第五章 モブ Brother 前編
さあ閑話も五作目に入りました。
今回は三重です。
三重と言えば……
そう、駆流君ですね。
F1レーサーを目指していた駆流くんと幼馴染で悪態をつきながらも支えていた花穏ちゃん…………
そうですっ!
今回はモブリアン・ジョンソンの話を語りたいと思います。
こらこらそこそこ。
誰?
って顔しない(笑)
三重でのD-1グランプリを企画した海外の社長ですね。
そのモブが語った世界を回った時の話です。
ただここで問題が一つ御座います。
筆者は海外未経験と言う事です(笑)
しかし一度考えてみたかった海外の竜河岸がどんな感じなのかと言うのと、最終章に向かうにあたって八尾とその竜河岸がどう言う奴かと言うのも考えてみたくなったので踏み切りました。
海外経験者からしたら違和感があるかも知れませんが、そこはご容赦下さいませ(笑)。
それでは始まり始まり~~
「フンフーーン♪」
ここはカリフォルニアのマンハッタンビーチ。
そこの一角にジョンソン家の家はある。
白亜色の壁が印象的なスパニッシュスタイルのバカデカい建物。
時代は1993年。
世の中はインターネットがそろそろ出ようか。
そんな時期。
モブリアンの父親はIBMの幹部と言う重要ポストで働いている。
収入も多く、それに応じた家に住んでいるという訳だ。
今の鼻歌はモブリアンの母親がキッチンで晩御飯を作っていたのだ。
作っている料理はやけに大掛かり。
ローストビーフにサフランを効かせたピラフ。
ベーコンとチーズとアボガドがたっぷり入った大型のパイ。
角切りアボカドとトマトが入ったサラダ
大型の鍋で煮込まれたカルド・トラルペーニョ(トラルパン風スープ)。
そしてワインセラーには今日開けようと決めていたとっておきのカリフォルニアワインが出番を待っていた。
それもそのはず、今日はモブリアンの誕生日。
しかも今日は父親から竜を受け継ぐドラゴン・リチュアルが近くの教会で行われるのだ。
そのパーティのご馳走を作っていた。
時間は十六時。
ハイスクールも下校時間。
そろそろモブリアンが帰って来る時間だ。
カリフォルニアエルポート
ザッパーーンッ!
大きな波に飲み込まれる一人の黒人サーファー。
そしてそれを見守る白人の青年と一人の黒竜。
この青年が今回の主人公。
モブリアン・ジョンソンである。
「プワッッ!
何だ今のは……
Gnarlyな波だった……」
「マーフィーッッ!
Bombッッ!」
「チェッ……
あんな波乗れねぇよ……」
ザバザバ
サーフボードに手をかけながら陸へ向かって進み始める黒人の青年。
彼の名はマハーシャラ・アリ。
十六歳でモブリアンの友人でドラゴンテイマー。
愛称はマーフィ。
これはモブリアンが付けたものだ。
マーフィは既にドラゴン・リチュアルを終えており、使役している竜が隣の黒竜。
サンディである。
トントン
耳に詰まった水をケンケンで出しながら、マーフィがモブリアンの元までやって来る。
「ハッハーッ!
相変わらずマーフィが波に乗るとOn fleekの波が来るなあ」
「うっせい。
モヴィー、お前は乗らねえのか?」
「俺はもういいや。
今日は特別な日だしなっ」
「そんな事言ってて最近全然波に乗ってねぇじゃねえか」
「ハハ……
やっぱマーフィーには隠し事できないね……
実は言うと飽きて来たのさBrother……」
「飽きてきた?」
モヴィーの隣に座るマーフィ。
ちなみにモヴィーというのはモブリアンの愛称である。
「あぁ……
一月に民主主義が勝ってチェコスロバキアの連邦が解体されたじゃん……?
これから世の中はどんどんリベラルな空気に染まっていくんだ……
そんな中、僕はどんな事が出来るのかなって考えたらさ……
何だかサーフィンなんて虚しくなったのさ……」
「ふうん。
そんなもんか。
相変わらずモヴィーはWeirdoな奴だな…………
おっっ!?」
モヴィーとマーフィの目に映るは、エルポートビーチ沖に沈む太陽。
辺りが琥珀色に染まり、強烈な日差しが水面に反射してキラキラと光るまさにカリフォルニアサンセットと言った景色。
すかさずマーフィが動きバッグの中から取り出したのはカメラ。
カシャッ
カシャ
カシャ
一眼レフに顔を付け、激写しまくるマーフィ。
そんな姿を見て、頬杖を突きながら溜息をつく。
「マーフィは良いよな……
Fhotogになるって夢があるんだから……」
「Heyッ!
モヴィーッッ!
ボード持って波打ち際に立ってくれッッ!」
写真に夢中のマーフィから勢いよく指示が飛ぶ。
「はいはい……」
ヤレヤレと言わんばかりにボードを持って立ち上がる。
「マーフィッッ!
こんな感じかーいッッ!」
波打ち際まで来たモヴィーは振り向き、マーフィに伺う。
「バカッ
こっち向くんじゃねぇよッッ!
沖向いてろッッ!」
「はいはい……」
言われるままに水平線に顔を向けるモヴィー。
カシャッッ
カシャ
カシャ
勢いよくシャッターを切る音を背中で聞くモヴィー。
「ふう……
こんなとこか……
おーいっ!
モヴィーッ!
もういいぞーっ!」
「ようやく終わったか……
やれやれ」
波打ち際から戻って来るモヴィー。
「今日は早めにSober upしてくれて助かったよ。
相変わらずの写真ジャンキーだねマーフィ。
まるでCookieでもキメてる様だよ。
サンディからも何か言ってやってくれよ」
【オーホホホ。
私はマーフィの写真、好きよ】
サンディはメスの竜。
年齢は九千五百歳。
人間で言う所の中年と言った年齢。
「さぁそろそろ行こうかマーフィ。
家でMomがご馳走作って待ってるよ」
「ラジャー。
へへっ
アンジェリーナのパイ好きなんだっ!」
「ウチのジュズも大好きだからね。
多分デカいヤツいくつも作ってるよ」
アンジェリーナと言うのはモヴィーの母親の事である。
ジュズと言うのはジョンソン家で使役している竜。
手早く片付け帰路に着く三人。
バスに乗り込む。
エルポートは住居のあるマンハッタンビーチの隣にあるのだ。
バスが着く頃辺りは黄昏時になっていた。
「そろそろDadが帰ってくる頃かな?
マーフィ、ドラゴン・リチュアルには付き合ってくれよ」
「いいぜ。
それより聞いてくれよ。
前にダンパでCupcakinのAddyゲットしちまってよう」
「ホントかい?
何があったんだ?」
「酔ってその子に絡んでる奴がいてな。
ソイツを一発ぶん殴ってやったんだよ。
そいつの捨て台詞が傑作だったぜ。
“このMutyが”だってよ」
Mutyとはアメリカでの竜河岸への蔑称。
ミュータントから来ている。
「ハハッ
一般人の常套文句だな。
竜とか関係無い所でもドラゴンテイマーてのを原因にするからなあ。
そのCupcakinはサンディにブルッてなかったかい?」
「へへっ
その子、サンディを見て何て言ったと思う…………
Cuteだってよ」
【アラ?
マーフィ、それは前のダンスパーティで私に抱きついてきた娘の話かしら?】
「そうだぜっ
サンディッ!」
【あの娘、珍しいわよねえ。
竜見ても全然怯えてなかったもの】
そんな話をしている内に最寄りの停留所にバスが到着する。
降りる三人。
五分程でモヴィーの家に到着。
大きな庭を歩き、玄関のドアを開ける。
「Momーーーッッ!
