【第6話】これが新しい出会いでしょうか?
ひたすら延びる、長い廻廊。
高い窓からは眼下にガーラシア城の城下町の風景が広がっている。
この無駄に長い廻廊はなんなのだろう……。
シンディはこの学院の贅を極めた造りにウンザリしながら、ひたすら歩く。
ここにいる多くの令嬢たちのように、この長い回廊は自分を煌びやかな世界へと導いてくれる回廊、と考えられるような野望家だったらどんなに良かっただろう……とシンディは思ったことがある。
この豪奢な路は自分の輝きのある社交界へと続く道と考えられるならば、どんな仕打ちを受けたとしても、カインに甘えて縋り付き、嘘の涙を流してでも、この場所に留まろうとしただろうに……。
しかしシンディには、この回廊はただの無駄遣いとしか思えないのだった。
石畳がシンディのヒールの音がかつん、かつんと、孤独な音を響かせているところに、遠くから別のかつん……という音が伝わって来た。
「ちょ……ちょっと、シンディ……待ってよ!」
後ろから声が聞こえる。
振り向くとスカートの裾を両手で掴んでクラウディアこと、グーゼンバウアー侯爵家第一子女のクラウディア・グーゼンバウアーが、廻廊の向こうから急いで歩いて来るのが見えた。
あの現場から私を追いかけて来たの……あの場所から私を追いかけるなんて、カイン王子の敵になることを宣言するようなものなのに……とシンディはクラウディアの勇気に感嘆した。
「はあ、はあ……。もう! シンディったら、足が速いんだから!……さっきは、ごめんなさい。味方になることが出来なくて……貴女の言うことに理があると思ったんだけど、あの場所では……ちょっと……」
「ありがとう。クラウディア。ここまで追いかけて来てくれただけで充分だわ。それより、これから貴女がここで苛められたりしないかが心配よ」
「本当はここの学院の皆さまとはあまり気が合わないのだけど……ああ、早くいい人を見つけて卒業したいわ!」
この学院で唯一気の合う仲間だったクラウディア。年齢もシンディと同じ16歳。
同じ辺境の侯爵家の家柄ということあって、学院生活の悩み事の良い相談相手だった。
クラウディアもシンディと同じように、この学院に違和感を感じていたらしい。なんとなく芽生えるこの連帯感が心地よい。
「ねえ、シンディ。今度、貴女のお屋敷に遊びに行っても良い? ここじゃゆっくりとお話しすることも出来ないし……またお手紙で知らせるから……ね!?」
「クラウディア。ありがとう。うん。何時でも遊びに来て頂戴。私はこの学院を辞めちゃうから、多分、暫くは暇な生活になるだろうし。貴女とここで会えて良かったわ」
シンディはクラウディアの手をぎゅっと握りしめた。
「さあ、もう行って。カイン王子に睨まれたら、貴女がここでやっていくのも大変になってしまうわ」
シンディの言葉に、クラウディアは、名残惜しそうな表情をして、シンディの手をぎゅっと握り返して答えて、回廊を戻って行った。
また一人になってしまったな……とシンディは寂しさを感じた。
しかし……これから邸宅に帰って、何をすれば良いのだろう?
カイン王子からお姉さまとの謁見の回答を聞くために来週ここに来るのは良いとして、一週間、全く何もすることが無くなってしまったな……施薬院で病気になった孤児への治療ボランティアでもしながら時間を潰そうか……などとシンディは考え事をしながら回廊の突き当りを左に曲がった途端、
「きゃあ!」
「うあ!……あああ!!」
シンディは曲がり切ったところで若い男と衝突して倒れてしまった。
しかもその男は、高い回廊の天井にまで届きそうなくらい、本を山積みにしながら歩いて来たのだから、衝突した勢いで、ドサ、ドサ、バサと本が若い男の手元から崩れ落ちた。
「あ……ご、ごめんなさい」
「い……いや、こっちは大丈夫だけど、君、怪我してない」
クリっとした目が印象的な綺麗なブロンドの髪の男だ。歳はシンディよりやや上といった感じであるが、心配そうな表情をしてシンディを見つめている。
この男の人、一体誰なんだろう……?学院でも王族と教師以外は男子禁制エリアなのに……。
シンディは訝しがった。