16 底辺駄王子レイモンドの冒険
パイロット版プロローグ二話分掲載中
【あらすじ】
スラヴ王国にその人有り!
悪い意味でユーラジアン大陸全土で有名な駄王子レイモンド!
傲慢で自己顕示欲が強く、もちろんプライドも異常に高い。
王族以外はみんな下郎!
気に入らない者がいたら、例え女神の使徒だろうが廃除する!
そんな頭オカシイ系王子のレイモンドがある日素晴らしい政治プランを思いつき、意気揚々とお茶を嗜む王族ファミリーの前でプレゼンした。
その場にいた全ての者がお茶を吹きだし、女王ジアーナは大激怒!
妹のアクサナはレイモンドを殺さなかった事を酷く後悔し、アクサナの相談役達はレイモンドの暗殺計画を練り出す始末。
そんな中で、これまたユーラジアン大陸中に愚王と名高いアドリアンがレイモンドを説き伏せた。
「おまえはまず自分を客観的に見る目を養え!その上で功績を積むのじゃ!さすればおまえの話に耳を傾ける者も現れるかもしれん。今のおまえでは家族以外は誰も耳を傾けん。いや、もはや家族ですら聞く耳を持たぬものと思え!」
こうしてレイモンドは強制的に城を追い出され、まずは冒険者として功績を上げる事になった。
果たしてレイモンドは無事功績をあげて凱旋することができるのか!?
駄王子レイモンドの冒険の旅が今始まる!
ティラム逃亡記の問題児、スラヴ王国第一王子レイモンドが主役の物語です。
元々はティラム逃亡記本編の幕間閑話として数話リリースの予定でしたが、いざ書き始めると結構な長編になりそうな感じでしたので、本編への掲載を見送った作品です。
いつか余裕のあるときに連載化するかもしれません。
登場人物
レイモンド・スラージュリア
「スラヴ王国第一王子」
思慮に欠け自己顕示欲が強い単純な王子さま。
ティラム逃亡記本編偽ガバナス事件で父共々盛大にやらかし駄王の名を国内外に広くし示した。
一時期その件で女王ジアーナの怒りを買い、王族特権を剥奪されレストランの皿洗いにまで身を堕としたことも。もちろん反省の色は全くない。
ジアーナ女王、アドリアン王の命令で、供の女性冒険者達と冒険の旅に出る。
シーナ
「魔術士」
ピンクブロンドが美しい短髪の魔術師。
勇者ヨシュア・リースティンの大ファンで、朝の訓練時にちょくちょく混じっている。
大魔術師ダーシュの愛弟子。ジアーナ女王直々の必死のお願いでレイモンドの冒険者パーティーに入る事に。
2級ハンターにして2級冒険者
ケス
「魔法剣士」「弓士」「ヒーラー」
緑銀髪の非常に美しいエルフの弓使い。
シーナの親友で共に冒険者として活動していた。
やはりレイモンドの冒険者パーティーに入ることに。
2級冒険者
ワナ
「ポーター」「会計士」
可愛らしい猫耳獣人少女で会計士・商業簿記の資格を持つ。
ポーターとしては「脚力強化魔法」のスキルを持ち、悪路での行軍もものともしない。
数字に強いのでポーターの仕事以外にもパーティーの資金管理の役を担う。
ジアーナ・スラージュリア
「スラヴ王国女王」
スラヴ王国の最高権力者にしてレイモンドの母親。
パーフェクト超人と言っていい程の多方面に才能あふれる賢母。
アドリアン・スラージュリア
「スラヴ王国国王(ジアーナの代理王)」
ジアーナの夫で思慮を放棄した浅慮な国王代理。
第二章で偽ガバナス事件で息子共々盛大にやらかし国内外に愚王の名を広めてしまった。
出身はアドレア連邦のインパハピネス。
インパハピネスの王子だったが、敵対派閥の工作により王族ファミリー共々スラヴ王国に亡命。若かりし頃のジアーナと恋に落ち目出度く結婚、その後現在の地位に座る。
愚王ではあるが非常に子煩悩で優しい一面があるが、反面平民に対してトラウマを抱えており平民上がりの者は、例え勇者・聖女であっても徹底的に毛嫌いする。
グラフィーラ・スラージェリア
「スラヴ王国第一王女」
スラヴ王国ナンバーワンの美貌を誇る王女様。
優れた魔力を持つも妹アクサナに僅かに及ばず、王位継承権をアクサナに譲る。