ただいまーーーッッ!」
「へへっ
こんだけ家がバカデカいと大声出さなきゃわからないから苦労するよな」
マーフィがからかってくる。
「その通りだよマーフィ」
パタパタパタパタパタ
遠くから走る音が近づいて来る。
「モヴィーおかえりなさい。
ん~~……」
そう言いながらやってきた女性はモヴィーと頬を互いに合わせる。
これはチークキスという挨拶だ。
この女性がアンジェリーナ・ジョンソン。
モヴィーの母親だ。
「あら?
マーフィいらっしゃい」
「アンジェリーナッッ!
今日はアボカドパイたらふく食わせてくれよっっ!」
「フフッ
今日はあくまでもモヴィーの誕生日なんだから。
モヴィーにも分けてあげないと駄目よ」
「わかってるって」
「Mom、Dadは?」
「まだ帰って来て無いわ。
でも何だかんだ言って今日楽しみにしてるはずだからそろそろ帰って来るんじゃないかしら?」
ドゴォォォォォォォォンッッッ!
そんな話をしていると、外で大きな衝撃音が鳴る。
「フフフ……
そんな話をしていれば……
ね」
マーフィとモヴィーは急いで外へ出る。
そこには薄いクレーターの上に立っている大柄のオフィスカジュアルに身を包んだ白人男性と全身琥珀色の陸竜が立っていた。
「あちゃあ~……
これまたベンに頼まないと……」
俯きながら呟くその男性がロジャー・ジョンソン。
モブリアンの父親である。
そしてその隣にいるのが使役している竜のジュズ。
ベンというのはいつも庭の手入れを頼んでいる庭師の事である。
「Dad、ジュズ。
おかえり」
【オイオイ……
クソみてぇな着地だなロジャー】
「そう言うなよジュズ……
早く帰りたかったから目測誤ったんだよ……
ただいまモヴィー」
【ただいまモヴィー】
「ちょっと待ってな。
アンジェに挨拶して、準備したらさっそく教会へ行こう」
「やった……」
モヴィーも竜が使役できる事に喜びを隠せない様子。
【おう。
これから俺のケツの穴を舐めるのはモヴィーに変わるって訳だな】
このジュズと言う竜。
アメリカ暮らしが長いせいか、口調も今ではアメリカンヤンキーと化している。
だが悪意を込めて言ってる訳でないのはロジャーもモヴィーもマーフィもサンディも解っている。
「さあさあ……
愛するMy Wifeはと…………
おぉ~!
アンジェッ!
ただいまっ!」
玄関に入ったロジャーはアンジェリーナに両手を広げて出迎えた。
それに応じたアンジェリーナと熱いハグを交わす。
「ロジャー……
今日もお仕事お疲れ様……」
「相変わらず仲良いよな……
アンジェリーナとロジャーって……」
「そうかな?
マーフィの家はどうなの?」
それを聞いたマーフィはプラプラ手を振る。
「ウチは相変わらず……
MomがDadのケツを毎日引っ叩いてるよ……」
マーフィの家庭は母親がドラゴンテイマーである財閥のメイド長を務める。
財閥ともなるとジョンソン家程とまでは言わないがそれなりに給料は良い。
父親はと言うと働いてはいるが普通の貨物船舶の荷役である。
毎日の酒を楽しみにして生きている。
そんな父親と何で結婚しようと思ったのかと言うと“私がダメにしてると考えるとゾクゾクする”
だそうだ。
「アハハ……
マーフィーのMomは強烈だからなあ……」
ガシャーーンッッ!
そんな話をしていると奥で大きな破砕音がする。
驚いた三人がキッチンへ向かう。
見るとロジャーの胸座を掴んでいるアンジェリーナが居た。
「コラッ!
ロジャーッッ!
つまみ食いするなっていつも言ってるでしょッッ!」
「ごごご……
ゴメンよう……
あまりにローストビーフが美味しそうだったからさあ……」
胸座を強く掴まれた勢いに圧され完全にビビっているロジャー。
アンジェリーナは金髪ブロンドのストンとしたストレートヘアーでどことなくキャリアウーマンの匂いを漂わせる雰囲気。
腰の位置も高くスレンダー。
だが、結構気が強い。
趣味も自慢のハーレーでツーリングと来ている。
「…………ウチも相当だけどね……」
「…………だな」
「イテテ……
相変わらずアンジェのパンチは強烈だなあ……
さ、モヴィー。
準備が出来たからそろそろ行こう……
教会にはもう連絡してあるよ」
「う……
うん」
「じゃあ行ってくるよ。
アンジェ」
「いってらっしゃい。
パーティの準備して待ってるわ」
ロジャーら五人は近場の教会を目指す。
末日聖徒イエスキリスト教会
ギィ
重苦しい樫の扉を開ける。
「ごめん下さい」
「おや?
ジョンソンさん。
ようこそ」
黒衣を着た老神父が話しかけてくる。
「やあゴードン神父。
こんばんは」
「こんばんは」
この神父はゴードン神父。
この辺りのドラゴン・リチュアルを取り仕切っている人物。
恰幅が良く、メガネをかけて頭は中央が禿げ上がっている。
立派な二重顎が目立ち、普段着だと物凄く汗臭いイメージが漂う御仁だが、上品に見えるのはやはり神父の黒衣のせいだろうか。
「じゃあ今日はよろしくお願いします」
「お願いします」
ロジャーとモヴィーはぺこりと頭を下げる。
「はい。
準備していますよ……
ではモブリアン……
主の前へ……」
「俺もこの前やったなぁ」
マーフィはニヤニヤしながら眺めている。
「ホラ……
モヴィー……
行ってらっしゃい……
ジュズお願いするよ……」
【What's up】
「うん……」
モヴィーとジュズは前に進む。
ガサガサ
大きな紙を広げるゴードン神父。
そこには黒線で魔法陣が描かれていた。
「では……
二人はこの上に乗って下さい」
言われるままにジュズとモヴィーが魔法陣の上に立つ。
左手に聖書を持ったゴードン神父が右手をかざす。
そして目が紅く光る。
魔力を集中しているのだ。
「ぬぅうぅんっ!」
神父が力を込める。
薄くて白いカーテンのような光が円状に空へ立ち昇る。
「おおっ!?」
摩訶不思議な出来事に焦るモヴィー。
「天使ジュズよ…………
イエスの御名に跪きなさい……」
ズン
言われるままに無言でしゃがむジュズ。
「さあモブリアン……
ジュズの背中に跨るのです……」
【は…………
ハイ……】
イソイソとジュズの背中に跨るモヴィー。
「ぬぅうぅんっっ!」
さらに力を込める神父。
「主は仰いました…………
身体を殺しても、魂を殺せない者達を恐れてはいけません。
むしろ魂も身体もゲヘナで滅ぼす事が出来る方を恐れなさい……
Amen……」
これはマタイによる福音書十章二十八節の言葉である。
この様に世界各地で執り行われる竜儀の式はその国々によってやり方が異なる。
キリスト教の場合は竜を天使と定めていたりする。
唱える言葉も各宗派によって色々あったりする。
だが、このゴードン神父はヴァチカンから異端者扱いされており、唱える言葉もゴードン神父の好みで勝手に選んでいる。
やがて光が止む。
「完了です……
モブリアン……
誕生日おめでとう……」
「えぇっ!?
神父様も今日が誕生日だって知ってたのっ?」
「ハッハッハッ
この前ロジャーがやけに真面目な顔で相談に来たからね」
事前にロジャーは十六歳の誕生日にジュズを譲ろうか相談してたのだ。
「わわっ
ゴードンッ!
それはナイショだって言ったじゃないかあ」
「おや?
そうだったかな?
最近やけに物忘れがひどくてな……」
「毎回、僕と飲むとテキーラのショットをガバガバ飲むのにかい?」
「物忘れと酒は関係無いだろ?
ロジャー」
「ハハッ
違いない」
ゴードン神父はメキシコ出身である。
「これで私もお役御免だ……
モヴィー……
ジュズとずっと仲良くやりなさい……」
「お役御免ってどう言う事だい?
