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【完結済】婚約破棄された悪役令嬢は最果ての地で復讐を誓う  作者: 妙剣寺夏樹
【第三章】カレンベルク家の誇りを賭けた戦い
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【第53話】そして反撃は開始される

 シンディは、ピョートルをじっと見つめて言う。


「遺書王令が、どれほど重要なものか、この私も分かっているわ。数ある王令の中でも、最も重要視される、至上の王令。ラークシュタインの貴族は皆、これに従う必要がある」


「そうだ!そして、ラークシュタインの貴族だけじゃない。ラークシュタインの友好国も、遺書王令を最大限、尊重するように要請されている。古来からの国と国の約束として、俺の国、ルーテシアもそうしてきた」


ピョートルは興奮しながら話を続ける。


「つまり、国と国の約束として、ルーテシアもスペンサーを支えなきゃならないってことだ。イェルハルドを討つ大義名分は(そろ)ったことになる。これで、公式にルーテシアはスペンサーの為に公式に軍を派遣することも可能になったんだ」


 シンディは、かつてないほどの興奮で胸が熱くなっていた。

 その熱くなる心を抑えるのに必死だった。

 気持ちを抑えつつ、ピョートルに答える。


「何と言ったら良いのかしら……あまりにも突然のことで、私もどう答えたら良いのか、正直なところ、分からない。でも、私の復讐が成功に向かっているのは確信したわ。それで……まずは、ピョートルも落ち着いて……ね!」


「ああ、なんだか、君より俺の方が興奮し過ぎたな。しかし、これで王室の奴らのカレンベルク家に対する異常なほどの迫害も納得がいく。奴らは、遺書王令が、カレンベルク卿に向けて発せられたのは感づいていた。しかし誰がどうやってカレンベルク卿に渡されるのかまでは、分からなかった。そこで、焦った彼らは、カレンベルク家の人間を徹底的に殺そうとしたんだ」


「確かに、イェルハルドにとっては、自分の王位継承を揺るがすほどの文書。なんとしてでも、遺書王令が世に知れ渡らないないようにしたのね……そして、開封された形跡がないと分かると、今、誰が手紙を持っているのかが気になり始め、侍女のエドナが怪しいと気がついた王室は、秘密裏にエドナを捕らえようとしていた……本当に身勝手な連中だわ」


 と言って、シンディは溜息(ためいき)をついた。

 それを見たピョートルは話題を変えようと、


「そういえば、手紙はもう一通あったが、それは何なんだ?」


と、エドナの方に顔を向けて尋ねた。


「この手紙の大きさから考えると、カレンベルク卿に()てた私信ではないかと思われます」


と言って、封筒の封蝋のある方を表面にして、テーブルの上に置き直した。

 そして、話を続けた。


「シンディお嬢さま、こちらの手紙も開封致しましょう。先ほどの文書よりもっと、ユリウス国王の考えが、記されているに違いありません」


 シンディは封筒を手に取り、封蝋(ふうろう)に指を当てる。

 先ほどと同じように、封蝋はピカリと光ったかと思うと、煙になって消えて行った。

 そして、急いで封筒の中の手紙を取り出す。

 手紙の中の文字を追う。

 ユリウス国王から父親に宛てられた手紙。

 その中身に、胸が熱くなっていくの感じていた。

 


 親愛なるカレンベルク卿へ


 卿がカレンベルク領に戻って随分時間が経ってしまった。

 枢密卿として(ちん)の側にいてくれた時は、卿のことは、我が友人のように思っていた。

 国王という立場上、対等な友人関係というものは難しい。

 その中で、卿だけは、特別だった。

 遺書王令を貴君に託すことになって申し訳ないと思う。

 残念ながら、今の朕は、息子であるイェルハルドの操り人形に過ぎない。

 息子に都合の悪いことは、()み消されてしまうのが現状だ。

 そこで、アイリスの侍女のエドナに、この手紙と遺書王令を卿に渡すよう命じた。

 イェルハルドも、まさか侍女が秘密の手紙を託されているとは考えぬであろうと算段した。

 卿がこれを読んでいるということは、朕の思いが届いたことになる。嬉しいことだ。

 遺書王令であるが、我が息子ながらイェルハルドは、国王として相応しくないと思う。

 と言うより、あの女…… シャナイア側妃が来てから、イェルハルドは変わってしまった。

 王太子妃というものが、王子の本性を映し出す鏡だとすれば、卿の娘のアイリスは、善の面を映す鏡で、シャナイアは、悪の面を映す鏡なのであろう。

 シャナイアに溺れたイェルハルドは、完全な暴君のような振る舞いをしている。

 贅沢と派手なことを好み、領民を思いやらないあの態度では、我がラークシュタインはいずれ危機に(おちい)るだろう。

 我が国のために、朕はスペンサーを後継者に指名することに決めた。

 申し訳なきことこの上ないが、スペンサーを支え、即位することを助けて貰いたい。

 この国の将来を真剣に考えることが出来る卿だからこそ頼むのだ。

 これが朕の最後の望みだ。

 重ねてお願いする。

 そして、アイリスについては、卿に謝らなければならない。

 イェルハルドに(とつ)いてくれたが、流産してから体調を崩し、病状は悪化の一途だ。

 そのような状況にも関わらず、イェルハルドもシャナイアもアイリスをいじめて、楽しんでいるようなのだ。

 イェルハルドを何度も(たしな)めたが、全く聞く耳を持たず、あのような状況ではアイリスは完全に参ってしまうであろう。

 実際に、朕が先に天に召されるか、アイリスが先かという状況になってしまっている。

 卿の娘を預かる身として、これほど申し訳ないことはない。

 そのような卿に、遺書王令などというものを託すことになり、心苦しいが、朕には、カレンベルク卿、君しか頼る者がいないのだ。

 朕の意思、最後のお願いを、友人である卿に託す。


 君を友人と思うユリウスより



 シンディは再び胸が熱くなる。

 そして、心に奥底にあった『使命感』という感情が(あふ)れ出ていることを感じた。

 ピョートルが、手紙を手に取って、一通り読んだ後、


「ユリウス国王からの手紙、君は読んでしまった。そして、君の答えはどうなんだ?」


 シンディはバルコニーに飛び出した。

 外は満天の星空。

 星空を見つめ、語り始める。


「ああ、天におられ、我らを見つめる偉大なるラークシュタイン国王ユリウスよ、陛下からの手紙、このシンディが確かに、お受け取り致しました。

 ついては陛下の命により、遺書王令に記されたことに(じゅん)ずることを誓い、王令に佩服(へいふく)することを、ここに宣言します。我が名はシンディ・カレンベルク。カレンベルク侯爵家の若き当主なり」




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