表に言ってあげて」
「代表……」
聞いたことがある。連合軍には7つの部があり、そのトップにいる7人の代表。
連合軍内の最高位の1人がこの船内にいる。
「ん?複座?もう1人いるの?」
しまった、普通に喋ってしまった。なんて説明しようか迷っている間に前方の客室から上品なおば様が現れた。
「その機体、イナリハが言っていた特別なAIを乗せた機体ね。私は連合軍の内部監査部の代表、ルーデルです」
「あっ、はじめましてメイリアとフィアです」
メイリアが緊張した面持ちで急いで機体から降りて挨拶した。
カスタム機のパイロットも降りてくる。
機体のイメージとは真逆な、長い金髪をハーフアップにしたスラッとした可憐な女性だ。耳が尖っている。いわゆるエルフ耳だ。初めて見た、エルフィン星人の特徴だ。
「ふぅ、私はランフェン・ランファン。ランでいいわ。お互い命拾いしたね。今回の事はこれで貸し借りなしね。で、特別なAIって?」
ルーデルさんが手短に説明した。どうやらこっちの事情はかなり正確に把握しているみたいだ。
「ふーん、今回の鍵を握る2人って事ね。会議が終わるまでの間、また協力する事もあるだろうから、よろしくね」
とりあえずハロンナのみんなとは当初の目的地である連合軍本拠地であるイワハ基地で合流する事になった。到着までの間、メイリアはコックピット内にいる事を選んだ。
「協力者って凄い人だったんだね。緊張しちゃった。ランさんも素敵な人だったね〜」
そのランさんは格納庫の窓辺に立って悲しげに外を眺めている。明るく振る舞っていたけど、ついさっき仲間を2人失ったんだよな……。
反乱組織の危うさをこの身で実感して、怒りが込み上げてきた。
「なんとしても今回の作戦、成功させよう」
「うん、そうだね。それと、予定とかなり違っちゃったけど、フィア、ビーチェ星にようこそ」
窓の外には真っ青な海が広がっていた。




