表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】婚約破棄された悪役令嬢は最果ての地で復讐を誓う  作者: 妙剣寺夏樹
【第三章】カレンベルク家の誇りを賭けた戦い
60/62

【第60話】王族は過酷な運命に愕然とする

「お……お前、なぜ利き腕でない左手でその太刀筋……い……一体、どういうことだ!


「やっぱり何も知らないんだね。カイン兄さんは……」


 スペンサーは呆れたように呟いた。


「僕が本気で剣を使う時はいつも左手だった。幼い頃、兄さんと剣術の練習をする時は、左手を使う必要がなかっただけさ」


「な……なんだと……」


 スペンサーは剣を直突きで、カインの右手を払った。その衝撃で、カインの剣が、再び床の上にカランと落ちる。


「少しは剣術の腕を上げているかと思ったけど、全然練習していなかったようだね……せめてもの情け、楽にとどめを刺すよ」


「ま……待ってくれ……お……お願いだ。助けてくれ!ああ、そうだ!お前が王になっても、優秀な枢密卿が必要だろう?俺は剣術は苦手でも、政治の才はあるんだ。お前の新しい国作りにも力を貸すよ。一緒に良い国を作ろう……」


スペンサーは、はぁ……と溜息(ためいき)をついて、


「情けないなあ……カイン兄さん、もう少しマシな兄さんだと思っていたけど、どうしようもない人間だったんだな……殺すのも、馬鹿馬鹿しくなって来たよ」


 カインは力が抜けて、その場にへたり込んだ。

 そこに一人の男が、手下の者を連れてやって来た。

 この現場に()け込んで来たのは、ライディーンだっだ。


「ピョートル提督、ここにいたのか?ああ、スペンサーさんもシンディも一緒なのか?」


スペンサーが振り返り、ライディーンに話しかける。


「ライディーンさん、良いところに来たな。ちょうど今、カイン兄さんと戦っていたところだけど、勝負はついた」


「勝負はついたって……殺さないんですか?」


「殺すのも、馬鹿馬鹿しくなっただけさ。ライディーンさん、君は、私掠船(しりゃくせん)の船長だ。海外の奴隷貿易にも詳しいんだろう?」


「奴隷は売るのも買うのも得意ですが、どうされたんですか?」


「この男を、どこか遠くの国に、奴隷として売り払って欲しい。とびきり環境の悪い場所が良いな。どこか良い場所はあるかい?」


 ライディーンは暫く考える素振(そぶ)りをして、


「東の国で、もう何十年も戦争をしている国があります。軍艦は今でも手漕(てこ)ぎなんですが、戦争が長引き過ぎて、漕ぎ手になる奴隷がいない。命懸けですからね。そこならどうです?」


「そこで良い。そこに売ってくれ。代金はライディーンさんが受け取って使ってくれたら良いよ」


 カインがひいい……と恐怖の声を漏らす。


「い……嫌だ!軍艦の漕ぎ手なんて、いつ沈むか分からないじゃないか……なあ、スペンサー、考え直してくれよ……兄弟じゃないか……!」


 暴れるカインをライディーンの手下は力尽くで取り押さえ、ローブで身動きが取れないようにした。

 それを横で見ていたイザベラが口を開いた。


「わ……私は何も……悪いことしていないわよ!全てはこの男がやったことで、私はずっと隣で、綺麗におめかしして、ニコニコ笑っていただけなんだから!」

 

 シンディは一歩前に出て、イザベラに話しかける。


「カレンベルク邸を娼館にした件、それはあなたが発案したって話だけど?カレンベルク家の侍女を娼婦にして、奴隷の(なぐさ)み物にしてたってね」


「あ……あれは……違うのよ!カレンベルク家の侍女が仕事を失って、可哀想だから、仕事場を与えただけなのよ!そ……それに、ラークシュタインの凱旋門建設のために働く奴隷にも、楽しみが必要じゃない?私は国のために働く人々に、何か出来ることを、考えただけなんだから!」


「そう……あくまでも善意でやっていたって言いたいのね……随分(ずいぶん)と優しい枢密卿の奥様ですこと……」


「そ……そうなのよ。だから、私は無実。何も悪いことはしていないの!」


 イザベラは必死になって弁明していた。

 その様子を、シンディは始終、涼しい顔で聞いていた。そして、少し考える仕草をして、


「あなたの旦那様が助かるのだから、あなたを殺すわけにはいかないわね!あなたも助けてあげるわ」


「ほ……本当なの!シンディ、やっぱり私達は、お友達よね!」


 いまさら友達だなんて、どの口が言うのかとシンディは(あき)れたが、表情には出さず、ライディーンに話しかけた。


「ねえ、夫のカイン枢密卿が奴隷なら、同じように奴隷になるのが適当よね?売り飛ばすのに、何処(どこ)か良い場所ない。とびきり条件の悪いところで」


「こちらも、とびきり条件の悪いところか。ここから西にかなり進んだところにある鉱山島。そこに坑夫たちのための娼館がある。(たくま)しい炭坑夫ばかりの島で、一日に何人も相手にするから、娼婦の身体がもたないってことで、なかなか娼婦が集まらない。そこなら高く売れるけどな」


 イザベラの顔が、みるみる青くなる。


「ちょ…。ちょっと待ってよ!なんで私が、そんな泥臭い男たちの相手をしなくちゃならないのよ!」


「あなたの言う慈善事業よ。あら、過酷な運命が決まったのに、あら、あなた、いつものように泣かないのね!」


「あなたのために泣いても仕方ないでしょ!涙は、男の前で流してこそ、意味があるんだから!」


「そうなのね。別になんだって良いわ。ライディーンさん、二人とももう連れて行って!もう顔も見たくないから」


 イザベラもライディーンの手下にローブで縛られるが、最後まで抵抗していた。

 二人が、ライディーンと共に連れ去られる。

 カインはがっくりとした表情で、全て観念した様子だったが、イザベラは、訳の分からない悪態をつきながら、その場から去って行った。

 その様子を見届(みとど)けたスペンサーが、口を開いた。


「さあ、次はイェルハルドとシャナイアだ!」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