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第四章 氷織 一時間目

 短編四作目と言う事で、今回は第四章奈良編で登場した嘉島氷織(かしまひおり)、嘉島ヒビキのお話です。

 少し未来のお話をしたいと思います。

 中学二年生の氷織(ひおり)ちゃん。

 あの生意気な少女がどの様に成長したのでしょうか。

 御楽しみ頂ければ幸いです。

 尚この作品は本編と少し世界線がズレたお話とお考え下さい。

 ではどうぞ。

 2021年 六月


 奈良県 天理市 嘉島家


「それじゃあヒビキ……

 行ってきます」


 少女が玄関で靴を履いている。

 肩甲骨の下あたりまで伸びる薄い水色のロングヘアー。

 大きな瞳で少し目尻が下がり、あまり精気が感じられない眼。


 この少女は嘉島氷織(かしまひおり) 十四歳。

 中学二年生である。


 奈良県の進学校、奈良学園中学校に通う。

 今日から夏服らしく清楚な白いブラウスとチェックのスカートを履いている。


氷織(ひおり)ー、行ってらっしゃーい」


 リビングから見送るのは嘉島ヒビキ。

 外見は食堂のおばちゃんの様だがれっきとした竜である。

 しかも高位の竜(ハイドラゴン)の一角“白の王”。

 氷織(ひおり)が小さい頃に両親が他界し、それ以来親代わりとして氷織(ひおり)の面倒を見ている。

 今日は梅雨にも関わらず快晴で気温も三十度を超えるとの事らしい。


「暑……

 もう嫌……

 夏嫌い……」


 照りつける初夏の日差しにすぐに音を上げる氷織(ひおり)

 奈良学園中学校は電車とバスを乗り継ぐ必要がある。

 氷織(ひおり)は奈良学園中学校に通うのは正直好ましく思っていない。

 理由は簡単。

 単純に遠いのだ。

 ざっくばらんに言えば通学ダリィって事だ。


 氷織は近くの市立校で良かったのだ。

 しかしヒビキからの強い勧めでしょうがなく通っている。

 氷織の顔は薄っすら汗が滲んできた。


 暑い。


 余りの暑さに肌がひりつく様だ。

 氷織はたまらずスキル発動。


「……コ……履霜堅氷(コーアギュレーション)……」


 ■履霜堅氷(コーアギュレーション)


 氷織(ひおり)の第二のスキル。

 空気中や物質に含まれる水分の状態変化を自在に行う。


 氷織(ひおり)履霜堅氷(コーアギュレーション)を使って体表面に薄い氷を張った。

 少々うっとおしくなるがそれは仕方がないと考える。

 氷の涼しさに思わずにんまりする。


「いけない……

 遅刻……」


 少し早足になる氷織(ひおり)

 体表面に張った氷のおかげで汗は全く掻いてない。

 駅に到着。


「おっひおりっちー。

 ちょりぃーっす」


 ウェーブがかかった金髪のロングヘアー。

 頬のチークがラメ入りで光っている。

 唇はグロスでテカテカ。

 いわゆるギャル風の少女が氷織に声をかけてくる。


「あっほのちゃん……

 おはよ……」


 このギャルは浪川ほのか。

 奈良学園中学校で唯一の氷織(ひおり)の友達と呼べる人物である。


「しかし暑いっ!

 ひおりっちー……

 氷出して~……」


 氷織(ひおり)はほのかの手を握る。


履霜堅氷(コーアギュレーション)……」


 ほのかの手の中に氷が現れる。

 空気中の水分を凝固させたのだ。


「あーちべたいっ!

 気持ちいい~。

 あ、ひおりっちーこっちもよろしく」


 ほのかは両腕を上げる。


「いいけど、動かないでよ……」


 ほのかの両脇に手を当てる。


履霜堅氷(コーアギュレーション)……」


 ほのかの脇の辺りの服と空気中の水分を凝固させ氷を出現させる。


「う……

 うひゃっうひゃひゃはひゃ!」


「だからほのちゃん……

 動かないでってば……

 はい終わり……」


「おーっ!

 きくきくーっ!

