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第八章 梵踊七 Victims⑨


「ん……?

 誰だ……?」


 踊七は目下魔力注入(インジェクト)を発動し、キャンプ地に向かって爆走中。

 両眼に映るのはカモフラージュ用に制作した小高い丘と……


 人間二人。

 側に竜が二人見える。


 スッ


 踊七は無言でカーゴパンツのポケットに右手を入れる。

 取り出したのは小さな針金。


 五行魔法(ウーシン)


 走る速度を落としながら左手でL字を象り一回転。


 パンッ


 小さな針金を挟み込む様に両手を合わせる。


 生順破棄。

 第四顕現、伊斯許理度売命(イシコリドメノミコト)


 バチィッ!


 重苦しく両手を離す。

 火花と共に現れる銀色の銅矛。


 日矛鏡(ヒボコノカガミ)


 チャキッ


 右手に日矛鏡を持った状態で二人に近づいて行く。

 徐々に迫る人間と竜二組。


 ザシャァッ!


 至近距離まで近づいた為、ブレーキをかける踊七。


(ん?)


(ん?)


 二人共音に気付き、振り返る。

 すかさず日矛鏡の切っ先を向ける踊七。


「おい、てめぇら何モンだ?」


 踊七は臨戦態勢。


 相手がドラゴンエラー跡地に侵入している事と側に居る竜から竜河岸だと言う事は解っている。


 二人共、顔は見た事が無い。

 踊七は初対面の竜河岸に良かった経験は無い。


 思い出すのは一億を狙って来るチンピラ竜河岸しか無い。

 気を張り、真っすぐ日矛鏡を向ける。


 一人は頭にハチマキを撒いて短髪に四角い顎。

 ギョロリとした両眼。


 筋骨隆々のガッチリした体格。


 黒いインナーにグレーの作業着を羽織っている。

 腰にはベルトでチラリと見えるのは道具袋。


 下は赤く大きめのニッカポッカ。

 どこからどう見ても大工。


 かたやもう一人はオールバックに尖った顎。


 細いデザイングラスをかけ、スッと長い鼻の下にはへの字に(つぐ)んだ小さな口。


 恰好は上下とも上等そうなスーツ一式でビシッと纏めている。

 もう一人とは対照的に痩せてはいるが鍛えているのは解る。


(カカッ……

 ママッ……)


 ハチマキの方が堰を切った様に喋り出すが言葉になっていない。

 何だか顔も赤い。


 即座にスーツの男に耳打ちをし出す。

 踊七は日矛鏡を下ろさず姿勢を崩していない。


(フン……

 フンフン……

 解りました兄御(あにご)

 そこの君。

 我々は危害を加える気は無い。

 今日横浜に着いた竜河岸です)


「……信用出来ねぇ……

 両手を上げやがれ……」


 再びハチマキがスーツに耳打ち。


(フン……

 フンフン……

 いや、でも兄御(あにご)、そうは言っても今は従わないと信用されないでしょう?

 フン……

 フンフン……

 いや、だからまだ凶器を下ろしてないでしょう?

 そこの辺りを話す前にまずは彼の言う通りにした方がいいと思いませんか?)


 ゆっくり両手を上げるスーツの男。

 それに倣ってハチマキの方も両手を上げた。


【二人は何をやってるんだ?

 なぁエルゥ?】


【俺も解らん。

 一体何なんだろうな。

 なぁアルゥ?】


 後ろに居た二人の陸竜がこそこそ会話を始めた。


「そのままだ……

 そのまま自分の名前と何でここにいるか話して貰う」


(やれやれ……

 疑り深いですね君は……

 私の名は竹中二階。

 そしてこっちは兄御(あにご)の竹中一階。

 二人共竜河岸建築士。

 建築物を作る為、日本全国を旅している最中……)


 両手をあげたまま二階に耳打ちする一階。


(どうしたんですか兄御(あにご)……

 フン……

 フンフン……

 いや、一応肩書としては建築士で良いでしょう?

 ……フン?

 フンフン……

 ハイハイ解りましたよ……

 すいません、訂正します。

 竜河岸建築士は私だけで兄御(あにご)は竜河岸大工です)


「その大工が何でドラゴンエラーの跡地にいるんだよ……?」


(ドラゴンエラー……

 とは?)


 二人共、緊張した面持ちだがピンとは来ていない。

 横浜で起きた大惨事を知らない様子。


 スッ


 それを見た踊七はひとまず日矛鏡を下ろす。


「……ふう、どうやら本当に知らねぇみたいだな。

 敵意も無さそうだ。

 アンタ達、すまなかったな。

 今までが今までだったからどうにも初対面の竜河岸には警戒しちまうんだ」


(まぁ誤解が解けて良かったですよ。

 あ、ワタクシ達はこう言うものです)


 そう言って差し出す名刺二枚。


 竹中工務店東京本店 竜河岸部部長 竹中一階


 竹中工務店東京本店 竜河岸部部長 竹中二階


 それぞれこう書いてあった。


「あぁどうもご丁寧に……

 二人は兄弟なのか?」


(えぇ、兄弟で家業の建築業を営んでおります。

 それにしても横浜と言う街は前からこうなんですか?

 我々に向ける目が尋常じゃありませんよ)


「いや、前まではこうじゃなかった。

 他県は知らねぇが竜や竜河岸(おれたち)に対しても普通だったと思うぜ」


(じゃあ一体何が……

 先程言っていたドラゴンエラー……

 でしたっけ?

 それが原因ですか?)


「事の発端は多分それだ」


 すかさず一階が二階に耳打ち。


(フン……

 フンフン……

 ええ、私もそう思います。

 ……えー兄御(あにご)は名前から察するに竜が絡んでいるのかと聞いてます)


「あぁそうだ……

 ってさっきから何なんだ?

 そいつ、自分じゃ喋れねぇのか?」


 更に二階に耳打ちする一階。


(フン……

 フンフン……

 兄御(あにご)、それは余りにも失礼……

 だからやめなさいって……

 よしなさいって……

 えっとですね、ウチの兄御(あにご)は極度の人見知りとあがり症でして……

 人と話す時は私を介さないと無理なんです。

 それはそうと横浜で何があったか教えてくれませんか?

 えっと……)


「あぁ、こっちの自己紹介がまだだったな。

 俺は(そよぎ)踊七(ようしち)

 竜河岸だ。

 でも何でアンタらが横浜の事を知りたがる?

 旅してるんならとっとと他へ移りゃあいいじゃねぇか」


(我々は沖縄から北海道まで47都道府県で何かしらの建築物を建てる為に旅をしてるんです。

 今までずっと県庁所在地で達成してますから出来れば神奈川も横浜でさせて頂きたいんですよ。

 それにはまず土地の事を知りませんと)


「ふうん、ヘンな事やってるんだな。

 工務店ってヒマなのか?」


(そんな訳無いでしょう。

 会社の役員になる為の課題ですよ)


「ん?

 竹中工務店って事は社長はアンタらの親族だろ?

 そんなものしなくても役員になれんじゃねぇのか?」


(そんな身内びいき、ウチではありませんよ。

 皆が認める実力が無いと役員にはなれません)


「実力主義って事か。

 笑い事っちゃねぇ」


(ええまぁ。

 各地の県庁所在地で飛び込み営業をかけて契約。

 施工から完成までですからね。

 大変です)


 この建築行脚。

 無料で行っている訳では無い。


 商売でやっているのだ。


 誰も知らない土地で建築物を欲している人を探し、営業をかけ契約まで漕ぎ着け、完成まで一手に行うのだ。


「ご苦労なこった…………

 …………ん?

 って事は……」


 ここで疑問が一つ浮かぶ踊七。


(どうかしましたか?)


「アンタら二人だけでそれやってんのか……?」


(私達二人が役員になる為の課題なんですから当たり前でしょう)


「…………普通工事って10人以上でやらねぇか……?」


(我々は二人共竜河岸ですから問題ありません。

 エルゥとアルゥも手伝ってくれますしね)


 二階が言っているのは竜河岸のスキルの事。

 スキルを使用して工事を行っている。


 更に竜の亜空間なども使用する為、一般人が工事を行うよりも遥かに短い工期で済むのだ。


「そ……

 そんなモンなのか……?

 笑い事っちゃねぇ」


(それはそうと貴方の竜は何処にいるんですか?)


「ん?

 あぁ、俺の竜はな……」


 そう言いながら小高い丘を回り込む踊七。


【フム……

 バリバリ……

 やはりこの()()()()とやらが一番ウマイだな……】


 ブツブツ呟きながらポテトチップスをバリバリと食べているナナオ。

 味はコンソメ。


「ナナオー、今帰ったぞー」


【ム……?

 踊七か……

 して今日の土産は……?】


「あるけど、その前にこっち来てくれ。

 ちょっと紹介したい人がいる」


【ん?

 誰か訪ねて来たのか……?

 踊七、貴様と同類か?】


「そうだ。

 同じ竜河岸だ。

 だからちょっとこっちに来てくれ」


【フム……

 そう言えば最近、他竜は見ていないな……】


 のそりとその巨体が立ち上がる。

 そのまま踊七に連れられて小高い丘の前へ。


「待たせたな」


【ん?】


【ん?】


 気配に気づいたのか。

 エルゥとアルゥが振り向いた。


 瞬間。


 ブルブルブルブルゥゥゥッッ!


