白井さんと金子くん
「すす、好きです!私と付き合ってください!」
「え、君誰?」
私の記憶は、そこで途切れてしまった。その後どうやって教室に戻ってきたのかは覚えていないけれど、気がつけば午後の授業が始まっていた。
自分なりにこの数ヶ月アプローチしたつもりだったのに、彼には何一つ届いていなかった。
放課後、ショックのあまり帰宅せずに自分の何がダメだったのか一人反省会をすることにした。
しかし、いくら考えても答えが出なかった。
「おーい、白井さーん。もう皆帰ったけど帰らなくて大丈夫?」
「え、もうそんな時間!?」
「ははっ、まだそんな遅くないけど、白井さんいつも早く帰ってるでしょ?心配だったんだ」
「あ、そうなんだ、ありがとう」
顔を向けると、私に話しかけてきたのは今まで何度か声をかけてきたクラスメイトなことがわかった。
「具合悪いなら送って行こうか?」
「いえ、具合は悪くないわ……」
「……もしかして、悩み事?」
言い当てられてしまったことで、私の中で彼に対する距離が一気に無くなり、彼につい泣きついてしまった。
「うぅ、実はそうなのよお」
「どうしたどうした、泣かないの」
「今日ね、ずっと好きだった金子君に告白したのに、誰?って言われてしまったのよー」
「……金子くんって、隣のクラスの?」
「そうよ、金子くんに気に入ってもらう為に毎日同じ電車に乗ったり、休み時間は廊下にいるときにさりげなく隣にいたり、購買に売ってるパンを取りやすい位置に置いたり、いろいろ工夫したのにー」
自分の努力を話すと、涙が止まらなかった。
こんなに頑張ったのに、愛しの金子くんには私の存在すら認識されて無かったのだ。
「んー、あれだね白井さんって、ちょっとストーカー?」
「はあ?」
クラスメイトの突然な失礼な物言いに上手い返しができなかった。
まあ、突然こんな事言われたら誰でも意味がわからないと思うので仕方ないと思う。
「だってそれ、ただ隣にいるだけで自分が白井です貴方のことが好きですって全然アプローチできてないじゃん」
「え?」
確かに、思い返してみると私は一切金子くんに自分の名前すら名乗っていなかったわ。
いえ、初めて会ったとき名乗った気はするのだけど、それは高1のとき隣の席になったときだから、もう1年半以上も前よ。
私は自分の顔が青ざめていくのを感じた。
「これからアプローチやり直してもいいんじゃない?」
「え?」
「だって、白井さんのアプローチは無意味だったんだから、ちゃんとやり直そう?俺も協力するよ」
「え、あ、ありがと。えっと、その」
困ったわ、彼の名前が全然分からないわ。いえ、私はこの1年半金子くんのことしか追っていなくて他の人のことを気にしたことなんてないから当然と言えば当然なのだけれども。
「俺?坂井徹だよ。気軽にとおるちゃんって呼んでね」
「ありがとう坂井くん!これから、よろしくしてもいいかしら?」
「坂井くんかあ、まあいいか。勿論だよ、白井さん」
うふふ、協力してくれる人もできたし、これから金子くんへの再アプローチ頑張るわ。
待ってなさい金子くん、貴方の未来の彼女は私よ!
「ふふ、白井さんって本当可愛いな」
坂井の部屋は、壁中が白井の写真で埋め尽くされてた。写真は全て隠し撮りしたものなのか、白井の目がレンズを向いているものは1つもなかった。
「白井さんにちゃんと俺の事知ってもらえたし、これからもっと知ってもらう機会増えるしね」
坂井は白井の写真を1つ手に取り、うっとりと見つめている。
「白井さん、これからももっとよろしくね」