第六章 新崎藜 近畿少女愚連隊③
(総長が………………
刺されました……)
サチからの突然の電話。
藜は最初理解できなかった。
え?
漣さんが?
刺された?
「おいおいサチ。
ジョーダンキツいぜ……
あの総長が刺されるなんて……
ありえねぇだろ……?」
(こんな事……
冗談で言えないっスよ……)
サチは重く静かに言う。
このトーンで悟った藜。
これは真実。
マジなのだ。
ガチなのだと。
「………………誰がやりやがった……」
(ヴィランの連中っスよ……)
「ヴィラン……
あのクソ野郎共……」
ヴィラン。
正式名称はVillain D。
暴走族チームの名称である。
怒羅魂連合と同様に竜河岸を総長としている。
長い間、怒羅魂連合と敵対関係にある。
■Villain D
暴走族チーム。
旗揚げは怒羅魂連合より少し早い。
ヴィラン=悪役の名前が示す通り悪事の限りを尽くす危険な存在。
総長のスキルで作成した新型魔力合成麻薬“Morbid pleasure”を大阪府内でばら撒いている。
(アタシに……
MP売り付けに売人が言い寄って来て……
そこに総長が通りかかって……
後から後からどんどんヘータイ送り込んできやがって……
そしたら……)
サチは言葉を詰まらせた。
MPというのはヴィランが作成した麻薬の略称。
モービッド・プレジャー。
略してMPである。
麻薬を売りつけて来たヴィランメンバーを叩きのめしていた漣だったが余りにも多勢に無勢。
隙をつかれて刺されてしまったのだ。
このヴィランというチーム。
メンバーの総数だけは多いのだ。
怒羅魂連合の倍近く在籍している。
竜河岸も三人いる。
「それで総長は今何処だ……」
(病院っス……
意識はまだ戻らないらしくて……)
「わかった……
アタシも行く……
何処の病院だ」
(大阪厚生年金病院っス……
福島の……)
「わかった。
ルンルに乗ってすぐに向かう」
(私も他のメンバーに言って来るっス……)
「おうまた後でな」
プツッ
電話を切る藜。
「おいルンル。
帰るぞ急ぎだ。
福島まで頼む」
【ウム乗れ】
ルンルに跨る藜。
兵庫県の光都から大阪の福島区まで距離にしておよそ百二十キロ。
ルンルの脚だとおおよそ三十分強。
ビュンッ!
発進。
ルンルはスピード型の竜である。
竜はあらゆる形で分類される事が多い。
年齢では初期、中期、後期。
走行速度ではスピード型、普通型、鈍行型。
年齢で言うと後期で代表されるのはマザー、ボルケ、ライゴウ等が挙げられる。
中期はガレア。
初期は暮葉である。
走行速度で言うとスピード型はガレア、マッハ、ルンル。
普通型はベノム。
鈍行型ならばスミス等が挙げられる。
特技に至ってはもう多種多様に渡る。
大体ルンルの走行速度は平均時速八十キロ。
今回は緊急の様子から平均百二十キロを叩き出していた。
大阪市福島区 大阪厚生年金病院
ルンルの脚はやはり凄い。
あの兵庫のド田舎からものの三十分で漣が担ぎ込まれた病院まで辿り着く。
病院内 受付
「すいやせん……
ここに五条漣って人が入院してるって聞いたんですけど……」
(少々お待ち下さい……
あぁ先程目を覚まされた……
はい504号室ですよ)
「見舞いに行っても大丈夫っスか?」
(ええ、でも重体だったんですからお静かにお願いしますよ)
「はい、あざっす」
ルンルを連れて漣のいる病室を目指す藜。
504病室
そこは八人程の大部屋だった。
戸は開いている。
ハハハハ
中から談笑が聞こえる。
「ハハッ何言うとんねんオッサン」
漣の声が聞こえる。
元気そうだ。
ホッと胸を撫で下ろす藜。
「ちわっす」
(お?
こらまた気合の入ったツラのネーチャンが来おったのう)
同室の入院患者が藜の顔を見るなり囃し立てる様に言う。
「あ?」
ドスの利いた声を共に睨みつける藜。
「お?
藜。
どないしたんや?
こないなとこで」
「どないしたんやじゃ無いっスよ総長……
サチから電話貰ってスッ飛んで来たんスから……」
「そうか。
そらご苦労さんやったなあ」
あっけらかんとしている漣。
「大体何で病院担ぎ込まれてんスか……
魔力注入使えば一撃で回復するのに……」
「刺されたー思たら意識遠なってなあ……
気、ついたら病院や」
当然と言えば当然ではあるが魔力注入を使用するには意識を保っている必要がある。
漣の傷は深く、急激に失血し魔力注入を使う暇も無く気絶したと言う事だ。
現在は魔力注入を使い、ほぼ九割回復している。
(何やねーちゃん。
えらい迫力あるなあ思てたけど、族のリーダーか何かか?)
「おうそうや。
怒羅魂連合言うねん」
「あ?
テメー……
ウチらの総長にナメた口聞いてたらシバき回すぞっっ!」
ギンと話しかけた中年男性を睨みつける藜。
「こらやめえ藜。
カタギの衆をビビらすなや。
すまんのうオッチャン。
こいつ血の気が多くてな」
睨みつけた藜を窘める漣。
(ええてええて。
ワイもネーチャンぐらいの年にえらいヤンチャしとったからなあ)
見た感じとてもそんな風には見えない。
普通の何処にでもいる中年男性の様な雰囲気。
「ケッ……
何処がだよ……
どーせセコい金カツアゲする様なチンピラだったんだろうよ」
(ハッハッハ。
やのっち言われとんのう。
カツアゲはようやっとったけど、大体とる奴は強い奴やったでネーチャン)
もう一人の中年男性が話に加わる。
「ケッ……
どうだか……」
(何や疑り深いネーチャンやなあ。
ホンマやて。
しかもカツアゲやのうてタイマンのケンカの報酬として頂いとっただけや。
のうシモ)
(何やゆうたら手、出とったからなあ。
やのっちは)
「そうやぞ藜。
話聞いたけどなかなかに気合入っとるオッチャンらやで?」
「まあ……
総長がそう言うなら……」
(それにしても竜はやっぱデカいのう。
二人もおったら部屋パンパンやわ)
ルンルを見上げ、マジマジと見つめる中年男性。
先程から話しているこの中年男性二人は一般人である。
「テメーら……
竜が怖くねぇのかよ……」
(怖ない怖ない。
こいつらエエ奴言うの知っとるからな。
たこ焼き好きな奴に悪いのはおらんっ!)
この中年男性はたこ焼き屋を営んでいる。
積荷を運ぶ際の事故で入院した訳だが、竜に全く恐怖を感じていない。
というのも以前竜河岸が竜を連れて訪れた際、美味そうに何十箱もたこ焼きを平らげたそうな。
竜河岸越しに美味かった。
また来ると言って去って行った。
その日はいつもより売り上げが倍増し、ウハウハ気分。
そんな経緯があり、竜は全く怖くないのだ。
(やのっちがそう言うとるからワイも怖ないわ。
よう見たら愛嬌のある顔しとるしな)
「ケッ……
物好きな連中だな……」
この頃の藜はまだまだ一般人に偏見を持っていた。
竜を差別的な眼で見ていると。
だから、こんな中年男性の反応に面食らったのだ。
「へへっ
オッチャン、はよ退院してたこ焼き食わしてくれや。
めそと一緒に食いに行くわ」
(おうそーかそーか。
来いや。
極上のたこ焼き腹いっぱい食わしたるわ。
そっちのネーチャンと竜も待っとるで)
優しい笑顔を藜に向ける中年男性。
「ま……
まあ……
気ィ向いたら行ってやるよ……」
「よしOK。
治った。
ほんじゃあ退院するか。
じゃあなオッチャン」
(えっ!?