 同時に竜二人の身体が震え上がる。

 まるで強力な電流を流したかの様。


 四つの大きい瞳はナナオを凝視して離さない。


【ロ……

 ロ……

 七尾(ロード・セブンス)ゥゥゥッ…………】


【ん……?

 お前、我の事を知っておるのか……?】


 パタ


 1人が力無く倒れてしまう。

 完全に白目を剥いている。


(どどどっ!?

 どうしたんでぇっ!?

 アルゥッッ!)


 一階が声を荒げる。

 踊七と出会って初めて発した言葉。


 一階は自分の竜相手なら普通に喋れるのだ。


 倒れた竜はアルゥ。

 赤い鱗を持つ陸竜。


 特徴は頭の角。

 頭の右側に右に反った角が一本。


 見てるだけで身体が左に寄って行きそうな感じがする。


 ちなみに右と言うのはアルゥから向かって右。

 つまり我々から見ると角が付いているのは左側となる。


(駄目だ……

 気絶してやがる……)


 倒れたアルゥの有様を見て呟く一階。


「あっ……

 そうか、ナナオおめぇ確か(ロード)の衆だったっけ……

 すまねぇな。

 多分そいつが気絶したの……

 ウチの竜のせいだわ」


(……その竜は何なんですか?

 尻尾が……

 全部で七本……!?

 また随分珍しい竜を連れてますね。

 ……何やらエルゥの様子もおかしいですし)


 そう言って見上げる先にはガタガタ震えている緑の陸竜。

 名をエルゥと言う。


 アルゥとは対称的に角は頭の左側。

 もちろん左にカーブを描いている。


「あぁ、こいつはナナオ。

 高位の竜(ハイドラゴン)で何か(ロード)の衆とか言う集団の1人らしいぜ」


(ロード)の衆?

 マザーの衆とか王の衆なら聞いた事ありますが……)


【ニカイィィッ!?

 お……

 お前知らねぇのかァッ!?

 こいつ……

 いやいやァッ!

 このお方は(ロード)の衆ゥッ!

 七尾(ロード・セブンス)サマだヨォッ!】


 慌てふためきながら(まく)し立てるエルゥ。

 駆り立てているのはナナオへの恐怖。


 顔を素早くぶんぶん振っている様からも見て取れる。


(エルゥ、何をそんなに慌てているんですか?)


【何をのんびりしてやがんだァッ!

 はっ……

 早く逃げねぇと俺らまとめて塵になるぞぉっ!!?】


 グイグイと強烈な力で二階の腕を引っ張るエルゥ。


(ちょ……

 ちょっとエルゥ。

 落ち着きなさい。

 (そよぎ)さん?

 そこの……

 ナナオさん?

 は貴方の使役している竜で間違いないですか?)


「踊七でいいよ。

 あぁ、間違いねぇぜ」


(……なら当面は問題無い……

 ちょっとエルゥ、とりあえず腕を離して私の話を聞きなさい。

 イイですか?

 あのナナオさんは一先ずは安全と見ていい。

 何故なら竜河岸に付いている竜だからです。

 基本的に竜河岸に付いている限り、危険な事はしない筈です。

 もし仮に踊七さんが危険な竜河岸なら警察が動いている)


 二階のこの見解は正解。

 竜河岸に竜が付く理由として人間文化を学ぶと言うものがあるからだ。


 しかし色々な人間が居る様に竜にも色々な奴がいる。

 悪意や悪癖を持っている竜ももちろん来訪している。


 それは竜河岸側も同様。

 悪意を持った竜河岸ももちろん存在する。


 どちらか片方でも居て、片方の心が弱ければ浸食され晴れて竜河岸犯罪者の誕生となる。


 そう言う犯罪者を取り締まる為に竜河岸警官が存在する。

 警察に竜河岸が在籍しているのは自国の軍隊を持たない日本の特徴。


 自衛隊に竜河岸が編成される様になったのは比較的最近の話。


 二階は踊七の振る舞いから悪意は感じられない為、ナナオも一先ずは安全と踏んだのだ。


【だだだっ……

 だってようっ……!

 そんな事言ってもようっ!

 お前、(ロード)の衆だぞ(ロード)の衆っ!?

 たった三人で竜界中の竜を震え上がらせた天災とか呼ばれてる竜なんだぞぉ……】


 ガタガタブルブル震えながらナナオの竜界時代の恐ろしさを語るエルゥ。


(そんなに震えなくても大丈夫でしょう。

 もし仮にそんな危険な竜ならもう我々は消し飛ばされてるでしょ?)


【フム……

 そこの男……

 なかなか冷静だな……】


(恐れ入ります)


 クイとデザイングラスの位置を直す二階。


【オイ……

 そこの竜よ……

 我は歯向かって来ぬ奴へみだりに手は出さぬ……

 四尾(ロード・フォース)の奴とかと一緒にするでない……】


 ナナオは(ロード)の衆の中でも比較的穏健派。


【そ……

 そっスか……

 じゃあ……】


「騒がせちまってすまねぇな。

 あとアンタの兄ちゃん……

 もしかして自分の竜とは普通に喋れるのか?」


(ええ、まぁお恥ずかしながら……

 竜は完全に別の動物だからあがる必要が無いそうで…………)


 釈明している側から再び一階が耳打ち。


(フン……

 フンフン……

 だから兄御(あにご)、そんな事言ったら失礼でしょう……

 フン……

 フンフン……

 よしなさい……

 フン……

 だからよしなさいって……

 えー……

 色々ありましたが本題に戻りましょう)


 唖然としながら二人の様子を見ている踊七。


「…………単純な好奇心で聞くんだけどよ。

 兄ちゃん、何て言ってるんだ?」


(えっと……

 それは……

 言いにくいと言うか何と言うか……

 ウチの兄御(あにご)は超毒舌なんですよ……)


「……人見知りであがり症なのにか?」


(ええ、確かにそれは私も思うんですが……

 まあこう言う兄御(あにご)なんです……

 だけど大工技術は超一流ですから)


 冷静に考えて見ると人見知りであがり症だからといって謙虚な口調や低姿勢な物言いとは限らない。


 この二つは分けて考えるべき。

 しかし印象として踊七や二階の様に控え目だと思ってしまう。


 だが一階は違う。

 耳打ちされてる言葉は汚く、とても活字に起こせない程の毒舌が流れているのだ。


 長年弟をやり、ずっと世間との仲介役をやっている二階だからこそ“よしなさい”や“やめなさい”の一言でさらりと流せているのだ。


 一体こんな性格で学生時代はどうしてたのだろうと不思議に思う所ではある。


「おっと色々横道に逸れて悪い。

 横浜の話だったな。

 せっかく来たんだ。

 お茶でも入れて話す。

 こっちに来てくれ」


 そう言って四人を丘の向こう側へ招く。

 テントを建てている場所へ。


(…………)


 ヒョイッ


 聞き取れない程の小さな声を呟いた一階がアルゥの巨体を軽々持ち上げる。


「へぇ……

 魔力注入(インジェクト)、使えるんだな」


(ええ、何かと力仕事が多い家業ですから…………

 おや?

 もしかしてこのテントで寝泊まりしているんですか?)


 丘の内側に展開されているテント等を見た二階。

 トイレらしき建物も設営されている事から生活しているのではと察する。


「まあな」


(……その年でホームレスですか……

 あの……

 ご愁傷様です……)


「……何勘違いしてんだ?

 俺は別に悲惨な家庭環境じゃ…………

 あるけどよ。

 テント暮らししてんのはそれが理由じゃねぇよ」


 ガタガタ


 踊七は荷物置きテントからテーブルとヤカンを持って来る。


「ナナオ、亜空間を頼む」


 亜空間からウッドチェアを二脚。

 テーブルと共に設置。


 続いて(かまど)に空のヤカンを置いた。

 左手には小さな醤油差し。


五行魔法(ウーシン)


 生順破棄、第一顕現。

 水波能売命(ミズハノメノミコト)


 ジョボボボボボボ


 右掌から流れ落ちる水流。

 見る見るうちにヤカンの中を満たして行く。


「お次は……」


 ゴソ


 ポケットから取り出したのはライターの横車と火打石部分。


 五行魔法(ウーシン)


 生順破棄、第二顕現。

 天火明命アメホノアカリノミコト


 ボッ


 薪が発火。


「こんな所だからな。

 湯が沸くまでちょっと待っててくれ」


 ドカッ


 スッ


 荒々しく座る一階と静かに座る二階。

 対称的な兄弟。


(家庭環境が関係無いとすると……

 先程から言っているドラゴンエラーが原因ですか……?)


 口火を切ったのは二階。

 このキャンプ生活はドラゴンエラーが原因かと聞いているのだ。


「まあ大本を辿ればそう言う事になる。

 アンタ達が見た横浜の人間のおかしな視線もそうだ」


(そもそもドラゴンエラーとは何なのですか?)


