第三章 元 後編~決着 JR大阪駅前の死闘~
舎弟がとっさに叫ぶ。
(鮫島さんっ!
後ろッ!
危ないっ!)
野生の勘が働いたのだろうか、頭上に腕を交差させ防御状態。
ドン!
交差した元の両腕にたっぷり体重の乗った火琉弥の踵が突き刺さる。
「うおぉっ!」
あまりの強烈な威力に片膝をつく元。
「ぬうぇいっ!」
交差した腕を振り解く。
ケンケン足で間合いを広げる火琉弥。
「よぉ、前はよくもやってくれたのう。
今回はワシがわざわざ梅田に出向いてやったわ。
フレイも一緒やで」
【あー火琉弥たいぎいのもたいがいにせーよ。
てごすんのに遠出はこれきりやからのう】
【フレイ……
何言ってるかわかんない……】
ベノムがポツリとそう呟く。
元はゆっくり立ち上がる。
顔は少し笑っている。
強敵に喜んでいるようだ。
「ええのうええのう、闘志漲っとるやないかい。
ワレとやるのこれで三回目やのう。
これで決着といこうやっ!
ワイは鮫島元っ!
竜河岸やっ!」
火琉弥はサングラスを外し胸にかける。
「フン、調子に乗りくさりおって。
ワシは火威火琉弥っ!
竜河岸やっ!」
素早さでは火琉弥の方が一枚上手の様で先に仕掛けてきた。
素早いスイッチでステップを数回踏み。
鋭くステップイン。
「シュッ!」
火の様な右前蹴りを放つ。
これはこの前火琉弥が言っていた喧嘩の時最初に決めるコンボだ。
もちろん元もそれを覚えていた。
さっそく足を掴みにかかる。
が、火琉弥も掴みには注意していた。
火の様な前蹴りはフェイントである。
急激なブレーキがかかり蹴りが止まる。
その体勢のまま右足の位置が横にズれ
強烈な掛け蹴りが元の横から襲い掛かる。
だが、元もその動きに対応し掴みにかかる。
「……爆燃……」
元の手と火琉弥の脚が降れるか触れないかの刹那。
火琉弥がぽつりと呟く。
手と足が触れた瞬間。
ドグォン!
接触点が光り、小さな爆発が起きる。
強烈な爆音が響き、急激に膨張した圧力により元の身体は吹っ飛ぶ。
「うおぉぉっ!」
地面に倒れこむ元。
掌が少し焦げている。
元は頭を左右に振りながら立ち上がり、驚いた眼で火琉弥の方を向く。
「何や今のは……」
火琉弥は白い歯を見せ笑う。
「どや?
ビビったやろ。
これがワシのスキル“爆燃”や。
ワシは任意の場所を爆発させる事が出来る。
お前が掴んでくるの解っとったからなあ」
それを聞いた元もニヤリと笑う。
「ええのう、ようやく竜河岸らしくなってきたやないか」
火琉弥の頭が緩やかに上下に揺れ出す。
跆拳道のサインウェーブの動き。
「ヌルヌルヌルヌル気持ち悪い動きしくさりよって」
そんな事言いつつ次は元から仕掛ける。
急激なダッシュで間合いを詰め、強烈な右ストレートを火琉弥の顔面に放つ。
が、素早い内回し蹴りによって逸らされる。
そしてポツリと一言。
「爆燃……」
ドグォン!
再び元の右腕の接触点が光り爆発する。
膨張圧力によりまた元の身体が吹っ飛ぶ。
再び倒れる元。
「また爆発かい……」
起き上がりまた頭を左右に振る元。
ここで考える。
あの爆発で火琉弥自身は平気なのかと。
少し目をやると火琉弥の右脚脛辺りが焦げているのが解る。
と言う事はあの爆発で無傷ではいられないのだ。
「しゃあないなぁ。
根性入れ直して行くか……」
元は大きく深呼吸をし、腹を括った。
先程と同じ様にダッシュし間合いを詰める。
そして強烈な右フックを放つ。
だが単体の攻撃は火琉弥には通じない。
素早い横回し蹴りで防がれる。
「……爆燃」
火琉弥がそう呟くと三度接触点が爆発する。
膨張圧力が元を襲う。
吹き飛ぶ身体。
だが元は堪えた。
火琉弥が体勢を整える前に素早く掴みかかる。
ゼロ距離で密着する二つの身体。
元は火琉弥左肩と右脚をガッチリ掴んでいる。
「クソッ!
