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【完結済】婚約破棄された悪役令嬢は最果ての地で復讐を誓う  作者: 妙剣寺夏樹
【第三章】カレンベルク家の誇りを賭けた戦い
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【第52話】復讐の開始を告げる王令

 シンディは、今まであったことを全て話した。

 ピョートルに助けられたこと、形式上、シンディ・カレンベルクは、沢に身を投げて死んだことにしたこと、黒魔術を学んだこと……そして最果ての地で復讐を誓ったこと……その全てを、エドナに話した。


「そうだったのですか……お嬢さまも大変なことになっておられたのですね……しかし、生きて会えたこと、本当に嬉しいです」


「そうなの、本当に色々あったのよ!じゃあ、次はエドナの番ね。エドナ、教えて!今まで何があったのか……どうしてここに来ることになったのか……?


「はい、ではエドナについても、語らせて頂きます。少し長くなるかもしれませんが……」


 そう前置きして、エドナは話し始めた。


 エドナも、全てを話した。

 アイリス王太子妃が危篤の時に、ラークシュタインの先帝、ユリウス国王に呼び出されたこと。

 重要な手紙を、カレンベルク侯爵に秘密裏に渡すよう依頼を受けたこと。

 カレンベルク領に到着した時には、既にラークシュタインの軍隊に占領されていて、手紙を渡すことが出来ず、諸国を放浪し、最後に、このルーテシアを目指していたこと……その全てをシンディに語った。

 日はすっかり落ち、夜空には星が輝いていた。


「そうだったんだ……エドナも、本当に色々なことがあったのね……でも、生きてまた会うことが出来た。本当に嬉しいわ……」


 そう言うと、シンディは、ハラリと涙を落とした。


「私もです。シンディお嬢さま。そして、生きてお会いしたことで、少し、私の事情が変わったことがあります」


「事情が……変わった?」


「はい。ユリウス国王……先帝陛下からの手紙は、本来、お父上であるカレンベルク侯爵にお渡しするものでした。しかしお渡しできない場合、その血を継ぐものにお渡しするように、ユリウス陛下に言われていたのです」


 そう言ってエドナは、(くだん)の箱をテーブルの上に置いて、


「先帝陛下から手渡された手紙は、この2通です」


 と言って、手紙を取り出した。

 封蝋で閉じられた、大きい封筒と、小さい封筒の2通の手紙。王室の公式文書に使われる封筒は、それだけで、厳かな感じがする


「これが……先帝さまから、父上宛てに送られた手紙なのね……でも……どっちも封蝋で封印されているし、この封蝋(ふうろう)は魔法の封蝋。亡き父上しか、開けることが出来ないのでは……」


「いや、ちょっと待て!」


 とピョートルが口を挟む。


「ど……どうしたの?」


「この封蝋は『血族封蝋』だ。受取人本人か、その血族が、封蝋を解くことが出来るものだ。だから、開封出来るのは、君の父上だけじゃない。君の父上の血を引く者も、開封出来るものだ」


「え……じ……じゃあ……」


「ああ、カレンベルク卿の血を引く君は、この封蝋を解いて、手紙を読むことが出来るんだ!」


「お嬢さま、そうなのです。私は手紙を託されましたが、国王陛下からは、『カレンベルク家当主』へ手紙を渡せ、と命令されました。カレンベルク卿もアイリスお嬢さまも亡き今、カレンベルク家の当主は、シンディお嬢さまにほかなりません!カレンベルク家当主として、この手紙をお読み下さい」


 シンディは、心拍数が上がるのを感じていた。

 カレンベルク家唯一の生き残りである自分が、カレンベルク家当主に当たるなど、考えたことがなかった。

 しかし、エドナの言葉に、目を開かせられた。

 唯一生き残った自分こそ、今のカレンベルク家の当主なのだと。

 シンディは心を決めた。


「分かったわ……父上に代わって、私がこの手紙を開ける……そして、この手紙の中の秘密を、受け入れるわ」


 シンディはそう言って、大きい封筒を手に取った。横にいるピョートルが、


「さあ、封蝋に指を当てるんだ。カレンベルク家の血族が指を当てれば、この封蝋は消滅する」


 シンディはゆっくりと封蝋に指を当てる。

 封蝋が一瞬ピカリと光ったかと思うと、封蝋は煙になって消えた。

 そして、封筒の中から、手紙を取り出す。

 その手紙の中に何が書いてあるのか、ゆっくりと黙読した。


「こ……これは……」


 シンディは絶句した。

 その衝撃的な内容に、手紙を持つ手が震えた。



 〜ラークシュタイン国王ユリウス 遺書王令〜


ラークシュタイン国王ユリウスは、その王の名を以って、以下の通り、遺書王令を発布する。


王位後継者として、第三王子にして王位継承権第二位のスペンサーを指名する。


これにより、スペンサー以外の王子の王位継承権は失われる。


もし、スペンサー以外の王子が国王継承を主張すれば、それは僭称(せんしょう)と見做し、スペンサーの王位継承がなされるよう、我がラークシュタインに仕える諸侯、貴族、友好国の政府に助力を求む。


もし、僭称した王が武力を以ってスペンサーの王位継承を妨害した場合には、カレンベルク家当主が中心となり、その武力に立ち向かうこと。


国王としての最後の望みとして、遺書王令として、これを記するものなり。


   ラークシュタイン国王ユリウス 御璽(ぎよじ)



「これが……遺書王令というやつなのか……」


 ピョートルも言葉を失う。

 御璽の陰影は、自ら七つの光を発していた。

 そのインクは、国王の御璽にしか用いられず、製法も国家機密となっている。

 そしてインクには国王の血が混ざられ、その血によって、輝き方が違うのだった。

 まさにユリウス王が発した王令を示す証拠だった。

 普段落ち着いているピョートルも、この文章の重みに緊張している様子だった。

 そして、ハッとした表情になり、


「おい、シンディ、これは大変なことなんだ。この文書を君が手に入れたことで、状況が完全に変わった。君は、逆賊でもなんでもない。イェルハルドこそ、偽の王だったんだ。そして、スペンサーを助けるために戦うことが、先帝ユリウス国王の望みで、全ての正当性は、こちらにあることになったんだ。イェルハルドたちと戦うのは、復讐じゃなく、正義の戦いになるってことだ……分かっているよな?」


 シンディは力を込めて(うなず)いた。

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