 さあガッコ行こっ」


 ほのかと氷織は電車に乗り込む。


「電車内はクーラー効いてていいね。

 でもさー竜河岸って便利だよねー」


「そんな良いものでも無いよ……

 友達出来づらいし……」


 氷織は少し俯く。


「いいじゃん。

 少なくともアタシは友達だと思ってるよ」


 氷織を見つめながら微笑むほのか。

 少し顔が綻ぶ氷織。

 そんなこんなで最寄り駅到着。


 近鉄郡山駅


 ここから通学バスに乗り換えて二十五分。


「ほのちゃん……ホントに遠いよね……ウチの学校……」


 バスに揺られながら愚痴をこぼす氷織(ひおり)


「確かに遠いけどこう言うの憧れてたからアタシは別に良いけどね」


「何に憧れるの……ヘンなほのちゃん……」


「だって恋愛ドラマとかでよくあるじゃん。

 こう言う所で急に後ろからオトコノコに声をかけられて告られるとかあるじゃーーんっ!」


 急にほのかは色めき立つ。

 氷織(ひおり)、ぽかーん。

 

「そんなの……

 よくわかんない……」


 この氷織(ひおり)という娘。

 普段は毒舌吐きなのだ。

 これがほのかでは無く別の人から言われた場合。


「は?

 恋愛?

 貴方何言ってんですか?

 ヒマなんですか?

 告られる?

 頭大丈夫ですか?

 熱に浮かされて機能停止してませんか?」


 ぐらいの言葉は投げかけてくる。

 これでまだ軽いジャブである。

 ここから要所要所でチクチク毒舌を放ってくる。


 ただ浪川ほのかだけは別なのだ。

 氷織(ひおり)の中で特別な存在。

 ほのかにだけはきちんと聞いてきちんと答えようと心掛けている氷織(ひおり)

 それが親友のあるべき姿と氷織(ひおり)は考える。

 初めて出来た親友。

 ほのかには伝えていないが親友だと思っている。


 奈良学園中学校バスロータリー到着


 ここから少し歩いて本館内に教室がある。


 二―A 教室


 氷織とほのかは無事遅刻せず登校。

 二人とも同じクラスだ。

 ほのかはさっさと鞄を自席に置き、氷織の席に行く。

 机に手を置きもたれかかるような姿勢のほのか。

 嬉しそうに昨日見た恋愛ドラマの話をしている。

 氷織も話が解ればと毎週見続けてはいるがいまいちピンと来ない。

 だが楽しそうに好きな俳優の話をするほのかを見て、はにかむように少し微笑む氷織。


 ガラッ


 男性教諭が入って来る。

 担任だ。慌ただしくみんな席に着きだす。


「うーし、お前らーHR(ホームルーム)始めるぞー。

 今日はまず転校生を紹介するー。

 入ってこーい」


 一人の男子と山吹色の竜が入って来た。

 竜が入って来たことによりざわつくクラス。


(おいおい……

 竜だよ……)


(私、初めて見た……)


 中央の教壇の前に立つ竜と男子。

 くるっと後ろを向く。

 チョークを手に取り、カツカツとリズム良く滑らせる。

 書き終わりくるりと振り向く。

 緑の黒板に現れる白い文字


 久我秋水


 髪は黒く長髪。

 後ろでまとめて女性で言う所のポニーテールの様になっている。

 男でいう所の総髪だ。

 目尻は上がり鋭く、顎は四角い。

 背はほのかの頭一つ分ぐらい上でガッシリとしている。

 まさに男子と言った風貌だ。


「ワシは久我秋水(こがしゅうすい)

 四国から来たばっかりやき右も左もわからん。

 見ての通り竜河岸やけんど皆さん宜しゅう頼んます」


 バリバリの土佐弁で自己紹介をする秋水(しゅうすい)


(みんな仲良くしてやってくれー。

 えーと……

 じゃあ久我(こが)はあそこに座ってくれ)