何したんやネーチャンッ!?)
いそいそと着替え始める漣を見て驚く周り。
「ちょっ……!
総長っ!
ここにはヤローも居るんスからそんな堂々と脱がないで下さいよっ!」
「ん?
藜……
ワレは解っとらんのう……
こう言うのはオンナの恥じらいがあって初めて興奮するもんやで?
堂々とやったら逆に興奮せんもんや」
「そ……
そういうモンなんスか……?」
(まあ間違ってはないけども……
ネーチャン顔は整っとおのになあ……
そない堂々と着替えられたら全く立たんわ)
「ほらな」
そう言ってる間に着替え終わる漣。
「うしOK。
オッチャンら、ほなな」
(ちょお待てや。
まだ何で治ったかネタバラシしてへんやんけ)
「へへっ
竜河岸の特権やとでも思うとってくれや」
こうして病院を後にする藜達。
「総長……
病室では何か別方向に話が脱線したっスけど……
このままっスか……?」
藜はディランの処遇をどうするのかと聞いているのだ。
「へっ……
ンな訳無いやろ……
ウチに傷負わせた事後悔させたる……
全面戦争やぁっ!
藜ァッ!
メンバーに召集かけろォッ!」
「ウィッスッッ!」
藜はすぐさま携帯で全メンバーに召集。
こうしてVillain Dと怒羅魂連合との戦争が勃発した。
当日深夜 心斎橋 某クラブ
ズンズンッ!
ダンダンッ!
大音量の音が響く中、VIP席の高台に座る一人の男。
しきりに目の前の食べ物を貪っている。
主にステーキや豚レバー、プルーン。
アボガドに柑橘類と血液を作る為に必要な食材ばかり食べている。
その男の体格は痩せ細り、腕も枯れ木の様に細い。
顔は顎と鼻が尖り、西洋の魔女の様な雰囲気。
目は細く、小さい。
髪はキラキラ光る金髪でストンとしたストレート。
ガツガツガツガツ
しきりに食べ物を貪るその男。
ドタドタ
(リーダーッッ!
五条漣が退院したそうですっっ!)
駆けこんで来た男が焦った様子で報告。
「モグモ……
あぁ……
アイツも魔力注入使えんのか……
それにしては遅かったな……
モグモグ……」
この男の名は伊勢谷屍碧。
暴走族チームVillain Dのリーダーである。
側に竜もいる。
鱗の色は暗い紫がかった青のプルジャンブルー。
角は三本生えている。
翼が生えていない所を見ると陸竜の様だ。
「モグモグ……
まあ良い……
別にあんなので殺れるとは思ってねえしな……
フウ……
食った食った……
まあそれはそれとして……
お前らァッ!
MP作んぞっ!
用意しろっっ!」
(ハイィッ!)
パチンッ!
屍碧が取り出したのは折り畳みナイフ。
ギラッと鋭い刃が光る。
「破戒調剤……」
ピッ
屍碧がスキルを発動したと思うと、自分の手首を斬り付けた。
手首には躊躇い傷の様なものが山程出来ている。
その数は五や十所では無い。
二十、三十と夥しい傷跡が付いている。
範囲は手首だけでなく前腕部まで及ぶ。
ドボドボドボドボ
大量の血液が屍碧の手首からテーブルに流れ落ちる。
「こんなもんか……
発動……」
屍碧が魔力注入発動。
途端に血が止まる。
フラッ
後ろにフラ付く屍碧。
ドサァッ
ソファーに倒れ込む。
パキ……
パキパキパキ……
屍碧の作った血溜まりから妙な音がする。
真っ赤な血溜まりの中から真っ白な錠剤がたくさん生成されている。
■破戒調剤
屍碧のスキル。
血液から薬物を生成する。
五百mlで約二百の錠剤を生成可能。
薬物の効能はモルヒネによる鎮痛、筋力増強やアドレナリン作動薬やドーパミン、セロトニン大量分泌を促す等様々。
欠点として生成には屍碧の血液が必要と言う点とスキルの形から戦闘用では無い点。
世の為人の為に使えば画期的な抗がん剤等の治療薬を生成する事も可能な屍碧のスキルだが、決してそんな事ではスキルを使わない屍碧。
この男は悪意の塊なのだ。
世の全ては自分の私利私欲を満たす為の肥やしぐらいにしか考えていない。
そんな屍碧は現在十七歳だが、この考えは竜儀の式を行う前から抱いていた。
【大丈夫ですか……?
若……】
側の竜が話しかけて来る。
「別にいつもの事だ……
問題ねぇよゼロット……
失った血はまた食って作りゃあいい……」
基本的に誇り高い竜が敬語で話しているのは訳がある。
竜儀の式の際に見せた屍碧の底知れない悪意に絆されたのだ。
以来屍碧の事を若と呼ぶ。
同じ様なパターンでは本編主人公の竜司の母親、皇十七がいる。
ちなみにこの竜の愛称はゼロット。
意味は狂信者。
(オラお前ら袋詰め急げ)
屍碧の傍に立っていた男が指示。
この男も側に竜が居る。
竜河岸なのだ。
号令の下、袋に詰められていく錠剤。
血溜まりから生まれたとは思えない程その錠剤は白かった。
一袋につき一粒ずつ。
丁寧に袋詰めされて行く。
「んで……
昨日の売上金をよこしやがれ……」
(ウィッス……)
中ぐらいの袋を屍碧に手渡す側近。
ゴソ……
中から札束二つと万札数十枚取り出す。
「フム……
凡そ三百万弱か……
まあまあだな……」
これは昨日の集めた金である。
屍碧は毎日MPを生成している。
そして一日でばら撒くのだ。
MPは新規に現れた麻薬だが大人気である。
と言うのもMPは尿検査で引っかからないのだ。
隠れてキメるのが常である麻薬の中でこのアドバンテージはデカい。
また高い中毒性もあり、一度服用してしまうとやたら滅多な事では抜け出せない。
そう言った理由から販売するとすぐに完売する。
場所も単体で毎回場所を変えている周到さで警察側も存在は知っているが、なかなか尻尾を掴めないと言った状況だ。
その売り上げにプラスカツアゲ、強盗、空き巣などで得た金である。
「ん……」
側近である竜河岸二人に一つずつ札束を渡す。
(アザッスッッ!)
恭しく札束を受け取る側近。
「残りは……
テメーラだ……」
ドサッ
残った万札を袋ごと前に並んでいるメンバーに投げ渡す屍碧。
(リーダーッッ!
アザーーーーッスッッ!)
これは売り上げの分配。
屍碧の取り分は無いとお思いかも知れないが、既に潤沢な資産を屍碧は有しているのだ。
全てMPを捌いて得た金である。
要するに三百万など端金なのだ。
それでメンバーを駒として扱えるなら安いものだと屍碧は考える。
「じゃあ今日は解散……
テメーラァ……
多分怒羅魂連合が動き出すから充分警戒しやがれ……
じゃあな……」
(ウィッスッッ!
リーダーッッ!
お疲れーーっスッッ!)
「じゃあ後は頼む……」
(わかりました。
お疲れ様ですリーダー)
フラフラしながら、屍碧は一人で店の外へ。
ゼロットはクラブに置いている。
屍碧は戦争時かMP作成時しか側に竜を置かない。
ゼロットも素直に従っている。
ピピーッ!
パッパーッ!
ワイワイガヤガヤ
ここは心斎橋の繁華街。
深夜と言えども町は賑やかだ。
店の前に止めているバイクに跨る屍碧。
愛車はBMWR1200C。
外車の大型バイクである。
ちなみに屍碧は中型免許しか持っていない。
ドルンッ!