神父様」
「私の竜はもう竜界に帰ってしまったからね。
そこに居るマーフィもそうだけど君達のドラゴン・リチュアルは残存魔力でやってたんだよ。
でも今日の感覚で解った……
もう私に儀式を執り行う力は残されていない……」
「何かスマナイ事をしたね……
神父様……」
「なあに構わんさ。
むしろせいせいしたぐらい。
これからは竜語がわかる普通の神父として生きて行くさ」
「さっ
無事儀式を終えたし、家に帰ろう。
アンジェがパーティの準備をして待っててくれてるよ。
ゴードンも良ければ一緒に息子を祝ってやってくれよ」
「もちろん行くさ。
ちょっと待ってろ……」
そう言いながらゴードンが教会の奥に消えて行く。
やがて出て来ると大きな紙袋を持っていた。
服装も変わっており、ライムグリーンの半袖シャツで胸元を大きくガバッと開けている。
下はスタンダードなストレートデニム。
ズボンの中にシャツを入れている。
「ねえゴードン……
念のために聞くがソイツは……?」
ロジャーは手の紙袋を指差す。
「テキーラだよ?
当たり前」
それを聞いたロジャーは天を仰ぐ。
「Jesus Christ……
主よ……
このナマグサ神父に天罰をお与えください……
Amen……」
「オイオイ……
たったいま引退した神父に何て事言うんだ。
大体これぐらいの量は呑んだ内に入らないだろ?
呑んだと言うのは単位がガロンになってから言うもんだ」
あっけらかんと言うゴードン神父。
「Kiss My Ass、このファッキン神父め」
【ハッハッハッ!
お前ら相変わらずな連中だな。
頭イカレてんのか?
全くStokedするBrother達だぜ】
「だろ?
ジュズ」
「ほらロジャー。
モヴィーが呆れてる。
とっとと行こうぜ」
最初の上品な雰囲気が既に鳴りを潜めたゴードン神父なのだった。
教会の外に出る六人。
【それでジョズ。
ロジャーからモヴィーに主が変わって何か変わった所はありますの?】
【Mother Fucker……
変わんねぇよ。
テメェも変わんねぇって言ってただろ。
このクソビッチ】
このジュズの竜となりを知らないと口汚い下品な竜と認識するだろう。
だが元々裕福なジョンソン家に来て以来、衣食住に関して頭を使った事が無いジョズ。
スラム街などTVや映画の中だけでしか知らない。
要するに生活に根付いた隠語では無いのだ。
ただの人間の模倣。
やがて六人は帰宅する。
リビングに向かうとすっかり準備は出来ていた。
大きなテーブルにローストビーフにサフランピラフ。
大型のアボカドパイが五つ。
トマトのサラダも大きなボウルに山程盛っている。
その隣にはうず高く積まれたトルティーヤ。
魚のフライが大量にあり、更に千切りキャベツも相当量用意されていた。
これはタコス・デ・ペスカード(フィッシュ・タコス)と言う料理だ。
そしてカルド・トラルペーニョ(トラルバン風スープ)が七つ用意されていた。
「ゴードン、久しぶりね。
今日はモヴィーの為にありがとう」
「なあに。
パーティにかこつけて呑みに来ただけサ。
ホレ」
紙袋に入った大量のテキーラを見せびらかすゴードン。
「フフッ
前は負けたけど今日は負けないわよぉぉ」
アンジェリーナもゴードンに負けず劣らず酒豪である。
そして宴が始まる。
「相変わらずメッチャ美味ェなアンジェリーナのパイ」
切り分けたデカいアボカドパイにかぶりつくマーフィ。
【Holy shit!
今日のパイ、かなり美味ェな。
Damned】
ジュズも両手にパイを持って美味しそうに食べている。
「フフフそう?
いつもと作り方一緒なんだけど」
アンジェリーナが微笑みながら謙遜。
「僕はやはり肉だね。
Momのローストビーフは最高さ。
ヒルトン(ホテル)のディナーで出てもおかしくない。
On God」
モヴィーはそう言いながら厚切りのローストビーフを食べている。
「僕がつまみ食いする気持ちもわかるだろ?
モヴィー」
「ロジャー……?
お行儀悪いのは許さないからねっ?」
ジロリとアンジェリーナが睨む。
「アンジェ、サルサ(ソース)は無いのか?」
「あるわよゴードン。
持ってくるわ」
アンジェリーナはキッチンへ消えて行く。
ドカッ
やがて巨大なボウルを持って来たアンジェリーナ。
中には真っ赤なソースがたっぷり満たされている。
「ヒュウッ♪
これこれ」
ゴードンは嬉しそうにタコス・デ・ペスカードを作り始める。
大量に。
いくつもいくつも。
「神父様……
何それ?」
食べずにいくつも作り続けているのを不思議に思い、話しかけるモヴィー。
「ん?
酒のツマミさ。
コレ喰いながらテキーラ呑むのが好きなんだよ。
て言うかモヴィー、神父様はやめてくれ。
もう仕事は終わったんだ。
俺の事はゴードンって呼んでくれよ」
そんな話をしている内に高く積まれたタコス・デ・ペスカード。
一体いくら呑むつもりなのだろうか。
「フフフ……
私もテキーラのショットでこんな大きなツマミなんてって思っていたけど……
コレが割とイケるのよねぇ」
そう言いながら片手にショットグラスを二つ。
片手に酒瓶を持ったアンジェリーナが現れた。
その姿に違和感を覚えるモヴィー。
「あれ……?
Mom……
酒……
呑むの……?」
「そりゃあオトナですものウフフ」
「はあ……
そうか……
モヴィーは見るの初めてだったね……
アンジェは……
凄いよ……」
微笑んでいるアンジェリーナと対照的に隅で壁にもたれながら静かにちびちびカリフォルニアワインを飲んでいる。
「アラン。
ロジャー失礼ね。
人を蟒蛇みたいに。
さっ……
ゴードン……
そろそろ始めましょうか……
私達の宴をね」
「おう、ライムなんかいらねえぞ。
テキーラでライム齧るなんざただのAss holeがやる事だ」
もはや敬虔な神父の姿は完全に風化したゴードン。
「わかってるわよ。
じゃあ始めましょうか」
トクトク
小さなショットグラスに注がれる透明の液体。
クイ
二人は注がれたテキーラを一気に体内に注ぎ込んだ。
―2時間後
「だからぁ~~……
アタシは言ってやったのよ~……
ドミニクゥ~~?
そんな人の亭主に色目使う様なCuntは一発ぶっ飛ばしちゃえばいいのよってぇ~~
そしたらドミニクなんて言ったと思う~~?
私いまから亭主のDick噛み千切って来るですってぇ~~……
キャハハハ。
どっちに怒り向けてんのっつー……
ドミニクも相当イカれてるわFuck」
「ガハハハ。
そりゃ相当のBitchだな。
ホレ飲め飲め」
これで何度目だろう。
二つのショットグラスにテキーラが注がれるのは。
数時間呑み続け、完全に酒が回ったアンジェリーナは隠語、罵倒語を連発する下品極まりない女性へと変貌していた。
もう平時のキリッとしたアンジェリーナは霧散。
「Dad……
本当にアレ……
Momなの……?」
「ウン……
間違いなくモヴィーのMom……
アンジェリーナ・ジョンソンだよ……」
【モグモグ……
カッカッカッ。
相変わらずStupidなBrother達だぜ】
ジュズは基本主以外の近しい人間は兄弟。
いわば親友と呼ぶ。
「キャハハハッッ!
FuckッFuckッFuckッFuckッ(たぶん放送禁止めいた言葉)!!
グビィィッ…………!
カァーーーッッ!」
書くも憚られる程の下品な言葉を連発しテキーラを一飲み。
熱い息を吐き出すアンジェリーナ。
「ガハハハハハハッッ!
BitchッBitchッBitchッ!!(ガチ系の放送禁止気味の意味)
Son of a bitchッッッ!!(世界の女性を一瞬で敵に回す罵倒)
グビィィィッッ!
