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第二章閑話 カンナ 中編

 家庭科室


(はい、皆さん三時間目は家庭科です。

 お父さんお母さんと一緒にクッキーを作りましょう)


 先生の合図で調理実習スタート。

 カンナのグループはカンナ、畳屋の親子、他数名だ。


「ええと……

 まずボウルにバターを入れて電子レンジだって」


 カンナは一生懸命プリントを見ながら調理している。


(カンナちゃん、あたし薄力粉をふるいにかけとくね)


 彩は薄力粉をふるいにかけ始める。


(俺、何しよう……)


 同グループの男子は手持無沙汰な様子。


 ザワザワ


 他グループの調理も順調だ。


 チーン


「ええと、次は砂糖を入れてしっかり混ぜる……

 あれ?

 バター溶けてないけどいいのかな?」


【カンナ様、少し塊が残っていても良いそうですよ】


 グースは基本カンナと話す時は竜語を使う。


(ねえカンナちゃん、グースさんって本当に竜なのねー)


 カンナとグースのやり取りを聞いていた彩が改めて認識する。


「そうだよ、アヤちゃん」


(やっぱり竜の姿が本当の姿なのー?)


「はい彩様。

 今の私の姿は人の形に変化したものですよ」


 グースが彩に日本語で答える。

 カンナが自慢げに割って入る。


「そうだよー、竜のグースは奇麗なんだよー。

 おけけもふわっふわなんだからー。

 エッヘン」


(へぇ~~……

 ふ……

 ふぇっ……)


 ふるいにかけていた薄力粉が舞い上がり彩の鼻に入り鼻腔の粘膜を刺激する。


(へくちゃ!)


 ガラガラガッシャーン


 勢い良くクシャミをした彩の体は薄力粉の受け皿に炸裂。

 全部こぼしてしまう。


「彩様。

 ふるいの動きが大きいです。

 細かく丁寧にしなければ」


 グースは冷静に言う。


「ありゃりゃ……

 クッキーどうしよう……」


 カンナは心配そうに呟く。


(俺ヒマだし。

 薄力粉もらってくるよ)


「ホント!?

 哲君、ありがとー」


 カンナは男子に顔を近づけにっこり微笑む。

 男子の顔が見る見るうちに赤くなる。


(べっ……

 別に気にしなくていいよ。

 じゃあ行ってくる)


 男子は教室の外へ。


 鳴尾小学校 校門前


(ふしゅぅ……

 フヒィ)


 男が立っている。

 ビア樽のような大きな腹をして汗だくになりながら立っている。

 上下は紺のジャージで薄汚れたTシャツを着て、手にはサバイバルナイフを持っている。


(ぼぼぼ……

 僕は伝説になるんだな……

 あの宅間神に続くのは僕なんだな……

 ふしゅぅ)


 目は血走り、ギョロギョロしている。

 明らかな不審者である。

 校内侵入。


 第一倉庫。


(えっと……

 薄力粉……

 薄力粉……

 あった)


 男子は薄力粉を持って外へ。

 早く戻ってカンナに渡してあげよう。

 またカンナに笑いかけてもらおう。


 そんな事を男子は考え、外へ出る。

 曲がり角を曲がったその時。



 不審者と鉢合わせた。



(フヒィ……

 最初の供物発見。

 やあ)


(おじさん……

 誰?)


 全く見慣れない男に戸惑う男子。


(フシュゥ……

 ぼぼっ……

 僕かい……?

 僕は……

 かかっ……

 神様だよ……)


 不審者はどもりながら小さな声で呟く。


(神様……?

 え……?)


 男子は腹部に異物を感じる。

 不審者のナイフがゆるりと音も無く男子の腹に突き刺さる。


 ポタッ

 ポタッ


 鮮血が地面に数滴落ちたかと思うとすぐに大量の血が地面に滴り、その場に倒れる男子。

 血はどんどん流れ周りを赤に染める。


(フヒィ!

 この供物を宅間神に捧げます。

 ブヒャヒャヒャ!)


 不審者は狂ったように笑っている。


 家庭科室


【あの男の子遅いですね】


「そうだねー。

 哲君何してるのかな?」


【私が少し見てきましょうか】


「私も行くー。

 グース一緒に行こっ?」


【はい】


「みんなー、ちょっと哲君の様子見てくるー」


 元気に手を振り教室の外へ。


「もう、哲君どうしたのかな?

 授業終わっちゃうよ」


 グースを連れて曲がり角を曲がった瞬間。



 目の前に広がる惨劇に絶句するカンナ。

 


 廊下の真ん中でうつぶせで倒れている男子。

 その周りは赤く赤く染まっている。


 カンナはしばらく黙っている。


「哲君っ!」


 ようやく状況を理解しそばに駆け寄るカンナ。


「ねえっ!

 ねぇっ!

 哲君っ!

 目を開けてっ!」


 必死に男子の体を揺り動かすカンナ。

 目から大粒の涙が零れている。

 側に居たグースが男子の体に手をかざす。


【カンナ様、落ち着いて下さい】


 男子の体が緑の光に包まれる。


【腹部に裂傷が一か所。

 おそらく刃物で刺されています】


 やがて光が止む。


【かなり危険な状態でしたがもう大丈夫です。

 しかし失血が酷いのですぐに病院へ】


 キャアアア!


 カンナとグースの耳に悲鳴が聞こえる。

 家庭科室からだ。

 急いで二人は家庭科室へ戻る。


 そこには再び惨劇が広がっていた。

 窓際にうつ伏せになって女子が倒れている。

 先程の男子と同じように夥しい赤が倒れている女子の周りに広がっている。


(あ……

 あ……)


 先生は腰を抜かし声も出ない。

 保護者はパニック状態だ。


(誰か警察に通報しろ!)


(救急車を呼べ!)


(ゆりちゃん!

 ゆりちゃん!

 何でこんな事に……

 うっうっ……)


 刺された女子の保護者は側でへたり込み泣いている。

 グースが駆け寄って屈み、先程と同じ様に手をかざす。

 すぐに女子は緑の光に包まれる。


【先程の子と同じ様に腹部に裂傷……】


 じきに光が止む。


「ご安心下さい。

 これでもう大丈夫です。

 早く救急車を呼んでください。

 あと教室の外にも一人居ますのでお願いします」


 立ち上がったグースは少し大きい声を上げる。


「どなたか状況を知っている人はおりませんか」


 おどおどしながら保護者の一人が手を挙げる。


(私……

 見ました……

 その娘が窓を開けたら外から手が伸びて……

 そしたらその娘が……)


「わかりました。

 ありがとうございます」


「ぐすっ……

 グース……

 ユリちゃん、大丈夫……?」


 カンナは泣きながら上を見上げる。


【カンナ様、ご安心ください。

 ご学友は二人とも無事です。

 この問題は私が解決しましょう。

 カンナ様は先生方と一緒に待ってて下さい】


「うん……

 わかった」


【では】


 グースは一人教室の外へ。


【さて……

 こっちですか】


 グースは悪意の元を探る事が出来る。

 これは高位の竜(ハイドラゴン)、“マザーの衆”の特徴でもある。

 全方位(オールレンジ)の様に具体的な位置は無理だが、悪意を持っている人や竜の凡その位置を掴むことができる。

 グースは悪意の感じる方向へ歩いて行った。


 後編へ続く。


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