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【第49話】雪祭

 ルーテシアの長い冬が始まった。

 先日の寒波で雪が積もり、寒波が過ぎ去った後も、空は曇りがちの日が多い。

 この街、ルーテシア・タウンの街の路は、白いカーペットを乱雑に()いたようになって、歩けば新雪のフカフカとした感触が、足の裏に伝わって来る。

 しかし、今日は快晴だ。

 ルーテシアの海軍提督官邸も、バルコニーの床には、分厚い白い掛け布団を()いたように雪が残っている。

 軒先の氷柱(つらら)の先端から、ポタポタと(しずく)を垂らす。

 空気の澄み切った、北国特有の朝。

 シンディはピョートルの部屋の扉を開け、ピョートルのベッドのそばに寄って声をかけた。


「ピョートル!もう朝だよ!ほら、天気もすごく良くて、街全体が白く輝いてる!凄く綺麗なんだよ!もう起きてよ!」


「今日は日曜日だろ……日曜日くらい、ゆっくりと休ませてくれよ……俺はまだ眠い」


「そんなこと言わないで!もう朝ごはんも作っちゃったし、ハムエッグが冷めちゃうじゃないの!」


 ベッドのそばでシンディに急かされ、ピョートルは上体を起こして伸びをした。

 ピョートルは、あくびをしながら、シンディに話しかける。


「シンディ、おはよう……しかし君も厳しいな。しかし冬は寒くて、ベッドから出るのが嫌になる」


「私はピョートルより早起きして、朝ごはん作ってたんだよ!北国育ちなのに、随分と寒さに弱いのね!」


 おずおずとベッドから出たピョートルは、服を着替えながら、シンディに答える。


「北国育ちだからこそ、寒さに弱くなるんだ。ああ、そうだ、今日は君を雪祭に連れて行くって、約束していたよな」


「そうだよ!私、ここの雪祭、結構楽しみにしてたんだ。私の生まれ育ったカレンベルク領民って雪はあんまり降らないからさ。こういうの見るの、初めてなの」

 一緒にリビングに向かいながら、ピョートルと話すシンディ。

 リビングの暖炉は、パチパチと薪が音を立てて、大きな炎を形作っていた。


 二人一緒に、ハムエッグを食べる。

 朝ごはんには色々試してみたものの、結局ピョートルが一番好きな朝ごはんは、これだった。

 

「コーヒー、もう一杯、飲む?」


 ピョートルのカップの中の残りの量が、減っているのを見て、シンディがすかさず尋ねる。


「あ……ああ、頼む。寒い日には暖かいコーヒーを多めに飲みたくなるからな」


  コーヒーを注ぎ足されたピョートルは、カップをゆっくりと口元に当てた。


「雪祭りには、何時頃行くの?」


 とシンディが尋ねる。


「このコーヒーを飲み終えたら、出発しよう。雪祭りは朝が一番綺麗なんだ」


 満面の笑顔でウンと(うなず)くシンディ。

 ピョートルがコーヒーを飲み終えると、すぐにカップを洗う。

 ピョートルは男性ということもあって、支度が早いのだ。

 自分は服選びも、お化粧もそれなりに時間かかる。

 せっかくのピョートルとのお出かけだから、気合いを入れてお化粧をしたいのに、待たせるのも悪い。

 これは、昔から延々と続く男と女のジレンマなんだろう。

 自分の部屋に戻って、化粧開始。

 アイラインを引くと、いつもよりも(まぶた)にヒヤっとした冷たさが伝わってくる。

 この冷たさで、ぼんやりしていた感覚から、少し目が覚める感じがする。


「おい、シンディ、俺はもう出かける準備が出来た。どうだ?まだ時間がかかるのか?」


 扉の向こう側から、ピョートルの声。

 できればファンデーションで隠したい場所もあるのに……なんて思いながらも、シンディは急いで口紅を塗って廊下に出た。


「ピョートル、おまたせ!じゃあ、出かけようか!」


 コートを着て外に出る。


 澄んだ空。透き通る空気。

 雪の日のこの街、ルーテシア・タウン吹雪で大変だが、晴れの日は、天が果てしなく高く、雪化粧をした遠くの山々が、キラキラ光る。

 シンディは、この街の冬の風景も好きになっていた。

 道を歩く二人。

 足元に気をつけながら、ゆっくりと歩いて行く。


「ねえ、ピョートル、エドナに関する情報って……やっぱり、無い?」


「残念ながら、俺のところには何の情報も上がって来ていない。ルーテシア船籍の船舶には、似顔絵によく似た人物を保護するように、指示はしてあるが、まだ、保護の情報は得ていない」


「そう……」


 シンディは力無く、呟くように言った。

 今のシンディにとって、エドナが最後の頼みの綱だ。

 お姉さまが危篤の状態だというのに、姿を(くら)ましたのは、よほどの理由があるに違いない。

 なんとかして、エドナに会って、話を聞きたい……とシンディは考えるが、こればかりは自分だけではどうしようもなかった。

 角を曲がり、広場へと続く大通りに出た。

 眼前に広場の光景が広がった。


「わあ……」


 シンディは歓喜の声を上げた。


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