ドルドルドル……
エンジンをかけ、発進。
家路を急ぐ屍碧。
キキィッ!
ガシャァァァンッッ!
と、思ったら急ブレーキ。
タイヤがロックされ、派手に転倒する屍碧のバイク。
座席から投げ出され、地面に打ち付けられる身体。
「痛ってェ……」
(何じゃいワレェッ!
急に飛び出して来よってェェッッ!
ワイの車に傷ついたらどうすんねんッッ!)
イカつい男が車から降りて来た。
この男の乗っていた車はセルシオ。
ヤンキー車としては定番の型である。
蹲っている屍碧を介抱しようともせず、因縁を付けている。
ドコォッ!
屍碧の腹を蹴り飛ばす男。
呻き声一つ上げない。
「発動……」
腹に伝わる痛みを表現する前に魔力注入発動した屍碧。
ガバァッ!
急に起き上がる。
グイィッ!
強い力で男の胸座を掴み、ビル間の路地に引き摺り込む。
(なっ……
何だテメェはァッ……!)
身に起きた有り得ない事に焦る男。
蹲っていた男が急に起き上がり、枯れ木の様な腕からは考えられない力で路地に引き摺り込んだのだから無理もない。
屍碧はそんな男の様子など意に介さない様子で右手をポケットに入れる。
取り出したのは一粒の錠剤。
カリッ
口に入れ噛み砕き、錠剤を飲む。
(離せェッ!
離しやがれぇッ!)
男はジタバタ藻搔くが、ガッチリ胸座を掴んだ左手を離さない屍碧。
数分後
「…………キタ……」
バンッッ!
急に右腕が太くなった。
大きさにして四、五周り程。
他は痩せたまま。
右腕だけ変異したのだ。
余りに異形。
不自然に右腕だけ肥大した屍碧はニヤァと悪魔の様な笑みを浮かべる。
(ヒッ……!
ヒィィィィィッッ!
バケモノォォォォッッ!)
目の前の光景に悲鳴を上げる男。
ジタバタする身体に力が入る。
が、離れない。
「うるせぇよ……
テメェ……
もう黙れ……」
肥大した右腕を振り被る。
(やっ……!
やめ…………)
パンッッ!
ボコォォォォォォォォォン!
風船が弾けた様な音と衝撃音。
その後は静寂。
屍碧の前には五メートル程の大穴と血塗れで倒れ伏した首なし死体。
シルシル
みるみるうちに右腕が小さくなっていき、枯れ木の様な右腕に戻る。
「フム……
効くのに数分……
効果は一分程度か……
まだまだ調整がいるな……」
フラフラと歩き、大通りへ出る。
ザワ……
ザワ……
大通りに出た屍碧を見て、周りがほのかに騒ぎ出す。
上半身が真っ赤な血で染まっていたから。
だが、気にしない屍碧。
自分が犯した殺人をまるで意に介していない。
お前が俺に喧嘩を売ったのだ。
殺されても文句は言えないだろ。
これが屍碧の主張である。
低速で走っていた為、愛車は軽傷。
再び跨り、闇夜に消えて行った屍碧。
次の日 日中
大阪市都島区 ビル間路地
一人の男が立っている。
誰かを待っている様だ。
この男は昨夜クラブに居た男。
ザシャァッ……
(ハァッ……
ハァッ……)
と、そこへ息せき切らせた男が入って来る。
この男、大阪でベルギーワッフルの会社を経営している社長である。
ベルギーワッフルは1997年に大阪から売り出されヒットした商品。
目はギョロギョロと辺りを見渡し、半開きの口から涎を垂らしている。
明らかに異常な顔。
が、それを見つめる男は動じない。
これがMPの禁断症状だと知っているからだ。
(おう……
シャチョーさん……
いい顔しとんのう……)
(そっ……
そんな事はどうでも良いッィッ……!
ハッ……
ハヤクッ!
ハヤククスリヲォォォッッ!)
もはや禁断症状も末期で呂律が回らなくなってきている社長。
このMPという麻薬。
禁断症状が発現する期間が恐ろしく短いのだ。
元来麻薬に禁断症状と言うのは短期間作用のものならば一日~二日程かかる。
が、MPは時間にして24時間以内に必ず禁断症状が起きる。
これは屍碧の調整によってそうなっている。
こうする事によって毎日買う様に仕向けているのだ。
そして値段は客によって変えている。
高くて六万円。
安くて五千円。
客の経済状況などによって変動させている。
このベルギーワッフルの社長の場合は五万だ。
安いと思われる方もおられるかも知れないが、これが毎日続くのである。
一回五万で一ヶ月百五十万になる。
一般の中流家庭には売らない。
金を用意できないからだ。
もし一度服用して禁断症状により、事件を起こされると厄介なのだ。
屍碧はまだ自分に力が足りないと考えている。
もし経済力の無い者がMPの禁断症状により事件を起こし、そこからVillain Dまで辿り着かれると終わる。
尿検査に引っかからない麻薬。
それが魔力関与の物と解るとおそらく警察も本腰を入れて来る。
国が本気を出したら近畿の一族チームなどひとたまりも無い。
大体的にばら撒くにはまだ時期尚早。
そう屍碧は考える。
以上の点から売人はメンバーの中でも限られた者のみ。
少数精鋭で捌いている。
この売人も何人も顧客を持っているのだ。
(その前に金や。
金出さんかい)
(アァ……
アァッ!
ホラァッ!
五万ッッ!)
バシッ!
叩き付ける様に金を渡す社長。
(はい毎度ォ……
ホレ)
代わりに錠剤が入ったビニール袋を渡す売人。
(アァッ……
アァアァア…………)
すぐに取り出そうとするが、焦っているのかなかなか錠剤が出てこない。
ガリィッ!
ガリガリィ……!
ゴクン……
ようやく出て来た錠剤を即飲み込む。
途端にギョロついていた眼がトロンと垂れて来る。
口は半開きで涎を垂らしたまま。
麻薬が効いてきたのだ。
(あぁあぁ~~……
この多幸感……
たまらん……)
(ほなまた明日な。
時間なったら電話するわ)
これは屍碧が決めたルール。
売人はその日に売るのならばスケジュールを勝手に組み立てて良いと言うもの。
これが功を奏して、各売人が動くのはバラバラなのだ。
これも尻尾を掴ませない一助となっている。
が……
「おうおったおった。
さすが徹子の部屋やで」
路地を覗く一人の女性。
濃紺色の特攻服を纏っている。
日中にこの服装はかなり目立つ。
漣がニヤリと路地を覗いていたのだ。
(何やァッ!?
オノレラァッ!?)
(ヒィッ!!?
わっ……
私は知らんッッ!
関係無いィィィィッッ!)
ダダッッ!
反対側の路地出口へ一目散に逃げ出す社長。
「おっとぉ……
ここは通行止めだ……
クソヤロウ……」
「あっちゃん、こん人ボテくり回してええんか?」
だが立ち塞がる真っ黄色と真っ白の特攻服。
さくらと藜である。
「おーいっ!
お前らーっ!
ちゃうちゃうーっ!
そいつは逃がしてええやっちゃーっ!」
漣の大声が響く。
「ちっ……
だとよ……
さくら……
命拾いしたなクソヤロウ……
ホレとっとと行きやがれ……」
「ええ、そうな~ん?
つまらんわぁ~」
(ヒィッ!)
とっとと退散していった社長。
(オノレら……
どこのモンや……)
「ん?
ウチらか……?
コレやァッ!」
威風堂々と背中を見せる漣。
そこには銀文字でこう書いてあった。
怒羅魂連合 初代総長 五条漣
(ほう……
オノレらが小うるさいもう一つの竜河岸族チームか……
相手したるわ……
こっち来いや……)
「ワレはアホか。
今の状況解って言っとんのか?