離せやコラァッ!」
「へへへ……
思った通りや。
ワレあの爆発で無傷でいられんのやろ。
大方ズボンは防火材を下に仕込んどるんや。
だからここまで密着されるとスキル使えんて訳や。
自分も大火傷負ってまうからなあ」
振り解こうと身体をよじらせる火琉弥。
だが、元は離さない。
「無駄や無駄。
ワイの握力は前の喧嘩で見せた通りや……
よっと」
元は体を前に預ける。
バランスを崩し倒れる。
もつれあう二人。
気がつくと、元がマウントを取る状態になった。
「さぁ、ようやくワレに拳骨喰らわせる事が出来るわ。
さあ……
覚悟せいや」
元はボキボキと拳を鳴らし、ギュッと右手を握りこむ。
そして高く手を上げ、勢いよく振り下ろす。
ズン!
「グボァッ!」
元の右拳骨が火琉弥の鳩尾辺りに突き刺さる。
余りの勢いで身体が曲がる。
口からは涎が飛び出す。
目をひん剥き、苦悶の表情の火琉弥。
元はマウントを解き離れる。
腹を押さえ、ブルブル震える火琉弥。
体の中で衝撃が波打っている。
胃液を吐く。
ボタボタと口から落ちる吐瀉物。
ようやく口を開く。
「お前……
何やこれ……」
「どや?
これがワイのスキル“震拳”や。
衝撃が身体中を駆け巡るでぇ」
先程のお返しと言わんばかりに笑う元。
相手は四つん這いの状態からまだ立ち上がれない。
元の放った渾身の震拳は火琉弥の体内で銅鑼を鳴らし続ける様に衝撃を波立たせる。
「グボァァッ!」
再び嘔吐する火琉弥。
元はその様子を眺めている。
「ほっほう。
ワイの震拳、身体が大きい奴ほど効き目あるみたいやな。
これは一つ勉強になったでぇ」
ようやく火琉弥は起き上がる。
だが身体はまだふらついている。
「一気に畳みかけるでぇっ!」
元が勢いよく飛び出す。
右フックを放つ。
火琉弥はよろめきながら弱弱しく脚で防ごうとする。
その時、元の右肩の側で閃光。
爆発が起きる。
ドグォン!
「うぉっ!」
元の身体が吹っ飛ぶ。
思いがけない位置からの爆発のため、元は倒れこむ。
「くそ……
爆燃が定まらん……」
火琉弥は震拳の影響により爆燃の座標位置が定まらない様子。
頭を左右に振る元。
「何やワイの震拳の影響かい」
「もう知らんぞ……
こっからはワシも爆燃がどうなるかわからん……」
「乱戦って事かいっ!
望む所やっ!」
片膝をついていた元はすっくと立ち上がる。
猛然と相手にダッシュする。
ふらつく火琉弥がぽつり。
「……爆燃……」
パパパッ!
元の進行路に三つ閃光がスパーク。
ドドドグォン!
いくら元でも三爆発の膨張圧力は堪える事が出来ず、吹っ飛ばされる。
が、何とかバランスを取り転倒は免れる。
着火点が甘かったらしく元にダメージは無い。
すぐに立ち上がり再びダッシュする。
「うぉぉぉっ!」
「……爆燃……」
次は元の動線上に二か所煌めく。
「フン」
元はダッシュしながらウィービングやダッキングを駆使し、爆発を躱す。
が、瞬間元の目の前がスパークし爆せる。
「うおおおおっ!」
顔の表皮に伝わる余りの熱さに元は転げ回る。
(さ……
鮫島さん……)
舎弟がようやく回復し、半身を起こし元の身を案じる。
が、瞬間。
ドドドグォン
大きな爆音とそこかしこに爆発が起きた。
(うわっ!)
(キャアッ!)
(何だーっ!)
舎弟はまた顔を伏せて動かなくなった。
小さく煙が上がっている。
無関係の一般人も巻き込まれている。
とここでフレイが一言提言する。
【おい火琉弥落ち着かんかい。
これ以上暴発が続くとぶちたいぎぃ事になるぞ】
「フレイ……
すまんな……
すぅーっ……
はぁーっ」
火琉弥は大きく何回か深呼吸をする。
息を吸うと腹が凹み、吐くと腹が膨らんでいる。
その独特な体の動きに元が気づく。
「フン、最近の跆拳道使いは息吹なんかも使うんか」
数回深呼吸を終えるとふらついていた火琉弥の身体がぴたりと止まる。
「ふう……
ようやく落ち着いたわ。
お前の拳恐ろしいのう。
ムカつくけどお前の強さはホンモノや。
認めたる。
ここからはガチで行くで。
死んでも恨むなやぁっ!」
火琉弥はその場で数回ステップをし、猛然と元に向かってくる。
「へへ、いい闘志やないかい。
さぁ来いやぁっ!」
元もファイテングポーズを取る。
お互いの間合いが一メートル弱まで迫った時、火琉弥が仕掛けた。
右脚を上げいわゆる一本足状態でにじり寄って来る。
「シュッ!」
強烈な前蹴りが元を襲う。
たまらず元、両腕で防御態勢。
が、それはフェイント。
先程と同じ手だ。
急ブレーキがかかり、右脚を素早く持ち上げ火の様な前回し蹴りの連打が元の左側から襲い来る。
元は防戦一方。
ここで大技。
左後ろ回し蹴りが元の後頭部に炸裂しようとする。
この後ろ回し蹴りは別名見えない蹴りと呼ばれる蹴りだ。
「この辺りかぁっ!」
元は拳を闇雲に視界外へ放つ。
瞬間。
後頭部近くが爆せる。
ドドゥン!