 ここから踊七は語り出す。


 静かに。

 ゆっくりと。


 去年の11月に起こった横浜中区の惨劇を。

 そこから横浜は竜と竜河岸に対する憎しみを積み上げて行った事を。


「……って言う事があってな。

 だから今、横浜に住んでいる人間はほとんど竜と竜河岸に怨みを持っていると思った方が良い」


(そ……

 そんな事が……?

 TVでも全く見て無いですよ……?)


「こっちでも大体的にニュースで取り上げたのは当日だけだ。

 その後は不自然な程報道されてねぇ。

 何でかは俺にも良く解んねぇけどな」


(フム……

 そもそもこの荒野を作ったのは竜で間違いないのですか?)


「そりゃ俺も発生した時は別の場所にいたから確定した答えは言えねぇけどな。

 でも魔力が滞留してんだから確実だろ?

 魔力なんて竜か竜河岸にしか扱えねぇんだから。

 なぁナナオ?」


【ウム……

 この荒野は高濃度に濃縮された魔力光を一気に放射したのだろうな……】


(えっ?

 魔力がっ!?

 道理で入った時から何か身体が怠いと……)


【オイ……

 そこの竜……

 教えてやらなかったのか……?】


 エルゥに鋭い目線を送るナナオ。

 途端にビビッと背筋を伸ばす。


【ハイィッッ!

 サーセンッッ!

 ニカイの奴が聞かなかったのでェッ!】


 何処か番長の舎弟の様になっているエルゥ。


【よいよい……

 竜として当然だ……】


「で、横浜がこんなになっちまったのは多分……」


 続けて踊七は何故こんなに変化したのか?

 横浜が急変と言える程の変貌を遂げた理由として林市長の就任を挙げる。


 そこから市長の親族が犠牲になった事。

 横浜市民全員に検診を受けさせた事。


 そして誰が竜河岸で何処に住んでいるかTVで放送した事。

 竜を連れている連れてない関係無しに。


 現在では林市長を会長とするNGO団体、竜排会のメンバーが横浜中を巡回し、とてもじゃ無いが竜河岸と竜が暮らしていられない街となっている事を。


 静かに。

 ゆっくりと。


 淡々と語った。

 全てを聞いた竹中兄弟は絶句。


 グイィッ!


 唐突に二階の肩を引っ張り耳打ちを始める一階。


(フン……

 フンフン……

 いやいや、そんな事したら殺人罪で……

 フン……

 フンフン……

 いや更に罪を重ねて……

 フン……

 だからよしなさい……

 やめなさいって……

 ありがとうございます。

 横浜の現状は解りました。

 なら踊七くんは一般人の目を避ける為にここでテント暮らしをしていると……?)


「まぁそう言う事だ。

 ……ってか二階さん。

 何で敬語なんだ?

 明らかにアンタの方が年上なんだからもっと砕けて話していいぜ?」


(これは私のクセみたいなもので誰でもこうだから良いんですよ。

 ……ん?

 兄御(あにご)、何ですか?

 …………フン……

 フンフン……

 いやでも頭にクソを付けるのと特に変わらな……

 フン……

 フンフン……

 いや、何も緩めてませんから。

 更に酷くなってますから。

 でも何も一人でテント張って暮らさなくても。

 親御さんとか心配するでしょうに)


「あぁ、俺に親はいねぇ。

 母親は小さい頃に出て行ってクソオヤジはナナオにビビって雲隠れしやがった」


 話を聞いた二階は絶句。

 横浜の現状を知った時より驚いている様子。


(し……

 失礼しました……)


 慌ててぺこりと謝罪の一礼をする二階。


「いいっていいって。

 そんな気にしなくても。

 十二の頃の話だし。

 それまでも親子らしい事は何一つ無かったしな」


(そ……

 そうですか……

 でもお金とかどうしてたんです?

 十二歳でしたら収入も無いでしょうに)


「それはクソオヤジが金を置いてったからそれで何とかなった。

 んで今はネットで株取引をやってる」


(……踊七くんて今いくつですか?)


「十五歳だ」


 踊七が自分の年齢を言った途端、またグイと二階の裾を引っ張り耳打ちをし出す一階。


(フン……

 フンフン……

 いや、でも踊七くんは良い子だと思いますよ?

 ……フン……

 フンフン……

 それはただの言い掛かり……

 ……よしなさい……

 やめなさい……

 とりあえずキャンプ生活が出来ている理由は解りました。

 でも踊七くん。

 横浜に何か思い入れでもあるんですか?

 それなら踊七くんの方こそ他県に引っ越した方が良いんじゃ無いですか?)


「あぁそれは昔から何かと世話になっていた家族がいてな。

 そこの両親がドラゴンエラーで亡くなっちまったんだ。

 んで、そこの子供がまだ横浜に居るから俺も残っているって訳だ」


(へぇ……

 その子供さんは一般人ですか?)


「そうだ。

 だからこんな街になった横浜でも暮らして行けてる」


(なるほど……

 フフ、ほら兄御(あにご)

 踊七くんは良い子じゃ無いですか)


 踊七の男気とも言える優しさに触れ、顔が綻ぶ二階。


「やめてくれ。

 俺はただ受けた恩を返したいだけだ」


 だがしかし。

 この人は違う。


 竹本一階。

 竹本兄弟の兄は違った。


 再び二階の袖を引っ張り耳打ち。


 その表情はとても踊七の優しさに触れたからでは無い。

 別の理由で険しくなっている顔。


(フン……

 フンフン……

 いや、それは解らないじゃ無いですか。

 男の子かも知れない……

 フン……

 フンフン……

 だからそれは兄御(あにご)だけ……

 フン……

 フン……

 よしなさい……

 フン……

 やめなさい。

 それよりも兄御(あにご)

 私に一計があるんですが。

 踊七くん、つかぬ事を伺いますが……

 そのネット株でどれぐらい儲けてますか?)


「ん?

 何か俺の性にあってたらしくてな。

 全部合わせたら3億ぐらいはある。

 んでそこにクソオヤジが置いてった金も含めたら5億弱はあるんじゃねぇか?」


(…………その発言に色々と聞きたい事はありますが……

 今はとりあえず置いておきます。

 なら予算は充分ですね。

 兄御(あにご)、横浜の仕事は一軒家でどうでしょう?)


「何の話だ?」


 唐突な発言に尋ねる踊七。

 答える前に二階の提案に対して耳打ちで返す一階。


(フン……

 フンフン……

 いや、だからここにです。

 フン……

 フン……

 踊七くんに決まってるでしょう?

 幸い15歳の身でありながらお金持ちの様ですし……

 フン……

 ……兄御(あにご)、そこにこだわりますね。

 わかりましたよ。

 踊七くん、そのお世話になった家族のお子さんと言うのは男の子ですか?

 女の子ですか?)


「……一体その兄ちゃんは何を聞いてやがんだ……?

 笑い事っちゃねぇ。

 女だよ女。

 俺と同い年のな」


 グイィィッッ!


 聞いた瞬間、より一層強く二階の袖を引っ張り物凄い勢いで耳打ちする一階。


(フン……

 ……フンフン……

 いや、だからそれは兄御(あにご)が話せないせいで……

 ……フン……

 フンフン……

 でもそんな事言ってもこの横浜で仕事出来ると思ってるんですか?

 我々も竜河岸なんですよ?

 それに父の事ですから100%達成しないと出来たとは言わないでしょうし……

 フン……

 ……フンフン……

 よしなさい……

 フン……

 やめなさい……

 でも結局の所、兄御(あにご)は話せないんですから客選びと営業は全て私がやってたでしょう?

 その私が言うんです。

 多分横浜には踊七くん以外に客はいません。

 これは断言出来ます……

 フン……

 だからよしなさいって……

 はい、じゃあそれでいいですね?

 踊七くん、お待たせしました)


「お待たせしましたも何も笑い事っちゃねぇぐらい話が見えないんだが……」


(実はですね……

 エルゥ、亜空間を)


【おう】


 ギュオッ!


 エルゥが亜空間を開く。

 その中に手を差し入れる二階。


 取り出したのは複数のパンフレット。

 表紙には竹中工務店の文字と一軒家の写真。


「……オイ、まさか……」


 テーブルの上に置かれたパンフレットを見て察しがついた踊七。


(ええ、そのまさかです。

 踊七くん、どうでしょう?

 ここに一軒家を建てて見ませんか?)


 その話を聞いた踊七は無言。

 いくらなんでも話がデカ過ぎる。


 分不相応所の話では無い。

 一軒家を持つなんて自分の年齢じゃまず有り得ない話。


 カタカタカタカタ


 ここでヤカンの蓋が震えている音に気付く。

 随分前から沸騰していた様子。


「おっといけねぇ。

 ちょっと待ってくれ。

 急にそんな事を言われても即答出来ねぇ。

 まず茶を飲んで落ち着いて話を聞く」


 そう言って立ち上がり、(かまど)からヤカンを外し荷物置きテントへ。


(ええ、別に構いませんよ)


「茶とは言ったけどもインスタントコーヒーしか無いんだ。

 それで二人共いいか?」


(ええ、二人共それで構いません)


 踊七は紙コップ三つとインスタントコーヒー三つ。

 そして砂糖を持って帰って来る。


 続いて熱湯が入ったヤカンも持って来る。


 コポコポ


 テキパキとコーヒー三つを入れる踊七。


「ナナオ、亜空間を出してくれ」


 ナナオが出した亜空間に手を入れ、出したのは牛乳パック。


 サッサッ


 おもむろにコーヒーへ砂糖投入。

 量にして匙5杯。


 更に牛乳を注ぐ。

 出来たのは激甘のミルクコーヒー。


「待たせたな。

 アンタらも要るなら適当に入れてくれ……

 ズズズ」


 その激甘コーヒーを啜り始める踊七。

 二人の為に用意したと思いきや自分の為だった。


(プッ……)


 その様子を見ていた二階が噴き出す。


「……何だよ?