本人には政治的野心は全くなく、ジアーナとアクサナのサポートに徹している。
性格は天真爛漫なオットリ型だが、線引きを超えると平気で手が出る。
アクサナ・スラージュリア
「スラヴ王国第二王女にして王太女」
若き愛国者で女王の不在中の番を必死でしていた苦労人。
前任者であるエウロパ12世の後任として、2年前より異世界人召喚事業の長に着いた。
学園時代、平民の親友が召喚勇者に集団魅了され壊された経験があり、彼女を歪める原因となった。
好きな飲み物は砂糖大量の激甘紅茶ジョッキ入り。
アビゲイル・ライカー
「アクサナ付き宮廷魔術師兼相談役」
アクサナの教育係として彼女の幼少より王宮入りする。
洗脳のエキスパートで強力な洗脳術(魔術・話術・性体術)を駆使し対象者を支配下に収めることを得意とする。
2年前よりアクサナが異世界人召喚事業の長に就任したときから彼女も引き継いで異世界人を召喚する役目を受けた。
ベティ・ライカーの破滅の予言を確実にする為の「破滅の導き手」の力を持つ。
ベティ・ライカー
「アクサナ付き宮廷魔術師兼相談役」
アビゲイル・ライカーの妹。
アクサナの教育係として彼女の幼少よりアビゲイルと共に王宮入りする。
「破滅の未来」を視ることができる預言者。
ステンラ・アクター
「アクサナ専属諜報員」
黒基調に縦一文字の赤ラインが映える制服を身に纏う、アクサナ直属の有能な美人筆頭諜報員。
ヨシュア・リースティン
「真正勇者」「スラヴ王国騎士団第三独立小隊 副隊長」
スラヴ王国最強の勇者。
勇者の魔法以外で炎撃系の魔法と勇者限定の錬金術(聖武器限定)もマスターしている。
気さくなイケメンで庶民からの人気は高い。
冒険者デビュー前のレイモンドを徹底的に鍛えてトラウマを植え付けた。
聖女カーシャ・リースティンとは夫婦。
カーシャ・リースティン
「真正聖女兼聖騎士」「スラヴ王国騎士団第三独立小隊 隊長」
スラヴ王国最強の戦う聖女。通称は雷帝。
聖女の魔法・聖騎士の魔法だけでなく、雷撃系の魔法も得意で、雷を剣に宿らせて敵を打つ魔法剣士の一面を持つ。
冒険者デビュー前のレイモンドを徹底的に鍛えてトラウマを植え付けた。
セロン・ブラデゲル
「スラヴ王国王都冒険者ギルド ギルド長」
ジアーナ女王からレイモンド王子を押し付けられ難儀させられている苦労人。
【パイロット版プロローグ二話】
001-1 プロローグ(前)
ここはティラム世界のスラヴ王国王宮のテラス。
王族と関係者達が、食後の御茶を嗜み安らいでいた。
しかしその安らぎをぶち壊すものが……
「母上!母上はおられますか!」
「なんですかレイモンド、騒々しい……」
「はい、我が王国を盤石とするために、お願いがあってまいりました!」
スラヴ王国第一王子レイモンド。
駄王子、やらかし王子と国内外で嘲笑されているプライド高き男だ。
昼食を終え、テラスでアドリアン王とともに、まったりとした一時を楽しんでいたジアーナ女王(国主)。
少し離れたテーブルでは妹のアクサナ王太女(第二王女)とグラフィーラ第一王女、それにアクサナの相談役であるアビゲイル、ベティ、アクサナ付き筆頭諜報官ステンラも休憩している。
彼らは皆、昼の休憩時間が終われば激務が待っている。
しかしレイモンドだけはこれといった仕事は無い。
一応の肩書は【スラヴ王国第二特殊部隊隊長】とはなっているが、隊員達はレイモンドのイエスマンと除隊予備軍のおちこぼれ部隊だ。
元々は精鋭部隊の一つだったらしいのだが、レイモンドが赴任したとたん劣化させてしまったらしい。
なので特にやる事がなく、今のレイモンドは宮廷ニートと言っていいほど暇を持て余しているのだ。
そんな暇人のお願いなどロクなモノではない。
誰もがそう思いもしたが、そこははやり血のつながった親子。
ジアーナは話だけは聞いてみる事にした。
「話してみなさい」
「はい!アクサナを僕の妻にして下さい!」
レイモンドはバシッと言い切った!