ウチらがやんのはこれからワレをボコるだけや。
一対多数が卑怯とか言わんわなあ……
この前もえらいぎょーさん連れてウチ等を狙っとったんやしなあ……
あーナイフ痛かったー」
漣は逃げ道を塞いだ上で多人数で仕掛ける気でいた。
毎回こうする訳では無い。
そもそもこの戦争の発端は多人数で漣に襲い掛かったからだ。
目には目を。
歯には歯を。
一対多には一対多を。
これが漣の不良道である。
「おおーいっ!
お前らーもうええぞー!
好きにせーい!」
「よしっ
総長からのお達しが来たっっ!
行くぜぇ……」
パシッ!
胸元で勢いよく拳を合わせる藜。
「んふふ~~
コイツはどんな血の色見せてくれんのやろ……」
スッ
白い特攻服の裏地からバットを取り出すさくら。
【ン……
藜……
今からあのドングリみたいな奴を倒すのか……?】
(オラァッッ!
聞こえたぞぉっ!
誰がドングリやねんっ!)
「プッ……
ルンル……
お前……
ドングリって……
確かに似てるけどもよ……
あぁそうだ。
あのドングリ野郎をぶっ倒すんだよっ!」
ダダッ!
藜が両腕を広げ、路地に駆け込む。
心中にはほのかに違和感を感じていた。
何だこの違和感は。
総長がまだ動いていない事か?
違う。
妙にドングリ野郎が落ち着いている事か?
違う。
どんどん間合いが詰まって行く。
もう目と鼻の先。
グアァッ!
藜は両腕で掴みにかかる。
電気抵抗を仕掛ける為だ。
が、次の瞬間。
感じていた違和感の正体が明らかになる。
(………………発動……)
ドンッッ!
真上に飛ぶドングリ男。
弾丸の様に姿を消した。
「うおっとぉっ!」
藜が急ブレーキ。
これが違和感の正体。
ドングリ男は竜河岸だったのだ。
感じた違和感はルンルの言葉を理解した点。
油断していた。
側に竜が居ないから一般人だと思い込んでいたのだ。
ぐんぐん小さくなる藜を見下ろしながらニヤリと笑みを浮かべるドングリ男。
してやったりといった笑い方。
が…………
(プロポォォォォォッッ!
来ぉぉぉぉいッッッ!)
上空で自分の竜を呼ぶドングリ男。
「プロポ?
それがワレの竜の名前か」
ゾクリ
ドングリ男の背筋に戦慄が走る。
その声は背後から聞こえた。
ここは上空十メートル辺り。
眼下にビルの屋上が見えている。
こんな所で他人の声がする訳無いのだ。
急いで振り向くとニヤリと笑う漣の姿があった。
上空で巻き上がる特攻服。
既に右足を振り下ろす攻撃体勢。
ドコォォォォンッッッ!
バッコォォォォォォンッッ!
背中に火の様な右回し蹴りを喰らったドングリ男は流星の如く落下。
大通りに着弾。
スタッ
難なく着地する漣。
「総長ォッ!」
遅れて藜達もやってくる。
「藜、まだまだ状況判断が甘いな」
漣はルンルとのやり取りでドングリ男が竜河岸と言うのを見切っていたのだ。
そして竜が側に居ない所から何らかの手でここから回避。
合流を図るはずだと。
ここまで判断できればドングリ男が魔力注入を使うと言うのは自然な思考である。
「すいやせん……
お手を煩わせてしまって……」
(す……
凄い……
これが竜河岸の力……)
一般人のメンバーが目を丸くして驚いている。
中に漣が魔力を使って戦うのを初めて見た者もいたのだ。
「心配せんでええで。
どんな力を持ってようとウチらの総長には変わらんのやから」
さくらが優しくフォロー。
(ハイッッ!)
漣は良く言えば豪快な性格。
悪く言えば大雑把。
そんな性格が災いして、時々粗相を起こすのだ。
そんな総長をみんなでツッコんでいる。
もちろんこの驚いているメンバーも同様。
だが、漣はツッコまれても異能の力で制裁を加えたりする事は絶対にしない。
みんなと一緒に笑い合っているのだ。
モクモクモク
着弾点から砂煙が立ち昇る。
「総長、殺ったんスか?」
砂塵が上がるのみで変化が無い様子を見て、藜が尋ねる。
「アホゥ。
ウチがコロシなんかやるかい。
ドングリの落ち着きっぷりから魔力注入使える言うんはわかってたからな。
魔力注入使いはあれぐらいやったらくたばらんくたばらん」
フイフイッと右手を左右に振る漣。
モクモクモク
全く変化が無い。
煙が上がるのみ。
「ん?
おかしいのう。
あのドングリ、もしかしてめっちゃ弱い奴やったんやろか……?
ちょお様子見てくるわ」
少し心配になった漣。
様子を見に行く事に。
「総長、気ィつけて下さい」
「おう」
依然として昇る砂煙の中に入る漣。
慎重に一歩ずつ進んで行く。
「我ながら凄い煙やのう……」
煙の中は視界不良。
十五センチ前も見えない。
両手を振りながら煙をかき消そうとする。
その時
ヌッ
急に眼前に現れたイカつい顔。
ドングリ男だ。
起きていた。
「ウワァッッ!!?」
ブンッ!
急に目の前に現れたイカつい顔に驚いた漣。
瞬時に防衛本能が働き、右拳を打ち下ろす。
バキィィィンッッ!
妙な音が鳴る。
ギュンッッ!
同時に漣の身体が斜め上に吹き飛ぶ。
「ウオォォッッ!」
叫び声と共に漣の身体が煙から強制射出。
「総長ォッッ!」
外で見ていたメンバーは驚きの声を上げる。
その中、一番反応が速かったのは藜。
ガシィッッ!
落下点に即ポジション。
両腕で漣の身体をキャッチ。
「総長ッッ!
大丈夫ッスかぁぁっ!!?」
「お……?
おお……
藜か……
すまん……」
片手で頭を押さえながら、左右に振る漣。
「立てるッスか?」
「おう」
藜の両腕から降りる漣。
「総長、何があったんスか?」
「ウチもようわからん……
何や目の前にドングリ男の顔が急に出よったからビックリして手ェ出したんや……
そしたらこうなった……」
「マジっスか……」
「手応えはあったから当たったとは思うねん。
となると……
おそらく何らかのスキルやろなあ」
やがて砂煙が晴れ、中から不敵な笑みを浮かべたドングリ男が現れる。
平然と立っている。
あの苛烈な漣の右回し蹴りを喰らったにも関わらず。
これは回復の魔力注入の作用。
だが、まだ竜は側に居ない。
(何や……
手応えないのう……
族の頭張っとるゆうからどんなもんや思っとったけどなあ……
拍子抜けや……
アホくさ)
ビュンッ!
その言葉を言い終わるか終わらないかの内に弾丸の様に飛び出した者がいた。
藜だ。
既に魔力注入発動済。
一瞬で間合いを詰める。
怒羅魂連合特攻隊長の名に恥じない行動の速さ。
「あ……?
ウチの総長にナメた口聞いてんじゃねえぞッッッ!」
右拳には魔力を集中させている。
「発動ォォッッ!」
バリィィィィィィィィィィッッッ!
魔力注入発動。
体内で響く通電音。
これはいつもの藜の戦闘スタイルとは違う。
藜はキレていた。
尊敬する総長を侮辱されたからだ。
総長にナメた口を聞く奴は許せない。
一発殴ってやらないと気が済まない。
藜の繰り出した一撃の威力は充分だった。
が……
バキィィィィンッッッ
再び妙な音。
同時に吹き飛ぶ藜の身体。
「うおっとぉっ!」
ガシィッ!