 ……ズズズ」


(いや、失礼。

 出会ってからずっと年に似合わない振る舞いだなと思っていましたが……

 年相応な所もあるんだなと思いまして……

 いえ、私達はブラックで大丈夫です)


「悪ぃかよ。

 ブラックなんて苦くて飲めねぇよ。

 笑い事っちゃねぇ……

 ズズズ」


(いえ、悪いなんて。

 むしろ安心したと言った所ですね。

 そんな事よりも如何でしょうか?

 一軒家)


「そんな事、急に言われてもなぁ。

 別に生活出来ねぇ訳じゃねぇし。

 それに言いたか無いけど俺、まだ15だぜ?

 一軒家なんて所帯持ってる奴が建てるもんだろ?」


(確かに仰る通り。

 マイホームは人生最大の買い物とも言いますしね。

 でもここは一つ。

 自分に必要か不必要かで考えて見ませんか?

 今、生活は出来ていると言ってましたが見た所……

 トイレらしきものは有りますが……

 お風呂はどうされてます?)


「風呂は夜に銭湯に行ってる」


(この横浜でですか?

 竜河岸を憎しみの対象として探し出す為、巡回している様な街でですか?

 例えナナオさんを連れてないと言ってもいつバレるかとそれはそれは神経を使ってらっしゃるのではありませんか?)


「ま……

 まぁそりゃあなぁ」


(そこで一軒家があったとしたらどうでしょう?

 いつでも!

 いくらでもお風呂は入り放題)


「た……

 確かに……」


(あと、雨が降ると色々と不便じゃ無かったですか?

 テント生活を始めたのが去年の11月以降となると最近の梅雨は初体験。

 如何でしたでしょうか?)


「……テントの中に浸水はしなかったけど、色々と苦労した……」


(そうでしょう。

 そんな時一軒家があればもう雨に悩まされる事もありません。

 しかも竹中工務店は騒音対策も完璧に仕上げます。

 雨音で眠りを妨げる事も無いですよ?)


 完璧に理論立てられた営業トークに反論の余地が無い踊七。


(ちなみに家を建てるのっていくらぐらいかかると思ってます?)


「な……

 何だ急に?」


(いいですからいいですから。

 予想で一度教えて頂けませんか?)


「建てた事無ぇから解んねぇけど1億とか2億とかするんじゃねぇのか?」


 そう言う踊七にニコッと笑顔で返す二階。

 デザイングラスをくいと掛け直す。


(やはり。

 おそらく踊七さんのイメージは土地代を含めた価格ですね。

 多分このドラゴンエラー跡地なら一先ず土地代の事は考えなくて良い。

 おいおい魔力が消えて復興が進み出すと解りませんがとりあえずは含めないで考えますとですね……

 平均で3500万ぐらいなんですよ。

 ここの場合、立地が立地なので快適に暮らす為の設備費用も含めましてもざっと見6500万もあれば広々とした良いお屋敷をご提供出来ますよ)


「へぇ……

 そんなもんで建てれるのか……」


 まんまと揺らぎ始めている踊七。

 これらは全て二階の営業話法テクニックによるもの。


 まず肯定話法から入り、テント暮らしでの問題点の話はオープンザドア効果。

 費用の話は質問話法からのドア・イン・ザ・フェイスの応用。


 踊七が建築費用のみの価格を提示するかは賭けだったが、年齢から考えてそこまで考慮せず、ドラマ等の物語で使われる価格帯を挙げると踏んでいた。


 6500万だって決して安くは無く、高額である事に違いない。

 が、常識を覆された踊七は安いと錯覚してしまっている。


(我々も横浜がこんな状態だなんて知らなかったので困ってるんですよ。

 もし踊七さんに断られると正直手詰まりなんです。

 お願いします!

 我々は役員になってもっともっと活躍したいんですよ。

 人助けだと思ってウンと言ってくれませんか?

 この通りです!)


 バッと素早く頭を下げる二階。

 最後の仕上げは情に訴えるいわゆる泣き落とし。


 別に情が湧いたとか(ほだ)された訳では無いが踊七は考えていた。

 確かに二階の言っている事は筋が通っている。


 住居が天候に左右されないとなるとその分、他の事に時間や思考を割けれる。

 風呂やエアコンも付くと安眠して疲れも取る事が出来る。


 もう激しい雨がテントを弾く音に悩まされる事も無くなる。

 しばらく無言で考える踊七。


 その間、頭を上げない二階。


「よし……

 決めた。

 二階さん」


(はい)


 ゆっくりと頭を上げる二階。


「一億出す。

 それで立派な家を建ててくれ」


(ありがとうございます。

 ホラ兄御(あにご)も)


 二階は再び一礼。


 ずっと二階の方を見ていた一階の顔を強引に踊七へ向けさせ頭を抑え付ける。

 強制的にお辞儀させた。


「それはそうと工期はどれぐらいかかるんだ?」


(設計にどれぐらいかかるかにもよりますが……

 遅くても二週間ぐらいでしょうか?

 家だけの工事であれば10日足らずで完成しますね)


 短い。

 圧倒的に。


 踊七の家は言わば一から建てる注文住宅。

 一般的には二ヶ月~六ヶ月。


 しかもこれは設計などを省いた工事のみの期間。


 踊七は途方も無い短さに言葉を失っている。

 具体的な期間は知らないが10日足らずと言う数字が桁外れに短いのは解る。


「…………それって笑い事っちゃねぇぐらい短くねぇか?

 ホントにそれぐらいで家が一軒建つのかよ……」


(ええ)


 二階即答。

 更にその理由を語り出す。


(我々は竜河岸建築士と竜河岸大工ですから。

 持っているスキルも全て建築に使用するものなんですよ。

 だから短い期間でも立派な家が建ちますよ)


「……確かに二人共プロだもんな。

 信じられねぇけど信用するしか無いって事か……」


(ええ、信用して下さい。

 ではさっそく設計のお話から。

 広さはどれぐらいにいたしましょう?)


「いたしましょうって言われてもそこら辺の感覚は全然解らねぇから」


(失礼しました。

 一軒家の平均面積は30~40坪。

 単位で言うと100~132㎡と言った所です。

 間取りは平屋にするか二階建てにするかで変わって来ます。

 踊七さんのご希望はありますか?)


「別に平屋で良い。

 あまり高くし過ぎて目撃されるのも困る。

 広さか……

 ナナオも居るしな……」


 そう言って立ち上がり、海岸線を見つめる。


 両眼に映るのは何も無い裸の荒野。

 視界の端から端まで何も見えない。


 地平線と水平線のみ。


 まるで人間なんて地球には存在しなかった。

 そう思えてしまう程の光景。


 原初帰り状態のアルビノが放った一撃は地上を突き抜け東京湾の彼方まで到達している。


 その威力は視界から物体を消し去ってしまう程、凄まじい。

 その絶景を眺め、広さを決めた踊七は踵を返し二階の元へ。


(決まりましたか?)


「あぁ、せっかくだから広く使わせて貰う。

 二階さん、250㎡って何坪ぐらいになる?」


(え……

 えっと……

 約75坪です……ね)


 二階は言葉を詰まらせる。

 75坪と言うのは6~9人で暮らせるほどの大きさ。


 いくら竜がいると言えどとても15歳の男子一人が暮らす広さでは無い。


「……やっぱ広過ぎるかな?」


 二階の様子を察した踊七がやはり無茶では無いかと尋ねる。


 が、二階の反応は違った。

 ニヤリと薄く口が開く。


(…………いや、面白いです。

 建ててやりましょう。

 どうせこんな事故地に建てる段階で固定資産税もクソも無い。

 しかも跡地をまるまる使えるのだから建ぺい率なんかも関係無い。

 どうせならスケールのデカい平屋を建ててやりましょう)


 正直な話、踊七が勝手に家を建てる事は違法である。

 例えドラゴンエラー跡地だったとしても。


 且つ踊七の場合、住民票の移動手続き、郵便物の転送手続きもしない。

 不動産取得税、固定資産税の支払いも無視。


 何から何まで違法ではある。


 が、踊七からしたら下手に国の手続きをすると本当に面倒な事になりかねない。

 現在横浜の取っている施策が完全に自分を追い出す為のもの。


 言い分とすれば先にやったのはそっちだ。

 何故そんな奴に金を払わないといけない。


 こうなるのだ。


 ちなみに本編の踊七はきちんと不動産会社にて正規のルートで購入した住居。

 各種税金の払いや住民票の移動、国民健康保険の手続き等もきちんとしている。


 竹中兄弟にしても最悪商売が成立し、課題をクリア出来ればそれでいい。

 契約者が脱法、違法しているかはさして問題としていないのだ。


「へっ……

 笑い事っちゃねぇな」


 本当にその通り。

 笑い事では無い話である。


(続いてインフラ部分の話になりますが……

 まず水。

 これは水道管を引かなくても貯水槽を設置しようかと思ってます。

 これは先程拝見した踊七さんのスキルが使えるかと考えているのですが……?)


