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何も無いような宇宙空間にも実はいろいろな物質が浮遊している。特にこの世界の宇宙にはプラズマが多く漂っていて、電子機器やレーダー、通信派に影響を与えている。
それらは例えば弾丸を飛ばしたとしても同じ様に影響を与える。プラズマが発する磁界や電界に影響されて、距離が開くほど狙った所への着弾は難しくなる。だからさっき金角が撃った砲弾もハロンナへは当たらなかった。
そんな宇宙での超遠距離射撃。どうするのか。その答えは単純であった。
「敵性機体の排除及び全機安全圏への到達を確認した。秒読み前倒しだ。加速荷電粒子砲、発射」
ジェネレーターから放たれた光がプラズマのリングを通って加速。さらにリング自体が光にまとわりつく様にして飛んでいく。
光は抜け殻のように動かない金角のレッドアイを飲み込み、そのまま俺達の真下を一瞬で通り過ぎていった。通過とともに凄まじい磁界と電界を検知。
ビーム自体に環境に左右されない程の速度と電磁界を付与して飛ばす。超遠距離射撃のカラクリはそういう事のようだ。なんという力技。
遠くの方で爆発の光が微かに見えた。
「目標に命中。破壊を確認しました。みなさん、お疲れ様でした」
「ふー、ひとまず任務完了だな。さて、話を聞かせて貰おうか?」
ラハラ隊長がメインモニターから目を離し、メイリアの顔を見て言った。メイリアは涙を溜めた目で隊長を見返す。
隊長がさり気なく通信マイクをオフにした。
「この戦いは見ておいた方がいい、か。いい事言うな、あんた」
あ、サブモニターに映した事バレてたか。もう言い逃れは出来ないな。
ふと持ち帰ろうと近くまで持ってきていた赤角が凄い熱量を出している事に気づいた。爆発する!?
咄嗟に赤角を蹴り飛ばし、距離を取り、コックピットを守るように後ろを向いた。
かなり大きな火球が発生。赤角の破片が飛散、装甲にぶつかる音が機内に響く。機体への目立った損傷も無く、メイリア達も無事だ。
「危なかった。機能停止後、自爆するようになってたか……。今機体を動かしたのは?」
「俺です。始めまして、になるのかな」
「フィア!」
「いいんだ、メイリア。どうかメイリアを責めないで欲しい。俺が勝手にここで目覚めただけなんだ。それにメイリアの優しさを頼って、みんなに黙っていて欲しい、だなんて言って、結局迷惑をかけてしまった」
「そんな……。迷惑なんかじゃないよ!フィアは命の恩人なんだよ!」
「あぁー、ちょっと待ってくれ。なんか完全に俺が悪者になってるな。お前達を糾弾しようってわけじゃないんだ。彼が俺達に敵意が無い事はさっきの爆発とこれらの行動履歴から伝わってきているよ」
隊長はメイリアを慰めるように彼女の頭をぽんぽんと叩きながら続けた。
「あんたはいったい何者なんだ……?目覚めたとは?」
「せっかくだ、シシハナさんにも通信を繋いで聞いてもらってもいいかな?そもそも、俺にもよくわかってないんだが……」
俺は目覚めてからの事をハロンナへの帰路で隊長達に説明した。
「信じられない、が信じるしかないな」
「私はもう何がなんだか。でもここ2回の出撃で、メイリアの動きに不審な点が多いのは私も感じてた。さっきの通信で隊長から日常的にセクハラ被害を受けてるのでは、と心配になりましたよ。隊長はいつ気づいたのですか?」
「おまっ、何言ってんだ……。はぁ、前回の出撃、メイが到着した時に俺のAIに変なメッセージが届いてたんだ」
あ、確かに送った気がする。
「それからあの大活躍だ。念のために帰艦後の再アップデート中にいろいろ探らせてもらったよ。結果、不審な点は見られなかった、が、変なメッセージの送信履歴もなかった。となると高度な隠蔽が行われたのではないかと考えたわけだ。外部からの協力者とかを疑っていたが、まさかAIに自我が宿ったなんて思いもしなかった。さて、艦長にどう報告したものか」
「モラハラ」
「えっ?」
メイリアの突然の発言に隊長が驚いた声を出す。
「モラハラ隊長!モ・ラハラ隊長!!精神的苦痛です!コックピットから出て行ってーっ!」
「さっきからお前達酷くないか?俺の精神はデリケートなんだぞ?あんまりイジメないでくれ」
「ふふ、面白い人達だ。メイリア、俺なら大丈夫。ずっと隠れているのだって辛い。先に進むためにもこれでいい気がしてきたよ」
本音半分の強がり半分だった。そりゃあ、本当は不安に決まってる。研究所送りかスクラップ行きか……。
もうメイリアと宇宙を飛べないかもしれない。そんな思いを抱えながら、戦利品のカスタムブースターを持ってハロンナへ帰艦した。