「ブハッ!」
元が至近距離での爆発で吹っ飛ぶ。
ドシャァッ
吹き飛び倒れこむ。
左頬が焦げている。
倒れた元を見下ろし火琉弥が話す。
「どや?
攻撃で使う爆燃の味は?
蹴りの威力も加わって痛さ倍増やろ?」
「くそ……
躱されたか」
前回の戦いからとにかく火琉弥に勝つためにはその脚を何とかしないとと元は考えていた。
先程闇雲に出した拳もその脚を何とかするための仕掛けである。
だが爆発でかき消され手応えがあったかどうかも定かではない。
平気そうに立っている所を見ると拳は当たっていないのだろうか。
元は悔しそうな顔を覗かせる。
「まだまだ行くで」
「くそっ……」
素早く立ち上がり体勢を整える元。
火琉弥は猛烈に向かってくる。
間合いが狭まった。
先程と同じくフラミンゴの様に一本足になった瞬間。
ガクッと膝が折れる。
「うおっ!」
急の出来事に反射的に右フックを繰り出す元。
ちょうど良く火琉弥の顔が降りてきていて顔面に元の鉄拳が炸裂。
後方へ吹き飛ぶ火琉弥。
反射的に出した拳のためスキルは未発動だった。
「いてて……
何やこれ……」
手で顔押さえながら半身を起こす火琉弥。
自身の下半身を見て絶句する。
左脚全体がブルブルと小刻みに震えている。
「よし……
やっぱ拳は当たってたか」
その左脚の様子を見て勝利を確信する元。
「くそっ……!
動けぇっ!
動けやぁっ!」
火琉弥は憤った感情を手に乗せてバシバシ左脚を叩く。
が、左脚の小刻みの震えは止まらない。
元が口を開く。
「さっきの後ろ回し蹴りの時ワイの拳は当たってたようやな。
手応え無かったから当たってないと思ったわ。
ワイの震拳、我ながら恐ろしいのう。
どや?
脚がそんなやったらもう戦えんやろ?
降参するか?」
「するかぁっ!
ボケェッ!
まだ利き脚は生きとるわいっ!」
右脚を使い立ち上がる火琉弥。
右脚一本で立つ。
「そろそろこのケンカも終わりやな。
楽しかったでぇっ」
「何勝手に終了しくさってんねんっ!
いくぞぉっ!
コラァッ!」
残る右脚にあらん限りの力を込め跳躍する火琉弥。
体を回し飛び前回し蹴りの体勢。
迫る火琉弥。
元は両腕を引く。
双掌打の構え。
火琉弥の脚が近づく。
元の左頬に凄烈な火琉弥の右脚が炸裂。
同時に元の繰り出す峻烈な双掌打が火琉弥の腹に炸裂。
お互いの攻撃が当たった刹那。
火琉弥の右脚あたりが爆せる。
ドドドウン!
膨張圧力による爆風で元の身体は横に、火琉弥は後ろに吹っ飛ぶ。
倒れこむ二人。
元は左頬に二次的爆傷を負っている。
焼け焦げた頬が痛々しい。
だがダメージは火琉弥の方が大きかった。
先程は左脚だけだった震えが全身に回っている。
「お前……
さっきとちゃうぞっ……
これなん……
グボァァッァァァッ!」
吐いた。
量も先程とは比べ物にならない量だ。
火琉弥を中心にどんどん大きくなる吐瀉物の円。
先程とは違うダメージの大きさに元はゆっくりと起き上がり話し出す。
「ワイの拳の二連撃はキツいでぇ。
双震拳言うてな。
二つの衝撃波が体内で共鳴し合って倍加するでぇ」
「なん……
やと……
グボァァァッァ!」
また吐いた。
火琉弥の体内は銅鑼を二つ互いに鳴らし合っている様に衝撃が駆け巡っている。
もう内臓はメチャメチャだ。
ドシャ
火琉弥は声も発せずうつ伏せに倒れてしまった。
第三戦 元VS火琉弥 元の勝利(双震拳)
喧嘩をずっと見ていたフレイが寄って来る。
【ようやく終わったか。
はよかえろーや火琉弥……
火琉弥ッ!?