 氷織の後ろを指さす担任。


「みんなよろしゅうな」


 机と机の間を悠々と歩く秋水(しゅうすい)と竜。

 ぼーっと見ている氷織。

 奈良県は竜河岸の数が異様に少ない。

 自身が竜河岸と言ってもやはり珍しいのだ。


 だが氷織の興味は別にシフトしていた。


「竜河岸って珍しいな……

 でも変な喋り方……」


(しゅう)ちゃんや……

 ここは日差しがポカポカで気持ちいいねぇ】


 窓際の一番後ろの席。

 席替えでも人気の高い席である。

 秋水(しゅうすい)が座る席の後ろでちょこんと座る山吹色の竜。

 初夏の日差しを体一杯に浴びご満悦である。


 ザワザワ


 付近の座席が少し騒ぐ。


(何か竜が唸ったぞ……)


 ザワザワ


(本当に竜なんだ……)


 その様子を見ていた担任が手を叩きながら声を上げる。


(はいはいお前らー。

 竜が珍しいのは解るが静かにしろー。

 竜の声は唸り声にしか聞こえないかもしれないがちゃんと話してるんだぞー。

 何喋ってるかは久我(こが)本人に聞けー。

 じゃあHR(ホームルーム)終了ー)


 キーンコーンカーンコーン


 先生はああ言っていたがどの生徒も遠巻きで様子を伺うのみで近づいてこない。


「ハハハ。

 ロンジェ何を言いゆう」


 秋水(しゅうすい)は楽しそうに竜と話している。

 そこへほのかが話しかける。


「よっ転校生。

 ちょりーっす」


 軽い敬礼の様な所作をしながら挨拶をする。


「おっ。

 さすが都会じゃ。

 こがなギャルみたいな子がおるなんてのう」


「ねぇ転校生。

 今この竜、何ていったの?」


「ああ、みんなと仲良うできるんかって心配しちゅうんじゃ。

 それより転校生はやめぇ。

 オイには秋水(しゅうすい)っちゅう名前があるがよき」


「うわっすげー訛り。

 アタシ浪川ほのか。

 それって土佐弁だっけ?」


「ああ、ワシャ生まれも育ちも高知じゃ。

 まあ仲良うしてくれ」


 秋水は握手のため手を差し出す。


「あぁ、いいよ。

 秋水(しゅうすい)……

 秋水(しゅうすい)……

 (しゅう)ちゃんだね」


 握手に応じるほのか。


 キーンコーンカーンコーン


 一時限目 数学


 授業が始まる。

 進学校だけあってみんな真剣だ。


(はい、じゃあこの問題を……

 浪川(なみかわ)


 ほのかが当てられる。


「Y=2ⅹ+10」


 即座にほのかが答える。


(正解だ。

 良く出来たな)


 外見から想像できないぐらい頭が良いほのか。

 実は小学校時代はメガネにお下げ、図書委員という真面目なガリ勉だった。


 昼休み


「さぁーっ。

 お昼ご飯だっ。

 ひおりっち何がいい?」


「え……

 えと……

 メロンパンとクリームパン……

 いつもごめんね……

 ほのちゃん」


「いいーっていいーって。

 アタシも暑い時とか氷出してもらってんじゃん」


「じゃあ……

 私、飲み物買ってくるね……

 何がいい……?」


「じゃあ抹茶オーレ頼むねひおりっち。

 さあっ!

 いっちょゲットしてきますかっ!

 うおおおおっ!」


 ほのかは威勢よく外へ走り出していった。

 このギャルファッションは中学生からだが外見も変わると内面も変わるもので小学校時代から比べると全く別人である。

 氷織が立ち上がり自販機に行こうとすると秋水(しゅうすい)が話しかけてくる。


「よお。おまさん、ほのかの友達やろ?

 弁当持って来ちゅーが自販機の場所が解らんき案内してくれんか?」


 氷織(ひおり)はビクッとなる。

 竜河岸には興味があったが初対面の人間と上手く話すスキルなんて持ち合わせていない。


「え……

 あ……

 い、いいけど……」


 キョドりながら応じる氷織。

 氷織と秋水(しゅうすい)、竜は外へ出向く。

 お互い無言で歩く。

 そこで竜が口を開く。


【ねえねえ(しゅう)ちゃん、せっかく女の子と知り合ったのに声かけなくていいのかい】


「ロンジェ、何を言いゆう」


【もしかしたら仲良くなってお付き合いなんて事になるかも知れないじゃないウフフ】


 竜の顔が綻んでいる。

 対照的に秋水(しゅうすい)と氷織の顔がボッと赤くなる


「ロッ……ロンジェ!

