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【第8話】絵が素晴らしいですね

「さあさあ、紅茶を準備したんだ。お砂糖もいる? あ、ここには新鮮なレモンもあるから、レモンティーの方がおススメかも?」


 とスペンサーがポットを持ちながら(たず)ねる。


「え……では、レモンティを(いただ)けますでしょうか?」


 第三王子さまに、お茶なんて入れてもらっても良いのかしら……と一瞬戸惑(とまど)ったが、ここはスペンサー王子の優しい笑顔に甘えてみる。

 男性にお茶を入れてもらえるなんて、初めての経験だ。


「じゃあ、ちょっと待ってて! レモンの薄切りを準備するね!」


 とスペンサーはみずみずしいレモンを片手に持ち、銀のナイフで薄く切った。

 レモンを切る手は、かなり手馴(てな)れている感じがする。


 スペンサーがポットから紅茶を(そそ)ぐ。そしてニコっと笑いながら、レモンの薄切りが浮かんだカップをシンディに手渡した。

 ティーカップは十分に熱くて、シンディはゆっくりと口をつける。


「あ……美味しいです。このレモンティ、とてもさっぱりしてて……こんなの飲んだことないですよ」


「でしょ? このレモン、品種改良を加えて風味をかなり良くしたんだ。栄養も豊富でレモネードを作るのに最適なレモンを作ろうとして、やっと完成したんだよ」


 スペンサー王子の明るい笑顔にシンディは自然と()きつけられる。

 そういえば、カイン王子とは婚約者時代でもこんな明るい笑顔を見せることなんてあまりなかった。寡黙(かもく)で大人しい性格だとシンディは思うようにしていた。


 しかし今日の態度は今までとはまるで違っていた。

 いつの間にあんな暴言を吐く王子になってしまったのだろう……今思えば、私といてもカイン王子は楽しくなかったのかもしれない……などとシンディは考える。


「あ、シンディさん。シンディさんって、うちの上の兄貴の奥さん……アイリス王太子妃さまの妹さんなんだよね?」


「はい。アイリス王太子妃は我が姉上さまです……流産してしまったと聞きまして、一刻も早くお会いしたいのですが、なかなか会うことが(かな)いません」


 突然、姉の話を出されたシンディは、何を言うべきか少し戸惑いながら答える。


「うん……王太子妃さまの流産……ぼくも王太子妃さまの憔悴ぶりに心を痛めたよ。お世継(よつ)ぎ誕生を期待されていたから、そのプレッシャーも相当あったと思うけど……」


「あの……スペンサー王子さまから、お姉さまに会えるよう、王太子さまにお願いして頂けないでしょうか? カイン王子さまにもお願いはしたんですが、お姉さまは誰にも会いたくないと言っているとかで……会えるかどうか分からないんです」


 この(さい)、カイン王子でもスペンサー王子でも良い。とにかくお姉さまに会わせてくれるなら……と懇願(こんがん)するような気持ちで、シンディは胸の内を明かした。


「分かった。王太子に会って、伝えてみるようにするよ」


「あ……ありがとうございます!」


 シンディはスペンサーの手を取って頭を深く下げた。


「でもね……カインの兄貴が言うように、王太子妃さまは本当に誰とも会いたがっていないようなんだ。流産された後、すっかり(ふさ)ぎ込んでしまって……まあ、ぼくも王太子からそう聞かされているだけなんだけどね……」


「で……でも、身内の……妹の私であれば、別のはずです。姉とは幼い時からずっと仲良しでした。なんでも隠さない間柄(あいだがら)でした。シンディが会いたがっていること、何卒(なにとぞ)、王太子さまにお伝え下さい」


 スペンサーはキラキラした眼でシンディを真っ直ぐに見つめ、コクンと(うなず)いた。


 ああ、良かった!

 カイン王子だとあまり期待出来そうになかったが、このスペンサー王子は親身になって対応してくれそう……とシンディはスペンサーと知り合えた幸運を神に感謝した。


 ほっ……と落ち着いたシンディ、部屋の中を見渡す。

 額縁に入れられた、無数の絵。

 風景画もあれば、人物画、植物の絵など多彩な作品が部屋の壁に飾られている。


「絵が……お好きなんですか?」


 シンディがそう尋ねると、


「あ、そうだ! ここに本を運ぶのを手伝ってくれたお礼……と言ってはなんだけど……」


 そう言ってスペンサーは部屋の隅に置かれていた小さな絵をシンディの目の前に見せた。


「あ……これ……」


 スペンサーはうんうんと(うなず)く。

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