だが、即落下点に移動する漣。
その様はバレーボールのレシーバーの様。
両腕でガッチリキャッチ。
「藜、大丈夫か?」
(ハハッ
何や馬のションベンみたいなパンチやのう。
それでよう族なんかやっとるわ)
ドングリ男が嘲笑。
「クッ……」
藜が悔しそうに歯噛み。
だが、手が出せない。
こいつは何らかのスキルを使っているからだ。
そのスキルの謎を解かないと迂闊に手は出せない。
(オラァッ!
どうしたどうしたぁっ!
オノレらが掲げとるハタは見かけ倒しかァッ!
ワイにブルっとんならレディースなんかやめて、おしとやかーなビッチでもやっとれやぁっ!)
かかって来れないのを良い事に好き勝手罵るドングリ男。
「ん?」
ここで漣がある違和感に気付く。
このドングリ男。
喚いているばかりで全くかかって来ないのだ。
もしかしてここにスキルの秘密があるのかも。
そう考える漣。
「そんなん言うてビビッとんはお前とちゃうんか?
え?
このドングリ。
ワレ、不良なんかやってんと研究所とか行った方がええんとちゃうか?
何せ喋るドングリなんて天然記念物やからのう。
大事ーにしてもらえんで」
倍以上の挑発を返す漣。
(何やとォォッッ!?
やったらぁぁぁっっ!
発動ォォォッッ!)
我慢していた漣や藜に比べて、いとも容易く挑発に乗っかるドングリ男。
この段階で人の器が知れると言うもの。
ドンッッ!
足に魔力を集中したドングリ男が大地を強く蹴る。
弾けた身体が前に飛ぶ。
「ん?
ちゃうんか?」
先の挑発に乗って来なければカウンター系、もしくは防御系のスキルでは無いかと考えていた漣。
だが違っていた。
現に今攻撃を仕掛けている。
くるん
反転するドングリ男。
真っすぐ漣の腹目掛け、右足を向ける。
鋭い矢の様。
「発動」
が、魔力注入発動時の素早さには慣れている漣。
落ち着いて応戦準備。
ブドドドドドドッッ!
体内で響く単気筒マフラーの様な音。
魔力の集中先は腹と右拳。
ドォォォォォォンッッッ!
大きな衝撃音。
ドングリ男の強烈な蹴りが漣の腹に炸裂した。
「ぐぅっ……
さすが魔力注入や……
それなりに効くやんけ……
けどなあ……」
グッッ!
ドングリ男が履いているズボンの裾を左手に巻き付ける。
「沈めやぁぁっっ!」
ブンッッ!
左手で身体を固定させた所に右拳を打ち下ろす。
重力がかかるよりも前に。
(うおぉぉっっ!!?)
驚き、目を丸くするドングリ男。
喰らう瞬間に身体を逸らし、躱す。
ドカァッ!
ビリビリィッッ!
漣の腹を蹴り飛ばし、離脱するドングリ男。
魔力注入発動中だった為、強烈な力でズボンの裾が千切れ飛ぶ。
スタッ
間合いを広げ、着地するドングリ男。
(あぁっっ!?
ワイのお気に入りズボンがァァッッ!!?)
見るも無残な形になった自分のズボンを見て嘆く。
「ワレ……
いつの時代の不良やねん……
ラッパズボンなんか履きよって……
んなん履いとるからこうなるんやろ?」
■ベルボトム
腰から膝まではフィットし、膝から裾に向かって広がっている形状のズボン。
1960年代に爆発的流行。
日本ではパンタロンと呼ばれていた事もある(現代では死語)
当時のヤンキーはラッパズボンと呼んでいた。
長ラン(長い学ラン)にラッパズボン。
これが1960年当時のヤンキースタイル。
ドングリ男はラッパズボンを履いていた為、漣に利用されたのだ。
そして会話をしている中、強烈な違和感を感じていた漣。
何故ドングリは避けたのか?
先の漣や藜の攻撃は受けたのに。
何故スキルを使わなかったのかと言う事だ。
(やかましいっっ!)
お気に入りのズボンを貶され、声を荒げるドングリ男。
「……まだわからんなあ……」
仮説はいくつか立てられる。
が、どれも確信を得られない。
例えばスキル発動には何らかのトリガーがある。
つまり任意で発動できないとか。
攻性意志を感じ取るとか視界内に納めないと発動しないとか。
でもこれではスジが通らない。
右拳を振るった時は明らかに攻撃の意志を持っていた。
視界内にしてもそうだ。
パンチを放った時ドングリ男は見ていた。
考えた末、漣が選んだ結論はこれだった。
「にしてもダッサイズボンやのう。
そんなん履いてるやつ見た事あらへんわ。
何十年前に流行った思てんねん。
オノレにのう……
教えたるわ。
流行っちゅうもんは廃れるもんや。
んでなあ……
そんな廃れたモンを未だに履いとる奴の事をなあ……」
漣が選んだのは挑発。
更に相手を挑発して攻撃させようと考えていたのだ。
「イモ言うねん」
これを聞いた瞬間、ドングリ男の顔が途轍もない凶相に変わる。
簡単に挑発に乗った。
つくづく器の小さい男である。
(発動ォォォォォッッッ!)
ヒュッッ!
魔力注入発動した瞬間、姿を消したドングリ男。
漣の眼にも捉え切れない。
おそらく残存魔力を全て両脚に集中させたのだろう。
「んっっ!?」
流石の漣も突然湧いた素早さに少し面食らう。
バンッッ!
と、思ったら斜め上で音。
鳴った方を向くとビルの外壁がひび割れている。
ガッッ!
かと思うと腰回りに感触。
背後に着地したドングリ男が漣の腰を両腕で囲んだのだ。
これはプロレスで言う所のクラッチ。
突然の事に驚いたのか微動だにしない漣。
グアァァッッ!
そして漣の身体を思い切り持ち上げたドングリ男。
これはジャーマンスープレックスの体勢。
リングならまだしもこの舗装された車道の真ん中でプロレス技なんか喰らうと下手したら命を落とす。
その通り。
ドングリ男は漣を殺す気だったのだ。
トップが殺人に対して躊躇が無いと下もそうなるのだ。
綺麗な弧を描き、漣の身体が反転。
真っ逆さまに地面に向かう。
ここまで来ても全く動かない漣。
ドスゥンッッ!
まともに頭から落ちる漣。
「総長ォッッ!」
藜の声が奔る。
パタッ
クラッチを解かれた漣の身体が力無く仰向けに倒れ伏す。
(へへ……
へへへ……
ワイも殺ってもうた……
これでリーダーに並んだわ……)
物言わない漣の身体を見つめ殺人を実感するドングリ男。
Villain Dと言うチーム、襲い来る相手を殺すのは屍碧だけ。
ドングリ男はまだ殺人を犯した事は無い。
躊躇なく殺す屍碧の姿に悪のカリスマを感じていたドングリ男。
何故この人は躊躇が無いんだろう。
殺された人に家族がいるとかは考えないのだろうか。
入りたての頃は疑問と憧れが入り混じった感情を抱いていた。
現在は屍碧の人間性を理解している為、もう疑問を差し挟む余地も無い。
あるのは悪へのドス黒い憧れのみだ。
ニヤリ
死体になったと思われた漣の顔が不敵な笑みを浮かべる。
(エッッ!?)
ギョッと驚くドングリ男。
死んだと思っていた所動き出したのだから無理もない話である。
「ヨッと」
ヒュッ!
軽々と飛び起きる漣
コキコキッ
軽く首を鳴らす程度。
全くと言って良い程ダメージが無い。
(くっ!)