カァーーーーッッ!」
ゴードンも同様の所作。
ゴードンの方が年配で且つ男性なだけに隠語の下品さは一枚上手だ。
「そ……
外へ行こうか……
三人とも……」
惨劇を見るに見かねたロジャーがモヴィー、マーフィ、サンディの三人と共にテラスへ向かう。
ジュズは置いて行く事にした。
この二人と居た方が楽しそうだったから。
ジョンソン家一階テラス
「ふう……
どうにか落ち着いたか……」
ロジャーは静かになった周りに一安心。
「Mom……
凄いね……」
「あぁ……
アレさえ無ければ本当に完璧なレディなんだけどね……」
「はは……
そういえば僕のスキルってどんなんだろう?
確かドラゴン・リチュアルを終えるとスキルっていう超能力が使えるんだろ?
どんなんだろ?
僕もマーヴルヒーローみたいになれるのかな?」
「ん?
モヴィーは僕のジュズを受け継ぐ形になったから同じだよ。
気圧」
■気圧
ロジャーとモブリアンのスキル。
任意の場所に見えない空気の塊を創り出す事が出来る。
それを利用して地面に空気の塊を設置。
魔力を使い超急激膨張させ、空を飛ぶ事も出来る。
ただ空を飛ぶと言うよりは砲弾を撃ち出す形に近い為、膨張角度やどの辺りに着弾するかは計算が必要。
ロジャーの帰宅もそのスキルを使用したのである。
本来ならば砂浜に着弾しようと考えていたのが、計算をミスって自宅の庭に。
なお庭が破損してしまったのは着地用に使った空気の塊のせいである。
「何だDadと一緒か。
面白みがないなあ」
「そうでも無いよ。
スキルって言うのはね無限の可能性があると考えてるんだ僕は。
あくまでもスタートが僕のスキルなだけであってここから如何様にも変化していくんだよ。
ね?
そう考えたらある程度スキルの詳細が解ってる方が良くないかい?」
「無限の可能性……
うん……
そうだね……
ありがとうDad」
「へっ
モヴィーのスキルは気圧かよ。
スーパーマンみたいに空を飛ぶのか?」
「マーフィ、僕はDCコミックよりマーヴルコミック派なんだよ。
出来ればアイアンマンみたいと言って欲しいね」
「知るかよバーカ」
「そう言えばマーフィのスキルって何なの?」
「………………言わねぇし……
使わねえ……」
ニヤァ……
この返答にモヴィーの好奇心が急激膨張。
「何だよ~~……
言えよ~~……
使ってくれよ~~……
僕達Brotherだろぉ~~?」
モヴィーはマーフィの肩を強引に引き寄せる。
「Shitッッ!
気持ちワリィなッッ!
離れろよッッ!」
「使うか教えるかしないと離さないぞ」
どうしても離そうとしないモヴィーに業を煮やしたマーフィは右掌をモヴィーの眼前まで持って行く。
「閃光ッッッ!」
カッッ
一瞬で目が眩む。
思わず右手を離し、両眼を手で押さえてしまうモヴィー。
「グゥゥッッ……」
突然の強烈な光に苦悶の声を上げるモヴィー。
網膜に強烈な痺れが奔る。
やがて治まり、ゆっくり眼を開ける。
「あービックリした……
今の光がマーフィのスキルかい……?」
「あぁそうだよ……
閃光……
悪いかよ……」
「悪いなんてとんでもない。
凄いスキルじゃないか」
「気を使うのはよしてくれ……
どうせ笑ってんだろ……?
ただ光るだけだぜ……?
モヴィーの気圧みたいに空飛べる訳じゃ無いし……
ケンカとかにも使えねぇしよ……」
「何を言ってるんだマーフィ。
あんな光、目の前で見せられたら、誰でも視界が不自由になるだろ?
それであんな激しい光の中でマーフィは平気なのかい?」
「俺は別に何ともねぇぜ」
「それはマーフィ君のスキルによる光耐性によるものだろう」
「それも凄いじゃないか。
ドラゴンテイマーになってからマーフィは閃光発音筒が全く効かない身体になったって事だ」
「俺は海兵隊じゃないんだぜ……
そんな特性があって何の意味があるんだ……?」
「マーフィ……
さっきから何を言ってるんだ……
らしくない……」
それを聞いたマーフィは無言。
「さっき言ってた……
ケンカに使うってやつか……」
それを聞いたマーフィの身体がビクンと強張る。
「そんなにケンカッ早い奴じゃ無いだろ?」
ここまで言ってようやく重い口を開けるマーフィ。
「ホラ……
俺って……
黒人だろ……?
だからナメられんだよ……
この前のダンパでも陰でNiggerって言ってる奴いたしさ……
それでもアイツらが俺に手を出して来ねぇのは得体が知れないからなんだよ……
そんな俺が光らすだけしか出来ねぇってわかったらさ……」
ネガティブな意見を漏らすマーフィ。
それを見たモヴィーがフウと溜息をつく。
「マーフィ……
この前King of Popも歌ってただろ……?
肌の色なんて関係無いのさ……
そりゃStatesは人も多いから黒人を良しと思わない人もいるだろうさ……
でも黒人と仲良くなりたい……
既になってる奴だっているんだぜ。
僕みたいに。
でないとMJの曲が世界中で一位取ったりしないよ。
否定派の意見ばかり目を向けててもしょうがないだろ?」
「うん……」
「あとケンカの話だけど……
もしマーフィがスキル使うの見てたとする。
そして嘗めたヤツがケンカ売って来たら、堂々と閃光を使ってやればいい。
あんな光、目の前に出されて正気でいれる一般人なんていやしないよ。
目が眩んだ相手の背後に回ってパンチをかましてやれよ。
な?
こんなイカしたスキルはなかなか無いぜ?
あともう一つ閃光にはイカした点がある。
それはマーフィの夢に繋がる所だ。
写真にフラッシュは付き物だろ?
ストロボを持たなくても良いって言うのは大きな利点じゃないか?」
それを聞いたマーフィは少し驚いた顔をして少し黙る。
やがてニヤリと笑う。
「へっ…………
長々とご高説垂れやがって…………
ありがとよBrother」
スッと右握り拳を前に突き出すマーフィ。
「ハッ」
ガン
モヴィーも同様に右握り拳を前に突き出す。
合わさる黒人の拳と白人の拳。
このモヴィーが言っているKing of Popと言うのはマイケル・ジャクソンの事。
ヒットした曲と言うのは1991年にリリースされた“Black or White”の事である。
「フフ…………
モヴィー、今日からジュズの主は君だ。
明日からスキルの練習をしてみるといい。
スキルが上手くなるコツは想像力だ。
頑張れMyson。
あと注意して欲しいのは気圧は魔力バランスが難しいスキルだ。
練習する時は人がいない所でやりなよ」
「うんDad、分かったよ」
こうして誕生日の夜は更けて行った。
翌日
自身のベッドで目覚めるモヴィー。
ゆっくりと起き上がる。
服を着替え、下に降りる。
リビングに行くとロジャーとアンジェリーナが朝食を食べていた。
「おはようモヴィー」
「あぁDad、Mom。
おはよう。
Dad、今日は早いね」
「あぁ今日から一人寂しく車出勤だからね」
昨日のドラゴン・リチュアルでジュズの主はモヴィーになったからである。
「ロジャー、運転するの久しぶりなんだから安全運転でお願いね」
「あぁ、わかってるよアンジェ」
昨日のFuck連発していた醜態が嘘の様にいつものアンジェリーナに戻っていた。
呆気に取られて見つめてしまうモヴィー。
「ん?
私の顔に何かついてるかしら?」
「いや…………
別に……」
「モヴィー、これがアンジェだよ」
食後のコーヒーを飲みながら意味深な事を言うロジャー。
昨日見た事は夢だったと半ば強引に結論付けて朝食を食べ始めるモヴィー。
「さて、そろそろ仕事に行くよ」
「いってらっしゃい。
気をつけてね」
「あぁアンジェ」
立ち上がったロジャーはアンジェリーナに軽いチークキスをして外に出て行った。
ドルルルンッッ!