同時に――
― ブーーーーーーーーーー!
ジアーナ、アドリアン、アクサナ、グラフィーラ、アビゲイル、ベティ、ステンラ、その他、その場にいた全員が盛大にお茶を吹いた。
王国一の美女、グラフィーラ第一王女などは鼻の孔からまで紅茶を吹いてしまい、顔面が大惨事になっている。
「な、なななななな!?」
アクサナ王太女(第二王女)は嫌悪感を露にし、アビゲイルの背中に隠れた。
「何を言っているのですか、あなたは! 実の妹を妻にするなど正気ですか!!」
ジアーナは一気に怒りが沸点に到達!周囲の目など気にもせず大声で咆えた!
「待ってください!これには深い事情があるのです!」
深い事情と聞いてジアーナの怒りが一旦収まった。
「事情?そ、そうですよね、何か特殊な事情でもない限り、そんなおバカなことを言う訳がありません。宜しい、続きを聞きましょう」
ジアーナも周囲の人達も、「そりゃそうだ、何か裏があるに違いない」とレイモンドの言葉を待った。
「はい、これはアクサナにも関係する話です。僕の見る限りアクサナに政治手腕はありません。将来アクサナが女王に即位すれば、必ずやこの国は滅びてしまうことでしょう!」
アクサナは、ジアーナとグラフィーラが長期外交中、ジアーナにかわって実質国を回していた才女だ。
政治手腕が無いどころか、実は非常に政治手腕に長けた政治巧者なのだ!
ちなみにスラヴ王国は女性世襲制。次期女王はアクサナ王太女(第二王女)であることがすでに決定している。
だから誰もが“はぁ?こいつ何言ってんだ?”的な目でレイモンドを見るが、とりあえず話の続きを聞く。
「そこで僕は思ったのです。それならば政治巧者の僕がアクサナを娶り、僕がこの国を率いれば良いのだと!」
レイモンドは演説するかのように力強い口調で言い放った。
「…………」
「その上で隣国東スラヴ帝国のエリザヴェータ皇女を側室に迎え入れ、スラヴ王国がユーラジアン大陸の半分を掌握するのです!」
「…………」
「しかしながらここで一つ些細な問題がございます。残念ながら我が国では三等身以内の婚姻を認めておりません。このためアクサナを妻に娶ることが出来ないのです!」
「…………」
「そこで母上にお願いです。この愚か極まりない法律を、母上のお力で撤廃して頂きたいのです!お願い致します!」
レイモンドが言い切った後、その場は水を打ったようにシーンと静まり返った。
やがて――
「こ……」
「こ?」
「ここまでおバカだったとは……ねえ、アディ……私、育て方を間違えたのかしら……」
「おまえだけのせいではないよ……初めての子だからワシも甘やかしすぎたのかもしれん……」
ジアーナとアドリアンは二人寄り添い“およよ”と涙する。
愚王と名高いアドリアン王も流石にこれはないと思ったようだ。
「やはり偽ガバナス事件の時殺しておくべきだった……」