すぐさま間合いを広げるドングリ男。
何故だ?
何故ヤツは生きている?
あの速度。
あの角度。
そして堅い車道。
まともに喰らったのだ。
普通頭蓋骨骨折などで即死。
ポイントがズレたとしても全くダメージが無いなんて有り得ない。
平然と立っているその姿に不死者の印象を受ける。
物凄く不気味。
「何やその顔。
ウチが無傷なんがそない不思議か?」
(ワレェッ!
何で何ともないんじゃいィッッ!?
ワイのジャーマン喰ろうて何で死なんのじゃァァィィッッ!)
堪らず声を荒げ、問うドングリ男。
それを耳孔を穿りながら聞いている漣。
「あ?
あんなもん頭に魔力集中すれば何の問題も無いわ……
フッ」
指に載った耳垢を吐息で吹き飛ばしながら、平然としている漣。
漣は姿が消えた瞬間、後ろを取られる事は解っていたのだ。
腰に腕が回ったのを感じた刹那、頭に魔力を集中して防御の魔力注入を発動させた。
だが、何故防御なのか。
漣程の発動スピードならカウンターなり攻撃に転じる事も可能だった筈。
(なっ……
何やとォォッッ!?)
渾身のジャーマンだっただけに驚きを隠せないドングリ男。
「あぁ……
それとなぁドングリ……
ワレの攻撃喰ろうて解った事があるわ」
ドングリ男の攻撃を喰らったのはスキルの謎、ないしは敵の弱点・欠点を探る為だったのだ。
(誰がドングリやねんッッ!
んで……
何や……?)
ドングリ男の中では依然不死身の女の印象を拭えない。
そんな漣が何を気付いたと言うのか。
それが気になったのだ。
「ワレな……
魔力うまく扱えんのやろ……?」
ギクゥッ!
図星。
そんな顔色を浮かべるドングリ男。
(ど……
どう言う事やねん……)
「……魔力注入は使えるかも知れんけど……
二点集中出来んやろ?」
図星の顔が変わらないドングリ男。
三則と言うのはそれぞれ状況によってやり方は色々あり、効果が変わる場合もある。
例えば保持。
竜司の扱う絶招経発動時の様に取り入れた魔力量が多い場合重ねて使ったりする事もある。
発動も声に出した方が威力が上がる。
思って放つ時は発動スピードが速いなどなど。
そしてもちろんそれは集中にしても同様。
集中は簡単な意識の持ち方で二点、三点と魔力を集中する事が出来る。
話を続ける漣。
「腰クラッチされた時にアレ?
思たんや。
コイツ腕には魔力集中しとらんのちゃうかってな……
んでワレのヘッタクソなジャーマン喰ろうてハッキリしたわ。
こいつ身体で二種の魔力扱えんのやってな。
あんだけキレとって攻撃に魔力使わんなんて有り得んからのう。
まあ今竜が側におらんからかも知れんけど、それにしたかて全く魔力集中してへんのは無い無い」
ピラピラと手を横に振る漣。
あれだけ挑発したのだ。
しかもその挑発に乗った。
そんな状態で攻撃に全く魔力を使わないのは有り得ないと漣は考えた。
魔力が集中されていないと判断したのは腕に込められた力から。
その力は一般人のそれだった。
ドングリ男は驚いた顔色を変えない。
更に話を続ける漣。
「まあ……
オノレの欠点解った上で残存魔力を素早さに全振りした気概は認めん事無いけどな………………
プッ……」
突然噴き出す漣。
「ワレ……
どんだけ出けへん子やねん。
二点集中なんぞスキル使う要領で普通出来るやろ?
オノレは小学生か」
魔力と言うのは扱い方によって微妙に差がある。
魔力注入で使う魔力。
スキルで使う魔力。
それぞれ質の違う魔力を使っているのだ。
元来竜河岸という人種は感覚でそれを解っているもの。
漣が噴き出したのはこれが理由。
魔力注入発動時にスキル使用したりするのは厳密には二点集中を行ってるからと言える。
そして魔力注入の場合、二点集中にはほんの少し意識する必要がある。
それは同種の魔力を身体の各部位に集中させたり、攻撃・防御に振り分けたりとするからだ。
だが、意識と言ってもそんなに難しい事では無く数回使っていれば自然とできる様になる。
絶招経発動しながら神道巫術を使用していた竜司を見れば明らかである。
だが、人間と言うのは得手不得手と言うものがある。
ドングリ男は物凄く不器用な人間で魔力を集中させる事が恐ろしく苦手なのだ。
逆に魔力集中・魔力移動を得意としているのは藜である。
【ヒロユキーッッ!
大丈夫っスかーっ!?】
ピュウ
そこへ一人の翼竜が飛んで来た。
鱗の色は赤紫。
立派な角が二本生えている。
(プロポ……
遅いねん……
何しとったんや……?)
【いやあショーボーシャを見かけたっスからね。
ついつい追いかけてしまったっスよ。
…………って何かピンチっスか?】
(…………ワレが来んかったら残存魔力でやらなアカンかったんやぞ……)
【イヤァ悪いッスねえ。
ボクはヒロユキとショーボーシャならショーボーシャを取るっス】
堂々と言い切る竜。
このドングリ男が使役している竜。
愛称をプロポと言う。
先程から言っているショーボーシャと言うのはもちろん消防車の事である。
この竜は日本の消防車が好きなのだ。
気に入っている部分は単純にフォルム。
あの形がカッコイイと思っている。
特に好きなのがはしご車。
あの真っ赤な色が火災現場に向かう様がカッコ良くて堪らないのだ。
そしてヒロユキと言うのはこのドングリ男の事である。
(もうええわい……
魔力よこせや……)
【わかったッス】
このプロポ、語尾にスを付けるのは別にヒロユキを敬っている訳では無い。
ただの口癖である。
プロポの鱗に手を添えるヒロユキ。
魔力補給をしている。
「それがワレの竜か……
おいめそ!」
漣も自身の竜を呼びつける。
同じ様に魔力補給。
お互い済ませた所で仕切り直し。
ラウンド2。
ザッ
漣が一歩前へ。
どんどんヒロユキに向かって進んで行く。
残るはスキルの謎だけ。
スキルの概要は不明ではあるが発動については攻略法が出ていた。
「発動ォォォォッッ!」
高らかに漣が叫ぶ。
まるでたった今魔力注入を使用したと誇示する様に。
「さぁ……
ウチは今魔力注入発動したで…………
さっきのやりとりでわかっとるよなあ……
魔力で固めたウチの身体にワレの攻撃が効かんっちゅうの……
さぁどぉ~すんのやぁ……」
静かな低い声で今の状況を説明する漣。
ヒロユキが体内で同時に二種の魔力を使えない事はほぼ確定。
これはこと魔力を使う竜河岸の戦いでは圧倒的不利。
スキルと魔力注入を同時に使えないのだから。
ザッザッ
どんどん間合いを詰める漣。
(クッ……)
後退りするヒロユキ。
何だ?
何をしてくる?
攻撃か?
だったらスキル発動……
いやいや先の自分の様に投げをされたらスキル発動しても相手にダメージは無い。
どうするどうするどうするどうする。
焦るヒロユキ。
ザッザッ
迫る漣。
(反二乗ゥゥゥゥッッ!)
悩んだ末に選んだ結論はスキル発動。
焦っていた為かスキル名を叫んでしまうヒロユキ。
「反二乗?
それがワレのスキル名か……
よっとぉぉっ!」
ブゥンッッ!
硬く握った右拳でパンチ。
体勢はロングフック。
それを斜めにステップインしながら放った。
バキィィィィンッッッ!
再び響く妙な音。
(ハッ!?
