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第六章 新崎藜 近畿少女愚連隊⑤



 2001年 8月 糸島市



「あー……」


 汗だくになって穴に潜り、ガリガリと穴を掘っている女性がいる。

 側には焦げ茶色の竜が興味深そうに覗いている。


 穴の外には多数の老若男女もわらわらと作業中。


 トランシットで計測している者もいる。

 この人達は研究室のメンバー。

 そして(あかざ)もその一員である。


 研究室の名は高嶋研究室。

 高嶋忠平教授の研究室である。


 本日は高嶋教授のフィールドワークの手伝いで福岡県糸島市の平原遺跡(ひらばるいせき)まで来ている。


 この高嶋教授は邪馬台国九州説を唱えていて、今回のフィールドワークもその関連で来ている。


 今日は福岡だが、明後日には佐賀県の吉野ケ里遺跡(よしのがりいせき)にも出向く予定だ。

 ちなみに高嶋教授の異名はミスター吉野ケ里(よしのがり)と呼ばれている。


 (あかざ)のあの飲み会の翌日に専修願書を出し、考古学を学び始める。

 そして研究室に入る。


「チャーッスッ!

 新崎藜(しんざきあかざ)ッス!

 アタシ、ガチで考古学でテッペン取ろうって考えてるんでぇー……

 そこんとこ夜露死苦(ヨロシク)ッッ!」


 これが研究室に入った最初の挨拶である。

 何だこのヤンキーはと驚いた高嶋教授だったが、(こと)(ほか)有能だったのと竜河岸が考古学を目指すと言うのを面白がり、メンバーに迎える。


「あー……」


 溜息混じりの嗚咽を漏らし、腰を伸ばす(あかざ)

 手には土塗れの破片を持っている。


【あらん、(あかざ)さぁん。

 それ何かしらん?】


「あ……?

 土器だよ……

 何か見っかった……

 教授ーーっ!

 何か見つかりましたーっっ!」


 (あかざ)は大声を出す。

 が、反応が無い。


「チッ……

 あのジジィ……」


 穴から飛び出た(あかざ)は、教授の元へ向かう。

 高嶋教授は若干耳が遠い。


 これには理由がある。

 この高嶋教授がフィールドワークに出向く所は何故か厚い岩盤に覆われた箇所ばかり。

 教授曰く……


しょ()んな分厚い岩盤に覆われてる所なら何か出しょ()うな気がしゅ()るじゃろ?

 何しぇ()誰も掘っとらんからな)


 だそうだ。


 ちなみにこの高嶋教授、さしすせそざじずぜぞが上手く発音できない。

 さしすせそはしゃしぃしゅしぇしょ。

 ざじずぜぞはじゃじぃじゅじぇじょとなる。


 あと耳が遠いのは岩盤を砕く為の発破が原因である。


 発掘現場で発破なんて出土物が壊れるのではとお考えかも知れないが、それは()()()()()()()()()()の発破技術の超絶技巧の為、何の問題も無い。

 問題があるとしたら教授の難聴ぐらいである。


 ザッザッ


 穴を掘っている初老の男性。

 この人が高嶋教授である。


(ん……?

 (あかざ)ちゃんか?)


「チッ……

 このジジイ……

 耳遠い癖に何で近づいたら気付くんだよ……」


 高嶋教授。

 耳は遠いが自分のフィールドを持っているのか、人が近づいたらすぐに気付く。

 そして……


(あぁ……?

 誰がジジィじゃーっ!

 ワシャまだピチピチの六十一じゃもんよーっ!

 聞こえとるんよォーっ!)


 初老の男性が息巻いている。

 難聴と言っても全く聞こえない訳では無いのだ。


「あーうっせー……

 はいはい……

 高嶋キョージュッッ!

 何か見つかったからよ。

 持って来たんだよ」


(ほうほう……

 どれどれ……?)


 教授が出土した土器の破片を受け取る。


 ポイッ


 と、思ったら無造作に後ろに投げる。


 ガチャン


 離れたザルに見事入り、音を立てる。


「テメッ!!?

 せっかくアタシが見っけたモンを……」


(ん……?

 見たらどんなモンか解るモンよー。

 ホラ……

 ワシ教授だから……

 それにしょ()ーゆー土器の欠片っちゅうんは一個見っかっただけではあんましぃなんよー

 もっとゴショッ()と見っからなゴショッ()と)


「チッ……

 クソッ……

 見てろ……

 ゴソッと見っけてやらぁ……」


 悔しまぎれの台詞を吐き、また自分が発掘していた穴に戻る(あかざ)

 結局その日は合計三十六個もの土器の欠片を発掘する。

 が、地形が変化するのではと思われる程掘りまくった(あかざ)


(あ……

 あの……

 新崎(しんざき)さん……

 そこ……

 僕の受け持ちなんだけど……?)


「あぁっ!?

 テメーがチンタラ掘ってるからだろうがァッ!

 どっか散りやがれッ!

 シッシッ!」


 あまりの発掘スピードに他の穴と繋がってしまった(あかざ)

 こんな事は前代未聞である。



 糸島市 某宿



「あー……

 しんどー……」


 部屋で大の字に寝転がる(あかざ)


(そりゃそうだよ……

 新崎(しんざき)さん……

 いくらなんでも掘り過ぎだよ……

 他の人の穴と繋がってんじゃん……)


「チッ……!

 テメーらの掘り方が甘ーんだよッッ!

 ンなモン、チンタラ掘ってたら日が暮れちまわあ」


(そっ……

 そんな事言って出土品が傷ついたりしたらどうするんだよ……)


「ケッ……!

 あのジジイが一個、二個掘っても意味ねぇとか言ってただろーよ。

 一個二個壊れた所で大したことねーよ」


 顎をしゃくる(あかざ)

 しゃくった先には床の間の掛け軸を無言で見つめる高嶋教授。


(ん……?

 (あかざ)ちゃん、何か言うたかいのう?)


 まるで母さん、お昼はまだかいのうと何度も聞くボケ老人の様。


「ケッ……

 死ねッッ!

 このジジイッッ!」


 こんな感じで(あかざ)は考古学の道を一歩ずつ(?)進んでいるのであった。


 時は少し進む。



 2001年 某月



 (あかざ)はある山を登っていた。

 これも高嶋教授のフィールドワークの為だ。


 (あかざ)は既に准教授になっていた。

 作成した論文が認められたからだ。


 そして今回は研究所メンバーに加え、かなりの大所帯。

 半分ぐらいは作業服の様な物を着ている。

 胸には皇建設(すめらぎけんせつ)というワッペンが貼り付けてあった。


 チラチラと前の方を見る(あかざ)

 目線の先には老人が二人ともう一人。


 一人は高嶋教授。

 もう一人は見慣れない人物。

 真ん中が禿げ上がって両サイドからツンツンと空に向かって伸びている。


 同じ作業着を着ている所から今回連れて来た面々のリーダーといった所だろうか。

 それよりも何よりも気になるのはその隣の男性。


 こんな山奥にも関わらず黒スーツなのだ。

 暑苦しい長い黒髪ストレート。


 背中しか見えていないので顔は解らないが、(あかざ)はこの男性が気になってしょうがなかった。


(源蔵さん、毎回毎回しゅ()まんのう)


「全くですよ高嶋さん……

 ワシはもう建設業界からは離れつつあると言うのに……」


(えー、しょ()うなんかーっ?

 もうちょっとっ

 もうちょっとだけぇっ!

 ワシの発掘手伝ってくれよう。

 もうちょっとで確たるもんが見つかりそうなんじゃあ。

 ワシの発掘は源蔵さんの発破が無いと立ち行かんのじゃあっ!)


 発破。

 物騒な言葉が聞こえて来た。


「ちょぉっと待てェッ!

 ジジィッ!

 この山、吹き飛ばす気かァッ!?」


 (あかざ)が堪らず前に出る。


(ん?

 (あかざ)ちゃん、問題無いよう。

 てか問題起さない為に源蔵さん連れて来てるんだしィ)


「ん……?

 高嶋さん……

 こちらの女性は?」


(この娘はワシの研究室のメンバーじゃよ。

 若くして准教授になった自慢の娘じゃ)


 高嶋教授が誇らしげに(あかざ)を紹介。


「ほう……

 見た所若そうなのに大したもんじゃ」


「おいジジィ、この人は誰だよ」


(この方は皇源蔵(すめらぎげんぞう)さん。

 いつもワシのフィールドワークを手伝って貰ってるんじゃよう。

 ホラ……

 ワシって分厚い岩盤があるトコしか掘らんじゃろ?

 だからの……

 源蔵さんに頼んで、いぃー感じに爆破して貰っとるんよう)


「貰っとるんようじゃねぇだろ……

 でもまあジジイが世話になってるんなら……

 チィーーッスッ!

 新崎藜(しんざきあかざ)ッス!