アクサナはアビゲイルの背中に隠れながら、偽ガバナス事件の時レイモンドを殺さなかった事に酷く後悔した。
偽ガバナス事件とは、宰相のガバナスにすり替わった工作員により、女神の使徒である真正勇者・真正聖女・真正聖騎士を抹殺しようとして、逆に国が滅びかけた大事件である。
この大事件により、スパイに唆されたアドリアンとレイモンドは愚王・駄王子の烙印を押されてしまったのだ。もはや国内外での信用はゼロである。
「と、とりあえず私はノータッチで」
まだ少し鼻から紅茶が垂れているグラフィーラは、無視を決め込むことにした。
「殺りますか……」
「お姉さま、ここではマズいです……」
「私も手伝わせて下さい……」
ヒソヒソとアビゲイル相談役、ベティ相談役、ステンラ諜報官がレイモンド暗殺計画を練り始めた。
「みんな、一体なにが気に入らなくてそんな態度を取るんだ!?……はっ!そうか、わかったぞ!?」
レイモンドは何か気が付いたらしい。
「一応聞いてみましょう、お話しなさい……」
「東スラヴ帝国のエリザヴェータ皇女は、何もせずともすでに僕にメロメロのはずだ!だとすれば僕が側室にすべきは南方のアドレア連邦!差し当たってインパハピネスの姫君でも側室にとりましょうか!いやぁ、僕としたことがこんな些細なミスをするとは」
なおアドレア連邦に属する小国インパハピネスはアドリアンの母国である。
彼は敵対派閥の工作に会い、インパハピネスを追放された王子であった。
それを当時親交があったスラヴ王国が亡命者として受け入れ、ジアーナと恋仲になり目出度く結婚、スラヴ王国の王となったのである(と言っても実権は女王であるジアーナが持つ)
つまりレイモンドが側室にしようと思ったインパハピネスの姫君とは、アドリアンにとって憎き敵の愛娘なのである!
そんな事とは露知らず照れ隠しするレイモンド。
しかしそんな照れ隠しするレイモンドを見て、ジアーナとアドリアンは怒りを通り越して、激しい悲しみに襲われた。
「やはり親として決断するべきかしら……」
「待てジアーナ、処刑だけは勘弁してやってくれ!」
「でも私には、この子の未来が見えない……」
レイモンドは持論を述べた事で称賛と拍手喝采間違い無しと思っていたのだが、想定外の反応に困惑する。
「父上、母上、何を泣いておられるのですか?皆も、なぜそんな可哀想なものを見る目で僕を見るんだ!」
「レイモンド、あなたはもっと自分を客観的に見る目を養いなさい!
いったい、あなたのどこが政治巧者だというのです!
アクサナを妻に娶る?あなたの貞操観念はどうなっているのですか、キモチ悪い!
エリザヴェータ皇女を側室に?そんなこと東に知れたら東スラヴ帝国と戦争間違い無しです!
アドレア連邦のインパハピネスの姫君?あそこはアディを追放した国だというのに!
衛兵、このおバカを地下の牢に放り込みなさい!」
とうとうジアーナがブチ切れた!
