【第40話】再会
シュバルツ砦の中に入ると、クラウディアが駆け寄ってきた。
「シンディ!生きていて、本当に…本当に良かった……」
「私も再会出来て嬉しいわ。またクラウディアに、会うことが出来るなんて……」
抱擁し合う、シンディとクラウディア。
シンディは、この嬉しさを、どう表現すれば良いか分からない。
ただただ、流れる涙も気にせず、眼を瞑ってクラウディアの体温を感じていた。
「スペンサーから、シンディは生きてるって聞かされていたけど、本当だったのね!さあ、奥に入って!スペンサーも待っているから」
クラウディアはそう言って、シンディと、ピョートルを奥の部屋へと案内する。
奥の部屋にいたスペンサーは、今か今かと待ちかねているような様子だった。
シンディが部屋に入ると、まるで時間が止まったようだった。
二人の間で、長い沈黙が流れた。
「シンディさん、生きていて、本当に良かった……」
少し涙目のスペンサーが、シンディに声をかける。
それに呼応する様に、シンディも
「スペンサーさま、お久しゅうございます。シンディも再びお会い出来て、嬉しゅうございます」
と挨拶したが、言葉が上手く続かなかった。
「僕の方は……見ての通り、断手刑で、右手を失ってしまったよ。でも……クラウディアが、僕の右手になってくれていて、助かっている」
スペンサーのすぐ側で、クラウディアが微笑んでいた。
仲睦まじそうな二人を見るシンディ、クラウディアに向かって、
「ねえ、クラウディア。あなた、スペンサーさまと、いつから、そういう仲になっていたの?学院にいた時に、教えてくれていたら良かったのに!」
「えへへ……!なんか、言うタイミングを、逃しちゃったの!だって、スペンサーは学院の教授で、生徒と教授が、恋仲だなんて、周りに知られたら、大変だと思ったから」
そっか、そうなんだ。でも良かった。クラウディアみたいなしっかりした人が、スペンサーさまの側にいたら、しっかりと世話をしてくれるだろう……。
でもちょっと、妬けるかな……とシンディは、嬉しくも少し複雑な気持ちになった。
スペンサーが、側で黙って聞いているピョートルにも声をかける。
「ピョートルも大変だな。こことルーテシアを行ったり来たりで、海軍の仕事が出来ないんじゃないか?」
「海軍と言っても、戦争のないこの時代の仕事は、海賊の取り締まりくらいさ。今回の航海も、海賊船の取り締まりのパトロールみたいなものに過ぎない」
スペンサーはシンディの方向に視線を戻して尋ねる。
「シンディさん、黒魔術を学んでいると聞いたけど……やっぱり復讐はするつもりなの?」
「復讐を果たすために、黒魔術を学んだんです。復讐するつもりがなければ、学んでいません」
「ピョートルからそう聞いていたけど……やっぱりそのつもりなんだね。そういう僕も、反乱を考えているわけだけどさ」
「はい。スペンサーさまが反乱を起こす時に、私もご一緒させて下さい。私は……王家の人間を殺るつもりですから」
とシンディはキッパリと言った。
「でも、シンディさん、反乱を起こしても勝てる可能性は万に一つ。まず勝てない。反乱を起こしても、あっという間に、鎮圧されるだろう。それは分かっているよね?」
「分かってます。私も一矢報えれば、上出来だと思っています。そして私は戦いの中で死ぬの……」
とシンディが言うと、
「待って!」
とクラウディアが、口を挟むように言った。
「二人だけで、先に天国に行っても、私もすぐに追いかけるからね。ほら、これ、見て!」
そう言って、クラウディアは、金色に輝く短刀を取り出した。
「スペンサーが死んだっていう知らせがあれば、私はこの短刀で喉を突いて死ぬの。敵の手に捕らえられるのは嫌だし……それに、スペンサーとシンディ二人だけで天国に行っちゃったら、シンディに、スペンサーを取られちゃいそうだから」
シンディは言葉にならなかった。クラウディアは、死ぬ気なんだと。
反乱が成功するのは、限りなくゼロに近い。
スペンサーも、死に向かって走っているのだ。
それをクラウディアは、何ともなく受け入れている。
二人の絆と運命に、言葉にできない気持ちになった。
「それよりも、シンディ、今日はなぜここに来たの?」
とクラウディアが尋ねる。
「うん、ちょっとクラウディアに、聞きたいことがあって……料理人のガリクソンっていう人が、あなたの故郷、グーゼンバウアー・シティで、レストランを開いてたって聞いたんだけど、知ってる?」
「ガリクソンのレストラン……もちろん知っているわよ。あそこは、家族や豪商が、よく使うラストランなの。私も、ある豪商のお茶会で、そこに行ったわ。その時にガリクソンさんとも挨拶もしたし」
「そうなんだ!面識もあるのね……ねえ、クラウディア、私のために、少し協力してくれる?」
「それは良いけど……一体どうしたの?」
「どうやら、アイリスお姉さまの死に、関わっているようなの……もし、お姉さまを死に追いやったのがガリクソンだったら……私はガリクソンを殺すつもり……あなたに反対されても……」
「ガリクソンさんとは、ただのお付き合いで挨拶していただけだから、私は反対しないわ。復讐の第一歩なんでしょ?だったら、私はいつでも、シンディの味方」
とクラウディアは、シンディの目を真っ直ぐ見て言った。