 アタシ、ガチで考古学のテッペン取ろうって考えてるんでぇ―……

 そこんとこ夜露死苦(ヨロシク)ゥッッ!」


 とりあえず自己紹介を済ませた(あかざ)

 それを聞いた源蔵は唖然としている。


「お……

 おう……

 まあ……

 頑張れ……

 さすが西暦も2000年となるとこう言う珍しいタイプの考古学者も出るか……」


「そんでイッコ質問いいッスか?

 源蔵さん」


「ん?

 何じゃ?」


「隣の人、何で山奥に黒スーツで来てるんスか……

 んで何かずっとアタシ睨んでるし……

 あぁ…………?

 何だアタシにケンカ売ってんのかよ?」


【貴様の(マスター)に対する不遜な言葉遣いが少々気になったのでな……】


 ギン


 一層目が鋭くなる黒スーツの男。


「これカイザ……

 そう殺気立つでない」


(マスター)がそう言うなら……】


 源蔵に言われ、矛を収める黒スーツの男。

 この二人は本編主人公、皇竜司(すめらぎりゅうじ)の祖父。

 皇源蔵(すめらぎげんぞう)と黒の王カイザである。


 ようやく今回の発掘ポイントに辿り着く一向。

 そこは雑草が縦横無尽に伸び散らかし、地面も荒れ放題の場所。

 辛うじて平野なのが救い。


(ここじゃあ……

 どうじゃ?

 (あかざ)ちゃん。

 この手付かじゅ()の感じが何かありしょ()うな気がしゅ()るじゃろおっ?)


「いや……

 ただの荒れ果てた土地にしか見えねっスけど……」


「よし……

 皆の衆、始めるぞ」


(ウィーッス!)


 号令と共にテキパキと簡易テントを組み立て始める。


「カイザ」


【御意】


 源蔵の呼びかけに応じ、亜空間を出すカイザ。


発動(アクティベート)……」


 源蔵、魔力注入(インジェクト)発動。

 そのまま亜空間に手を突っ込む。


 取り出したのは大型の手押し芝刈り機の様な機器。

 車輪が四つ付いている。


 これは地中レーダー探査機。

 源蔵はその大きな機械を細腕で軽々持ち上げる。


 ドスゥンッッ!


 重苦しい音と共に地中レーダー探査機が地面に沈む。


「げ……

 源蔵さん……

 これ何スか……?」


 急に現れた見慣れない機械に堪らず問う(あかざ)


「ん?

 これは地中レーダーじゃ。

 これでまず岩盤の様子を探るんじゃ……

 では頼む」


(ウィッス)


 作業服の男性がゴロゴロ地中レーダーを転がし始める。


「さて……

 ワシは……」


 再び亜空間に手を突っ込んだ源蔵。

 取り出したのはノートPC。

 おもむろに電源を入れる。


 だが前に座るのではなく、お次は爆薬の確認だ。

 この様に源蔵は全て一人で確認をするのだ。

 これは自分が()()()()()()という事を自覚しているからである。


 多人数で何かを為そうとする上ではジャンルを問わずリーダーと言う者は存在する。

 そのリーダーが()()()と言う事を自覚しているかしていないかでグループの性能は雲梯の差となる。


「源蔵さん、それがマイト(ダイナマイト)っスか?」


「マイト……

 あぁそうじゃ。

 これで地盤を爆破するんじゃ」


「普通土木の発破って横にやるもんじゃねえんですか?」


「横?」


「いや、ほら……

 ほら穴を発破したりとかするじゃないっスか。

 大体マイト(ダイナマイト)仕込むのって横でしょ?

 でも今回荒れてはいますけど平野じゃないッスか」


「何じゃそんな事か。

 確かに土木では大体横だが、縦だろうと横だろうと大して変わりは無いわい」


「あ、そういうモンなんスねえ。

 あとマイト(ダイナマイト)って甘いってホントっスか?」


「フフ……

 ヘンな事を知っとるのう。

 そうじゃ、ダイナマイトで使ってるニトログリセリンが甘いんじゃよ」


「ゲッ!

 マジっスか。

 あれって一滴でコンクリ砕くとかの威力あるんでしょ?」


「だからニトロを珪藻土(けいそうど)という土に染み込まして、爆発せんようにしたのがダイナマイトなんじゃ。

 だが、この珪藻土(けいそうど)は現在は使われておらんがの。

 今はニトロセルロースと混ぜてゲル状にしたものが主流じゃよ」


「へー……

 マイト(ダイナマイト)一つとっても色々あるんスねえ」


(社長ーっ!

 計測終わりましたーっ!)


「だからワシはもう社長では無いと言っておるのに……

 よし、こっちに持ってこい」


 地中レーダー探査機とPCを繋ぐ。

 そこからは無言。

 PCの画面をじっと見つめて源蔵は無言。


 しばらくして……


「よし、算段がついた」


 源蔵から声がかかる。

 即座に作業員が周りに集まる。

 地図を広げる源蔵。


「ここと……

 ここ……

 そしてここに三本。

 ここからここまで一本ずつ配置して線を描け」


 源蔵の爆薬配置の指示が飛ぶ。

 ダイナマイトを持った作業員が場に散って行く。


 テキパキと爆薬を設置し、起爆電橋線をテントまで伸ばしてくる。

 あれよあれよと設置完了。


(あかざ)()()()()、ちょっと離れていた方が良いぞ」


「じょ……

 嬢ちゃん……?

 止めてくれよ源蔵さん」


「フフ……

 まあ良いでは無いか……

 全員離れろーっ!

 三……

 二……

 一……

 発破」


 グッ


 起爆装置のボタンを押し込む源蔵。



 ドッッカァァァァァァァンッッッッ!



「うおっっ!?」


 押し込んだと同時に大きな爆発音。

 広域に砂塵と煙が巻き起こり、テントを呑み込む。


「ウェッホッッ!

 エホッッ!

 ウェホッ!

 やかましいッッ!

 そんで煙てぇっっ!」


 大声で文句を言いながら、バッサバッサと手を振って煙を散らす(あかざ)

 やがて煙が晴れる。


「フム……

 上々」


 テントの前に大きな穴が空いている。


「いや……

 上々じゃないでしょ……

 コレどうすんスか教授……」


 恐る恐る穴を覗くと底が薄っすらしか見えない程深い穴が空いていた。

 教授の方を向くとあらぬ方向を見て、呆けていた。


「あーもーっ!

 あのクソジジィッ!」


 ズカズカと歩み寄る(あかざ)


 グイィッ!


 思い切り耳を引っ張る。


「キョージュッッ!」


(オワァッ!

 ビッ……

 ビックリしゅ()るじゃないかぁ

 (あかざ)ちゃんっっ!)


「呆けてる場合じゃないっスよ。

 こんなトコにこんな穴空けてどうするんスか……?」


(ん?

 ここは滅多に人が来んトコじゃし、作業終わったら京大の看板と柵置いて帰るから問題なしぃ)


「いや問題あるっスよ……」


(さぁーっ

 発掘発掘ーっ!

 君達こっちにこーいっ!)


 (あかざ)を無視して穴の縁まで歩き出す高嶋教授。

 それに続く研究室メンバー。


 手にはロープを持っている。

 手慣れた手つきでロープを腹に結び出す教授。


「な……

 何やってんだよジジイ……」


(あ、新崎准教授は見るの初めてでしたね。

 コレ、発破を使った発掘の時毎回やるんですよ)


「まさかロープで下に降りようってのか?」


(ええその通りです)


「このジジイアホか」


(おーいっ

 何しとんじゃー?

 早く降ろせーっ)


 頭にライト。

 両手に発掘道具を持った教授はまるで荷下ろしの様に穴に降りて行った。


「…………んでアタシらはどうすんだ?」


(ロープに合図が来るまで待機です)


 あっけらかんと言う研究室メンバー。


「…………ならこんなにも人いらねえじゃねえか……」


 今回研究室のメンバー全員参加している。

 だが発破は源蔵達。


 ロープで降ろすだけなら三、四人いれば事足りる。

 (あかざ)の意見ももっともである。


(教授、寂しがりだから)


 これが理由である。

 厳密には少し違う。

 もし世紀の大発見をした時、その瞬間に証人は多い方が良いと言う事だ。


「発破と言うのは爆発のエネルギーがどう言う方向に行くのかと言うのをだな…………」


 テントはテントで源蔵の発破講座が始まっていた。

 周りの作業員はフンフンと聞いている。


「…………ヒマだ……」


 しばらく待っていてもロープに反応は無い。

 退屈に耐えられなくなった(あかざ)の興味は穴に向いた。


「おいルンル」


(あかざ)さぁん、何かしらぁん?】


 ピトッ


 ルンルの鱗に手を合わせる(あかざ)

 魔力補給の為だ。


 集中(フォーカス)


 両脚に魔力集中。


 発動(アクティベート)


 (あかざ)魔力注入(インジェクト)発動。


「よっと」


 ビュンッ!