 何言いよるんちゃ!

 ワシにはまだ早いぜよっ!」


「なっ……

 何を言ってるんですかっ……!」


「ん……

 おまさん、ロンジェの言いゆう事が解るんやか?」


「はい……

 私も竜河岸ですから……」


「それにしては竜が傍らに居るはずけんどどがいしたのやか?」


「……今働いてる……」


 それを聞いた秋水(しゅうすい)は見るからに疑問の表情。

 眉間にくっきり皺が寄っている。


「何やかそりゃ?」


「……ここ……」


 氷織(ひおり)が指差す。

 その先に自販機が三基設置されている。


「へ……?

 あ、あぁ悪かったや」


 飲み物を二本購入し、教室へ戻る三人。

 戻るとほのかが戻ってきていた。


「あ、ひおりっちー。

 パン買ってきたよー」


「……ありがとほのちゃん……

 ハイ抹茶オーレ……」


「あっサンキュー、さあ食べよ食べよっ……

 ん?

 (しゅう)ちゃんも一緒に食べよっ」


 氷織の席の前に椅子を持ってきて座るほのかが手招く。


「げにすまんのう。

 じゃあ失礼するぜよ」


 ドッカと二段重ねのお重を氷織の机に置く秋水(しゅうすい)

 早速フタを開ける。

 中身を見て驚くほのかと氷織。

 一段目はギッシリ詰め込まれた柏餅。

 二段目は比較的普通のお弁当。

 御飯が少し多めだろうか。

 この奇妙な取り合わせに凝視する二人。

 まずは口火を切るほのか。


(しゅう)ちゃんの弁当って……

 何かすっごいね……

 これって四国流?」


 秋水(しゅうすい)は笑いながら手を振り否定する。


「違うちや。

 この柏餅はロンジェのお昼やき。

 ワシは二段目だけ。

 こいつは柏餅がしょう(非常に)好きでのう」


【あら?

 柏餅美味しいじゃないフフフ】


 ロンジェと呼ばれる竜が柏餅をひょいひょい食べている。

 その様子を見てほのかが話しかける。


「ねえ(しゅう)ちゃん、この竜名前なんてーの?」


「ああ、紹介がまだやったな。

 この竜はロンジェ。

 陸竜じゃ。

 お婆ちゃん竜ちや」


【やだわ(しゅう)ちゃん、お婆ちゃんなんて。

 まだ年齢は一万五千歳よ】


「ハハハ、一万五千歳じゃったら充分お婆ちゃんやか」


「ねえねえ(しゅう)ちゃん、ロンジェ何て言ったか教えてよ」


「ああ、ロンジェはのう。

 自分はまだまだ若いっちゅうんやき。

 一万五千歳やのにのう」


 途方もない数字が出てきて少しひくほのか


「……一万年も生きるとどうなるんだろ……?

 ねえひおりっち」


「……知らない……」


 氷織は竜の年齢には興味が無いようでもくもくとメロンパンを食べている。

 昼食も終わり午後の授業も淡々とこなし、気が付いたらもう終礼の時間である。


(……はいじゃあ今日はここまで。

 掃除当番、ちゃんと掃除して帰れよ。

 じゃあ日直)


(起立!

 礼!

 ありがとうございましたー!)


