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「隊長、気になる事って私達が追ってきたレッドアイ達の事ですか?」
隊長を先頭に右後方にメイリア、左後方にシシハナさんがそれぞれ距離をとりながら、ハロンナに向けて高速巡航形態で飛んでいる。
「そうだ。あの2機が出てこなかった。あの衛星から逃げたならいいんだが、ハロンナを狙って俺達が来た方向を探索しているとしたらかなりマズい」
「でも、隊長、私達が来た方向へ向かったとすれば、すれ違って気づくのでは?」
会話を中断されて少しふくれ面のメイリアが質問した。
「さっきの破壊されたクーリアを思い出せ。C装備の装備品は?」
「あ、ステルスコートブランケット……」
ステルスコートブランケットは電波や機体から放出される放射熱などを吸収するコーティングがされた黒い布である。レーダーに探知されにくくなるのと、暗い宇宙空間で黒い布を被れば見つかりにくくなる、という代物である。
「奴らがそれを利用していると?」
「あの機体が元々装備してなかったという可能性も十分あるが、奴らが利用していないとも言い切れない。もしすると解析して模造品を作り出しているかもな。誰も行きの道すがらにステルス探索なんてしてないだろ?」
あれ、俺何か見たような……。メイリアにそっと文字で伝える。
「えぇええ!!」
「どうした!?」「どうしたの!?」
「あ、え、いえ、わ、私行きの途中、プラズマ雲海を背に黒い塊が反対方向へ流れていくのを見たのを思い出しましてですね……」
すまん、メイリア。俺の報告の怠りの罪を被らせてしまった。
「ほぅ?そんな物が見えたのか」
ラハラ隊長の声色には訝しむ感じがあった。まさか信じてない?わけでもなさそうだ。
「悪い予感的中の可能性が高まったわけだ。急ぐぞ!」
「こちらラハラ、ハロンナへ、周囲にステルスで隠れている敵がいないか索敵、願う」
ハロンナが遠くに小さく見え始め、通信範囲に入ると同時に、通常形態へ移行しながらラハラ隊長が言った。
「了解しました。索敵を開始します。それと、みなさんお疲れ様でした。マーカーは問題なく捕捉しています」
いつもの発進時のオペレーターちゃんがそう言うやいなや強力なレーダー波を感知。ハロンナから発せられたものだ。
「各機警戒して下さい!隊長の左前方、2機います!」
通信とほぼ同時に宇宙空間がめくれ上がるようにして、レッドアイが2機現れた。右側頭部に3つの金の角、左肩に2本の赤い角。赤角の右腕は体躯に似合わない、間に合わせ感のある細い腕がついている。間違いなく奴らだ。ギラついた赤い目が威嚇するように光った。
奴らの機体温度が低い。どうやらブランケットの模造品を使っていた様だが、通常稼働では機体の放射熱を隠しきれなかったのだろう。スラスターも使わず慣性遊泳でここまで来たとみえる。そのおかげで、あと一歩の所で追いつくことができた。
姿を現すと同時に、赤角が大口径のガトリングガンを先頭にいたラハラ機に向けて撃ってきた。
「くそっ!シシ、ハロンナを守れ!もう1機がスラスターを吹かしている!」
距離が近すぎた。回避しきれずに左腕に被弾。弾丸の威力に腕が千切られるようにして飛んでいく。衝撃で機体もバランスを崩す。そこへ続けざまに容赦なく弾丸が飛んでくる。器用に回避行動を取るも、徐々にラハラ機の手足が抉られていく。
すでにシシハナさんは動いていた。
金角はハロンナに向かい始めていたがまだ速度が出ていない。ステルスのために動力炉に火を入れてなかったため、すぐには動けなかったようだ。レッドアイの全力推進にはクーリアは追いつけない。つまり、火が入り切り、速度が出る前に止めなくてはハロンナが危機に陥る。
仲間の被弾による警告音がコクピットに響く。
「フィア!私達は赤角を!隊長を守らなきゃ!」
「ああ、そうだな。奴と決着をつけよう!」