 高くジャンプをした(あかざ)は穴の中に消えて行った。


 スタッ


 穴の底に軽々降り立つ(あかざ)


「うわ……

 暗……」


 思っている以上に穴の底は暗かった。

 地上からの光もあまり差していない。


(ん?

 (あかざ)ちゃんか?

 降りて来よったのか?

 結構深かったじゃろ?

 一体どうやって?)


 (あかざ)に気付いた教授が振り向く。

 ヘッドライトの光が(あかざ)の顔を照らす。


「眩しっ……

 ジジイ……

 アタシが竜河岸ってのを忘れてんのか……」


(おお、そうじゃった。

 竜河岸っちゅんはしゅ()ごいんじゃのう)


「ンな事はどうでもいいんだよ……

 んで何か出土したか?」


(うーん……

 目ぼしいものはまだじゃ……

 ここはハジュ()レかも知れんのう……)


「こんだけ大掛かりな事しといて何だよソレ……」


(考古学っちゅうんはしょ()んなモンじゃよ)


 ガリガリ


 そう言いながら作業再開する教授。

 (あかざ)も持って来た懐中電灯を照らしながら、発掘作業を始める。


「よっと」


 バコォォォンッッ!


 底に突き立てた手ガリの強烈な一撃に岩片が弾け飛ぶ。

 その様はまるで小型爆弾の様。

 魔力注入(インジェクト)を発動していたからだ。


(所で(あかざ)ちゃんよ、何で考古学(この道)に進もうと思ったんじゃ?)


「ん?

 教授知らなかったのかよ」


(ハッハ、普通は動機を聞くんじゃがな。

 (あかざ)ちゃんの場合、見た目のインパクトが強いからのう。

 すっかり忘れておったわい)


 (あかざ)はまだ金髪ストレートのまんまヤンキースタイルだった。


「てめ……

 アタシもう准教授にまでなっちまってんぞ……」


しょう(そう)じゃのう、もう後戻り出来んなあ)


 この穴の中は大きいと言っても空間的には狭い為、声が反響する。

 教授が意志疎通できるのはその為である。


「このジジイ……

 他人事だと思いやがって……」


(まあまあしょ()れよりも何でなんか教えてくれよう)


「チッ……

 高校(コーコー)ん時の先生(センセー)の薦めだよ……」


(へえ……

 また考古学を薦めるなんて珍しい先生じゃのう)


「その先生(センセー)、趣味で発掘やってんだよ。

 んで竜河岸で考古学者なんて聞いた事が無いっつーからよ……」


(ハッハ、そりゃ面白い先生じゃのう。

 確かに竜河岸の考古学者なんて(あかざ)ちゃんぐらいかものう。

 てことは竜の歴史でも紐解くんかの?)


「まー理想を言えばな……

 んでもそうそう簡単に行くもんじゃねぇだろ?

 そこまで夢は見てねぇよ」


(フフ……

 (あかざ)ちゃんよ……

 考古学者で一番大事な事って何か知っとるか?)


「ん?

 何だよ?

 体力か?」


(ハッハ。

 確かにフィールドワークで山やら丘やら登るからのう。

 体力も必要じゃが、一番重要なのは想像力じゃよ)


「想像力?」


(そうじゃ。

 考古学っちゅうんは昔の人間がどう言う暮らしをしていたのかとかこの時歴史がどう動いたのかとかを探る学問じゃろ?

 これがこうでこうだったという事を解き明かす根拠となっとるのはこうしてワシらが見つけた出土品とか昔の記録とかが鍵になっとる訳じゃろ?)


「まあ……

 そうだな……」


(出土品とか完全な形で発掘される訳が無いし、昔の記録だってほとんどが書いとる人の主観で書いとる訳じゃ。

 それを正しい歴史はこうだったとするのは考古学者の想像、妄想が大半だったりするんじゃよ)


「マジかよ……

 そんなんで良いのかよ……」


(カッカ。

 いいんじゃよいいんじゃよ。

 もちろんただの妄想・想像じゃ根拠が薄いからその為に出土品や解読した記録などを用いて、自分の妄想に説得力を持たすんじゃよ。

 聞いとるのも学者の場合が多いからの。

 生半可な妄想じゃ夢夢想物語じゃと一笑に付されるだけじゃからな)


「ふうん……

 そんなもんか……」


 何となく納得してしまった(あかざ)

 結局の所この穴からは目ぼしいものは出土されず幕を閉じる。



 ###

 ###



 さて、本日も研究室にいる(あかざ)

 現在は何をしているのかと言うと修士論文の作成に取り組んでいた。


 (あかざ)は院生の准教授なのだ。

 まさに異例の抜擢。

 それだけ提出した論文の評価が高かったと言う事だ。


 論文テーマは竜言語と竜のルーツ。


 竜の発する言葉とは音では無い。

 概念やイメージに近い。


 それが竜河岸の脳に直接響くのだ。

 伝わった概念が受けとった竜河岸の知識などで変換される。


「なあ、ルンル。

 オメーのオネエ言葉ってどうやって話してんの?」


【ん?

 どう言う事かしらぁん?】


「いや、だってよ……

 オメー前に言ってたじゃねえか。

 竜の言葉ってイメージとか概念とかを飛ばすって。

 んでルンルの言葉はアタシの頭には気持ち悪いオネエ言葉でハッキリ聞こえてんだよ。

 イメージなんて簡単にグラグラ揺らぐもんじゃねぇのか?」


(あかざ)さぁん、ヘン事聞くわねえ。

 そんなのアタシが世の中のオカマさん達に心底惚れ込んでるからに決まってるじゃなぁいん。

 あの初めて見た衝撃は忘れられないわぁん。

 …………って気持ち悪いって誰の事よぉんっっ!】


 ルンルが言いたいのは頭の中にあるオカマのイメージは強いもので完全に脳に焼き付いている。

 そうそう揺らぐものでは無いと言っているのだ。


「あ……

 そ……」


 (あかざ)は考えていた。

 竜言語の仕組みを解くのは容易い。


 一般人が竜の言葉を理解できない理由。

 それは簡単な話。

 竜の言葉は魔力を使って飛ばしているのだ。


 魔力耐性のある竜河岸でないと理解が出来ないのは当然。


 耳で感じた音の振動を声、意志などに脳内変換して言葉として認識しているのが人間。

 竜の言語を魔力で認識するのが竜や竜河岸と言う事だ。


 魔力の耐性が無ければ言語を理解する以前の問題である。

 竜の声が唸り声でしか聞こえないのは一般人が耳で聞いている為である。


 魔力でイメージを飛ばし意志疎通を行うのに、何故竜が口から声(音)を出すのか。

 それは大昔の名残である。


 竜言語に関して根幹は出来た。

 だが、どちらかと言うとこの話は論文のオマケみたいなもの。

 問題は竜のルーツ。


 そもそも何故竜のルーツをテーマに選んだのか。

 それは(あかざ)が疑問に思ったからだ。


 ある日の事。


「なあルンル。

 結局オメーらって何なの?」


 居間でテレビを見ていたルンルを見て問いかける(あかざ)


【ん?

 何なのって何よう】


「いや、オメーらってフツーにテレビ見てっけどさ。

 冷静に考えたらおかしいだろ?

 今までの人間の歴史を見ても不思議なんだよ。

 オメーらの存在って。

 (はた)から見たら(こと)のババアが言ってる様にでけぇトカゲのバケモンだ。

 そんな連中が人間と共存してるって言う事がな。

 しかも言語を話す知的生命体が二種共存しているっていうのがそもそも歴史上有り得ねえ事なんだよ」


【何だって言われてもねえ。

 竜ってしか言えないわぁん】


「その竜って言葉もそもそも人間が考えた言葉じゃねぇのって話じゃねえか」


【そうなのかしらぁん。

 アタシ達は人間みたいに歴史とか自分らがどう言う存在とかは気にしないからねえ。

 それよりも新しいコスメとか新しいオカマ言葉の方が興味あるわよう】


「あ……

 そ……」


 半ば呆れた様子で返事をする(あかざ)

 ルンルの言う通り、竜は自分達の存在について無頓着である。

 

 記録では昭和の大戦時に(ゲート)が開き、竜が地球に来訪したと言われている。

 その姿は今まで人類が空想して来た竜そのものの姿。

 一目で人は叫んだ。



 竜だと。



 その呼称が竜界に伝わったと言う事だ。

 ちなみにマザードラゴンと呼ぶのも人間のみ。

 竜達はマザーと呼ぶのだ。


 (あかざ)は竜も生物であるからきちんと生物としての進化を辿って今があると考えている。


 どう言う進化を遂げたのかと言う部分も興味はあるが若干考古学の領域から外れている気がする為、あくまでも修士論文では歴史と言うアプローチで制作しようと思っていた。


 モヤモヤとしていたイメージが固まって来た。

 テーマは人間界での竜の歴史。


 現在の歴史としては


 1939年12月 (ゲート)開口 竜来訪 第一の接触(ファーストコンタクト)


