表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/62

【第45話】接吻


「そうよ……私、今、泣いているの……偉そうなことばかり言っているのに、実際には、自分一人で何も出来ない、ただ……自分の不甲斐(ふがい)なさが、情けなくて……」


「ああ、君の気持ちは、分からなくもない。でも、焦ったり、ヤケになったりするな。この俺も、お前が復讐を遂げられるよう、なんとかチャンスを作ってやる。自分一人しかいないと思うな。お前のそばには、この俺がいる」


 シンディはピョートルの方に顔を向け、しばらくピョートルの姿を(なが)めた。

 そして、ピョートルのそばに歩み寄り、ピョートルに顔を寄せつける。

 そして、ゆっくりと口を開いた。


「ピョートル、私の願い、聞いてくれる?」


「ああ、どうした?俺に出来ることなら、なんでもやってやるが……」


 シンディは無言でピョートルの顔をじっと見た。

 シンディに見つめられたピョートルも、答えるかのように見つめ返す。

 目は少し赤みがかっていたが、もうシンディは泣いていないことが、ピョートルとに分かった。


「ねえ……」


シンディはピョートルをじっと見つめる。


「ああ……」


「ピョートル、キスして!」


「おい……急に何を言い出すんだ……!」


 思いもよらない言葉に、ピョートルは慌てた。

 しかし、シンディは(ひる)まず、じぃ……っとピョートルを見据(みす)える。


「私、今、あなたとキスがしたくなったの……私のファーストキス、あなたが奪って!」


 シンディの思いがけない急な申し出に、ピョートルは思わず後退(あとずさ)りした。

 その姿を見たシンディは、滅多なことでは落ち着きを失わないピョートルのその態度に、少し可笑しさを覚えた。

 シンディは、ピョートルの両頬をがっしりと(つか)む。

 そして自分の唇を、ピョートルの唇に押し付ける。

 唇を奪ったのは、シンディだった。

 唇を相手の口にねじ込むように、熱く、今の思いを全て、唇に集中させる。

 自分のファーストキスが、こんなに情熱的なものだとは想像していなかったシンディ。

 自分の中に眠る大胆さに、少し驚いていた。

 そしてピョートルも、唇でシンディをなだめるかのように、優しくその情熱を、自身の唇で受け止めていた。

 キスを終えて、やがて訪れる、僅かの静寂(せいじゃく)

 二人は身体を寄せ合ったまま、沈黙の余韻(よいん)の中にいた。

 最初に口を開いたのは、ピョートルだった。


「シンディ……悪い子だな……俺のファーストキスを無理やり奪いやがって……」


「え?……まさか、ピョートルも、初めて……だったの……」


「ずっと海軍にいた……海軍の仕事が楽しく、やり甲斐もあって、女性とそういう関係になる時間がなかった……まさかこんな形で自分のファーストキスを迎えるなんて、思いもしなかったさ」


「え……ヤダ、ゴメン……ピョートルのことだから、もうそういうことは済ませてると思ってた」


「いや、思い出に残る、最高のキスだったよ。死体の横でやるってのは、少しあれだけどさ。それより、まさか海軍提督の俺が、奪われるような形で、ファーストキスするなんて、思いもよらなかったからな……」


 ピョートルはグッとシンディの身体を引き寄せる。

 シンディは大きな身体に包まれる。

 衣服を挟んで伝わって来る、生きている身体の暖かさ。

 それまで経験をしたことがない安心感を覚える。

 初めてキスする場所は、自分が思っていたものよりも、遥かにグロテスクな場所だった。

 血塗られた真っ赤な絨毯(じゅうたん)の上でのキス。

 復讐に燃える自分には、こういう場所でのファーストキスがお似合いかもしれない、とシンディは考えていた。

 ピョートルが、沈黙を破って、耳元で(ささや)く。


「さあ、ルーテシアに帰ろう。帰って、次の復讐のチャンスを(うかが)おう……」


 ピョートルの胸の中で、シンディはだったただウンウンと(うなず)いた。


 船は方向を変え、大海を進んで行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