悪い夢
悪い夢を見ていた気がする。
再び意識を取り戻して起き上がると、微笑む男の人が隣にいた。
「良かった、目が覚めたみたいだね」
普通の、人?
にしては変わった服装だった。
おとぎ話に出てくるような騎士みたいな格好をしていた。さっきのカタコト教授といい、仮装大会でもしているような様相だ。
やっぱりまだ夢のなかなんだろうか。
「夢じゃないですよ」
心の声に呼応するように声をかけられ、バッと思わず振り返る。
「ああ、驚かせてすみません。ここは魂が具現化された世界なので心の声もひろえるんです。今まで普通に生きてる感覚からすると気持ち悪いですよね」
「たま、しい?」
「ええ、私もあなたも『普通の人間』じゃないので」
ほら、と見せられた鏡とぐにゃりと変形した男の人の右腕。普通の腕のように見えた右腕は肩からうねうねと動く大蛇の頭になり、こちらに向かってヘビがしゅるしゅると舌を出す。
思わず絶句し、男の人の左手にある鏡をちらりと覗く。
見た瞬間、見なきゃ良かったと後悔した。
鏡には制服を着ているものの身体のあちこちがツギハギだらけ、しかも男の人と同じように、私にも何か別の生き物の足や腕がつけられている。
「ひっ、なに、これ」
「ね、言った通りでしょう?私達は死んだときと同じ姿のまま何故か集められるんですが、博士がそこらへんにいる彼らの身体を繋いで僕らの身体を治してくれるんです」
「や、彼らって…てか、私、死んでる?」
声に出したら、頭を思いっきり打ちつけるような痛みに襲われた。思わずうずくまる私のなかに浮かぶのは汚いやつら、夕焼け、踏切、迫ってくる電車。
そうだ、私は自殺したんだ。