「あぁ、それで大丈夫だ。

 俺のスキルだと多分無限に水は出せる筈だからデカい貯水槽でも置いてくれたら」


(解りました。

 大型の貯水槽を手配いたします)


「大体一人で一日どれぐらい水を使うものなんだ?」


(一人平均214リットルと言われてます)


「へぇ……

 そんなに使うんだな。

 んで手配してくれる貯水槽はどれぐらい入るんだ?」


(飲料だけじゃ無く料理やトイレ。

 お風呂などにも使いますからね。

 容量は3000リットルです)


「……となるとおよそ半月か。

 まぁ大丈夫だろ」


(では水はクリアと言う事で。

 では続いて電気。

 これは屋根にソーラーパネルを設置。

 あと蓄電池で対処しようかと考えています。

 設備はガスを使わないオール電化。

 後は下水なんですがこれは少々手間でして……)


「手間?」


(はい、分流汚水管に繋ぐ事になるんですが……

 元々この辺りはガスタンクだったので、周囲に汚水管が無いんですよ。

 ですので最寄りに繋ぐ事になるんですが、多分何百メートルとかになるかと……)


「出来るのか出来ないのかどっちなんだ?」


(あぁそれは兄御(あにご)が居ますから可能なんですが費用がそれなりにかかりまして……)


「相場はいくらなんだ?」


(1メートルで一万五千~2万ほど)


「……仮に200メートル繋ぐとなると400万か……

 笑い事っちゃねぇな……」


(何か代案があれば伺いますが?)


「……いや、思いつかねぇ。

 けど、正直ウンコの臭いに関してはほとほと困ってたからな。

 1億の範囲内でまずは検討してオーバーしそうになったら言ってくれ」


(わかりました。

 間取りに関しては如何致しましょう?

 何かご希望はございますか?)


「当面は俺とナナオだけだからな。

 出来れば部屋数を多くして物置に使おうかとか考えてるんだけど」


(わかりました。

 ではこれで如何ですか?

 これ、竹中工務店の規格住宅なんですが7LDKです)


「へぇ……

 七つも部屋があんのか。

 うん、これでいい」


(解りました。

 ではさっそく……

 エルゥ、亜空間を)


【あ、ハーイッ】


 ギュオッ


 エルゥが亜空間を出す。

 中から取り出したのは赤いラインカー。


 いわゆる白線を引く為に用いる機具。


測量(サーヴェイング)……

 250㎡、正方形)


 二階スキル発動。


 カラカラカラ……


 おもむろに赤いラインカーを押し、荒野に白線を引き始めた。


 カラカラ……


 さっさと引いた白線は正方形の形に。


(75坪……

 やはり大きいですね。

 これは建て甲斐がありそうです)


「二階さん、アンタのスキルって……」


 側まで来ていた踊七が後ろから尋ねる。


(ええ。

 私のスキル、測量サーヴェイング

 指定した大きさを正確に測る事が出来るんです)


 ■測量(サーヴェイング)


 二階のスキル。

 指定した大きさを任意の形で測る事が出来る。

 一辺をどれぐらい引けば良いかは感覚で察知。

 主にラインカーを用いて使用。

 今回は関係無いが建ぺい率(敷地面積に対する建築面積の割合)も指定可能。


 ご覧の通り、途轍も無く地味。


 五行魔法(ウーシン)の様に何か超常現象が起こる訳でも無い。

 感覚で察知するので見た目はただラインカーを押しているだけ。


 凄いのか凄くないのか良く解らないスキル。


 だがこのスキル。

 こと建築に関してはすこぶる便利なのだ。


 二階が居れば測量機要らず。

 簡単に正確な面積が測れるのだ。


 更に二階の作業は続く。


(お次は……

 地盤調査(グランドサーベィ)


 別スキルを発動させる二階。

 また特に周囲の変化は無い。


 その様子を無言で見つめている踊七。

 待つ事10分。


(…………踊七さん、ちょっと良いですか?)


「何ですか?」


(ちょっとこの辺りは地盤が弱い様なので地盤強化工事が必要となります……

 ってどうしたんですか?

 急に敬語なんて)


 この辺りから踊七は二階に敬語を使い始める。


「……二階さん……

 貴方のスキル……

 いくつあるかは解らないですが全て建築に関わるものですか?」


(先程言いませんでした?

 そうです。

 私のスキルは全て建築に関わるものですよ。

 竜河岸建築士ですから)


「……いや、そうでしたね。

 間違いないです。

 貴方はプロの竜河岸建築士だ。

 ヘンな事を聞いてすいません」


 話に聞いただけでは信じ難かった。

 が、これだと工期が二週間足らずと言うのも頷ける。


 踊七はプロの竜河岸建築士としての迫力を感じ、敬意を表す事にしたのだ。


(あ、いえいえ。

 別に私は良いのですが……

 それよりも地盤強化工事が必要なんですよ。

 鋼管杭工法を施工しますので工期が一日ぐらい伸びるかも知れません)


「問題ありません。

 どんどんやって下さい」


(ただ……

 ですね。

 資材確保の時間が全部で3日程かかります。

 宜しいですか?)


「貴方が必要だと言うのなら必要なんでしょう。

 俺は信頼すると決めました。

 宜しくお願いします」


(ありがとうございます。

 では私と兄御(あにご)は資材の調達に行って来ます。

 調達し終わりましたら帰って来ますので、そこから急ピッチで工事に入ります)


「はい、3日ですね。

 その間に俺は現金を用意しに行きます」


(では三日後に。

 兄御(あにご)、とりあえずの打合せは終わりました。

 行きます……

 あ、踊七さんすいません。

 まだアルゥが目覚めてません……

 出発は起きてからですね)


 建築資材調達は竜の亜空間が必須。

 竜を連れて行かないといけないのだ。


「元はと言えばウチのナナオのせいですから。

 好きにして下さい。

 それよりも横浜(ここ)に来るまでどんな建物を建てたか教えて下さいよ」


(ええ、では……)


 一先ず踊七の一軒家を建てる話は中断。

 時間潰しの為、竹中兄弟の建設行脚を聞く事となる。


 最初は沖縄から始まり、九州、中国、四国、近畿と津々浦々。

 建物は主に中型のアパート等が多かったと言う。


 工期の短さを武器に横浜まで順調に建てて行ったとの事。

 それを踊七はフンフンと興味深く聞いていた。


【フム……

 貴様らは(ねぐら)を作って回っているのか……

 妙な事をしているな】


 話を一緒に聞いていたナナオ。


 建築士と言う生業は理解出来ず、竹本兄弟の事は(ねぐら)作りをしている妙な奴と捉えてしまっていた。


 こうして、話し込む事およそ一時間。


【う……

 ううん……】


「おおっ!?

 アルゥッ!

 目を覚ましたかァッ!?」


 ようやく目覚めたアルゥを見てがなり立てる一階。

 本当にこの男は自分の竜には普通に話せる様だ。


【イ……

 イッカイ……】


【ようやく起きたか、アルゥ】


 まだ何が起きたかよく解ってない。

 ポーッと呆けている赤い陸竜。


【お……

 おりゃあ一体……

 !!!?】


 アルゥの目がクワッと見開いた。

 両眼に映るのは尾を七本持つ翼竜。


「あー……」


 それを見た二階のバツが悪そうな声。


【ロ……

 ロ……

 七尾(ロード・セブンス)ゥゥッ!】


 ブルブルブル


 ブルブルと震えだすアルゥ。


「エルゥ、何とかして下さい。

 このままだと堂々巡りです」


【えぇっ!?

 な……

 何とかっつってもなぁ……

 おい、アルゥ。

 ア・ル・ゥッ!

 おいってば。

 ちょっとこっち向け】


 グイ


 長い首を持って強制的に自分の方へ向かせるエルゥ。


【エ……

 エルゥ……】


【あのなアルゥ。

 七尾(ロード・セブンス)サマは……】


【エッ……

 エルゥッ!

 お前、何やってんだぁっ!?

 はっ……

 早く逃げねぇと俺ら全員身体、バラバラにされっぞぉっ!?】


 エルゥの言葉を全く聞いていないアルゥ。

 

 どうやら恐怖の度合いは各竜ごとに違うらしい。

 そういう部分は人も竜も変わらない。


「おいナナオ……

 お前、竜界で何やったんだ……?