いっ……
居ないっ……!?)
ヒロユキの眼前にはもう漣の姿は無かった。
キョロキョロと辺りを見渡す。
「こっちやこっち」
背後から漣の声。
急いで振り向くと、平然とした顔で立っている漣の姿があった。
ニヤリと笑みを浮かべている。
「よっと……」
ガシィッ
そこから漣の行動は素早かった。
ヒロユキの右肩を掴んだかと思うと、流れる様な動きでヒロユキの右膝関節裏に左足を合わせる。
カクン
途端にバランスを崩して倒れるヒロユキの身体。
そのまま掴んだ右手を下げ、地面に寝かせる様に転ばせた漣。
「ふうん……
大体解ったわ。
ワレのスキル……」
ヒュンッッ!
大地を蹴り、高くジャンプする漣。
遠く離れた藜の側へ着地。
ポン
優しく右肩に手を置く。
「おい……
藜……
後はお前がやれや……」
「えっ?
いいんスか?
総長」
「もうアイツの謎は大体解ったからな。
ちょお耳貸せ……
ゴニョゴニョゴニョ……」
ヒロユキとの戦い方を耳打ちする漣。
「えっ……?
そうなんスか……?
ふんふん……
了解しやしたァッ!
総長ォッ!」
ガンッ
勢いよく胸元で拳を合わせる藜。
顔は完全に勝利を確信している。
(ちょお待てやぁっ!
ワイとの決着はまだついとらんぞぉっ!!)
ようやく起きたヒロユキが叫ぶ。
「あ?
もう謎はあらかた解けたからなあ。
ワレではウチに勝てん勝てん」
ピラピラと右手を左右に振る漣。
(なぁっ……!
何やとぉぉぉっ!?)
「んでワレにキレとんのはウチだけやのうて可愛いコーハイもキレとんねや。
の?
藜」
「ウィッスッッ!
総長ォォッッ!」
「だからワレの相手は藜がするわ。
んでもし万が一藜を負かすっちゅうんならウチが相手したる……
まあ無いけどな」
ザッザッ
藜は漣と同じ様に近づき、間合いを詰めて行く。
「発動ォォォッッ!」
バリィィィィィィィィィィッッッ!
体内で響く通電音。
漣と同じ方法を取った藜。
(くっ……
くそぉっ……!)
ザッザッザッ
どんどん間合いを詰める藜。
後退りするヒロユキ。
「さぁ~~……
アタシは魔力注入発動したぞぉ~~……
スキルか……?
魔力注入か……
どっちだぁ~~?」
藜は既に漣からヒロユキが二つの魔力を同時に使えない事を聞いていた。
そして仮説ではあるが反二乗の攻略法も。
この発言は煽っているのだ。
(くっ……
くそぅっ……
ナメられっぱなしでたまるかぁっ!
発動ォォォッッ!)
「お?」
少し驚く藜。
てっきりスキルを選択すると思っていた。
漣の耳打ちによるとヒロユキと言う男は窮地に陥った時、安全を選ぶ典型的な日和見主義だと言っていた。
だから危機が訪れた際、スキルを選ぶはずだと。
だが現実は魔力注入を選択したヒロユキ。
これは自分の主義よりも不良としての自尊心が勝った為だ。
不良と言うのはナメられたら終わり。
それはヒロユキも知っていた。
要するに煽り過ぎたのだ。
ブンッッッ!
魔力を込めた右拳を繰り出すヒロユキ。
狙いは藜の腹。
だが…………
ドッコォォォォンッッッ!
「ぐうっ…………
総長の言う通りだわ……
それなりに威力があるじゃねぇか……
だがなァ……」
衝撃音が響き、軽く身体がくの字に曲がる藜。
だが顔は笑っている。
スキルだろうと魔力注入だろうとどちらでも良かったのだ。
ガッ
両手でヒロユキの右腕を掴む藜。
相手は一種の魔力しか使えない。
その攻撃は耐える事が出来た。
そして今、相手の腕を掴んでいる。
となるとやる事は一つ。
「電気抵抗」
バタァッ!
そう、スキルである。
体内電流の流れをギリギリまで弱められたヒロユキは倒れ伏す。
(これ……
なん……)
完全に身体が麻痺状態になったヒロユキ。
もう満足に喋る事も出来ない。
「はい終わり……
おぉーいっ!
さくらーっ!
こっちに来ーーいっ!」
「何やのあっちゃん」
「お前コイツの血、見たいって言ってただろ?
コイツもうアタシのスキルにかかったから動く事は出来ねぇ。
好きにしな」
「へぇ……
そぉなんやぁ~~……
動けへん相手をボコるのは気が進まんわぁ~~」
そう言いながらバットを構えるさくら。
発言と行動が一致していない。
サドッ気が溢れる目で見降ろすさくらの眼に全身が総毛立つヒロユキ。
(お…………
やめ……)
が、満足に喋れず動く事も出来ないヒロユキ。
ここから見るも無残な姿で病院に運ばれる事になる。
この間にヒロユキのスキルについて説明しておこう。
スキルの名前は反二乗。
全身にセンサーの様な膜を張り巡らし、受けた衝撃を二乗にしてはね返すと言うもの。
トリガーにはある程度の力が必要。
具体的には百kg以上。
それを下回る場合は発動しない。
先の漣に転ばされたのはそれが理由である。
欠点として返す衝撃は均一に放つ為、吹き飛ばすぐらいにしかならないと言う点と返す衝撃は受けた衝撃の逆方向と言う点。
かつ衝撃を返す際に微妙なタイムラグが発生する。
漣がステップインしながら殴ったのは回避と攻撃を一緒にした為である。
仮にヒロユキが二種の魔力を扱えるようになり、反二乗の練度を高めていれば勝負は解らなかった。
今回の敗因はヒロユキのトレーニング不足が原因である。
「よしっ!
終わったかっ!
藜ァッ!
徹子に連絡せいやァッ!」
「ウィッスッッ!」
携帯を取り出し、電話をかける藜。
「もしもし?
新崎?
どうだった……?
予測通り居た?」
藜の携帯から冷ややかな声が響く。
「おう、お前の予測通りだったぜ。
んで次は何処だよ?」
「次は……
西区かな……?
新しく出来た大阪ドームの近く……
的中率は七十%ってトコ」
「おうわかった。
西区だな。
また電話する」
電話を置く藜。
電話の相手は白柳徹子。
れっきとした怒羅魂連合のメンバーである。
が、突発的な事では無い限り荒事には参加しない。
主に担当は敵の出現予測、作戦の立案等である。
徹子は統計学のエキスパート。
あらゆる情報から敵の出現位置などを予測するのだ。
今回、都島区に売人が出ると言うのを割り出したのも徹子である。
だが一般人である為、スキル等の異能を使っている訳では無い。
あくまでもざっくりした位置。
ある程度場所を絞り込み、そこに怒羅魂連合のメンバーを配置したのだ。
ヒロユキが不運だったのは漣に見つかった事である。
漣は人員的にVillain Dに劣っている事は解っている。
従って取った作戦は全メンバーによる各個撃破の電撃作戦。
売人を狙ったのは一番痛手なのは麻薬による資金源を奪う事だと考えたのだ。
ちなみに徹子が情報を精査・分析する部屋の事を徹子の部屋と言う。
こうして次々と売人を見つけ出す怒羅魂連合。
遭遇しては潰し、遭遇しては潰しを繰り返す。
その数二十五人。
もちろん持っていたMPも回収、処分。
同日 夜 湊町PA
ドルンドルドルドルッッ……
十重二十重の排気音が多重奏の様に響く。
三十弱のバイクと竜が二人。
全員怒羅魂連合のメンバーである。
前にはCB400SFと濃紺色の鱗を持つ竜。
そして特攻服を纏った綺麗で艶やかな黒髪ストレートの女性。
五条漣である。
右拳を握り、勢い良くそして高らかに掲げる。
「ウチらの勝ちやーーーっっっ!」
漣が大声で叫ぶ。
(ィィィヨッシャァァァァァァァァッッッッ!)
