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4-3

「ラハラ・ラインラーク、34歳。今、艦長室へ向かって白く真っ直ぐな廊下を足早で歩いています。何故足早か?それは今、彼の手に真っピンクのカバーにリボンやら可愛らしいストラップやらがじゃらじゃらついているデコられた個人用携帯端末が握られているからである。そう、恥ずかしいから足早なのである!」

 

 ミシッと携帯がなる。

 

「あ、ごめんなさい。握りつぶさないで」


 普段はこんなに派手な携帯ではないのだが、隊長に渡す前に嫌がらせ目的でメイリアがデコったのである。ストラップが邪魔でポケットにも入らないので手に持っているのだ。


「緊張を紛らわすためというか、喋ってないと不安で不安で」


「安心しろ、艦長ならきっと悪いようにはしないはずだ」


「いやいや、艦長ってさっき通信で『お前達はそこで塵になれ』とか言ってた人ですよね?」


「言ってないしそんなドスの効いた声でもない。あれはあの2人の実力を信じての時間制限だ。事実2人は時間が余るほど余裕で目標を達成した」


 そんなの結果論だ、と言おうとした所で近くの扉からメイリアと同い年くらいの女の子が出てきた。ショートカットボブで前髪のつけ根からいわゆるアホ毛が2束出ているおっとりした印象を受ける子だ。隊長の手元の携帯をチラッと見てから言った。


「あ、隊長。先程の任務、お疲れ様でしたぁ。索敵、遅くなりすいませんでした〜。お怪我が軽くて良かったです。あれ、今誰かと話してなかったですかぁ?」


 喋り方もおっとりしている。どこかで聞いた事ある声な気がする。


「え、あ、あぁ、いや、これから艦長に報告があってな。どう伝えようか悩んでたら口に出してしまっていたようだ」


 そうなんですかぁ、頑張ってくださいねぇ、失礼しますぅ、と言ってまた携帯をチラ見してから隊長と反対方向へと歩き始めた。

 

 ミシッと携帯が悲鳴を上げる。


「おい、なんで黙る。俺が変な奴みたいじゃないか!」


「俺が喋ったらそれはそれで面倒になるんじゃ……」


 まぁ、そうか。と納得してまた歩き始めた。


「ところで、名前はフィアでいいのか?前世の名前もあるんだろ?」


 言われてみればメイリアからフィアと呼ばれる事に全く違和感なかった。今更だけど、フィア、か……。


「フィアでいいですよ。この世界ではフィアの方がしっくりくる」


「ふむ、そうか。さて、着いたぞ」


 他の部屋の真っ白な扉よりもほんの少し飾り気のある扉の前まできていた。隊長が扉をノックする。

 

 心の準備もできてないのにご対面かぁ。尋問が始まるのかなぁ。


「入ってくれ」


 冷静で落ち着いた声が聞こえてきた。扉がスライドして、隊長が部屋へと入っていく。

 モニターが並んだデスクの前に背の高い男が立っていた。

 細長く、もふもふした耳が側頭部から天井に向かってピンっと伸びていた。せり出した鼻。その横には左右それぞれ3本のひげが伸びている。艦長は狐だった。


「座ってくれ。その携帯の中にいるのか?」


 近くのソファに隊長を座らせて、テーブルを挟んだその向いに艦長も座った。携帯スタンドをスッとポケットから取り出して、テーブルに設置する。そこに隊長が携帯を置いた。


「始めまして、ハロンナ艦長のイナリハ・メドゥ・グリンフィルトだ。大体の話は報告で聞いているよ」

 

「こちらこそ始めまして、フィアです」


 何を言っていいのかわからず、言葉に詰まる。


「ふふ、本当にいるのだな。世界にはまだまだ未知が溢れてるな。まずは、隊の皆を、いや艦の皆を守ってくれた事に感謝する。ありがとう。さて、私からは2つほど質問をさせて頂く」


「あ、いえ、当然の事をしたまでです。何でも聞いてください」


 通信の印象とは違う柔らかい印象を受けて戸惑った。


「君の身に起きた事象についてはここで質問しても仕方なさそうだ。だから、君個人を知るための質問になる。まずは、フィア君、君は宇宙が好きか?」


「え?宇宙ですか……。どうだろう。前の世界では宇宙なんて限られた人しか行けない遠い所で、あまり意識した事無かったです。でも、突然こんな事になって、宇宙を飛んでると、怖さもあるけど綺麗で神秘的で心を奪われる瞬間があります」


 予想外な質問に戸惑い答えになってないような返答をしてしまった。


「そうか、神秘的か。私は宇宙がとても好きでね。まさに君が言った宇宙の神秘さに心を奪われているのだよ。さて、次の質問だ。今後も我々に協力してくれるだろうか?もし協力してくれるとしたら、戦う理由は何になる?」


「もちろん協力します。戦う理由は……。メイリアと話していて1つ目標が出来たんです。あの優しい子に平和な世界を見せてあげたい。世界の何処かでは争いが起こっているかもしれない、メイリアが平和だと言った前の世界もそうだった。でもせめてメイリアが戦いの事を気にしなくていいような……」


 自分が熱弁している事に気づいて恥ずかしくなり止まってしまった。


「ふふ、ありがとう。思いは十分に伝わったよ。最終的な君の行き先は私には決められない。これからこの船は連合軍の基地へと向かう。そこでまた上の決定を待つことになる。少なくともそれまでの間は、君を信頼し、この艦に歓迎しよう。これからもよろしく頼む」

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