ブロロロロロォォォォッッ!
やがてエンジン音が聞こえ、車が走る音が遠ざかって行く。
「モヴィーも早くしないとバスの時間に遅れるわよ」
「うん」
【Hi、主】
ジュズも上から降りてきた。
「おはようジュズ。
今日は寝坊だね」
【昨日割と色々食ったからな主…………
………………ん?
…………何か違げぇな…………
………………相棒…………
ウン、これだな。
モヴィー、これからテメェの事は相棒って呼ぶぜFucker】
模倣と言うものは恐ろしい。
Fuckという隠語は元々怒りを表す時や相手を酷く罵る時に使うものである。
だが竜のジュズはどう言う時に使うのかなど考えずに使っている。
そしてそれはジョンソン家の人間は周知の事実である。
ただモヴィーは違和感があった。
それは何故主では無く、相棒なのだろうと言う点だ。
「ジュズ…………
何で主じゃ無くて相棒なんだい?」
【あ?
テメエはBratの頃から知ってんだよ。
そんなテメェを今更主なんて呼べねぇよShit】
「…………まあいいか。
とっとと朝食を食べちゃってよ。
バスに遅れちゃう」
【ほらよ】
口を上に向けて開けるジュズ。
次々、皿に盛られている食べ物を放り込んでいく。
【モグモグ……
さ、行こうぜ。
へへ……
ハイ・スクールなんて久しぶりだな。
Stokedするぜ】
「じゃあMom、行ってきます」
「いってらっしゃい。
くれぐれもスキルの練習場所は考えるのよ」
「わかった」
身支度を整え、外へ出るモヴィーとジュズ。
バス停留所
もう既にバスは来ていた。
後部座席に座っていたマーフィとサンディ。
マーフィが気づいた。
声を発さず、激しく手招きをする。
「もうバス来てるじゃんッッ!
ジュズッッ!
走るよっ!」
ダッ
一目散に走り出すモヴィー。
【Shitッッ!】
続いてジュズも走り出す。
何とかバスに滑り込むことが出来たモヴィー。
ガァァァンッッッ!
グラグラァァッッ!
【Ouchッッ!】
(Whatッッッ!!?)
大きな衝撃音と共にバスが左右に揺れる。
ジュズの巨体が入口に挟まったのだ。
激しい揺れに乗客も驚く。
【オーホホホ、ジュズったら何やってんのよお。
サイズ小さくならないと入る訳ないじゃなーいっ!】
【このHag……
くたばりやがれ……
MotherFucker……】
悪態を吐きながら白色光に包まれるジュズの身体。
サイズが二、三周り小さくなる。
ようやく乗り込めたモヴィーとジュズ。
「ふう……
ドラゴンテイマー初日からこんな事だと先が思いやられるよ……」
「へへっ
ようやくモヴィーもカデット卒業だな」
前座席の背もたれに身体を預けているマーフィ。
「そうだよマーフィ。
だから朝からバタバタしちゃってさ」
そんな話をしながらバスは最寄りの停留所まで到着。
ノース・ドラゴン・ハイスクール
ここはマンハッタンビーチでドラゴンテイマーを受け入れている教育機関の一つ。
門の中すぐの横に並んだバカデカい四本のヤシの木が特徴。
「どんな挨拶にしようかなぁ?」
「ん?
そんなのモヴィーなら問題無いだろ?」
「僕だけならね。
でも……
今日はさ……」
【おっ?
Dickみてぇにデけぇヤシの木だなFuck】
「………………ジュズがいるからね……」
「そうだな……
まずジュズは隠語をクソ使いまくるけど悪気は無いって所を説明したら良いんじゃないか?」
「タハハ……」
アメリカのハイスクールは日本の様なクラス分けと言う概念はない。
高校の段階で日本の大学の様な単位制で個々で自身の習熟度に合わせて授業を選択するのだ。
ただそれは一般人の話。
竜河岸は別。
まず一所の場所に集められ、モヴィーの様に新しくドラゴンテイマーになったものの挨拶や、竜関連の事件や事象等の情報共有を行うのだ。
そのクラスは大きく分けて二つ。
テイマーズとカデッツ。
カデッツは比較的幼い子が多いのだがごく稀に十六、七でもカデッツにいる者も居る。
これは日本で言う所の丙種竜河岸である。
「テイマーズの教室はこっちだぜ」
「その前にスタッフルームに行ってくるよ。
Mr.テイラーにドラゴンテイマーになった事とジュズを紹介しないと」
「先に教室行ってるぞー」
「ああ」
「行こうぜサンディ」
そう言い残しテイマーズの教室へ歩いて行くマーフィとサンディ。
「さ、僕達も行こうか」
【どこ行くんだよ】
「Mr.テイラーの所だよ」
アメリカでは職員室と言うものが存在しない。
先生が個々に一室ずつ個室を持っているのだ。
そして当高校のドラゴンテイマーをまとめている人物は校舎の外れに居る。
やがて教室の前に来る。
コンコン
「はいどうぞ」
ガラッ
教室の戸を開けるとそこにはメガネをかけたヒョロッとした白人が立っていた。
ペラペラ手の本を捲っている。
頭は金髪。
モヴィーよりも明るい色。
先端分けで特徴的なのは大きな鷲鼻。
この人物がテイマーズの担任、アラン・テイラーだ。
「あぁ、誰かと思えばモブリアンじゃないか。
どうしたんだい………………
って」
テイラーはモヴィーの後ろにいるジュズに目線を送る。
「ええ……
Mr.テイラー、昨日から晴れてドラゴンテイマーになったんだ。
ホラ……
ジュズ……
挨拶しなよ」
何か難癖をつけると思いきやズイッと前に出てきたジュズ。
琥珀色の鱗がキラッと光る。
【Heyッ!
DickFaceッ!
俺がモヴィーの相棒、ジュズだ。
よろしくな!
Fuck you】
ビシ
勢いよく右手の甲をテイラーに向け、中指を立てる。
いわゆるファックサイン。
パサ
テイラーが唖然として手の本を地に落とす。
「すいません…………
Mr.テイラー。
ジュズって口は物凄く悪いですが悪気は無いって言うか……
ウソって言うか……」
「Amaizing……
今まで逢ったドラゴンの中でもトップクラスに下品な竜だね……」
「すいません……
悪意があって言ってる訳じゃ無いんです……
何か隠語が気に入っちゃったみたいで……」
「それがジュズのFavoriteなモノなんだろうね……
それよりもモブリアン、僕の事をMr.テイラーと呼ぶのは止めてくれ。
僕はあくまでもテイマー達のまとめ役として来ているんだから。
僕に勉強教えるなんて無理だよ」
アラン・テイラーは教師としてここに居る訳では無くドラゴンテイマーのまとめ役としてここに来ていた。
もちろん別で職業を持っている。
この男は数学者。
本業は大学の研究員である。
ならば数学ぐらい教えれるだろうと思うが、事テイラーに関しては不可能。
この男はいわゆる天才なのだ。
数式も解が即浮かんで途中式などは解らないと言う。
「でもマーフィから聞いたよ。
魔力の使い方を教えてるって」
「あんなの戯れさ。
ものの五分程喋って後はほったらかしさ。
あとは昼寝。
僕なら万一スキルが暴走しても止められるしね」
「そう言えば竜はどうしたの?」
「あぁイヴの事かい?
あの竜は僕に輪をかけて自由だからね。
今頃気持ちよく空飛んでる頃じゃないかな?」
ここでモヴィーは違和感を覚える。
「あれ……?
確かMr.テイラーの竜ってオスじゃなかったっけ?」
「あぁオスだよ」
「でも……
名前……
イヴって……
女の名前……」
「僕はゲイだからね。
特に中性的な男が好みなんだ。
まあ竜に性もクソも無いかも知れないけど、ちょっとでも気分を出そうと思ってね」
「Mr.テイラー……
僕はノンケですので……」
「君もかい?