 1940年3月 カリフォルニア州サンタバーバラにて竜との一回目の交渉会談。


 人間側(こちら)から提示した地球移住への条件にマザーの怒りを買う。


 交渉会談で提示した条件が実験用の竜の提供。

 この段階で人類は竜の力を甘く見ていた。


 この非道な提案にマザーは静かに怒り、太平洋に向かって大魔力放射。

 この一撃でサンタクルス島とサンタローザ島の半分、サンタバーバラ沖のオイルリグ数基は地球から姿を消す事になる。


 この強大な力を目の当たりに見せつけた直後マザーは静かにこう言った。


「人間よ……

 貴君らの文化には確かに興味はある……

 だが(おご)るな……

 一度私が号令をかければ数万の竜を地球に呼び寄せる事も出来るのだぞ……」


 交渉とは名ばかりの脅迫であったと記録には残っている。

 そして人間側の外交官の尽力により何とか人間の歴史には干渉しないという条件を取り付けたと続いている。


 だが、これは特に外交官の努力など関係無く竜側からしたら元より干渉するつもりは無かった。

 マザーのスキル全知全能(オールパーポス)で人間側の醜さや欲深さはお見通しだったからだ。


 来訪当初はまだ竜河岸、テイマー、ファンティーノと言った竜の言語を理解する人間は現れていなかった。


 だが数週間後、世界中で竜と意思疎通が図れる人間は突然現れる。

 これが共時現象(シンクロニシティ)という事象。


 竜河岸らの出現により竜が何と言っているのか。

 何を考えているのか。

 そう言う部分が円滑に伝わり、現在に至る。


「うーん……

 ほじくり返せそうなとこはねぇなあ……

 なら日本に的を絞ってみっか……」


 日本で(ゲート)が開いたのは太平洋戦争が始まる前の事。


 サンタバーバラで最初の交渉会談が行われた時は敵国とは言え、一応日本の外交官は招かれた。

 それは日本列島にも(ゲート)が開いたからだ。


 日本では敵性語の排斥が進んでいる時期。

 竜と言う異形の種が地球に来訪したと言うのに戦争を続けていたのは竜が人間の歴史に干渉しないと言う条件があったからだ。


 竜は空襲を見たとしても何もしない。

 ただ傍観するだけ。

 ただ愚かであると傍観するだけ。


 だが自分の身に降り注ぐ場合は違って来る。

 その場合は遠慮なく牙を剥く。

 これも条件として締結した部分。


 基本的に人の歴史には干渉しないが竜に被害が及びそうな場合、各々全力で排除する。


 というものである。

 この条件により空襲の被害が圧倒的に少ない土地などもあった。

 この被害の落差が後の差別を生む要因ともなる。


「う~ん、わかんねえなあ……」


【あらん?

 どうしたのぉん?】


「いやな……

 竜が来た当初どう言う暮らしをしてたかって記録が日本はすんげぇ少ねぇんだよ……

 アメリカとかイタリアとかなら結構あんのによ。

 しかも日本の写真は全員何か無表情なんだよ」


 バサッ


 ルンルの方に資料を投げ渡す(あかざ)

 その資料にはうず高く積まれたピザを美味しそうに平らげている竜の写真や七面鳥に噛り付いている写真などが掲載されていた。


 一緒に写っている人々は笑っている。

 一目で竜を受け入れていると言うのが解る。


 かたや日本には昔の竜の写真が数える程しかない。


 写真の様相も着物を着た男性が虚ろな目で縁側に座り、庭に居る竜を見つめる。

 その顔は表情を出しているのか出していないのか微妙な表情。


 少なくともアメリカやイタリアの様な楽しそうな顔では無い。

 典型的な昔の日本の写真だ。


【あらホント。

 こっちのメンズはスンゴイ楽しそうなのに、こっちのメンズはボケーッとしてるわねえ】


「だろ?

 しかもこの写真どう言う時に撮られたモンなんかもさっぱりわかんねえ。

 日記とかに添えられた写真とかじゃねえしな。

 出所が不明なんだよ。

 こっちのはクリスマスに七面鳥を食べる竜ってきちんと公式に記録としてあんのによ……

 アメリカやイタリアの写真は一次史料になっけど、日本の史料はほとんど二次史料だ」


 ■史料


 過去に存在した事象を把握し筋道を立てるのに役立つ材料を指す。

 紙に文字で書き記された文献や、考古学上の遺構、遺物、遺跡。

 イメージ史料となる絵画、写真、オーラルヒストリー(口述歴史)、伝承なども含む。

 歴史の研究は基本史料に基づいて行われる。

 一次史料とは対象について“その時”“その場で”“その人が”の三要素を充たしているものを差し、それ以外は二次史料と呼ぶ。


【ふうん、何だかよく解んないけど何か作らないと駄目なんでしょう?

 どうするのぉん、(あかざ)さぁん】


 ルンルは歴史に興味は無いが、何かを作っていると言うのは解っている様だ。


「ルンル……

 テメー知り合いの竜とかいねえのかよ?」


【ん?

 居ない事も無いけど、どうして?】


「いや……

 このまましてても論文進まねぇからよ……

 竜に直接話聞こうと思ってな……

 出来れば長く居る奴が良いな」


 (あかざ)は論文をオーラルヒストリー(口述歴史)をベースに組み立てる気だった。

 その為に他の竜から聞き込みを行おうとしたのだ。


 ルンルがいるではないかと考える読者も居るかも知れないが、ルンルでは駄目なのだ。


 ルンルは(あかざ)が十二歳の時にやって来た竜。

 日が浅いのだ。


地球(こっち)に来たのはどれくらいか解んないけどぉん。

 居る事は居るわぁ。

 あれは多分ロンジェよ】


「ロンジェ?

 竜の名前か?

 どんな竜だ」


【一言で言うならぁん……

 お婆ちゃん竜ねぇん】


「ゲッ……

 またババアかよ……

 まあババアっつうんなら色々話聞けっかも知れねえな。

 んで何処にいんだよ」


【えっと……

 前にTVで見たのよぉん……

 何処だったかしらぁん……

 あーそうそう、四国って所よぉん。

 そこの園芸会社が映った時にロンジェがいたわぁん】


「おい……

 ちょっと待て……

 ルンル……

 テメー知り合いっつってたけど地球(こっち)で会った事あんのか……?」


【ん?

 無いわぁん】


 ルンル、あっけらかんと。


「テメー……

 知り合いって竜界(むこう)での話かよ……

 んで四国って……

 そういやテメーと四国なんか行った事ねぇじゃねぇか」


 本当にいつも見ている深夜番組に知り合いの竜が映っていただけの様だ。


 その番組とはMCのオカマが街を散策するというもの。

 番組名“オカマします”。

 これはお邪魔しますとかけたもの。


 少々無理のある謎かけだが、そこはそれ。

 深夜番組のノリなのだ。


 この番組はその名の通り色んな所へ行ってオカマが暴れるだけの番組。

 これをルンルは大層気に入っており、毎週楽しみにして見ている。


 そしてロンジェを見かけたというのは久我園芸(こがえんげい)にオカマがやってくるという企画だった。


 当初久我園芸(こがえんげい)の社長の話を面白おかしく聞く感じで番組は進行するはずだったが、グイグイ来るオカマの動きや言動が気持ち悪い為、社長がキレるという事態に発展。


 本当は三十分まるまる久我園芸(こがえんげい)での話で番組終了するはずが、十分で終了。


 ラストは社長が出したイワガラミの蔓で首を思い切り絞められた青白いオカマの苦悶の表情で終わる。

 このオカマの顔はドアップだった。


 予定が大幅に狂った番組は予定変更。

 残りは近場の居酒屋でのオカマ二人のトークで終了する。


 ちなみにこの番組、深夜番組にしては(こと)(ほか)好評で視聴率は三%を叩き出す。


 社長の名は久我郡司(こがぐんじ)

 久我園芸(こがえんげい)の代表取締役である。


 ちなみに蔓で首を絞めていたのはれっきとした格闘技の技である。

 その格闘技の名は蔓技(つるぎ)


 ※ドラゴンフライ閑話 第四章参照


「まあしょうがねぇ……

 ルンルッ!

 その竜はお前の事知ってんだよなっ?」


【向こうが忘れて無かったら大丈夫じゃなぁいん】


「チッ……

 当たり前だろうがよ……

 行くぞっ!