 笑い事っちゃねぇぐらいビビッてんじゃねぇか……」


【別段、何かをしたと言う覚えはない……

 昔は何かと我にケンカを売ってくる(りゅう)はいたが……】 


「お前、マジでそいつらをバラバラにしたのか……

 笑い事っちゃねぇ」


【知らぬ。

 踊七、貴様は昔に殺した虫の事を覚えているとでも言うのか?】


「いや……

 もういいわ……」


 踊七は呆れて真偽を問いただす事を諦めた。


 ナナオからしてみれば一般竜との(いさか)いなど些末な事。

 飛び交う蚊を両手で挟み込む事と同義。


【だからアルゥ、落ち着けって。

 落ち着いて俺の話を聞け。

 あのな、七尾(ロード・セブンス)サマは別に俺たちを殺そうとはしねぇんだってよ。

 何でかは解んねぇけど】


【ホ……

 ホントか……?

 エルゥ……】


【もしその気だったら俺らがここにいる訳ねーじゃん】


【そ……

 そうか……?】


 ようやく落ち着きを取り戻し始めたアルゥ。


【オイ……

 そこの竜……】


 ビクゥッッッ……


 ドスの効いた低い声にアルゥの身体が芯から震え上がる。


【ハッッッ……

 ハイィィィッッ!】


【そこの竜が言っておるように我は歯向かって来ぬ(やつ)を殺して回る様な事はせん……】


【そ……

 そっスか……?】


【踊七が何をする気かは知らんが、特に騒がしくせんのであれば干渉する気も無い……

 勝手にするがいい……

 だが二人とも……

 仮に我のウマイを妨げる様な事があれば…………

 容赦はせんからな……】


 瑠璃色の瞳をギラつかせるナナオ。

 眼光から伝わるのは純粋で原始的な殺気。


 ビクゥゥゥゥッッ!


【ハイィィィィッッ!

 俺達、絶対七尾(ロード・セブンス)サマのウマイを邪魔しませんッッ!

 な?

 アルゥッッ!?】


【ハイィィィィッ!

 俺達絶対、ウマイに手を出しませんッッ!

 な?

 エルゥッッ!!?】


 (ロード)の衆としての威厳をまざまざと見せつけるナナオ。


 ただ言ってる事が食うのを邪魔するなと言う少々迫力に欠ける理由だが。

 もちろん、エルゥアルゥ両者ともウマイが何を指すかは良く解っていない。


 ちなみにエルゥとアルゥは同時に親竜から生成された。

 人間で言う所の双子の兄弟。


 しかしながら竜に血縁と言う言葉は無い。

 従って二人とも何か似てるな俺達ぐらいの感覚。


(あの……

 踊七さん……?)


 ここで二階が尋ねて来る。


「何ですか?」


(ナナオさんの言ってるウマイって……)


「あぁ、それは要するに地球の食べ物の事です。

 ナナオ(こいつ)、地球の食べ物が気に入ったらしくて」


(あぁそう言う事ですか。

 それにしても美味しいものが好きだなんて、我々からしたら至極当然の事で何だったら親近感も湧くぐらいなんですが……

 何をそんなに怖がってるんでしょうかねぇ。

 この二人は)


「同感です。

 まぁナナオが竜界でどんなだったかは俺も知りませんからね。

 よっぽど恐ろしい体験をしたんじゃないですか?」


 こうして晴れて目覚めたアルゥを連れて四人は資材調達へと消えていった。


 踊七は踊七で別の場所へ出掛ける。

 目指す先は眠夢のアパート。


 眠夢に会いに行くのでは無い。

 眠夢の部屋にあるネット環境が必要なのだ。


 目的は証券会社HPから出金指示を出す為。



 眠夢のアパート



 ピンポーン


 インターフォンを鳴らす。

 が、応答無し。


「……学校かな?」


 そう呟いた踊七。

 おもむろにスマホを取り出す。


 電源ON。

 この頃の踊七は普段携帯の電源を切っている。


 バッテリー節約の為だ。


 キャンプ生活を始めた踊七。

 バッテリーの電源は眠夢の部屋。


 ショップの電源ボックス。

 あとこまめな電源ONOFFで凌いでいた。


 常に電源が入って無いと不便なんじゃ?

 と思われるかも知れない。


 が、現時点の踊七の場合はさして問題では無い。

 まず以前の友人や知り合いは現在横浜には居ない。


 全員ドラゴンエラーで死亡した。


 残っているのは眠夢一人。

 その眠夢に普段電話をする事も無い。


 眠夢にも現在の携帯事情を教えてあるので電話がかかる事も無い。

 何かしらの用がある場合は留守番電話サービスに録音をお願いしている。


 プルルプルルル


 ガチャ


「もしもし~~?

 あ~~、踊ちゃんど~したの~?」


「眠夢か。

 いや、お前の部屋に行ったら居ねぇからよ。

 まだ学校か?」


「そりゃそ~よ~、今帰ってるトコ~~

 でも部屋来るの今日だっけ~~?」


「いや、言ってたのは今日じゃねぇ。

 お前で合ってるよ。

 ちょっと用事が出来たからな」


 カンカンカン


 電話をしている最中、階段を登る軽い足音が聞こえて来る。


「んふふふ~~

 でも踊ちゃんはサスガ私の夫ですなァ~~」


 カンカンカン


「な……

 何だよ。

 気持ち悪ィ笑い方しやがって。

 それと誰が夫だ誰が。

 お前は幼馴染」


「ぶ~ぶ~、相変わらずイケズなんだから~~

 しかァ~し~~

 何故踊ちゃんがサスガなのかと言うとですナ~~……」


 カンカンカン


 どんどん近づいて来る階段を登る音。

 鳴らしていた正体は……


「タイミングばっちりだからナノデス~~!!」


 眠夢本人だった。

 両手を広げて眠夢が後ろから登場。


 白い半そでブラウス。

 首にはワインレッド色でレジメンタルストライプ柄の幅広リボン。


 下はチェック柄のブリーツスカート。

 市立みなと総合高校の夏服。


 ちょうど季節は初夏。

 眠夢は衣替えを終えた所。


 踊七には初披露となる。


「よう、眠夢。

 お疲れさん」


 だが、全く動じない。

 平然と挨拶をする踊七。


 そんな踊七を見て少しむくれ顔の眠夢。


「何で何もはんのーしないのよ~~?

 ピチピチの若奥様の初夏服ダゾ~~?

 はんのーしろ~~

 どーよーしろ~~」


「くだらねぇ事言ってねぇで早く開けやがれ。

 笑い事っちゃねぇ」


 正直女子高生の夏服は眩しい。

 が、踊七は驚く程反応しない。


 不能なのではと疑いたくなる。


「に……

 似合って無いかな……?

 ハハハ……」


 踊七の冷めた反応に思いの外ショックを受けたのは眠夢。

 愛音(あいね)のモノマネが剥がれ素に戻ってしまう程。


「…………あーもー、似合ってるよ!

 そこらの同い年より大分イケてると思ってるっ!」


 ガシガシ


 照れ隠しに頭を掻く踊七。

 眠夢の様子を横目で見ていた。


 思った以上にショックを受けている事が見て取れたため、本音を吐露。


 踊七は別に不能でも無ければ、本気で煩わしがっている訳でも無い。

 青少年らしく青い性欲も持っている。


 ならば何故眠夢に冷たい態度を取るのか?


 理由は自身の基盤。

 生活基盤がまだ安全とは言えないからと言うのが大きい。


 本音で言えば眠夢の事は可愛いと思っている。

 最近どんどん母親に似てきた眠夢を可愛いと思っていた。


 が、まだデート等をして浮かれる事は出来ない。

 もし今の横浜でそんな事をすれば眠夢の私生活を脅かす事になるかも知れない。


 それは踊七が一番避けたい事。

 だから踊七は自分の気持ちを殺しているのだ。


 自身が未だ人の目から隠れて生活しているのに恋人だデートだと浮かれている場合では無い。


 自分を厳しく戒め、律している。

 が、眠夢を凹ます為にしているのでは無い。


 だから本音を眠夢に伝えた。

 それを聞いた眠夢の顔は曇り模様から麗らかな春に様変わり。


「ん~ふふふ~

 そ~そ~

 解ればい~のダヨ~~

 んふふふ~~」


「…………笑い事っちゃねぇ……」


 加えて本音を伝えるのが単純に照れ臭いと言うのもある。



 アパート 眠夢の部屋



 眠夢の部屋に入った踊七はさっそくノートPCの電源を入れ、ネットに接続。

 傍らには充電器に繋がれたスマホ。


「……よし、これで後は待つだけ」


 持ち株の一部を売却し、出金指示を完了させた踊七。

 口座に振り込まれるのは3営業日後となる。


 ついでに株取引を多少行い終了。


「なぁんだ~~

 用って何だと思ったらネット使いたかっただけか~~

 はい、お茶~~」


「お?

 すまねぇな。

 いや、今日はいつもの株取引じゃねぇ。

 ちょっと大金が必要になったからな。

 株の一部を売却した」


「へぇ?

 オカネが要るの~?

 一体どれぐらい必要なんだろうねぃ~~?」


「一億」


「……ええぇぇえ~~!!?

 イチオクって一億円~~!?

 踊ちゃん、サラリと言ってるけど解ってるの~~!?

 一億円だよ一億円~~

 一円置くんとちゃいまっせ~~!?」


 あっけらかんと言ってのける踊七。

 値段を聞いた眠夢は途端に焦り出す。


 当然だ。

 15歳の男子がどうこう出来る金では無い。


 至って正常な。

 常識的な反応。


 何処で知ったのかベテラン芸人トミーズ雅の往年のギャグまで出る始末。


「何だそりゃ?