つまらないなあ。
一度味わってごらんよ。
もうオンナのケツを追っかけてるのが馬鹿馬鹿しくなるからさ」
「いえ…………
遠慮します……」
とりあえずこんな感じで担任への挨拶は完了した。
テイマーズ教室
(おめでとうモヴィー。
これからも宜しくね)
入るや否や学友からの賛辞に対応を追われるモヴィー。
みんな色とりどりの竜を連れている。
チカチカして目が痛いほどだ。
ガラッ
やがてテイラーが入って来る。
「ハイ、みんなおはよう。
今日は新しい仲間を紹介しよう。
モブリアン……
前へ」
モヴィーとジュズは前に向かう。
「僕はモブリアン・ジョンソン。
昨日ドラゴン・リチュアルを終えてドラゴンテイマーになったんだ。
よろしくお願いします。
そして隣に居る竜が僕の……」
ズイッと前に出て来るジュズ。
【Hey、Losers。
俺がモヴィーの相棒、ジュズだ。
よろしくな、Screw you】
バン
お決まりのファックポーズ。
教室の空気が凍り付いたのを感じたモヴィーであった。
(な…………
なかなかパンキッシュな竜じゃない……
よ……
よろしく……)
【誰が負け犬だコラァッ!】
一人の竜が騒ぎ立てた。
【Son of a bitch……
グダグダ言ってねぇでかかってきやがれ。
このPussy D】
バン
騒ぐ竜に向かってファックポーズをかますジュズ。
【あ?
Pussyなのはオマエだろ?
イキがった能書きばっか垂れやがって。
やるならやってやるよ。
かかってきやがれFuck Dッッッ!】
(こら……
エイブラム……
落ち着けって……
ハイスクールじゃ竜同士のケンカはご法度だろ?
またMr.テイラーにやられるぞ)
「ジュズも来て早々ケンカ売ってるんじゃないよ。
落ち着け」
一触即発の空気に思わずお互いのテイマーが止めに入る。
ジロリ
そして柔和な雰囲気が嘘のような鋭い眼を向けるテイラー。
【ゲッ……
テイラー……
マ……
主がそう言うなら……】
相手の竜は矛を収めたらしい。
【相棒がそう言うならやめといてやるよFuck】
ジュズは違うがエイブラムと言う名の竜が矛を収めた理由。
それはテイラーのスキルにある。
今作では詳しく書かないが概要は魔力吸収である。
相手のスキルや閃光などから魔力を吸収する。
超猛毒の魔力を吸収して大丈夫なのかと危惧される所だが、これも珍しいテイラーの特性で問題が無いのだ。
その特性とは魔力耐性。
熱耐性や光耐性は居るが、この魔力耐性という特性を持っている者は本当に少なく世界中で数人である。
ニコリ
矛を収めた様子を見てにこりと微笑む。
「じゃー……
今日のミーティングはモブの紹介だけだから解散ー」
朝のミーティング完了。
各々選択した授業の教室へ散っていく。
あれよあれよと言う間に下校時間。
今日は二人で帰宅。
今日はマーフィ達と一緒では無い。
だが真っすぐ帰宅するつもりは無かった。
目的地はエルポート。
昨日サーフィンをしていた砂浜だ。
カリフォルニアエルポート
【なあ相棒。
サーフィンもうやんねぇっつってただろ?
こんなとこに何しに来たんだ?】
「スキルの練習だよ」
【カッカッカ。
Fucking so goodッッ!
頑張ってあのクソ野郎を超えてくれや】
「確か……
Dadの言う話ではジュズに手を合わせて魔力を取り込むって言ってたな……」
ピトッ
ジュズの鱗に手を合わせる。
ドクン
心臓が高鳴る。
「これでいいのかな?
じゃあ……
さっそく……
気圧」
モヴィーが手を砂浜にかざす。
眼が紅く光る。
やがて光が消える。
「これで……
出来たのかな?」
恐る恐る手を伸ばしてみる。
ぷよん
ぷよん
ぼよん
何かある。
モヴィーが手をかざした先に見えないバランスボール大ぐらいの風船みたいなのがある。
「わっ
ホントに出来ているッッ!
ホラッ!
ジュズッッ!?」
【Fuck You。
こんなものは出来て当然なんだよ。
基礎にも入んねぇよ。
Son of a bitch】
「厳しいなあ……
ジュズは……
僕は今日初めて使ったんだよ」
【泣き言言ってんじゃねぇよ。
まかりなりにも俺の相棒だ。
Pussy GuyにはなってくれるなよFuck】
ビシ
僕にファックポーズを向けるジュズ。
ここでモヴィーは考える。
まずはロジャーと同じ位置に行かないとと。
自身が生成した見えない空気の塊に座る。
ぽよん
ぷよん
ぽよん
軽く跳ねながら考える。
「確か…………
これを使ってDadは空を跳ぶんだよな。
まずそれが出来ないと……
確かコツは想像力って言ってたな……
イメージ……
イメージ……
ケツの塊が爆発するイメージ……
よし!!」
バフォォォォォォォォォォォォンッッッッ!
「ウワァァァァッァァッッッ!」
掛け声と共に爆発したか゚の様に突然下の塊が超急激膨張した。
遠く沖へ吹っ飛ぶモヴィー。
ドボーーンッッ!
モヴィー着水。
軽い水飛沫が上がる。
【カッカッカッ。
相棒、またえらくOn fleekに飛んだもんだなオイ】
浜辺でジュズが大声で笑っている。
「プワッ!
アプッ……!
ガボガボガボ……」
別にモヴィーはカナヅチという訳では無い。
着衣状態で強制的に海に叩き込まれた為上手く泳げないのだ。
数十分後
「ハァ……
ハァ……
ハァ……」
四つん這いになって息を切らしているずぶ濡れのモヴィーがエルポートビーチに居た。
「ハァッ……
し……
死ぬかと思った……」
【カッカッカッ。
んで相棒、どうすんだ?
まさか止めるなんてChickenな事言うんじゃねぇだろうな?】
「もちろんだよジュズ。
こう言うのはトライ&エラーだ。
いくよ……
気圧……」
また空気の塊を生成。
上に乗る。
バフォォォォォォォォォォォォンッッッッ!
「ウワァァァァッァァッッッ!」
ズザザザザザザザァーーーッッ!
今度は砂浜に顔面から激突する。
しばらく倒れているモヴィー。
やがて無言ですっくと起き上がる。
ザッザッ
無言で戻って来る。
「…………気圧……」
再び空気の塊生成。
またドカッと上に乗る。
バフォォォォォォォォォォォォンッッッッ!
「ウワァァァァッァァッッッ!」
ドッッボォォン!
次は海に落とされる。
こんなやり取りが数回繰り返される。
辺りは紅色に藍色を混ぜた夕闇色に染まりつつあった。
【オイ相棒……
オメェはIdiotか。
昨日ロジャーが計算が難しいって言ってただろshit。
もう少しその足りない頭で考えやがれFuck】
「考える……
か……
気圧……」
ぽよん
ぷよん
ぽよん
空気の塊の上で少し考えてみたモヴィー。
何故いつも顔から落ちるのか。
わかった。
それは膨張の勢いで驚いた事により、姿勢制御の事が頭から何処かへ行くからだ。
だが、これだけ飛んだら大丈夫。
もう馴れただろう。
よし、次こそ行ける気がする。
「行くぞ……
ジュズ……
イメージ……
イメージ……」
バフォォォォォォォォォォォォンッッッッ!
塊が超急激膨張し、弾ける。
ビュンッッ!
物凄い勢いで空中に飛ぶモヴィー。
だが今回は冷静。
腰に力を入れ、両脚を地に向ける。
ザフゥゥッッ!
砂浜に激しく着地する。
【おっ?