オイッ!】
「無駄や無駄。
ワイの双震拳喰らっとんのや。
当分起きへんで」
【何やと!?
お前がおらなどーやって電車乗んねんっ!
ぶちだいぎぃわぁ!
しょうがないのう……】
フレイは火琉弥の襟首を掴み無造作に背中に載せる。
【ほいじゃワシ帰るわ。
ベノムまたの。
はぁたいぎぃわぁ】
そう言い残し、火琉弥を載せたフレイは走り去ってしまった。
「はぁ、しんどーっ!」
元は疲れを言葉に載せて発する。
舎弟が起き上がり寄って来る。
(鮫島さんっ!
大丈夫ですか!?
うわっ……
その左頬大丈夫っすか……?)
赤く爛れた痛々しい元の左頬を見て無残なほど痛ましい表情を見せる舎弟。
「おう大丈夫や。
あのアホがボンボン爆破しくさりよってのう。
今日は疲れたわ、お前ら帰るぞ」
元はサングラスをかけその場を後にする。
十三 鮫島家
「ただいま~」
「おお元、おか……
何じゃ!?
その頬はっ!」
「ああ、これか……
ケンカでやられたんじゃ」
それを聞いたフネが目にカッと見開く。
「喝ーっ!
お前はまたゴンタしくさりよって!
こっち来いっ!
軟膏塗ったる!」
フネの言う軟膏と言うのはフネ特製の一品で打ち身、火傷に抜群の効果がある。
が、それを聞いた元は後ずさる。
「ゲッ……
軟膏ってあれか……
バーチャン勘弁」
元は両手を合わせ拝み、どうにか軟膏を塗るのを避けようとする。
というのもこの軟膏、効き目は抜群なのだが一度塗ると寝られないほどの激痛を伴うのだ。
鮫島家 茶の間
ガラッ
勢いよく襖が開く。
フネと襟首を掴まれた元がズカズカと入って来る。
「えーと、軟膏はどこやったかいのう」
フネは襟首を掴んだまま茶箪笥を片手でゴソゴソし出す。
「ばーちゃん……
あの軟膏はホンマ勘弁や。
あれ塗ったら寝られんぐらい痛いんやって」
襟首を掴まれた元は最後のお願いをするが聞き届けられず。
「駄目じゃー」
フネは軟膏の蓋を開け元にマウントポジション。
ちなみにフネは合気道十段の腕前である。
元もフネには敵わない事は重々承知である。
「さぁ観念せい」
軟膏をたっぷり載せたフネの人差し指がゆっくりとゆっくりと元の患部に迫る。
「ヒィィィッ……
いっっったぁぁっぁぁぁ!」
元の叫び声が響く。
しかし塗るのを止めないフネ。
「こら暴れるな……
この軟膏は刷り込まなあかんのや。
ヌリヌリ」
元の患部が燃えるように熱く痛む。
構わず塗り込むフネ。
「ばーちゃんっ!
痛いっ!
痛いて!」
「よし……
これで終いや」
ようやくフネの治療が終了する。
ズインズインと痛む元の患部。
その日元は寝られず夜中苦しんだそうな。
一週間後
鏡の前に立つ元。
左頬の火傷はすっかり良くなり跡も残っていない。
死すら感じさせる痛みを伴うがあの軟膏の効き目は確かなようだ。
元はライダースに着替える。
「ん?」
久々に袖を通したお気に入りのライダースだが左肘辺りが解れて穴が開いている。
「あっちゃぁ~、穴開いとるわ。
これ気に入っとんのに。
まだアメ村にあるやろか……」
今日の予定決定。
アメリカ村へ服を買いに行く。
アメリカ村
「相変わらずゴテゴテした街やのう。
なぁベノム……ん?
ベノム?」
ベノムは店先にある舶来品のおもちゃをずっと眺めている。
【…………良い】
「ま、ええか」
元はベノムを放っておいて服を買いに行く事に。
三角公園
「ん……?」
元の視線の先に何やら揉めている様子が見える。
少年と少女、そして傍らには竜が二人いる。
対面には太った男と背が高い赤髪の男。
太った男側は元の知り合いだ。
「あいつら何しとんねや……?
おっ」
少年が赤髪の顔面を殴った。
吹っ飛ぶ赤髪。
「ケンカが始まりよった。
こら混じらなあかんで」
元は嬉々として早足で現場に向かう。
この殴った少年がこの先唯一無二の親友となる皇竜司である。
竜司とここで出会い死闘を演じ、友人となる。
しかしそれは本編でのお話。
完