が、アドレアンがそれを宥める。
「まあ待て、せめて更生の機会は与えてやらんと……のうレイモンド、おぬしもワシもあの偽ガバナス宰相事件以降民衆や諸外国からの評価はがた落ちじゃ。だがワシはまだいい。所詮お飾りの代理王じゃからな」
「あなた、そんなことは……」
「いいんじゃよ、あの事件でワシはもう自分の器というものを思い知らされた。じゃがレイモンドはまだ若い。今ならまだ挽回できる。何しろジアーナの子なんじゃからな。若い頃のワシのように功績をあげれば必ず復活できる……ワシはそう信じとるよ」
「あなた……」
レイモンド以外の全てが国王夫妻の姿を見てすすり泣いた。
二人の悲壮な想いがビンビン伝わってくる。
「それでだ、おまえはジアーナの言う通り、もっと自分を客観的に見る目を待たねばならぬ。
その上で何か功績・実績を作るのじゃ。さすれば話に耳を傾ける者も現れよう。今のおまえでは家族以外は誰も耳を傾けん。いや、もはや家族ですら聞く耳を持たぬものと思え!それと実の妹を娶るなど頭のおかしい話は二度とするなよ」
「そんなバカな!?」
― キーンコーンカーンコーン♪
昼休憩の終わりを知らせる鐘が鳴り、それぞれが自分の執務室に戻り、レイモンド独りがテラスに取り残された。
001-2 プロローグ(後)
翌日、謁見の間
檀上には女王ジアーナと国王アドリアン。その横にはレイモンド王子。
彼らの目下には三人の女性冒険者の姿が。
「――という訳で、あなた達にレイモンドとパーティーを組んでもらい、冒険に出て頂きたいのです」
ジアーナの説明に、鎮痛な空気に包まれる謁見の間――
シーナ(人間 二級ハンター兼二級冒険者 魔術師)
ケス(エルフ 二級冒険者 魔法剣士・弓士・ヒーラー)
ワナ(猫系獣人 会計士 商業簿記一級資格者)
三人がおずおずとお伺いする。
「陛下、発言をお許し願えますか」
「どうぞ」
「何がどうして私達なのかサッパリわかりません」
シーナの発言に、同じく控えているケスとワナがうんうんと頷く。
「それは大魔術師ダーシュ様に相談したところ、弟子と友人であるあなた達三人を強く推薦されたからです」
うへぇ、マジ勘弁!あの師匠何やってくれちゃってんの!?
――的なオーラを発する三人娘。
「のう、この子達は平民ではないか。なんとか貴族の息子を集められなかったのか?」
「貴族の息子など役に立つものですか!そんな身分より実力重視です!」
平民嫌いのアドリアンを、ジアーナはキッと睨んで黙らせた。
「発言宜しいでしょうか」
今度はケスが質問する。
「どうぞ」
「私とシーナは勇者ユーシス様と聖女アリサ様の実家の管理をしています。冒険の旅に出るとなると、家の維持管理が出来なくなってしまうのですが……」
「冒険の旅と言っても週二日程度です。シーナさんとケスさんは週二日ほど王都の冒険者ギルドで仕事を受けているのでしょう?その二日をレイモンドとの冒険に当てて欲しいのです。もちろんお給金は弾みます。それに長期のクエストの場合は留守番の者を派遣致します」
「はい!」
「どうぞ」
「どうして私が呼ばれたのにゃ?私は戦闘職じゃないにゃ!会計士にゃ!」
「ワナ!」
「陛下にむかって何て口の利き方!ど、どうかご勘弁を!」
シーナとケスが大慌てでワナの口を塞ごうとする。
「良いのです。これは国王と女王としての命令ではなく、愚かな子を持つバカな親からの切実なお願いなのです。ワナさんはスキルに脚力強化魔法をお持ちだと伺いました。お金の管理も得意だそうですね。ポーター役としてお願いできないでしょうか。皆さんもどうかお願い致します」
そう言うとジアーナは立ち上がり、三人の前まで歩み寄ると深々と頭を下げてお願いした。
「どうか愚息を……レイモンドの力になって下さい!願いします!」
(こ、これはアカン)
(絶対に断れない!)
(詰んだにゃ……)
「母上!僕は冒険なんて行かないぞ!しかも組むのは平民だと言うじゃないか!身分違いも甚だしい!」
「お黙りなさい!どうしても母の言う事が聞けないというのならもう慈悲はありません!衛兵、今すぐこの愚息を地下牢に放り込みなさい!明日の朝には公開処刑とします!」
「なっ!?」
ジアーナの目の色を見て、本気であることを悟ったレイモンド。
もう了承する以外の選択肢はなかった。
「全くどうして僕が下賤な平民などと冒険に……んん?」
レイモンドはシーナ、ケス、ワナの顔を改めて見て絶句した。
絶句するのも無理はない。なにしろ三人が三人ともかなりの美少女なのだから。
中でもエルフのケスは神がかった美貌を放っていた。
「ま、まあここは母上の顔を立ててやるか。おいおまえら、リーダーは僕だからな!僕の言う事には絶対服従だ!いいな!」
― スパーン!