 ルンルッッ!」


【はぁい】


 (あかざ)はロンジェに会いに行く事を決めた。

 他にアテが無いからだ。


「亜空間出せ」


【何処まで行くのぉん?】


「とりあえず大阪だ」


 亜空間移動は距離は問わない。

 日本から裏側のブラジルだろうと数秒で到達する。


 が、開くには場所のイメージが出来ないといけない。

 簡単に言うと行った事の無い所は行けないのだ。


 竜によってはTVの映像や写真などで開く事が可能な者もいる。

 ルンルは無理だが。


【はあい】


 亜空間を開き、中に入る。


 すぐに出口。

 出て見ればそこは大阪梅田だった。

 しかもKONDOHYAの前。


「おい……

 何でここなんだよ……」


【あら?

 何でかしら?

 またここのたこ焼きが食べたくなったのかしらん】


「そんなん食ってるヒマ無えよ。

 とっとと行くぞ」


【あらん、残念】


 (あかざ)とルンルは歩き出す。

 目指す先はJR大阪駅。


 JR大阪駅


 まずは案内所へ。


「んで、ルンル。

 その園芸会社ってどこにあんだ?」


【ん?

 四国ってトコって言ったじゃないん】


「四国っつっても広いんだよ。

 他に何か言って無かったのかよ」


【うーん……

 アタシ興味ない事は興味無いからねえ……

 あぁコーチシ(高知市)とか言ってたかしらん】


「コーチシ……

 あぁ高知か……

 クソ遠いな……」


 案内所


「多少金がかかっても構わねえ。

 ここから高知まで最短で行くにはどうしたら良いか教えてくれ」


(かしこまりました。

 少々お待ち下さい………………

 お待たせしました)


 駅員が提示したルートは新大阪から新幹線で岡山まで行き、そこから特急に乗り換えるルート。

 おおよそ所要時間は四時間。

 料金は片道9940円。


「四時間か……

 結構かかんな……」


 (あかざ)は所要時間しか気にしてなかった。

 料金は往復で19880円と高いのに。


 それには理由がある。

 既に(あかざ)は准教授の給料を貰っていたからだ。


 日々、(こと)との立ち合い。

 学校と忙しい毎日の為金を使う暇が無い。

 バイクを新車で買ってやろうかと考えてはいるが、バイク屋に行く暇も無い。


 要するに今(あかざ)は小金持ちなのだ。


 早速、電車に乗り込む(あかざ)とルンル。

 岡山まではすぐに到着。

 ここから時間がかかる。


 乗り換えた電車の座席に座りながら考えていた。


 自分は何やってんだと。

 確かに考古学でテッペン取るとは言ったが、何故長い時間かけて高知に向かっているのかと。


 あ、駄目だ。

 揺らぎそう。


 何か全部放り出して楽に生きたくなって来た。

 グラグラ揺らぐ(あかざ)


 と、ここで(れん)の言葉が過る。


 ウチらは女や。

 だからこそ芯は一本通ってなアカン。

 何かに挫折して周りからやっぱり女やからとか言われんのもシャクやろ?


 ピシャッッ!


 両頬を強く引っ叩き、気合を入れる(あかざ)


 何を考えていたんだ自分はと。

 ここで投げ出して元怒羅魂連合(どらごんれんごう)特攻隊長と胸を張って言えるのかと。

 あの偉大な総長の元でやっていたと言えるのかと。


 今一度気合を入れ直し、高知へ向かう(あかざ)だった。



 JR四国 高知駅



 四時間弱かけてようやく高知まで辿り着いた(あかざ)とルンル。


「ようやくついたか……」


 長旅に疲れ気味の(あかざ)


【ようやく到着ねぇん。

 長い間電車に乗ってて疲れちゃったわん】


「ケッ……

 何言ってんだ……

 さっきまでテメーは寝てただろうがよ……」


 着くなり向かった先は案内所。


「スマセン、久我園芸(こがえんげい)って何処にあるか教えてくれないっスか?」


久我園芸(こがえんげい)ならここから近いぜよ。

 歩きで大体八分ぐらいやき)


「そっスか。

 アザッス。

 あとこの辺りの地図とか無いっスか?」


(あるぜよ。

 ホイ)


「アザッス」


 地図を受け取った(あかざ)

 駅の外へ。


「えーと……

 どっちだ……?」


 地図をクルクル回転させながら位置を確認。


 確認しながら考えていた。

 ルンルの話だと、ロンジェと言う竜は社長の竜である可能性が高い。

 多分ロンジェとコンタクトを取るには、竜河岸に話を通さないといけない。


 こんな女子大生が突然押しかけて会えるものだろうか。


 しかもまだ自分のナリはヤンキー時代から変わっていない。

 どうしようか。


(あっ!

 そこのかーのじょっ!?

 何しちゅうん?)


 聞くからに軽薄で耳障りな声が聞こえる。

 色々考えていた所へノイズの様に入り込んでくる。

 明らかにナンパだ。


「アァッ!?」


 ギンッ!


 鋭い目つきで睨みつける(あかざ)


(おお?

 こら気の強そうなおなごぜよ。

 はちきんなおなごは俺の好みぜよ)


 (あかざ)の鋭い目つきに動じないナンパ男。

 ちなみにはちきんというのは土佐弁で男勝りな女と言う意味。


 由来は汚い話だが男性の睾丸の数である。

 男性の睾丸は一人二つである。


 八つの睾丸。

 つまり四人の男性を手玉に取る女性と言う事だ。


 色々考えている所に声をかけられ、ブチ切れ寸前の(あかざ)


「テメー……

 誰の向かって口聞いてんだ……」


 ひょいっ!


 背後から手が伸び、持っていた地図が奪われる。


(おまさん、どっか行きたいんか?

 俺らが案内したろか?)


 動きに気付き、振り向くとそこにもチャラい金髪のツーブロック男。

 ナンパ男は二人だった。


 邪魔。


 この二文字が頭を過る。


「オイ……

 ルンル……

 こっち来い……」


【何かしらぁん?

 このブッサイクなメンズ共に稲妻落とせばいいのかしらん?】


 ドスドスとルンルが寄って来る。


(うおっ!?

 竜やぁっ!

 竜がおるぜよぉっ!

 おまさん、竜河岸やったんか……

 ますます気に入ったぜよ……)


 ルンルの出現に驚きはするが、めげないナンパ男。

 (あかざ)はこういう輩に絡まれた場合はいつもルンルの雷を落とし、撃退していた。


 が……


 ピトッ


 ルンルの鱗に手を合わせる(あかざ)

 魔力補給の為だ。


「いや……

 アタシがやる……

 ルンル……

 テメーは手を出すな……」


 集中(フォーカス)


 両腕と両脚に魔力集中。


 (あかざ)魔力注入(インジェクト)を発動し、ぶちのめすつもりでいた。

 それだけキレていたのだ。


 前述の通り(あかざ)は一般人との喧嘩の際、竜河岸の異能を使う。

 (れん)の様なポリシーは無い。

 一般人だろうが竜河岸だろうが、チョッカイをかけてくる輩は全力でブチのめす。


 怒羅魂連合(どらごんれんごう)時代の賜物で魔力の調節に関しては熟知している。

 殺しはしない。

 半殺しだ。


「…………発動(アクティベート)……」


 バリィィィィィンッッッ!


 体内で響く通電音。


 ヒュンッ!


(あれ?)


 (あかざ)の姿が消える。

 瞬時に回り込み、地図を盗ったナンパ男の背後へ。


 パッ


 地図を取り返す(あかざ)


(へ……?)


 手にあった筈の地図が消えた。

 ナンパ男が異変に気付いた刹那。


 ドコォォォォォォンッッッ!


 ドカァァァンッッ!


 大きな衝撃音と共に真横に飛ぶナンパ男。

 植木に激突し、意識を失う。

 肋骨十数本骨折。


 ビュンッッ!


 意識が飛んだナンパ男の事など意に介さず、更に移動。

 もう一人のナンパ男の左側面から太腿に向けて思い切り喧嘩キックを放つ。


 ビキィィィィッッッ!


(イギャァァァァァッッ!)


 明らかに何かが折れた音。

 余りの痛さにナンパ男が大きな悲鳴をあげる。

 左大腿骨骨折。


(何ちや……

 ケンカか……?)


 大きな悲鳴の為、周囲の人間もざわつき始める。

 が、(あかざ)はそんな事気にしない。


「テメー……

 ナンパするなら相手選びやがれ……

 金輪際こんなくだらねー事しねーように……

 キッチリキョーイクしてやんねーとなあ……」


(ヒッ……

 ヒィィィッッッ!)


 倒れ伏したナンパ男を見下ろす(あかざ)の眼からは殺気が溢れていた。

 恐怖の余り、悲鳴を上げる。



 五分後



「な……

 何じゃこりゃあ……」


 一人の体格の良い中年男性と山吹色の竜が通りかかる。


 肩幅は広く、腕も太い。

 その太さからも解る。

 物凄く骨も太いのだろう。


 髪は黒髪のピッチリオールバック。


 眉は細く横に長い。

 鷲の様に鋭い目。

 四角い顎。


 この人物は久我郡司(こがぐんじ)

 隣の山吹色の竜はロンジェである。


 クチュッ!

