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ふー、とラハラ隊長が目を瞑り、安堵のため息をついた。俺も安堵のため息をつけるなら、ついていただろう。
まだ完全に身の安全が保証されたわけではない。だけど、一時的なものであれ、ここに居て良い、歓迎する、と言われたのは本当に嬉しかった。
「君の言葉からは嘘は感じられなかった。1つだけいいかな?君は人なのかAIなのか、あるいはその両方として生きるのか。この世界でどう生きるのか、自分の中ではっきりとした答えを出しておいた方がいい」
はぁ、と気の抜けた返事しか出来なかった。
いつだか自分の中で湧き上がったあの疑問。一度は自分の中に沈めたそれが、またぶくぶくと音を立てるようにして浮き上がってきたからだ。自分は何者なのか。
「それにしても、ラハラもフィア君の事を随分と気に入ったみたいだな」
え?そうなの?突然の朗報に暗い思考が鳴りを潜めた。
「そんなことは……。いや、そうだな。イナ相手に誤魔化しても無駄だな。何度も部下を救ってくれたんだ。気に入りもするさ」
「ラハラ隊長ぉ」
「おい、変な声だすな。今更だが、この人相手に嘘はつかない方がいいぞ、異常なほど鋭いんだ」
「ふふ、お前の嘘も数え切れない程見破ってきたからな」
「2人は昔からの知り合いですか?」
どことなく2人の間からは数年どころではない付き合いの長さを感じたのだ。
「ああ。面白い話を聞かせてあげよう。ラハラと始めて会った時の話だ。ラハラがまだ15歳、私がまだパイロットで隊長をしていた頃だ。私が駐留中の基地に、こいつがいた学校の生徒達が見学に来たんだ。そのタイミングで、運悪く反連合組織が基地に攻撃を仕掛けてきた。こいつは、皆を守る!、とか叫んで近くに駐機してあった機体に勝手に乗り込み、マニュアルを読みながらの戦闘で2機撃破したんだ」
なんという主人公ムーブ。隊長は勘弁してくれとばかりに顔を手で覆っている。
どうやらそこで艦長がラハラ隊長をスカウトし、2人はそれからの付き合いらしい。
しばらく和気あいあいと雑談をしていたが、艦長宛に連絡が入ったのをきっかけにお開きとなった。
廊下に出て隊長が言った。
「な?悪いようにはならなかっただろ?さぁ、早くメイに報告しなくちゃな」
「その……。ありがとうございました。隊長のおかげで道が開けた気がします」
「気にするな。それとラハラでいいぞ。フィアは部下ではなく協力者という立場になるんだ。気楽に接してくれ。俺も親しい人はあだ名で呼ぶんだが、なんだろうな、フィ?フ?フィー?アー?ィー?」
「あははっ、好きに呼んでください、ラハラ」
メイリアは格納庫にいた。格納庫の隅に座って自分の機体をぼっーと眺めていた。
機体の整備を手伝いながらチラチラとメイリアを心配そうに見ていたシシハナさんが、俺達がメイリアに向かって歩いている事に気づき、同じようにメイリアの側へと歩いてきた。
「待たせたな、メイ」
携帯を差し出しながらラハラが声をかける。
「フィアは?」
「心配かけたな、メイリア。ひとまずは大丈夫だ。艦長から乗艦許可が下りたよ」
ジャラジャラとした携帯をラハラの手から奪い取り、抱きしめるように胸元にぎゅっと押し当て、すすり泣き始めた。整備班が何だ何だとざわつく中、2人が優しい顔をしてメイリアを見守っている。
それから程なくしてだった。
携帯を元の姿に戻しているメイリアとシシハナさんに艦長との会話の内容を伝え終わり、次は整備班の人達に挨拶をしようとしていた時だ。
艦内放送が鳴った。
「艦長のイナリハだ。先の任務、みなご苦労であった。応援を要請しておいた戦艦カルコゲンが到着した。少々早いが哨戒任務を引き継いでくれるとの事だ。引き継ぎが終わり次第、我々はまず中継基地ドミトリアへと戻る。その後、一部乗員はビーチェ星の中央拠点へ向かう。約4ヶ月間の任務、重ねてになるがご苦労であった」
うぉー、と整備班から歓声が上がり、メイリアも肩の荷が降りたような顔をした。
「今回の哨戒はなかなかハードだったね。いろいろな事が起こったし。メイリアもフィアの挨拶周りは後にして、まずは部屋で休んだら?」
「そうだな、そうするといい。だが、基地に着くまでは完全には気を抜くなよ」
「そうですね、そうさせて貰います!」
少し元気を取り戻したメイリアが2人にぺこりと頭を下げ、整備班の人達に手を振り、自室へと向かって歩きだした。
自室へと戻る廊下の途中、メイリアが話し始めた。
「フィア、考えがまとまったよ。まずは艦長が言ってた拠点に戻るまでに、上層部がフィアの安全を保証してくれるための策を考えなくちゃね!」
「ありがとう、そうだな。だがあんまり根詰めるなよ?前の訓練みたいに数時間ぶっ続けで籠もって考えるような事は……」
メイリアが携帯を高く掲げ、携帯のカメラレンズを見つめながら言った。
「大丈夫!今度はみんながいるから!私達だけで悩まなくていいんだよ!」
メイリアの言葉にハッとする。確かにその通りだった。その言葉によって、一筋だった希望の光が幾重にも射し込む光の束となった気がする。そして、世界が今まで以上に明るく色付いて見え始めた。
レンズを見つめるメイリアの顔には眩しいくらいの満面の笑顔が戻っていた。