 解ってるに決まってんだろ。

 あと眠夢。

 お前に言っとく事がある。

 俺、家建てるわ」


 ピタッ


 踊七の発言を聞いた眠夢の動きが言葉と共に止まる。


「ん……

 ん~~?

 私の聞き間違いカナ~~?

 あ~~

 リレハンメルって言ったのね~~

 あったねぃ~~

 オリンピック~~」


「何でこのタイミングでオリンピックが出るんだよ。

 笑い事っちゃねぇ。

 違げぇよ。

 家だよ家。

 一軒家建てっから金が要んだよ」


「そ……

 そ~カンタンに言うけどさ~~?

 おうちなんて種撒いてお水あげて出来るモノじゃないんだよ~~?」


「当たり前だ。

 ンな事あるか」


「建てるったって一体何処で~~?」


「もちろん今俺がキャンプしている辺りだ」


「え~~?

 でも踊ちゃんの居るトコって竜河岸さんじゃ無いと入れないんでしょ~~?

 大工さん達、入れないよぅ~~?

 踊ちゃんが建てるの~~?」


「俺にそんな事出来るか。

 実はな……」


 ここで踊七が竹中兄弟について話す。

 そして今回の一軒家建設はその竜河岸建築士の提案だとも。


 その提案を了承して家を建てる事にしたと。

 それで金が要るんだと。


「へぇ竜河岸の大工さんかぁ~~

 色んな竜河岸さんがいるんだねぃ~~

 でも住むの踊ちゃんとナナオちゃんだけでしょう~~?

 何でそんなにおっきーおうちにしたの~~?」


「ん?

 あぁ、部屋が多いとそれだけ色々物が置けるからな。

 それに魔力が晴れたらお前も一緒に住めるだろ?」


 ポッ


 それを聞いた眠夢の頬が赤く。

 ほんのり桜色に色付く。


「も~~……

 踊ちゃんは普段全然ホメないのにそーゆー事はサラッと言っちゃうんだから~~~……」


「ん?

 何の話だ?」


「解ってないナ~~?

 それってドーのセーって事ダヨ~~?」


「どうのせい?

 どう……

 せい……

 同棲……」


 ボッ


 ようやく自分の言った事に気付いた踊七。

 途端に両頬は赤くなる。


 その赤さは頬だけに留まらず、下眼瞼まで拡がっている。


「ババッ……

 バッカヤロウッ!

 そんなんじゃねぇよっ!

 ただお前を護ってくんなら一緒に住んだ方が合理的だって思っただけだぁっ!

 笑い事っちゃねぇッッ!」


「世間ではそれをどーせーって言うのダヨ~~?

 よーしちくん~~?」


「だからそんなんじゃねぇっつってんだろっ!

 笑い事っちゃねぇ!」


 あまりに恥ずかしい踊七は声を荒げる。


 出来れば早く退散したい所。

 だがまだスマホの充電が終わっていない為、帰る事が出来ない。


「んふふ~~

 しょーがナイなぁ~~

 これぐらいでカンベンしてあげよう~~

 これ以上言って気が変わっちゃうのもイヤだし~~

 踊ちゃん、スマホの充電してから帰るでしょ~~?

 晩御飯食べてく~~?」


「そうしてくれると助かる」


「おっけー~~」


 そう言いながら両手で大きく円を作り腰を曲げる眠夢。

 眠夢はパタパタと台所へ。


 やがて完成した夕飯を二人で食べ、スマホが満タンになったのを確認した後、キャンプ跡地に戻って行った。



 三日後



 ガラガラガラッ!

 ペッ!


 朝の日課を行っている踊七。

 そこへ……


 ギュオォッ!


「ん?」


 唐突に開く二つの亜空間。


 中から現れたのはピシッとスーツを纏った二階と。

 赤いニッカポッカが目立つ一階。


 資材調達が完了したのだろう。


(おはようございます踊七さん)


「二階さん、おはようございます。

 資材は無事集め終わりましたか?」


(ええ、それはもう。

 ではさっそく工事を始めます。

 踊七さんの本日のご予定は如何ですか?)


「午前中三時間程バイトに出掛けます」


(わかりました。

 ……それでは……)


 竹中兄弟、各々が動き出す。


 一階は無言でアルゥの亜空間に入って行った。

 やがて巨大な電話ボックス型の物体を抱えて帰って来る。


 ドスゥゥゥゥンッッ!


 重苦しい音をたて運ばれた長方形が建立。

 立つと何かは一目で解る。


 これはトイレ。

 工事現場でよく見る簡易トイレだ。


 同じく二階もエルゥの亜空間に入って行く。

 しばらく経って出て来ると完全に雰囲気が変わっていた。


 ゴツイブーツに赤いニッカポッカ。

 一階と同種のベルトと道具袋。


 黒いインナーにグレーの作業着を羽織っている。


 朝食を食べながらナナオと共に様子を見ていた踊七。

 あまりの様変わりっぷりに動きが止まってしまう。


「に……

 二階さん……

 何か笑い事っちゃねぇぐらい雰囲気、変わりましたね……」


(私も工事しますから。

 営業はもう完了しましたし、いつまでもスーツのままでは居られませんよ。

 ……では兄御(あにご)……)


 コク


 無言で頷いた一階。

 腰を落とし、両膝を曲げ、踏ん張る形で膝を両手で支え出した。


 スゥーッ……

 クワッッ!


 深く息を吸い込み、目を見開く。


(施工始めェェェェェェェッッッッ!!!)


(オゥサァァァァァァァァッッッッッ!!)


 一階が叫ぶ。

 気合の入った声。


 呼応するかの様に二階も叫んだ。


 ビリビリ


 二人の声量に空気が震える。


騒音遮蔽(ノイズシールディング)


 スキル発動。

 二階を中心に拡がる薄く青い正方形フィールド。


 大きさは一辺400メートル。

 竜司の全方位(オールレンジ)程では無いがそこそこの大きさ。


「二階さん、今のは?」


 朝食を終えた踊七が傍に寄り、尋ねた。

 もちろん竜河岸の為、正方形フィールドが広がるのは目撃している。


(今広がったのは騒音遮蔽(ノイズシールディング)

 私のスキルで簡単に言うと内部から出る音を遮断出来るんですよ。

 何分我々の稼業は騒音が出ますからね)


 続いて一階。

 アルゥの出した亜空間に入って行く。


 ズゥンッ!


 すぐに出て来たと思うとその姿は異様。

 背に大量のパイプを背負って出て来たのだ。


 その量たるや。

 ガタイの良い一階の身体が小さく見える程。


 重みで地面が凹む。


 ズズゥンッ……


 ゆっくりとパイプの山を降ろした一階は再び亜空間の中へ。

 同じものをもう一つ持って来る。


 軽々とやっているが明らかに人が一人で持てる量では無い。


(ん?

 あぁ、兄御(あにご)力型(パワータイプ)魔力注入(インジェクト)を習得してるんですよ……

 さて私は……

 測量(サーヴェイング)


 スキルを発動した二階はラインカーを持って先日引いた白線内へ。

 カラカラと小刻みにラインカーを動かしている。


 付けているのは白い×印。

 何かの目印の様。


 あれよあれよと言う間に白線内は無数の×印で溢れた。


兄御(あにご)ーっ!

 OKでーすっ!)


 コク


 返事を受けた一階は無言で頷く。

 ヒラリと長い金属パイプの山に飛び乗ると、道具袋からカッターを取り出す。


 テキパキと結束バンドを切って行った。


 ガランッッ!

 ガラガラガラァッ!


 解き放たれたパイプの山が崩れ出した。

 大きな金属音を立てる。


 知っている工事現場の風景では無い。


 そこには一台の建設重機も無い。

 トラックすら無い。


 いるのは二人の竜河岸と竜のみ。


 踊七は別に一から終わりまで家が建つ所を見た事がある訳では無い。

 が、繰り広げられている光景が常識外れなのは解る。


 完全に言葉を失っている踊七。


(……おや?

 踊七さん、如何いたしました?

 何かとても驚いてる様子ですが……?)


「い……

 いや……

 竜河岸が家を建てる様子を見るのは初めてですから……

 色々面食らってる所です……」


(ハッハッハ。

 そうですか)


 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている踊七を尻目に白い歯を見せて笑う二階。


「トラックとか使わないんですね」


竜河岸(われわれ)には竜の亜空間がありますからね。

 いやーアレのお陰で随分助かってますよ。

 ねぇエルゥ?)


【ん?

 そうか?

 まぁニカイ達が何か造んのはおもしれぇからな。

 もっと見せてくれよ】


(フフフ、ええもちろん。

 あ、でも踊七さん。

 ショッピングモールとか高層ビルなんかを建てる時はもちろんトラックとかクレーンとか使いますよ。

 いくら便利でも竜河岸って少ないですからねぇ)


「なるほど。

 今回は単なる一軒家だから竜の亜空間だけで事足りると言う事ですね」


(でも手は抜きませんよ。

 何十年と住める立派な家を建ててごらん入れます。

 竹中工務店の看板背負ってますので)


 ガランッ!