 クチュッ!


 ウンコ座りをして、既に意識を失っているナンパ男の胸座を掴み、強引に持ち上げ顔面を殴り続けている(あかざ)

 血が滴り、湿った液体の音が響く。


 まだキレていた(あかざ)

 最近フォールドワークやら、教授の手伝いやら、(こと)との立ち合いやらでかなりのフラストレーションが体内に溜まっていた。


 加えて四国に出向くというこれまたストレスの溜まる事をしたばかり。

 思えばこのナンパ男共は本当に間の悪い所に声をかけたものだ。


 クチュッッ!

 クチュッッ!


 依然として殴っている(あかざ)

 背中から怒気を立ち昇らせながら。


 遠目でも解る怒りに周囲の人間は近寄れない。

 怖くて声もかけれない。

 遠巻きに見ている事しか出来ない。


 早く。

 警察はまだか。

 切に願っていた周囲の人々。


 ガッ


「おまさん、もうやめえ。

 決着(ケリ)ついとるやろが」


 殴り続ける右手首を掴む手。


「あぁ?」


 依然として怒りが治まらない(あかざ)

 手を辿って見上げるとそこには蒼鷹(そうよう)のような鋭い目の久我郡司(こがぐんじ)


「何だテメー……

 お前もアタシに喧嘩売ってんのか……?」


「あぁ?

 ワシは喧嘩なんぞ売っちょらんき。

 おまさんを止め……」


 ビュンッ!


 言い終わる前に行動を起こす(あかざ)

 素早く立ち上がり、右回し蹴りを放つ。


「うおっとぉ……

 手ェ早いヤツやな……」


 手を離し、素早くバックステップ。

 間合いを広げる郡司(ぐんじ)

 ポケットに手を入れる。


 取り出したのは茶褐色の蔓。

 種類はイワガラミ。

 蔓の両端を掴み、ピンと張る。


「何だそりゃ……」


「ホレ……

 かかって来ィ……

 格の違いっちゅうんを見せたるわ」


 この一言が更に(あかざ)の怒りを募らせる。


「あぁ……?

 やれるモンならやってみろよォッ!!」


 ギュンッッ!


 (あかざ)の身体が疾風と化す。

 依然として身体は魔力注入(インジェクト)発動状態。

 一瞬で郡司は(あかざ)の姿を見失う。


 風となった(あかざ)はたっぷり魔力を集中させた右ショートフックを放つ。


 だが……


 ビンッ


 ピンと張った蔓に軌道を逸らされ、攻撃は当たらない。


「あの距離を一瞬で……

 おまさん、竜河岸か?」


「だったらどうだっつうんだよぉっっ!」


 ビンッ!


 ビンッ!


 ビビンッ!


 (あかざ)は至近距離から乱打を仕掛ける。

 が、全てピンと張った植物の蔓により、逸らし躱される。

 一発も当たらない。


 何だ?

 この邪魔な蔓は何だ?

 困惑している所、郡司が攻勢に移る。


 ヒュンッ


 郡司が(あかざ)の背後に回る。


 シュルルンッッ!


 蔓が(あかざ)の右手首に巻き付く。

 強烈な力で捻り上げられ、右拳が後ろに回る。

 肩が瞬時に人間の可動域を超える。


 ゴキンッ!


 痛烈な痛みが右肩に奔ったかと思うとそのまま気を失う(あかざ)



 ###

 ###



【いやだわ。

 ルヒャルちゃんたら……

 ウフフ】


【何よう。

 コレになってからというものすこぶる調子良いのよう。

 何かね……

 こう……

 心が解放されたって感じィ?】


「ハッハ。

 しょう(本当に)まっこと変わりゆう竜ぜよ。

 こがな(こんな)奴見た事無いがで」


 何か話し声が聞こえる。

 ゆっくり目を開ける(あかざ)


 ズキンッッ!


「イダーーーッ!」


 目を覚ましたと同時に右肩から激痛が全身に奔る。

 余りの痛さに叫ぶ(あかざ)

 文字通り飛び起きる。


「お?

 起きたがや?」


「いてて……

 何だこりゃ……」


 右肩を見るとぶっくりと赤く腫れていた。


「あぁ多分右肩は骨折と脱臼しちゅうよ。

 しょう(本当に)まっことすまんぜよ。

 けんどおまさんの気迫がごっつい激しかったからのう。

 (むぐら)が深く入ってしもうた。

 魔力注入(インジェクト)使えんのじゃろ?

 はよう治した方が良くないかね?」


 言われるまま患部に魔力集中。

 魔力注入(インジェクト)発動。


 見る見るうちに痛みが引いて行く。

 腫れも小さくなり正常に。


(ぐん)ちゃんの蔓技(つるぎ)、強いもんねえ。

 もう駄目よ。

 女の子には優しくしないと】


 蔓技(つるぎ)とは郡司が編み出した竜河岸専用捕縛縄術。

 (むぐら)と言うのは蔓技(つるぎ)の極め技の一つ。


 まともに入ると確実に肩が脱臼する。

 そのまま投げにも派生可能で酷い時には骨折もする。


 ※ドラゴンフライ閑話 第四章参照


「う……

 けんどこん娘の気迫が凄うてのう。

 早よう決着(けり)つけな手に合わん(手に負えない)て思て……

 頼むっ!

 ロンジェッ!

 佐和には言わんといてっ!」


【んもうしょうがないわねえ。

 いつまで経っても子供みたいなんだから(ぐん)ちゃんは】


「あの……

 ちょっといっスか……

 色々確認したい事があるんスけど……」


「ん?

 何ちや?」


 側に竜が居る。

 そしてルンルが親し気に話している。

 その段階で十中八九決定だが、確認の為だ。


「アンタ……

 久我園芸(こがえんげい)の社長さんっスか?」


「おう、よう知っちょんな。

 ワシの会社も有名になったモンぜよ」


「アタシ……

 アンタに会いに来たんスよ」


「ん?

 何か用か?」


「いや……

 社長さんじゃ無くて使役してる竜に用があるんスよ」


「ロンジェにか?

 何の用ちや?」


「アタシ……

 考古学専攻してるんスけど、論文書く為に話聞きたいんスよ」


「ほう論文。

 何じゃ?

 竜をテーマにするんか?」


「はい……

 日本って妙に竜の営みについて記録やら記述やらが無いんスよね……

 外国は結構あるのに……

 だからそこら辺テーマにしようかなと思いまして……」


 それを聞いた郡司は唖然としている。


「ん?

 どしたんスか?」


「いや……

 ちっくと(ちょっと)驚いちょって……

 おまさん、風体は不良っぽいがやき(から)、頭良いとは思わんくてのう」


「ハァ?

 どーゆー意味っスか?」


「ハッハ。

 気ィ悪うせんとってくれや。

 おいロンジェ!」


(ぐん)ちゃん、何かしら?】


「おまさん、こん娘っ子の話に付き合うてくれや」


【あら?

 私、お話大好きなのよ。

 お外行きましょ】


「ロンジェ、おまん(お前)が好いとんは茶菓子の柏餅やろ?」


【そそっ……

 そんな事無いわよ……

 それで……

 (ぐん)ちゃん……

 お話のお供は……】


 否定しつつも柏餅を希望するロンジェ。


「ええよ。

 客も来とるんやし、佐和にでも言うて出して貰えや」


【んふふ~

 だから(ぐん)ちゃん好きよ。

 さあ貴方、行きましょ】


「は……

 はぁ……

 じゃあオナシャス……

 おいルンル、テメーも協力しろ」


【わかったわぁん】


 (あかざ)達三人は外へ。

 ちなみに佐和と言うのは郡司の妻である。


【こっちよ。

 ウフフ】


 ロンジェに連れられて、階段を降りる。

 何処かの建物の様だ。


 全体的に土臭い。

 一階まで到達。


【じゃあ私、お茶とお菓子用意してくるから先に行っててくれるかしら?

 場所は出て右側に庭があるから回り込むと縁側があるわ。

 そこでお話しましょ】


「ウィッス」


 ロンジェと別れ、外に出る。


 左側には駐車場。

 大きなトラックが何台も止まっている。

 車体には久我園芸(こがえんげい)と大きく書かれている。


 振り向くと四階建ての大きい建物が聳え立っていた。

 上に看板。

 そこにも久我園芸(こがえんげい)の大きな文字。


 確かに右に庭がある。

 回り込むと小さな縁側と日差し除けが付いている白い洋風のイスとテーブルがある。


「ここか……?」


【お待たせ~

 ンフフ】


 しばらく待っていると、ロンジェがやって来た。


 右手には異様な量の柏餅。

 左手にはお茶を三つ。

 それぞれお盆に載せてやってきた。


「あ……

 ども」


【よっこいしょっと……】


 この言動を聞くとやはりお婆ちゃんなんだなあと思う(あかざ)なのだった。


「それ……

 凄い量っスね……」


 うず高く積まれた柏餅を見つめる(あかざ)

 目線を下に降ろしていない。

 真正面を向いている。


 目線の先には柏餅の山の頂点。

 どれだけ高いかお解りだろうか。


【んふふ~

 貴方もお一つ如何かしら?