乾いた音を立てて、ジアーナの平手打ちがレイモンドの後頭部に飛んだ!
「痛い!母上、一体何を!?」
「口の利き方に気を付けなさい!おまえは何を考えているのです!彼女達は私が頭を下げてお願いしたのです!無礼な行いや言動は絶対に許しませんよ!もちろんエッチな事も御法度です!」
「なん……だと……!?」
エッチなことがご法度と聞いてレイモンドは愕然とする。
逆にシーナ、ケス、ワナは貞操の危機は無さそうだと安心した。
「まずは第三独立小隊に出向き、剣と冒険のレクチャーを受けてきなさい!それが終われば王都の冒険者ギルドで冒険者登録するのです!いいですね!」
「だ、第三独立小隊!?待ってくれ母上!あそこは……あそこだけは嫌だ!何卒慈悲を!それになぜ僕が冒険者などという最底辺共に混じらねばならないのですか!?」
「冒険者が最底辺?はぁ……まずはその間違った認識を正しなさい!」
「いやだ!やっぱり僕は冒険者にはならないぞ!レクチャーなんて受けるものか!」
― ぷい
ジアーナはソッポを向いて無視をした。
第三独立小隊とは、かつて偽ガバナス宰相に誑かされたレイモンドが抹殺しようとした女神の使徒、【勇者】【聖女】【聖騎士】の巣窟……
結局反撃してきた第三独立小隊に恐ろしい目に合わされたのだが、アクサナ王太女の活躍でなんとか事なきを得た。
そのかつて小便をちびる程恐ろしい目に合わされた第三独立小隊でレクチャー……
「いやだ!いやだ!いやだー!母上!父上!グラフィーラ!アクサナ!誰か助けてくれーーー!」
「あんなのが一国の王子……」
「あれと一緒に冒険の旅……」
「見苦しいにゃ……」
レイモンドは必死で抵抗したが、衛士に引きずられ、騎士隊宿舎に連行されたのだった。
【予定サブタイトル】
001 プロローグ
002 虎の穴、第三独立小隊
003 無政府地帯での特訓
004 王都冒険者ギルドへ
005 冒険者登録試験
006 はじめてのクエスト、東の森へ
007 大活躍!シーナとケス 傍観者レイモンド
008 ジアーナへの嘘報告
009 北の洞窟の異変
010 魔物達の狂乱、スタンピード発生
011
012
……
……
関連エピソード
61.アクサナ王女の憂鬱
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62.証拠とタイミング
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63.それぞれの思惑
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64.断罪イベント
https://ncode.syosetu.com/n6702fz/72/
65.聖女の歌声は破滅の序曲
https://ncode.syosetu.com/n6702fz/73/
66.アクサナ第二王女のターン
https://ncode.syosetu.com/n6702fz/74/
67.断罪イベント パートII
https://ncode.syosetu.com/n6702fz/75/
68.一応の決着 / 魔法剣士クローディア
https://ncode.syosetu.com/n6702fz/76/
107.女王ジアーナ・スラージュリアからの書簡
https://ncode.syosetu.com/n6702fz/117/
108.不貞の現場 / 勇者の名乗り
https://ncode.syosetu.com/n6702fz/118/
118.ジアーナ女王の一時帰国
https://ncode.syosetu.com/n6702fz/128/
236.東スラヴ帝国の皇女/ルイスの弟子入り
https://ncode.syosetu.com/n6702fz/253/
254.波乱の昼食会・号泣のエリザヴェータ
https://ncode.syosetu.com/n6702fz/271/
257.カンデュラ聖堂騎士駐屯地跡にて/エリザヴェータ危機回避!
https://ncode.syosetu.com/n6702fz/274/
286.閑話? アドリアン国王秘話
https://ncode.syosetu.com/n6702fz/303/