今度はちゃんと着地出来たじゃねぇか…………
相棒……?
どした?】
着地したポーズのまま動かないモヴィー。
プルプル震えてジュズの方を振り向く。
「ジュズ…………
足がすっげぇ痺れてんだけど…………」
本来ならこの方法で跳ぶ場合、足元にもう一つ空気の塊を生成し、クッションとして使うのだ。
それを忘れていた為、ただ生身で激しく着地しただけ。
両脚から全身が痺れても仕方の無い事である。
【Son of a bitch】
こうしてスキル練習の初日は終える。
3ヶ月後
場所は変わらずエルポート。
そこには鋭い眼で遠く離れたドラム缶を見つめるモヴィーとジュズが居た。
足元には片手で持てるぐらいの角張った岩がいくつか転がっていた。
ガラッ……
角張った岩を拾うモヴィー。
掌に載せて、胸より少し上に掲げる。
目が紅く光る。
「噴流砲」
ボォォォンッッッ!
ガァァァァァァァァァンッッッッ!
遠く離れたドラム缶が高く真上に弾け飛ぶ。
モヴィーの手にあった岩が超速で射出された為だ。
岩は遠く離れた倉庫の壁に突き刺さった。
ザフゥゥゥゥゥゥッッッ!
やがて激しく砂浜に落下するドラム缶。
【ヒュウッ♪
なかなかの威力じゃねぇか相棒】
落ちてきたドラム缶の側に寄る二人。
先程まで綺麗な円柱状だったドラム缶の腹が見事に拉げている。
「僕はドラム缶を撃ち抜く様にやったつもりなのになあ……
ご覧ジュズ、やっぱりちょっとズレてる」
【Whatever……
当たりゃあ良いんじゃねぇのか?
相棒よ】
「ん~~…………
でも前ギャングの幹部をのしちゃったら囲まれて少しピンチだったじゃない?
そう言う時の為に命中精度は上げておいた方が良いと思うんだよ…………
岩の大きさかな……?
ジュズ、悪いけどこの岩、もう少し小さく砕いてよ。
そうだな……
僕の手で三個ぐらい持てるぐらいに」
【ふうん。
そんなもんか?
まあいいけどよ】
ドカッ!
ドコッ!
ドカッ!
言われるままにジュズが岩を砕き始める。
「亜空間出して」
【What's up】
ジュズが側に亜空間を出す。
そこにテンポ良く砕いた岩を格納していくモヴィー。
【カッカッカッ。
んでもよ。
ついこの間までWimpなChickenだった相棒がよう、成長したもんだな】
「だろ?
人間ってのは失敗を繰り返して成長していくんだよジュズ」
【フン。
それはまあ認めてやるぜFuck。
んで今日も行くのか?
相棒】
「あぁ、もちろんさ。
何せ僕はスーパーヒーローだからね。
今日こそあいつらをぶっ潰してやる」
モヴィーの眼が紅く光る。
「………………行くよジュズ……
空圧跳躍……」
フワッ
バフォォォォォォォォォォォォンッッッッ!
ギュンッッッッッッッッ!
モヴィーの身体が少し浮いたかと思うと、巨大な急膨張音が辺りに響く。
もうそこには二人の姿は無い。
既に遥か上空まで撃ち出されていた。
ゴォォォォォォォォォッッッ!!
砲弾の様に突き進むモヴィーの鼓膜を激しい乱気流の音が揺らす。
「イヤッッッッッッッホゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
モヴィーのテンション最高潮。
果たしてこの二人はどこに向かっているのか。
それはコンプトンと言う都市。
ロサンゼルスの南に隣接する。
犯罪率がアメリカで最も高い都市の一つとして数えられ、ギャング犯罪で悪名高い。
グルンッッッ
目的地が見えてきた。
素早く反転する身体。
ドコォォォォォォォォォォォォォォンッッッ!
巨大な衝撃音。
モヴィー着地。
(ゥオワァッ!!?
なっ…………
何だァッッ!?)
盗難車(戦利品)の側でたむろしていた見るからにガラの悪そうな黒人達が驚きの声を上げる。
風体からして明らかにカタギでは無い。
モヴィーはラッキーだった。
着いて早々標的に出会うのだから。
ジャリ
舞い上がる砂塵の中、ゆっくりとその姿を現すモヴィーとジュズ
(Fucking DとMutyか……
何の用だ……?)
ジャリ
突然の出来事に戸惑うギャング達を意にも介さずゆっくり歩を進めるモヴィー。
「いや……
何……
社会の害悪を駆除しにね……
ホラ僕、スーパーヒーローだから……」
(Fuck youッッ!
俺達をコンプトン・クリップスだと判ってんのかァッ!?)
■クリップス
ロサンゼルスに拠点を置くストリートギャング集団。
1969年にレイモンド・ワシントンを中心にスタンリー・ウィリアムズ、マック・トーマスにて結成された。
アメリカ全土に勢力を伸ばし、現在では三万~三万五千人の構成員を有する。
その活動は個々の地域やコミュニティに点在する“セット”と呼ばれるグループ単体で行われており、明確な指導部が存在しないため各セットごとの独立性が高く、多くのストリートギャングに見られる連合型の組織体系となっている。
今モヴィーの対峙しているのはコンプトンのセットと言う訳である。
ザッザッザッ
威圧する様に大柄の黒人がこちらに歩いて来る。
チャッ
(Assholeッッ!
このまま脳みそぶちまけて死ぬかァッッ!?)
超至近距離で懐から取り出した拳銃はスタームルガーLC9。
素早く銃口をモヴィーの頭に擦り付ける。
一般人なら瞬時に人生の終焉が過る様なシチュエーション。
こういう威圧行為は相手が戦意を完全消失してこそ効力を発揮する。
戦意喪失した相手の生殺与奪の権利を持つやり方。
が、それはあくまでも戦意喪失した相手のみである。
モヴィーはもはや拳銃を全く恐れていない。
この銃を突き付けている黒人はモヴィーよりも頭三つ分ぐらい背が高い。
戦闘において背が高いと言うのはそれだけで充分アドバンテージになりえるものだが、モヴィーにとってこの身長差は好都合。
突きつけている銃によってモヴィーの手の動きが見えづらくなったのだ。
「…………噴流散砲」
ボボボボォォォォォンッッッ!!
ザシャァァッァァァッァァッッ!!
巨大な連続膨張音。
銃を突き付けていた大柄の黒人が後ろへ吹き飛ぶ。
そして二度と起き上がらなかった。
完全に気絶している。
【ヒュウッ♪
あのFat Assが一発で気絶しちまったぜFuck】
「うん……
あれだけの脂肪でも至近距離で撃ったら気絶するんだね。
勉強になった……
さて……」
ゆっくり残りのギャング達の方を向くモヴィー。
焦るギャング達。
全員懐に手を入れ、素早く銃を取り出す。
(MotherFuckerッッッ!!)
パンッ!
パパパンッ!
パパンッ!
パンッ!
複数の銃口が一斉に火を噴く。
が、その前にモヴィーが動いていた。
「気団…………」
スキル発動。
超速で放たれた弾丸は全てモヴィーに届く前に運動エネルギーを吸い取られた。
パラパラパラパラパラパラ
力無く地面に落ちる弾丸。
これはモヴィーの防御スキル。
分厚い空気の塊を自身の周りに設置したのだ。
その様子を見て絶句しているギャング達。
「うん…………
気団は今日もゴキゲンの様だ……」
大きく迂回しながらジュズの元へ。
ピトッ
ジュズの身体に手を合わせるモヴィー。
魔力補給の為だ。
一気にカタを付けるつもりなのだろう。
【ヘヘヘ……
あのLosersをやっちまうんだな相棒】
「あぁ……
ここから長いんだ……
こんな所で時間も食っていられないからね……」
【Fucking so goodッッッ!】
「亜空間をお願い……」
【What's up】
ジュズの側に現れる亜空間。
中に手を入れ、取り出したのは先程ジュズが砕いた岩石片群。
スキルによる摩訶不思議な現象に無言でその場に立ちすくむしか出来ないギャング達。
戦意も喪失しかかっている。
だが、モヴィーは容赦しない。
何故なら彼はスーパーヒーローなのだから。
掌に岩石片を載せる。
目が紅く光る。
「噴流散砲」
ボボボボボボボォォォォォンッッッ!