 美味しいわよ柏餅】


「いや……

 いっス……

 お茶アザッス……

 ズズズ……」


【モグモグモグ…………

 ズズズ……

 はぁ~~】


 柏餅を食べながら、器用に湯呑を口をつけ茶を啜るロンジェ。

 一息恍惚の溜息。


 金髪ストレートのヤンキー風女子大生と山吹色の竜が縁側に座り、茶を飲むと言う異様な風景。


 だがこの世界の人達からしたら至極自然な風景である。

 おもむろに荷物からノートとシャーペンを取り出す(あかざ)


「じゃあちょっと話聞かせてもらっていっスか?」


【んふふ~どうぞ。

 何かしら~?】


「まずは名前と年齢……

 あといつから地球(こっち)にいんのか。

 その辺り教えて貰っていっスか?」


【名前?

 本名かしら?】


「あ、それでオナシャス」


【はあい、私はロンバース・ジオメトロ・ェルゥと言います。

 年齢は多分一万五千歳ぐらいかしら?

 ごめんなさいね。

 竜って自分がどれだけ生きたかなんてあまり興味が無いのよ。

 地球(こっち)に来たのは第一の接触(ファーストコンタクト)から。

 ずっと久我(こが)の家にお世話になってるわ】


「名前ちょっと変わってるっスね。

 最後の部分どんな感じで発音するんスか?」


【そうみたいねえ。

 人間の言葉で言うとェルウってなるのよ。

 小さいエ】


第一の接触(ファーストコンタクト)って事はマザードラゴンの(ホール)じゃ無く(ゲート)で来たって事っスよね。

 その動機を教えて貰えますか?」


【向こうで歩いていたら急に空に穴が空いたからね。

 何だろうって思って】


 簡単。

 まるで無垢の子供のような理由である。

 竜ならでは好奇心でと言った所か。


第一の接触(ファーストコンタクト)の時ってまだ竜河岸は現れていませんよね。

 久我家(こがけ)と知り合うまではどうされていたか教えてくれますか?」


【そうねえ……

 何だか珍しい所に来たと思って色々回ってたわ】


「まず最初に興味持ったのは?」


【人間の小ささねえ。

 何か小さな生き物がたくさんいるって。

 あと建物。

 これが驚いたわ。

 色んな所に色んな建物が建ってるんだもの。

 そして見てたらその建物に住んでるんだなってわかったの】


「なるほど。

 オイ、ルンルッ!

 確かテメーらって竜界(むこう)じゃ洞穴で住んでたんだよな」


【そうよおん。

 アタシらは軟弱な人間みたいに病気になったりしないしねぇん】


 ルンルが言っているのは人間が家を求める理由とそれに対する竜の営みの差だ。


 人間が家を欲する理由。


 まずは雨風を凌ぐ。

 これは身体の健康を保つ為。


 人間と言うのは風雨に晒されると途端に身体に異常をきたし病気となる。

 それを防ぐ為、家が必要。


 あと自身のプライベート空間を形成する事で精神的な安定を図る。

 その他色々と求める理由は様々あるが根本を突き詰めるとこの二つだと考えられる。


 だが、竜は基本病気などかからない。

 悪性ウイルスが侵入したとしても体内の魔力で分解・無効化してしまう。


 臓器や体組成なども人のそれとは桁違いに強靭。

 胃袋もマグマが飲める程である。


 そんな竜だからこそ住まいに関しては無頓着。

 洞穴で充分なのだ。


 ちなみに竜の間で家という言葉は無い。

 (ねぐら)と呼ぶ。


「なるほどな……

 そんな竜が日本にやって来て建築物の多様性に興味を持ったと……

 それで人間を殺した事は?」


 ここから急にハードな質問を投げかける(あかざ)


【そりゃやってきた当初はねえ。

 私の姿が怖かったんでしょうね。

 武器を向けて殺そうとしてきた連中は居たわ。

 そいつらは殺したわ。

 だって私は竜だもの】


 知能は持っていると言っても竜は異生物。

 殺人が犯罪などの倫理観は持ち合わせてはいない。

 (あかざ)はそれを承知で聞いたのだ。


「アザッス。

 それは久我家(こがけ)に使役される前の話っスか?」


【ええそうよ】


「意思疎通が出来ない世界で敵意を向けられたから撃退したって所か……

 それで共時現象(シンクロニシティ)が起きて、竜河岸が現れた訳じゃないっスか。

 その存在をどうやって知ったんスか?」


 (あかざ)が聞こうとしているのはロンジェがやってきたのは共時現象(シンクロニシティ)が起きる前。


 と言う事は何らかの方法で意思疎通ができる人間がいると言うのを知ったと考えたのだ。


【マザーのテレパスね】


「テレパス?」


【そう、いつもの様に洞穴に居たらマザーからね。

 今地球で我々と意思の疎通が出来る人間が現れている。

 その人間とコンタクトを取って文化を知れって。

 それで適当に見かけた人間に話しかけてて反応があったのが(ぐん)ちゃんのお父さん】


「そん時は竜儀の式なんか無かったでしょ?

 どうやって主従の関係になったんスか?」


(つね)ちゃんの時は主従とかそんな感じじゃ無かったわ。

 えっと……

 人間の言葉で言う所の友達って感じ」


 竜儀の式は第一の接触(ファーストコンタクト)から数年経ってから整備された儀式。


 竜儀の式で竜河岸と竜は主従の関係を築く訳だが人側を主としているのはマザー側からの提案なのだ。

 これはその方がより深く人の文化を知れると思ったからだ。


 ちなみに(つね)ちゃんと言うのは郡司(ぐんじ)の父親、久我恒夫こがつねおの事。


「フムフム……

 そんで第一の接触(ファーストコンタクト)でやって来た竜はみんな竜河岸と出会ったんスか?」


【そんな事無いわよ。

 マザーのテレパスが来たとしても別に強制力がある訳じゃ無いし。

 私みたいに出会う人もいれば、人間馬鹿にしてる竜もいたしね。

 人間ってこんなに美味しいもの作れるのにね……

 モグモグ】


 そう言いながら柏餅をぱくりと食べるロンジェ。


「ロンジェさんって第一の接触(ファーストコンタクト)の時に来たんスよね?

 そン頃って日本は戦時中でカタカナとか敵性語って言われて大変だったんじゃないっスか?」


【うん、そうね。

 だから(つね)ちゃんが漢字を考えてくれたわ。

 私の名前は漢字で書くと論自衛(ロンジェ)って書くのよウフフ】


「おおっ!?

 イカスっスねぇっ!」


 さすがヤンキーあがりの(あかざ)

 こう言う漢字の当て字に弱いのだ。


 (あかざ)とロンジェのトークは進む。

 気が付いたら日は落ちかけ、夕暮れになっていた。

 出したノートも一冊埋まるぐらい書き込みがされていた。


「うん……

 まあこんなトコだろ……

 そんじゃーロンジェさん、アザッス。

 もう大丈夫ッぽいッス」


【ウフフ今日はいっぱいお話したわねえ。

 楽しかったわ】


 ニコニコと微笑んでいるロンジェ。

 山の様に積まれていた柏餅も綺麗に無くなっている。

 そんなロンジェを見上げ、(あかざ)は考えていた。


 今はこうして友好的に接しているが、竜は異形の種。

 異生物なのだ。

 場合によっては殺人も辞さないだろう。


 自分はどうだろう。

 もし(れん)が危険な目に遭わされたとしたら。

 殺人衝動を抑える事が出来るだろうか?