 ここで響く大きな金属音。

 見ると一階が何か作業を行っている様子。


 シャアァァ……


 眩い光と大量の火花。

 微かに音も聞こえる。


 すぐに火花と光が止んだ。


 ポイッ


 止んだと同時に宙へ放り投げられたものは金属パイプ。


 しかし長い。

 運んで来た時よりも遥かに長い。


 ガランッ!


 シャァァァッッ……


 再び激しい光と火花。

 そして微かに聞こえる音。


「二階さん、あれは?」


(あぁ、あれは兄御(あにご)が鋼管を制作してるんですよ。

 踊七さんの家をしっかり建てる為の下ごしらえですね)


「前に言っていた鋼管杭工法ってやつですね。

 何で最初から長いパイプを確保しなかったんですか?」


(あぁ、簡単な話です。

 そんなのは無いんですよ。

 鋼管杭工法で使用する鋼管は上杭と下杭に分かれています。

 で、兄御(あにご)は今スキルを使って溶接してるんですよ)


 一階はスキルを使ってアーク溶接が可能。


 ■溶接(ウェルディング)


 一階のスキル。

 発動すると右人差し指を電極としたアーク溶接が可能。

 仕組みとしてはまず右手から母体(溶接を行う対称)に魔力でマイナスの電圧をかけ、同時に右人差し指へ魔力が流れ、プラスの電圧を創り出しアーク放電を発生させると言う仕組み。

 更に溶接部には魔力で膜の様なものを張り酸化、窒化を防いでいる。

 射程は50センチ。


 溶接(ウェルディング)があれば溶加材は必要だが電源要らず、機器要らずで溶接が可能。


 ……なのだが、別に威力があるとか広範囲まで届くとかそう言うものは全く無い。

 ただ溶接するだけである。


 アーク放電を使えばダメージを与える事が出来るかも知れないが如何せん射程が短過ぎて役には立たないだろう。


「凄い……

 人間溶接機だ……」


(その通りですね。

 我々竜河岸は竜の魔力のお蔭で色々工程をすっ飛ばしたり繰り上げたり出来るんですよ。

 上杭と下杭の接続も普通は下杭を地中に埋め込んでからするんですけどね……)


 ガランッ!


 やがて最後の溶接も完了。

 出来たのはうず高く積まれた恐ろしく長い鋼管の山。


 ピトッ


 おもむろにアルゥの鱗に手を添える一階。

 魔力補給。


(…………)


 何かを呟いた一階。

 声が小さくて何を言っているか聞こえない。


 コォーンッッ!


 !!?


 突然踊七の耳に響く音。

 まるで勢いよく釘を打った様な。


 驚いた踊七はキョロキョロと辺りを見渡す。

 が、別に誰も釘を打っていない。


(ん?

 あぁ、今の音は兄御(あにご)魔力注入(インジェクト)の発動音ですよ)


「えっ!?

 確かに発動(アクティベート)はそれぞれモチーフは違うと思いますが第三者に音なんて聞こえる訳が……」


(それは兄御(あにご)の熟練度が高いからです。

 一定のレベルまで達すると外にモチーフの音が聞こえる様になるらしいですよ。

 我々は竜河岸の能力をフルで稼業に使ってますからね)


「マジですか……

 一体どれだけ魔力注入(インジェクト)使ってるんですか……」


兄御(あにご)の場合は建設で多用しますからね。

 私はまだまだです)


 ヒョイッ


 そんな話をしている内に一本鋼管を持ち上げた一階。

 さも軽々と。


 ダァンッッッ!


 ドコォーーンッ!


 そのまま飛び上がり、二階が印した地点へ次々と杭を打ち込んで行く。

 ちなみに打ち込んでいるのは一階のスキル、杭打(パイルドライバー)によるもの。


 あれよあれよと作業は進む。

 気が付いたら山の様にあった鋼管は一つ残らず無くなっていた。


(これで地盤強化工事は完了です。

 お疲れ様です兄御(あにご)

 思ったより早かったですね。

 はいどうぞ)


 が、戻って来た一階はビッショリ汗を掻いていた。

 体力を大分消耗したのだろう。


 二階が手渡したのは金色に輝く大きなヤカン。


 ガブガブガブガブ


 掲げたヤカンから大量に流れ落ちる茶褐色の水。

 これは麦茶。


 浴びる様に飲む一階は文字通りそのまま頭から被ってしまう。


「なるほど……

 もしかして二階さんのスキルは計測、測量系でお兄さんは建築系って分かれてるんじゃないですか?」


 ずっと二人を見ていた踊七が見解を述べる。

 それを聞いた二階はニコリと笑顔。


(ご明察。

 その通りですよ。

 別に親から言われたとかじゃないんですけどね。

 自然とこうなってました。

 ……っと踊七さん、アルバイトの時間は大丈夫ですか?)


「おっと。

 それではいってきます。

 工事の方、宜しくお願いします」


 ぺこりとお辞儀をして踊七はバイトへ向かう。

 こうして踊七の一軒家作りはどんどん進んで行った。



 一週間後



 ザァァァァ……


 外はあいにくの雨。

 本日の工事は休止。


 現場には既に土台が組まれ、事前に竹本兄弟の手で雨防止用のブルーシートが貼られていた。


 雨脚は割と激しく、降雨量が多い事を物語っていた。

 現在、キャンプ場には誰も居ない。


 ナナオすら何処かへ行っている。

 激しい雨音だけが響くキャンプ場。


 一体踊七とナナオは何処へ行ったのか?



 横浜市中区長者町 元踊七の部屋



「踊ちゃ~ん、これも持ってくの~~?」


「あぁ、全部持って行くからどんどん段ボールに入れて亜空間へ頼む」


「それにしてもナナオちゃんのアクーカンって便利だねぃ~~」


 踊七と眠夢は荷造りをしていた。

 そろそろ一軒家が完成しそうなので引っ越しの作業中。


 ナナオは言わばトラック代わりに連れて来ていた。

 この雨であれば人通りも無く辿り着けると考えたのだ。


 亜空間を使えば移動出来るのでは?

 そう思われた読者もいるだろう。


 答えとしてはその通りなのだが、踊七自身その発想は無かった。

 そもそも亜空間で移動自体した事が無い。


 話には聞いていたがレベルの知識しか無い。


 思いつかないから発言しない。

 発言しないからナナオも進言しない。


 こう言った理由から直にナナオを連れてアパートへ向かう羽目になった訳である。


「それにしても踊ちゃんてば~~

 私が解約しろしろって言っても全然しないんだから~~」


「うるせぇ。

 それ所じゃ無かったんだよ俺は。

 そんな事より作業を進めやがれ。

 笑い事っちゃねぇ」


「はいはい、解ってますよ~~だ」


 こうして作業は進んで行く。


 ザァァァァッ……


 外から聞こえる激しい雨音。


「それにしてもよく降る雨だねぃ~~

 踊ちゃん、何でこんな日にするのさ~~?」


「ナナオが必要なんだから人目を避けねぇといけねぇだろ?

 笑い事っちゃねぇ」


 そんな他愛の無い話をしながら作業完了。

 掃除も終了し、スッキリした部屋を眺める踊七と眠夢。


「ふう、こんなモンだろ。

 眠夢、ありがとうな。

 お疲れ様」


「お疲れ様~~

 んっふっふ~~

 ちょぉっと待っててねぃ~~」


 不敵な笑みを浮かべた眠夢は部屋を出て行った。

 自分の部屋に戻ったのだ。


 すぐに帰って来ると両手にはお馴染み大型タッパーと中型タッパー。


「ん?

 眠夢、何だこりゃ?」


「んふふ~~

 こんな事もあろうかと食事を用意しておいたのダヨ~~

 ご馳走ダヨ~~?

 ナナオちゃんの分もあるからみんなで食べマショウ~~」


「何か気ィ使わせちまって悪ィな」


【フム……

 貴様等が何をやってるかは皆目解らんが……

 ウマイを振る舞うのであれば頂こう】


 こうして荷造り後の和やかな食事が始まった。

 持ち込んだ食事も進み、やがて終了。


「お粗末様~~

 踊ちゃんお茶でも淹れようか~~?」


 だが……


「おう、頼む」


 和やかな時間は長く続かなかった。


 ピク


 最初に気付いたのはナナオ。

 深緑の長い首を持ち上げ、瑠璃色の両瞳が見つめる先は外。


「ん?

 ナナオ、どうした?」


【外が何やら騒がしい……】


「騒がしい?

 外からは雨の音しか……」


 ザァァァァ……


 ガヤガヤ

 ザワザワ


 激しい雨音に混ざり、別の音が聞こえて来る。


 それは明らかに喧騒。

 人が立てる喧騒。


 激しい雨音に紛れて聞こえて来るのだから相当大きい喧騒。


「……何だ?

 この音……?」


 踊七はまだ気付いていなかった。

 この音を発しているのが目を背けたくなる程、汚く。


 惨たらしく。

 恐ろしく。


 悍ましく。

 忌まわしく。


 禍々しい人間の負の感情がもたらしているとは気付いていなかった。


 続く

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