ズザザザザザザザァーーーッッ!
超速で前方に広域射出される岩石片群。
先と同様無言で吹き飛ぶギャング達。
この噴流散砲と言うスキル。
着弾すると数にもよるが即座に意識が断ち切れる模様。
ザシャ……
後ろにへたり込んでしまう最後のギャング。
一人だけ被弾を逃れた様だ。
(ヒッ…………
ヒエァァァァァァァッッ!)
ものの十分弱で起きた出来事に戦意完全消失してしまったギャングは仲間を置いて逃げ出した。
それはもう必死に。
だが、モヴィーは逃がしはしない。
何故なら彼はスーパーヒーローなのだから。
「やっぱり命中精度は今後の課題だね…………
空圧跳躍っ!」
バフォォォォォォォォォォォォンッッッッ!
巨大な空気の急膨張音が響く。
今回の空圧跳躍は高さでは無い。
横の距離だ。
浅く、横に長く飛ぶよう角度を調節したモヴィー。
一瞬で逃げ出したギャングを追い越してしまう。
ぐるん
追い越したのを確認した後、身体を反転。
「空圧跳躍ッ」
バフォォォォォォォォォォォォンッッッッ!
更にスキルを重ねるモヴィー。
強制的に進行方向を変え、ギャング頭上に超速落下。
ダンッッッ!!
ボキィィィィィッッッ!
ギャングの左上腕部を勢いのまま思い切り踏みつけ着地。
まるでギロチンの刃の様に相手の左上腕骨を粉砕骨折させた。
(イギャァァァァァァァァァァッッッッ!!)
ギャングの悲鳴が響く。
「痛~~~…………
やっぱり気圧無しで着地はまだ馴れないなあ…………」
ギャングの腕から降りるモヴィー。
ドスドス
ジュズが追いかけて来た。
【おっ?
相棒よ。
そのDickfaceやっちまったんだな?】
「あぁ……
さて……
君……」
ズリズリ
左腕を押さえながら腰を抜かし、倒れているギャングは這いずりながら逃げようとする。
が、逃しはしない。
(ヒエァァァァァァァッッッ!?)
「君にはコンプトン・クリップスの拠点を教えてもらう…………」
ギャングはその言葉に本気の念を感じた。
こいつは本気で俺達コンプトン・クリップスを全滅させる気だ。
たった二人で。
竜と言う不思議な生物とドラゴンテイマーに対する得体の知れない恐怖が身体を急激に縛る。
(ヒァッ……
ヒェッ……
ヒヤァァァァ…………)
首を横に振り、言葉にならないギャング。
それもそのはず。
ギャングは仲間を売る奴は絶対に許しはしない。
必ず殺される。
かと言ってこのまま言わないとこの自称スーパーヒーローに殺されかねない。
ガクッッッ
白眼を剥いて失神したギャング。
「あちゃ~~……
ちょっと怖がらせすぎたかな……」
【ヘッ……
こいつはとんだChickenだぜ…………
ん?】
ブロロロロロォォォォッッ!
キキィィッッ!
ダッ!
バンッッ!
ババンッッ!
ダンッッ!
モヴィーがどうしようかと考えていた所、十台ぐらいの車が爆走して急ブレーキ。
中から次々忙しなく出て来るギャング達。
その数六十人強。
「へえ…………
誰かが言ってたっけ……
ギャングってどこからともなく虫のように湧くって…………」
多勢に無勢と言う言葉では片付けられない程の圧倒的人数差を見せつけられた。
だが、モヴィーは全く動じていない。
それは自身の置かれた境遇が余りにもスーパーヒーローのソレだった為、ナチュラルハイになっていたのだ。
【MotherFucker……
よくもまあこんなにLosersを集めたもんだな相棒よ……
Son of a bitch……
んでどうすんだ?
闘るのか?】
「そりゃ当然」
そんな話をしているとギャング団の群れから一人が前に。
何か口を咀嚼している。
チューイングガムを噛んでいるのだろう。
雰囲気からして幹部だろうか。
(クッチャクッチャ…………
てめぇか……?
俺達コンプトン・クリップスにケンカ売って来た頭のイカれたAssholeは…………?
見た感じまだBratの様だが……
どこのモンだ……?)
「フフフ……
僕は何処かの回し者とかじゃ無いよ……
ただの通りすがりのスーパーヒーローさ…………
名前は…………
そうだな…………
エア・ガイだっっ!」
エア・ガイ。
恐らく英語で書くとAir Guyとなるのだろうか。
直訳すると空気野郎になる。
聞き様によっては空気の薄いボッチ人間と取られそうだ。
モヴィーはおそらく語感から漂うスーパーヒーロー感が気に入ったんだろう。
(スーパーヒー………………
プッッッ…………!
ハァーーッッ!
ハッハッハッハッハッ!)
それを聞いたギャング達は一斉に爆笑。
そりゃそうだ。
完全に嘲笑だったので途端に真っ赤になるモヴィー。
「馬鹿にするなぁっっ!
一生懸命考えたんだぞおっっ!」
渾身の命名を否定され怒りの声を上げるモヴィー
(プクク……
そんで……
その通りすがりのスーパーヒーローさんが悪名高い俺達コンプトン・クリップスをぶっ潰しに来たと…………
こりゃホンモンだ……
本気で頭イカれてやがる……
じゃあまあ…………)
前に出てきたギャングの手が上がる。
一斉に懐から銃を取り出すギャング達。
(一瞬でミンチにしてやるよ…………
Screw you)
ガァンッ!
ダダァンッッ!
ババババァンッッ!
六十丁の銃が一斉に火を吹く。
2時間後
モヴィーとジュズはコンプトンにあるビルの三階に居た。
モヴィーの下に倒れている身なりの良い黒人。
この男性はコンプトン・クリップスのボスである。
床には夥しい数の弾丸。
壁には穴が無数に開いており、穴から放射状にヒビが入っている。
そのボス以外に四、五人、声も発せず倒れている。
うつ伏せの者。
壁にもたれ、項垂れている者。
大の字で天を仰いでいる者。
様々だ。
おそらくボスの側近だろう。
「ふう……
結構時間かかったねジュズ」
【ケッ。
このLosers、数だけは多いからな。
MotherFucker】
「じゃあ帰ろうか。
Momが家で待っているよ」
モヴィーとジュズは無傷。
この一大勢力まで成長し、世界最大の犯罪集団とも呼ばれるクリップスのセットをたった二人で壊滅させた。
しかも無傷で。
これが現時点でのモヴィーとジュズの実力である。
外へ出るジュズとモヴィー。
「あ、そうそう。
亜空間出してよジュズ」
【ん?
何すんだ?】
亜空間に手を入れ取り出したのは赤色のカラースプレー数本。
カラカラカラカラカラ
忙しなく上下にスプレーを振るモヴィー。
シューーッッ!
勢いよく噴出口から赤色塗料が噴き出す。
数本カラースプレーを使い、描いたのは巨大文字。
Calling on Air=Guy(エア=ガイ、参上)
出来た文字にモヴィーはご満悦。
「いいだろ?
ジュズ」
【カッカッカ。
頭イカれてるぜ。
全く俺の相棒はSon of a bitchでStokedするぜ】
「だろ?」
再び空圧跳躍で帰宅の途についている時、モヴィーは考えていた。
もうギャング団を壊滅させた自分に敵は居ない。
モヴィーも十六歳の少年。
自分の力を試したい気持ちが強かった。
そこで決断をする。
旅に出ようと。
Brother 中編に続く。