 殺人を犯した事は無いが多分怒りに歯止めが効かなくなる事は想像出来る。


 人間と竜とはそんなに大差は無いのではないか。

 これが(あかざ)の出した結論だった。


 久我家(こがけ)の面々にお礼と別れを告げ、(あかざ)は京都の借家に帰る。

 もちろん亜空間を使って。


(おう(あかざ)やないかい。

 ええとこに帰って来たな。

 相手せんかい)


 帰るなり(こと)に見つかり、強制的に相手をさせられる。

 結果は惨敗。

 やはり化け物じみて強い(こと)


「クソッ……

 何でこんなにバケモンばかりなんだよアタシの周り……」


 大の字に寝転がりながら悔しさを吐露する(あかざ)

 昼は郡司(ぐんじ)にやられ、帰って来たら(こと)にぶちのめされたのだ。

 もしかして自分は弱いのではないかと自信が揺らいでしまう程だった。


 その日は打ちのめされて終了し、あくる日から論文作成。

 作業はスムーズに進行し、比較的早く完成する。

 何度か亜空間を使ってロンジェに話を聞き補完をしながら質の高い物が出来上がった。


 この論文が認められ、(あかざ)は翌年教授となる。


 決め手は不明だった竜の来訪直後の歴史が判明した点が大きい。


 論文自体の説得力としてはオーラルヒストリー(口述歴史)のみの構成だったので多少弱くはあったが、作成者本人が竜河岸と言うのと聞いた竜の所在がハッキリしていた点が補完して認められたと言う事だ。


 また時は少し進む。



 2002年 10月



 院を卒業し論文が認められ、教授の(あかざ)

 まさに異例のスピード。


 一般人ならば何十年もかけて教授になる所を僅か数年でやってのけた(あかざ)

 名実ともに日本における竜考古学の第一人者となる。


 独立して自身の研究室を設立し、活動をしていた。

 DART(ダート)の前身である。

 本日はサンクトペテルブルグに居た(あかざ)


「ふざけんじゃねぇぞ……

 寒すぎんだろロシア……」


 愚痴を零しながらガタガタ震えてる(あかざ)

 何故こんな所に居るのかと言うとポル=バジン遺跡のフィールドワークに協力する為である。


 ■ポル=バジン


 ロシア連邦トゥヴァ共和国南部にある遺跡。

 8世紀にウイルグの王宮として建設され、ほどなくしてマニ教の僧院として転用されるが、放棄され最終的には地震とそれに伴う火災で破壊される。

 大きな調査団が度々組織され大規模なフィールドワークが行われている。


 今回のフィールドワークは終了し、パーティに誘われたので会場に向かう為通訳が来るのを待っていた(あかざ)


 性格を考えるならこんな寒い所に。

 しかも竜とは全く関係無い発掘調査なんか絶対に参加しないと思うかも知れないが、教授になった事で若干世知にも長けた為である。


 と、言うのも高嶋教授等からの助言で……


 人には協力しておけ。

 考古学者なんて偏屈で独善的な人間ばかりだ。

 だからこそ世界で横の繋がりが深い。


 考古学者は世界中で協力し合うもの。

 恩を売っていると考えなさい。


 この助言は素直に受け取った。

 思い立ったら即行動が新崎藜(しんざきあかざ)

 自身の研究室そっちのけで世界中のフィールドワークに参加しまくる。


 瞬く間に世界の考古学会で有名になる。

 竜連れのめちゃくちゃな考古学者がいると。


「通訳のヤロウ……

 早く来やがれってんだ……

 おいルンル……

 テメーは寒くねーのかよ……」


【ん?

 寒い?

 何が?

 それにしてもロシアのオカマさんは綺麗だったわん。

 アタシも負けてらんないわね】


 キョトン顔のルンル。

 竜にとっては少々の寒さは全く応えないらしい。

 さすが竜と言った所である。


(新崎教授ーっ!

 お待たせしましたー)


 ようやく通訳がやって来る。


「遅せーんだよテメーッッ!

 とっとと会場に連れて行きやがれ」


(いやぁ申し訳ない。

 こちらですどうぞ)



 ロッテホテルサンクトペテルブルグ



 会場到着。


「おい通訳。

 メシはまだかメシは」


(まだですよ。

 まずは歓迎コンサートを鑑賞してから)


「コンサート?

 何だそりゃ?」


(何か凄いオーケストラらしいですよ。

 指揮者も若き新鋭のトゥガン・ソヒエフが振るうとかで)


「誰だよそれ。

 知らねーよ」


 トゥガン・ソヒエフ。


 後に帰化し、(あかざ)の夫となる男性である。


 ちなみに日本の名前は新崎冬瓜(しんざきとぅがん)

 この漢字は今でも(あかざ)の爆笑の種である。


 詳細は省くがパーティは終始和やかに終わる……


 訳も無く大騒動を巻き起こす事になる。


 トゥガンももちろん巻き込まれる。

 この騒動がキッカケで(あかざ)とトゥガンは付き合う事になる。


 そして更に時は進む。



 2003年9月 大阪 某病院



 ベッドで寝ている(あかざ)

 ボーっと窓から外を眺めている。


「死ぬかと思った……」


 ポツリと一言。


 プルルルル


 と、ここで電話。

 ディスプレイを見ると総長の文字。


「もしもし」


「おう、(あかざ)か。

 どっちや?」


 前説明も無しに突然聞きたい事を問う(れん)


「あぁ、女の子ッス」


「おおっ!?

 よう頑張ったなあっ!

 ウチの竜虎(たつとら)もそろそろ四歳やからのう……

 ホンマ時が経つのは早いで……

 へへへ……

 どや?

 まだ子供苦手か……?」


「う……

 いや……

 まあ……

 確かに(れん)は可愛いッスね……」


(れん)?」


「あぁそうそう。

 総長、名前頂きやした。

 漢字は違うんスけどね。

 ウチの子、(れん)って言うんスよ。

 新崎蓮(しんざきれん)


「そうか……

 へへへ……

 ええで、使え使え」


「ただ出産は本気で死ぬかと思いましたっスけどね……」


「やな……

 ウチももう絶対に嫌や……

 そういや、(あかざ)よ。

 ワレの旦那、外人らしいやんけ」


「ええ……

 まあ……

 今は帰化して日本人っスけどね……

 ククク……

 名前が……」


「何や?

 ケッタイな名前なんか?」


新崎冬瓜(しんざきとぅがん)って言うんスよ……

 ククク」


「冬瓜?

 何や野菜みたいな名前やなあ」


「その通りっス。

 漢字もまんま冬瓜って書くんスよ」


「ブホッ……

 アーッハッハッハッ!

 何じゃそらーっ!

 ごっつい美味そうな名前やんけーーっ!」


「ウケるっしょ……?

 ククク」


「とりあえず今はまだ入院中か。

 ある程度はええやろけど、回復に魔力使うのは程ほどにせえよ」


「ウィッス

 アザッス

 それじゃあ総長また……」


 電話を置く(あかざ)


 バタンッ!


 と、そこへ勢いよく扉が開く。


「アカザーーッッ!

 僕達の子供(ジェーチ)は何処だいーっ!?」


「うっせーな……

 ほら……

 そこだよ」


 (あかざ)の側で寝ていた新生児の前に来るトゥガン。


「おおお……

 可愛い……

 何て可愛いんだ……

 アカザ、名前は何て言うんだい?」


(れん)だよ……

 新崎蓮(しんざきれん)


「へえ……

 漢字でどう書くんだい?」


「全くめんどくせえな……

 日本オタクも大概にしやがれトゥガン……

 ほら……

 こうだよ……」


「おお……

 ハラショー(素晴らしい)……

 この漢字はどう言う意味なんだい?」


「あぁ……

 この漢字はな(はす)って言う華の名前なんだよ。

 アタシの名前も(あかざ)って言う華の名前だしな…………

 そ……

 それと…………」


 急に言い淀み、赤面する(あかざ)


「ん?

 アカザ、どうしたんだい?」


「あの……

 よ…………?

 清らかな心って…………

 意味もあんだよ……」


「プッ……

 アーッハッハッハッ!

 暴君(タイクーン)と呼ばれ数々の遺跡を掘りまくってる君が清らかな心……

 コイツは傑作だっ!」


「ぶっ殺すぞっっ!

 トゥガンッッ!」


「ハッハッハ…………

 フー……

 でも理由があるんだろ?」


 ひとしきり笑った後、急に真剣な顔になるトゥガン。


「アタシよ……

 若い頃は結構無茶して暴れ回っててよ……

 こうして母親になってみればあん時親に迷惑かけたのかなって思ってよ……

 (れん)にはそういう道に進んで欲しくねぇなって思ってな……」


 クシャ


 そんな(あかざ)の頭を優しく撫でるトゥガン。


「良い名前じゃないか……

 僕は知ってる……

 確かに君は素行は滅茶苦茶だけど、優しい女性(ひと)だって事……

 だから僕は君を好きになったんだ……

 愛しているよアカザ……」


 それを聞いた(あかざ)は更に赤面。


「バッ……

 バカッ……

 ンな恥ずい事、真顔で言ってんじゃねえよぉっっ!」


「オー、これが日本で今流行ってるツンデレって奴だねっ

 そんな人と結婚出来て光栄だよ」


「…………ぶっ殺す……」


 これが本編で登場する新崎蓮(しんざきれん)が生まれた時のエピソードである。

 やや駆け足気味ではあったが(あかざ)の物語はこれで幕を閉じる。


 その後トゥガンはコンサートで世界中を飛び回り、(あかざ)は研究室をDART(ダート)とし、竜の歴史について研究する事になる。


 ちなみに蓮が歌唱コンクールやテストで結果を出しても(あかざ)が冷たいと言うエピソードがあるがそれは単純にどう接して良いか解らなかっただけである。


 特別編で挙げた通り子を愛さない親などいない。


 完

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