三十人からなる人が漣の大声に呼応する様に叫ぶ。
時間はそろそろ日を跨ごうかと言う所。
襲撃の大成功を祝う祝賀集会である。
勝どきが終わった後は談笑タイム。
飲み物を飲む者。
タバコを吸う者。
様々である。
ゴトン
そこに火のついたセブンスターを片手に自販機で飲み物を買っている女性と真黄色の特攻服を纏った女性がいる。
漣と藜だ。
「ホレ飲め。
ウチの奢りや」
「あざっす……
ってまたカフェオレ……」
お決まりの激甘カフェオレ。
だが、特に文句を言わずプルタブを持ち上げる。
気分的に甘い飲み物を飲みたかったのだ。
ゴクッ
「……………………ハハッ……
総長……
やっぱ甘いっスね……」
気分は飲みたくてもやはり身体が慣れていない藜であった。
「あぁ~美味い……
今日の疲れが吹き飛ぶようやのう」
「そう言えば総長。
結局の所、あのドングリ男のスキルって何だったんスか?」
「ん?
あぁ……
何ちゅうたかな……?
イン……
イン……
インベーダーやったかな?
多分攻撃を跳ね返すタイプのやっちゃ」
「でも総長、あいつを転ばせてたじゃないっスか。
そん時はね返してる様子は無かったっスけど」
「あぁ多分スキルのトリガーを力にしとんのやろ。
例えば二百キロぐらい衝撃無いとアカンとかな」
全くもってその通り。
違う点としてはトリガーのボーダーが百キロと言う点だ。
「なるほど……
でも割と良いスキルっスね。
総長やアタシが攻撃しても全く動いてなかったじゃないっスか。
と、言う事はドングリ男に打撃は通って無かったって事っスよねえ」
「そやなあ。
あのはね返す衝撃はどっちゃでもええとしても発動中は打撃通らんっていうのはええな」
「アイツがスキルと同時に魔力注入も使えたらヤバかったっスね」
「まあのう。
ドングリものごっつう不器用なんやろな。
そのインベーダーももっと練度上げてはね返す衝撃をコントロール出来るようなったりとかしたらごっつ強くなれんのにのう……」
蓋を開けると将来性は高いヒロユキのスキルだった。
ちなみに名前はインベーダーでは無く反二乗である。
「それで、総長これからどうするんスか?」
「ん?
何の話や?」
「いや今日一日かけて売人あらかたツブしたじゃないっスか?
徹子の話だとヴィランの連中、毎日ヤクばら撒いてるって話っスよ。
仮に毎日売上金回収してたらアタシらの動きソッコーバレるっしょ?」
漣達は売人を見つけると指一本動かせない程の重傷を負わせていた。
襲撃にあった事を連絡させない為だ。
これは徹子の指示。
情報が伝達されてしまうと対応策を取られると踏んだのだ。
電光石火のスピード。
これも作戦のキモだった。
後日襲撃がバレたとしても捌く売人はほぼ病院だ。
特に問題では無い。
襲撃途中にバレるのを避ければそれで良かった。
そう徹子は考えていた。
「…………藜……
多分この戦争……
長引かん……
二、三日でケリつくで……」
「はい……
アタシもそう思うっス……」
藜もこの戦争が短期決戦だと気づいていた。
敵リーダーの姿は知らないが非道で容赦の無い奴だと言うのは聞いていた。
襲撃されたと解れば、必ず自ら報復に出る。
そう考えていたからだ。
だが、その頃はまさかリーダー自らが麻薬生成してるとは知らなかった。
「おう……
そやそや……
コレ言うとかなアカンわ……」
座っていた漣が起きて、みんなの前に。
「お前らァッ!
多分近いうちヴィランのウンコらとおっきい戦争になるッッ!
あいつらは右から性根が腐っとるウンコやァッ!
命取られるかも知れんッッッ!
腕に自信が無い奴は来んでもええッッッ!
けどウチに命預けてくれる奴は一緒にケンカしてくれぇっ!」
(総長ッ!
アホな事言わんといて下さいィッ!
アタシは怒羅魂連合に入った時から命は総長に預けてますゥッッ!)
(アタシもォッ!)
(ウチもォッ!)
(アタシもやァッ!)
次々に賛同を表明するメンバー。
「お前ら…………
へっ……
任しとけぇっ!
お前らの命はウチが死んでも守ったるゥッッッ!
一緒にヴィランのウンコを蹴散らそうやぁっっ!」
(ウオォォォォォォッッッ!)
一丸となった怒羅魂連合。
にしてもうら若き十六、七の乙女がタマだのウンコだの下品極まりない。
一時間後 心斎橋 某クラブ
「オイィィィッッ!
何で今日の売上金、こんなに少ねぇんだぁっ!」
ドスの利いた大声が響く。
本日のVillain Dの売上は数万程度。
昨日に比べて極端に少ない。
それもそのはず。
MPの売上がゴッソリ無くなったのだから。
(ヒィッ!
すっ……
すいやせんリーダー……
おかしいんスよ……
MP売ってる奴らが連絡しても出なかったり……
親が出て入院したとかで……)
「………………おい……
ヒロユキはどうした……?」
静かにドングリ男の居所を聞く屍碧。
声色は完全に怒っている。
(はっ……
はいィッ!
こ……
こっちも何かヘンなんですよ……
ヒロユキの携帯にいくら電話しても全く出なくて……)
「今日の集まり、少ねぇな…………」
指で今居る人間を数える屍碧。
基本この毎日行われている会合には病欠でも無い限りほぼ全員参加する。
理由は金が振る舞われるからだ。
だが、本日は少ない。
圧倒的に人数が少ない。
約半分程しか来ていない。
そして気付く。
来ていないのは全員MPの売人だと言う事を。
「チッ……
テメーラ……
だから怒羅魂連合には注意しろと言っただろうが……」
(リーダー、どう言う事っスか?)
「Villain Dの売人は全員怒羅魂連合に殺られたんだよ……
どうやって場所割り出したかはわかんねぇがな……」
流石の屍碧でも白柳徹子の存在までは解らなかったと見える。
立ち上がる屍碧。
ポケットから折り畳みナイフを取り出す。
「破戒調剤」
ピッ
左手首に傷をつける屍碧。
ドボドボォッ
大量の血がテーブルに流れ落ちる。
「発動」
すぐに魔力注入発動して、止血処理。
MP生成時よりずいぶん少なめだ。
パキ……
パキパキパキパキ
血だまりから真っ白な錠剤が生成される。
「オラ……
テメーラ……
一粒ずつ持って行け……」
(リーダーァッッ!
あざーーすっっ!)
各々一粒ずつ受け取る。
この生成した錠剤はいわゆるアナボリックステロイドとアドレナリン作動薬が混合された製剤。
魔力を使用している為、即効性、増強率は一般のそれとは遥かにかけ離れている。
だが、同時に副作用も凄まじく二粒飲んだら絶命する程の劇薬である。
痛覚系のモルヒネ等の成分は全く含まれていない。
完全に攻撃特化の薬である。
「いいぜ……
殺ってやるぜ怒羅魂連合……
テメーラ……
明日からドラゴン狩りだァァッ……
いいなっ……」
(ウィッスッッ!)
漣からの報復を受けた屍碧は徹底抗戦の構え。
怒羅魂連合とVillain Dとの抗争が激化する瞬間である。
続く