 クラス全員礼をして机を持ち上げ後ろに下げ出す。


「な……

 何ちや!?」


 周りの動きに驚く秋水(しゅうすい)

 後ろにつっかえて転びそうになる氷織。


「何って……

 この後掃除があるから机を下げてるんですよ……

 私帰りたいので早くして下さい」


 氷織はクールにそう言う。


「おおすまん。

 ざんじ(すぐに)やるき、ちっくと待っちょって……

 よっと」


 秋水(しゅうすい)は机を持ち上げ後ろに下げる。

 一番後ろの席だったためすぐに完了。


「おっと……

 邪魔になっちゅうな……」


 秋水(しゅうすい)はロンジェと一緒に前に行こうとする。

 この時間はいつもクラス中慌ただしくなる。

 一番後ろの生徒は即座に机を下げ、横に移動し一旦教室外に出るのが常である。

 しかし転校生だからか前に行った。

 それが原因で事件が起きる。


「よっ、ほっ、騒がしいのう……

 うおっ!」


 身体を縦や横にし前に行こうとした秋水(しゅうすい)

 ロンジェの尻尾に引っ掛かり豪快に前に転ぶ。


 ズル


 秋水(しゅうすい)に特にけがは無くすぐに立ち上がろうとする。


「いちち……

 ん?

 何ちやこれは?」


 片膝をついている秋水(しゅうすい)の目の前に薄い水色の三角の布が見える。

 小さな黄色いリボンが付いていてフリルがあしらってある。


 何か震えている。

 秋水(しゅうすい)は気づいた。

 恐る恐る顔を見上げる。

 上には熟れたトマトの様に顔が赤く、震えている氷織が居る。

 二人の周りは今起きている事に右から絶句している。


【おやまぁ】


「え……

 ええ下着じゃのう……」


 秋水(しゅうすい)はフォローのつもりだが全然フォローになってない最悪の応対をしてしまう。

 氷織は黙ってスカートを履き直す。

 黙っているが物凄く怒っている空気が伝わってくる。

 履き終えた氷織は秋水(しゅうすい)の顔も見ずに教室外へ出ようとする。

 出る瞬間秋水(しゅうすい)の顔をジトッとした目で見つめポツリと一言。


「……ヘンタイ」


 外に出て早足で歩く氷織。

 まだ顔の赤さが収まらない。

 とっとと場から立ち去りたい気持ちで一杯だった。

 頭の中には公衆の面前でパンツを晒した事がぐるぐる回る。


 校庭に出た所で後ろから声がかかる。


「お~い。

 ひおりっち~

 待てよ~」


「……ほのちゃん」


 ほのかが息せき切って走って来る。


「待てって……

 ハァッハァッ……

 アタシを置いて行くなよ」


「ごめん……

 ほのちゃん……

 でも……」


「まぁ気持ちはわかるよ。

 皆の前でパンツ御開帳だもんね」


 その発言を聞いて収まりかけていた顔がまた熟れたトマトになる。

 余りに恥ずかしくて声も出ない。

 そんな氷織を気遣って話題を変える。


「そ……

 そういやそろそろ中間テストじゃん?

 今日どっかで勉強して帰んない?」


「……じゃあ……

 ウチくる……?」


「えっ!?

 いいのっ!?」


「どうせ帰り道だし……

 どっか入るのもお金勿体ないし……」


「ヒビキさんに会うの久しぶり~

 楽しみっ!

