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【第47話】秘密

 軍服を着たまま、廊下に立っているピョートル。

 じっとシンディを、凝視(ぎょうし)している。

 え……もしかして、先に帰って食事を作っていなかったから、ピョートル怒っちゃったの……とシンディは、ピョートルを見て思わず緊張する。

 シンディの少し強張った顔を見て、緊張感を察したピョートルは、少し笑顔になって、


「おい、そんなに緊張するな!(しか)ったりそんなんじゃないからな!急いで、君に聞きたいことがあるんだ」


「なんだ、そうなの。怖い顔をしていたから、わたし、何か悪いことでもしちゃったかな、って思っちゃったじゃないの!」


「言い訳っぽく聞こえるかもしれないが、俺は軍人だから、どうしても愛想を振りまいたりするのが、どうも苦手だ。とはいえ、いらぬ緊張を与えてしまって、すまない」


 と言って、ピョートルは目を()せて、軽く頭を下げた。


「ううん、いいの……それより、何なの?聞きたいことって」


「ああ、ちょっと官邸の執務室まで来て欲しい。ガーラシア政府からの、極秘の要請が来ている」


 二人は執務室に向かいながら話す。


「極秘の要請って……そういうものはよくあるの?」


「そう滅多にあるものではないが、ガーラシアの友好国や中立国には、そういう要請が来ることが、たまにある。今回の件は、君に関わる内容かもしれないんだ」


 執務室に入ると、一枚の書類が机の上に置かれていた。ピョートルは立ったまま、それを手に取って、シンディに見せた。


 書類の上半分には似顔絵が描かれて、下半分には人 その似顔絵に関する説明が記載されていた。

 シンディはハッとした。

 その似顔絵が、シンディが非常によく知る人物に似ていたからだった。


「ガーラシアが極秘で、国際指名手配書をルーテシアに送って来た。王太子妃の侍女をしていた人物で、もし、ルーテシア国内や、ルーテシアに向かう船の乗船者にこの人物がいたら、ガーラシアに引き渡して欲しいとの要請だが……この人物に心当たりはあるか?」


 シンディは紙を手にとって、似顔絵をじっくりと見る。そして、


「こ……これって……間違いないわ!アイリスお姉さまの侍女をしていた、エドナに間違いない!」


「エドナさんっていうのは、一連の事件が起こる前に、王宮から姿を(くら)ましたって言っていたよな?この人相書きは、エドナに間違いがないと」


「ええ!この()りの深い南方特有の顔は、彼女の特徴を(とら)えているし、記載されている背格好も、彼女そのもの……!」


 シンディの手が、小刻みに震えていた。

 アイリスお姉さまが結婚してからも、エドナは連れ立ってガーラシア城に入り、お姉さまの侍女として働いていた

 カレンベルク侯爵家に、ゆかりのある人物。

 そんな人は、もういないだろうと思っていた。

 国際指名手配になっているということは、お姉さまの死、謀反の濡れ衣などの、一連の事件の『秘密』を知っているのかもしれないのだ。

 なんとしても、エドナに会わなければ……そういう気持ちが、沸々(ふつふつ)()いて来る。

 

「シンディ、分かった。もしこのルーテシアで、彼女に似た人物を見つけたり、外国でルーテシアに向かう船の乗客に彼女に似た人物がいれば、保護してガーラシアには引き渡さないようにする」


「ありがとう、ピョートル。彼女は絶対に何か秘密を握っているわ……なんとしても彼女に会いたい!」


 シンディは、少し興奮した口調になっていた。


「ああ、しかもこの手配書は、極秘命令で、秘密裏に身柄を確保して欲しいと書いてある。取調べなどもせず、そのままガーラシアに引き渡せ、ということだ。公開捜査をしないということは……」


「ガーラシアにとって都合の悪い真実を知っている、ということかもしれないってことよね……」


「ともかく、ルーテシア政府として出来ることはなんでもする。海外航路の船舶にも、彼女によく似た人物は保護の上、ルーテシアの政府に引き渡すよう、命令書を書こう!」


「ピョートル、ありがとう……もし……もし、私、エドナに会えたら……」


「ああ、そうなることを願いたいところだな!俺は司令書を書く。その間に……晩ご飯の準備をしてくれないか?」


 シンディは買ってきた食材を見せながら、


「うん!分かった。今日はシチューを作るよ!少し時間がかかるかもしれないけど、待っていてね!」


「お!シチューか良いな!肌寒くなってきたから、暖かいものが食べたいと思っていたところだ」


 幸せそうな笑顔になるピョートル。

 ご飯ってすごい。

 難しく深刻な話をしても、美味しいものを食べ始めたら、ホッとした時間を迎えることが出来る。

 今、出来ることは、限られている。

 たがらこそ、お料理だけは、しっかりと作るんだ……そんなこと考えながら、シンディはキッチンへと向かった。


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