【第2話】第二王子でもしょせん第四王妃の子でしょう?
「カインさま、お言葉ではございますが、私は貴金属店からワイロの類は一切受け取っておりませぬ。そもそも、あの貴金属店でアクセサリーを買い求めたのは一度だけにございます。舞踏会で身につけるネックレスと、この髪飾りのみです。そしてこれらは全て、カレンベルク家の資産で買い求めたものです。ラークシュタイン王家の資産とは無関係にございます」
カインは、鬼の形相を更に強める。
「そんなこと、信じられるものか! 口から出まかせを言っているのであろう。この田舎育ちめ……都会に出て来て派手な生活を覚えたことの言い訳など、聞きとうないわ!」
「では、直ちにその貴金属店……城下のアレス貴金属店に押し入って、帳簿などを確認されれば宜しいでしょう? 店にはアクセサリーの保証書の控えなどが残されているはずで、それらを確認すれば、この学院で誰が奢侈な買い物をしているか、一目瞭然ですが」
イザベラの表情が一瞬曇ったのをシンディは見逃さなかった。
だが、カインは全く気がついていないようだ。
イザベラがアレス貴金属店に出向いては、アクセサリーの新作が出る度に購入していたのは、ここの学院の女学生であれば、誰でも知っている。
聞かれてもいないのに、周りに聞こえるように、これ、最近出た新作なのよ……などと注目を浴びるような発言を繰り返して来たのは、イザベラだ。
舞踏の練習の度に、新しいアクセサリーを見せびらかし、取り巻きは、それを賞賛し続けていた。
それでいて、舞踏の方は、練習不足で壊れかけの機械仕掛けのおもちゃのようなカクカクした動きしか出来ないのだ。
カインはチラリとイザベラを見下ろした。
滂沱の涙を見て、カインは更に慌てふためく。
「黙れ!黙れ! 実際にそなたに影響を受けてアレス貴金属店で買い物をした令嬢が多くいることは、否定出来ないであろう!」
「それは私のアクセサリーを何処で買い求めたのか聞いて来たご令嬢の方にお教えしたに過ぎません。私のアクセサリーは決して安くはありませんが、末永く使えるよう、店に材料から指定して、作らせたものでございます。王家の妻として恥じないものを、身につけるのも大切ですが、全ては我がカレンベルク領の領民の税を使ってのことにございます。無駄遣いは出来ませぬ」
シンディの一人演説を聞いていたイザベラは、両手で顔を覆い、慟哭し始めた。
「カイン王子さま……も、もう……宜しゅうございます。シンディさまのきついお言葉、イザベラはこれ以上、耐えられません……」
泣けば解決する、と信じて疑わない女だ。
普段の女きりのサロンで話しているように、毒舌で私を罵れば良いものを……と考えたシンディは、イザベラのことをひたすら無視することにした。
こんな女を批評するのも、時間の無駄だ。
「おお……イザベラ……泣くではない。私がついているではないか……私だけはお前のことを信じておるぞ……」
そう言いながら、イザベラの頭をそっと撫でるカイン。
視察と称しては、しょっちゅうこの舞踏の練習時間に、学院にやって来るカイン王子……毎日変わるイザベラのネックレスには気がつかないのだろうか……?
男というものは、髪型や装飾品については非道く鈍感なのに、女の涙にだけは異常なほど敏感で不思議だ。
シンディはもうどうでもよくなった。
言いたいことは、スッキリと言ってしまおう。
「カインさま、先程、ラークシュタイン王国第二王子の妻として云々とおっしゃられてましたけど、カインさまは第二王子とはいえ、所詮は第四王妃さまのお子。王位継承順位は、第六位で、王になるのは、ほぼ無理でございましょう? 地位のある侯爵家の婿養子になる為に、私と婚約した、というのが、この学院での噂でしたけど……もう婚約破棄ということですので、カレンベルク侯爵家の跡取りは諦められたのですね?」
カインの眉間の皺が、更に深いものになった。