 今日居るっ?」


「今日は休みって言ってた……」


 それを聞いたほのかは氷織の手を持って早足になる。

 よほどヒビキに会いたいらしくすぐに天理市到着。

 途中コンビニに寄っておやつを購入。


 嘉島家


「……ただいま……」


「おっおかえり、氷織」


 白いタンクトップにGパンを履いて出迎える。


「今日……」


「ヒビキさんっ、お久しぶりですっ!」


 氷織が言いかけた所にほのかが被せて挨拶。


「おっほのかちゃん、いらっしゃい」


 二人は氷織の部屋に入る。

 六畳の部屋に水色の絨毯が敷いてある。

 隅にはベッドがあり、枕元に小さなクマのぬいぐるみが置いてある。

 氷織の思い出の品である。

 氷織は自分の机に鞄を置き、とっとと制服から部屋着に着替える。

 ほのかはテーブルの前に座る。


「さあやるか……

 アタシ理数は得意なんだけど、文系がねぇ」


 とほのか。


「私は……

 文系は得意だけど……

 理数が……」


 と氷織。

 この二人はテストの度に不得意部分をそれぞれフォローし合っている。


「そういえば……

 今回のテストって……」


「あぁ、協力制度だったっけ?」


 ■協力制度


 奈良学園中学校で今年度から始まる施策。

 三人~四人でグループを組みテストを受ける。

 グループの平均点が各々の成績となる。

 目的は学力の底上げとチームワークの育成。


「うん……

 グループ決め明日だっけ……?」


「そうそう。

 あれってどうやって決めるんだっけ?」


「確か……

 好きなもの同士で組むって先生言ってたよ……」


「アタシとひおりっちが組めば大丈夫だろっ!?」


 ひおりは健康的なウインクをする。

 その様子を見てはにかむ氷織(ひおり)


「ふふ…………

 なあにそれ」


「さっ勉強続けよっ!

 ここここっ!

 ここ教えてっ!

 ひおりっちっ!」


 こんな感じで勉強会は進む。

 毎回テストが近づくと二人は集まり勉強会をする。

 氷織(ひおり)は文系の範囲を。

 ほのかは理数系の範囲をそれぞれ教え合ってテストは乗り切ってきた。


「あ……

 もうこんな時間……

 ほのちゃんどうする……?

 晩御飯……」


 氷織(ひおり)はゆっくりと時計を見上げる。


 午後六時五十五分


「えっ!?

 ご馳走してくれんのっ!?」


「……うん」


「やったーっ!

 ヒビキさんのご飯美味しいから大好きっ!」


 ほのかは満面の笑みで両手を上げて大喜び。


「フフフ……」


 そんなほのかを見て、ほっこり笑う氷織(ひおり)


「じゃあ……

 ヒビキに言ってくんね……」


「うんっ!」


 トテテ


 ゆっくり立ち上がりリビングに向かう氷織(ひおり)

 しばらくして帰って来る氷織(ひおり)


「ヒビキ……

 良いって……」


「ありがとっ!

 ひおりっちっ!」


 しばらく談笑。

 直にヒビキの大声がかかる。


「アンタ達ーーーっ!

 晩御飯出来たよーーーッッ!」


「はーい……

 行こ……

 ほのちゃん……」


「うんっ!

 行こっ!」


 嘉島家 リビング


氷織(ひおり)ーっ!

 この大皿持ってってーっ!」


「うん……」


 氷織(ひおり)は唐揚げが山盛り載っている大皿をテーブルに運ぶ。


「あっ!

 私も手伝うっ!」


「おっ!

 ほのかちゃん、ごめんねぇ」


 煮物が入った皿を持っていく。


「ヒビキさんの煮物大好きっ!」


「ハイッ!

 味噌汁入れたよーっ!

 持ってってーっ!

 氷織(ひおり)ーっ!」


「うん……」


 テーブルに料理が並ぶ。


■メニュー


 鶏のから揚げ

 野菜の煮物

 味噌汁

 小松菜のお浸し

 ご飯


 晩御飯スタート。


 パクパク


「やっぱ美味しいっすねっ!

 ヒビキさんの煮物っ!」


「そうかいっ!?

 いっぱい食べなっ!」


「ゴチになりやーすっ!」


 もくもく


 黙って黙々と食べる氷織(ひおり)


「ひおりっちは毎日こんな美味しいご飯食べてんだもんねーっ

 いいなーっ!」


 それを聞いたヒビキがにんまり笑いながら無言で氷織(ひおり)を見つめる。


「私は普段から食べてるから……

 別に……

 ご馳走様……」


 早々に食べ終わった氷織(ひおり)は食器を片付け始める。


氷織(ひおり)~~~…………」


 ヒビキがテーブルに顎を乗せしょげている。

 ショックだったのだろう。


「まっ……

 まぁそれだけ自分の中に馴染んでるって事ですよっ!」


 ほのかは場の空気にいたたまれなくなり良く判らないフォローを入れる。


「そうかねぇ~~~…………」


 ポーズを変えないヒビキ。

 晩御飯を食べ終わったほのかはそのまま帰宅。

 その日はそのまま過ぎて行った。


 二時間目に続く


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